転生オリ主は綾紬芦花を幸せにしたい   作:天戸 蒼香

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ここで裏話を一つ

主人公の名前「朝来圭」の朝来(あさき)はいろは歌からの命名です。
奥山と迷ったけど、「綾紬」「朝来」「諌山」の出席番号がより近くて接点が作りやすそうだったため朝来を選択。出席番号を気にしたのは、原案では圭と芦花の出会いが中学になる予定だったからです。
圭に意味は特になく、ありふれていて、かつある程度字画の良い名前なら何でもよかった。


限界オタク酒寄、優勝宣言かぐや、傍観者俺。

一瞬の静寂を切り裂く、透き通るような声。

 

「おまたせ!」

 

ステージの巨大な鳥居の上に、今宵の主役、月見ヤチヨが降臨した。

 

「ヤオヨロ〜☆ 神々のみんな、今日も最高だった?」

 

会場からは大きな歓声。

かぐやも人生初めての経験に興奮して、酒寄の肩を揺らしている。

しかし酒寄はヤチヨに目を奪われていて、一切反応していない。

そんな二人に関係なく、ライブは進んでいく。

 

「うんうん、よ〜し! 今宵もみんなを誘っちゃうよ〜!」

 

“Let’s go on a trip!”

 

かけ声から一拍、ヤチヨが歌い始める。

「星降る海」。

ヤチヨの雰囲気に合った良い曲だ。

 

ヤチヨの合図とともに会場が水で満たされたようになった。

そして音に合わせてヤチヨが分身し、たくさんのミニヤチヨが泳いでくる。

あっ、ミニヤチヨたちが酒寄とかぐやに抱きついた。

……うわあ、酒寄の顔が人様に見せられない感じに。

 

別のミニヤチヨが芦花にも手を振りながら泳いでくる。

そして俺のことを二度見して、なんか変なもの見たみたいな反応を残して去って行った。

なんすか、俺の何がいかんのですか。

 

ミニヤチヨの反応が腑に落ちない俺を余所に、曲は終わった。

うんうん、良い曲だった。

何度聞いても涙が出そうになるよ。

……いやでもほんとにミニヤチヨのあの反応はなに?

 

「ううっ……ヤチヨォ……」

「ねー彩葉ー彩葉ってばー」

「あれマジで何……」

「久々だけどヤチヨの歌やっぱいいわー」

 

感極まってズビズビと泣く限界オタク酒寄。

そんな酒寄の肩を不満そうにずっと揺らすかぐや。

ミニヤチヨの反応に対し延々とブツブツ言ってる俺。

この場でまともなのは普通に拍手してる芦花だけだった。

 

「感謝、感激、雨アラモード! ヤチヨは果報者なのです〜」

 

いつも通り感謝を伝えた後、ヤチヨは例の告知を始めた。

 

「ここでお知らせ、『ヤチヨカップ』っていうイベントを開催しま〜す!」

 

ヤチヨカップ。

ツクヨミの全ライバーを対象に、1ヶ月間での新規ファン獲得数を競うイベント。

優勝者は、ヤチヨとのコラボライブ権利を獲得。

ざっくり説明するとこんな感じ。

 

「うっっそコラボォ!?」

「おおー初めてだっけ?」

 

素っ頓狂な声を出したのは限界オタクと化したままの酒寄。

芦花もそれに続いて反応した。

 

「何それすごいの?」

 

事情を知らないかぐやが無邪気に問いかける。

原作知識で知っていた俺はともかく、芦花も驚いているから相当すごいことだと思うよ。

 

「すごいなんてもんじゃないよ、ヤチヨは配信でのコラボはあったけどライブはいつも一人だったんだよ! なにぃ? 誰とぉ……?」

「じゃあ彩葉一緒にやろ!」

 

かぐやのお誘いに、酒寄は首を振った。

 

「私らみたいなモブとやるわけないじゃん。こういうのは最初から誰とやるかだいたい決まってんの」

 

夢のない発想である。

というか酒寄とかぐやがモブなら、この世にモブじゃないやつは存在しないけどな。

そんな思いを抱きながら芦花を見ると、芦花も同じ思いなのか呆れ笑いをしていた。

 

どーん!

 

そこに、ド派手な爆音と共に乱入者が現れた。

そう、皆さんご存じBlack(ブラック) OnyX(オニキス)

通称黒鬼のお三方である。

 

黒鬼も原作キャラだから気にはかけていたけど、気にかけるまでもなく耳に入ってくる。

それはもう圧倒的実績の持ち主。

俺ら世代で知らない人はいないんじゃないかなってレベル。

今回のレギュレーションは元から人気なライバーには不利なんだけど、そんなの無関係に優勝するんだろうなと思わせるだけのカリスマが彼らにはある。

 

ふと酒寄を見てみると、かぐやの後ろに隠れて苦々しい顔をしていた。

まあ事情が事情だから気持ちはわかるけどね。

なんか小動物みたいでかわいいね。

横目でチラリと窺うと、芦花もあまり興奮している感じではなかった。

俺?

男相手にきゃーきゃー言う趣味はないなぁ……

 

「また祭りが始まるな」

「俺って今日も作画良すぎ♡ でしょ♡」

「俺たちに優勝して欲しいよな? 底なしの夢を見せてやるぜ!」

 

雷、乃衣、帝の順番で発された台詞に黄色い歓声が上がる。

会場のボルテージもさっきとは違う方向にすごいことになって、耳が痛い。

まあ俺たち4人組はあんまテンション上がってないけど……

 

「ヤーーーチーーーヨーーー!!!」

 

そんな空気をぶち壊したのは、かぐやだった。

ツクヨミ中に響き渡ろうかという大声で、自らの存在を宣言する。

 

「かぐやがヤチヨカップ優勝する! そんで絶対コラボライブする! いろh……むぐっ」

 

全部言い切る前に酒寄に止められたが、時既に遅し。

周りの観客も、黒鬼も、オタ公も、ヤチヨですら、かぐやのことを見ている。

 

「あんたはいつも勝手に……!」

 

酒寄一人で大変そう。

芦花はかぐやのこと眩しいものを見てる感じで止める気配ないし。

俺が止めたら原作ブレイクになるので傍観一択だし。

頑張れ酒寄。

いや、頑張ったところで、酒寄はいろPとしてスターへの階段を強制的に上らされるのだが。

 

「それじゃライブは一旦クローズ! みんなとちょこっとお話させてね。さらば〜い☆」

 

今日のミニライブはこれでおしまい。

このあとは握手券を持っている人たちとヤチヨ(分身)のお話&握手タイムである。

酒寄はここのところこれを楽しみに生きてきたと豪語していた。

まあかぐやのせいで頭からすっぽ抜けてそうだけど。

 

あれっ、そういやヤチヨの「いとかわゆし」聞き損ねたな。

 

 

 

俺と芦花は握手券を持っていないので、先に離脱してツクヨミ内をのんびり歩いていた。

ヤチヨにとっては感動の再会なわけで、邪魔するのも悪いからね。

それにまあ、芦花と最近あんまゆっくり話せてなかったし。

 

目を細めるようにして芦花が話す。

 

「さっきも言った気がするけど、かぐやちゃんはほんと眩しいね」

「そうな。カリスマというか、目が離せなくなる何かを持ってる子だよ」

 

ツクヨミの中でも少し静かな場所に来て、二人で並んで座った。

足湯みたいになっていて、足を浸ける感覚は無いけれど、なんだか心が安らぐ。

かぐや来てからドタバタしてたからな、落ち着く時間である。

ついでに味はしないけど煎茶を頼んですすってみたり。

 

「ねえ、圭。かぐやちゃん、ヤチヨカップ勝てると思う?」

「勝てるよ、間違いなく。酒寄もついてるし」

「圭もついてるし?」

「いや俺はあんま何もできないと思うけど」

 

する気がないというより、できない。

俺は原作知識があるだけの一般人なので。

かぐやいろPチャンネルには自力で頑張ってもらわねばならぬ。

俺がやるのは、そこに芦花を上手く絡ませることだからね。

 

「圭は……たまに未来が見えてるみたいだね」

 

唐突な芦花の一言に一瞬言葉に詰まる。

まさか転生者だとばれているわけではあるまい。

平静を装って返した。

 

「未来は見えないよ、さすがに」

「ふふ、そっか」

 

全てを見透かしたように芦花は微笑んだ。

 

「そだ、圭に花丸つけたげよう」

 

芦花はそう言って、慈しむような手つきで俺の頬にクルクルっと円を描いた。

まさか俺が花丸をもらう日がくるとは。

原作では確かに芦花って包容力あるキャラではあるけどさ。

こう、俺は芦花を導くべき立場なので、こういうの慣れなくてすごくむず痒い……

 

「……急にどうしたよ」

「いーやー、圭は私たちのためにいつも頑張ってくれてるからさ」

 

俺が抵抗しないのを良いことに、芦花は少し手を伸ばして、俺の頭を軽くなでながら続けた。

 

「圭がなんでそんなに色々してくれるのかはわかんないけど。でも、いつもありがとう」

 

芦花がそんな風に思ってくれていたとは知らなかった。

なでられてるのも、かけられた言葉も照れくさくて。

でも、この時間はすごく心地よかった。




あんま信じてもらえないかもですけど、個人的好みとしてオリ主をスーパーマンにはしたくないんですよね……
だからといって自分の写し鏡にしたいわけでもなく。
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