純潔騎士団は童貞神父の色に狂う 〜拗らせ処女の巣窟で女神が純潔の戒律を撤廃したらどうなるか。反動ですんごいことになった〜 作:ジョイントリーゼント
――閉じた瞼の裏に、柔らかな光が透けてる。
朝日だって、そう知覚する前に。今度はチュンチュン鳴く小鳥の声が聞えて、俺の意識は次第に浮上していく。
いつもと同じ大聖堂の朝。遠く離れた場所で魔族が猛威を振るっていたとしても、聖都では今日もまた、平和に一日が始まる――
「――あ。おはようございます、リグレット助祭。朝ごはん、簡単なものですけど出来ていますからっ」
んん!? ん、あぁ……。この声は、副団長。
一瞬なにが起こったか分からなかったわ。なんで俺の部屋に副団長が、って。
でもそっか、思い出した。昨日俺は故郷に向かうため一人大聖堂を抜け出そうとして、失敗して。それで紆余曲折のすえ、なぜだか副団長と同衾することになってくんずほぐれつ、はしてないけど。
それで朝を迎えたと。
「おはよう、ございます。………………夢じゃなかったか」
「はい、夢じゃないですよ? ――おにいちゃんっ」
おお……。寝起きから現実を突き付けてくるの、しんどいよ副団長。ただでさえ全然寝られてないのに。
俺はそうして、声に出さず嘆きながら。甲斐甲斐しく差し出されたコップから、一杯のよく冷えた水を飲みほすのだ――
ということで。
昨日のことなんて何もなかったみたいに、副団長は俺の世話できることを全部した後。なぜか今度は副団長の居室まで連れられ、着替えやら化粧やら、身支度済ませるのを待たされて。
そして最終的には。
「――では、リグレット助祭。そこにあるのが、いま教会にあるアナトリアの情報すべてです。めぼしいところをまとめて、足りない情報を洗い出してくれますか?」
「こんなに……! ありがとうございます、副団長。私のためにここまで……」
「いえ。……逆にこれくらいしか――いち早くアナトリアの状況を掴むために動くことしかできないのが、おにいちゃんに申し訳ないくらいです……」
副団長、やっぱりまだちょっと元気ない。でも、しょんぼりしながらでも書類をさばく手に淀みはない。
俺はここ――副団長の執務室にて、デスクに積まれた書類の束を見遣る。俺をここに連れてきてしばらく経ったと思うと、俺用のちょっと小さなデスクと一緒に持ってきてくれたんだよな。
その気遣いをありがたく思いながら、俺もさっそくデスクについて書類をめくっていく。周囲の地形や水場、その他軍事行動に役立ちそうな情報を手早くまとめて、と。
「……それで、副団長。さっきお願いした人には、声をかけてもらえたでしょうか?」
「はい、もちろん。ここに連れてくるようにと、別の騎士づてで。でも、いったいどうして――――シャリーア・ブラン上級騎士を?」
「それはまた、彼女が来たら詳しく説明しますから」
「……むぅ。……わかりました」
めっちゃ不満げ。でもごめんなさい、俺も急いでるんだ。
俺にできることは可能な限り最速で済ませて。そして、夜なべして考えたとっておきの策でアナトリア行きを許してもらう。
そのために……と。
俺はかつてない集中力で書類の束をめくり、めぼしい情報を別の紙に書き込んでく。
そして、しばらくその作業を進めて、そろそろまとめ終わろうかという時分に。
――こんこんと、扉をノックする音。
「来ましたか。どうぞ、入ってください」
副団長がそう答えると。扉が開いて、部屋の中に入ってくる小さな人影。
「失礼しますー。なにやらフラウゼル副団長があたしに用事あると聞いて。へへっ、何用ですかね……?」
へらっと笑いながら、黒髪をたなびかせて入室するのは――ちっちゃな聖騎士、
シャリーア・ブランさん。
今日は部下と一緒に訓練だって聞いてたけど、呼び立ててごめん。俺が聖都を発つ前にどうしてもお願いしなきゃいけないことがあって。
「シャリーアさん。あなたを呼んだのは、副団長ではなく私です。お願いしたいことがあって」
「へ? リグレット助祭? なんだ、なに言われるかってびびって損した~。助祭のお願いならなんでも聞いちゃいますよ、大事な金づ……仲間なんで!」
いま金づるって言おうとした? いやいいけどね、なんでも。言うこと聞いてくれるなら。
それじゃあ――
「頼み事は簡単です。シャリーアさんが作ったリグレット親衛隊……そのメンバーにお願いして、副団長の業務負荷軽減を実現してほしいんです」
「へ? 副団長の、お手伝い?」
「――――……っ私、の?」
二人して驚いた顔してるな。こんなこと言う人、今までいなかっただろうし。……だからこそ副団長があんなに疲弊しちゃってたんだ。
だから。俺はそれをなんとかしなきゃここを離れられない。
結局他の人、親衛隊のみんなに頼っちゃうのはあれだけど……。曲がりなりにも俺のこと応援したいって人たちだって話だから、全員は無理でも何人か手伝ってくれないかな。
「まあ、それくらいなら全然いいですけどぉ。怪しいな……。なんかありました?」
「いえ、まあ……じき分かりますよ。それに、副団長の負担が大きかったのは以前からのことですから。せっかく私の親衛隊なんかできたので、力を貸してもらえないかなと」
そう、ちょっと誤魔化して答えると。副団長のデスクから、ガタッと椅子を引く音が。
「っそこまで私のことを……! あぁ、やっぱり。こんなに私のこと思ってくる人なんて……貴方だけです――――おにいちゃんっ……」
「……………………ん? いまなんて言いました副団長。えっ、あたしの聞き間違い?」
聞き間違いじゃないんだよなあ、残念ながら。でも、もう俺はいちいち突っ込まないって決めたから。時間ないし。
「いやでも、なわけないか。この世界のどこにも、血が繋がってない年下を『おにいちゃん』なんて呼ぶ悲しきモンスターはいないはず。――なんだぁ、あたしの聞き間違い………………だよねぇ?」
ということで。ひとまず副団長に負担が集中してる件は頭出し完了だ。
あとは、昨日副団長にとどめを刺しちゃった、俺がアナトリアに向かうって話。そっちはそっちで別の策考えてるんだ。命大事にじゃないけど、捨て身じゃなくてちゃんとここに帰ってくる前提の作戦。
その話は
そう思った時にちょうどまた、扉をノックする音が。
「ぁあ、おにいちゃん……っと、ごほんっ! また来客でしたね。……はい、どうぞ入ってください」
そして、次に部屋へ入ってきたのは。
「――――いた。……助祭。昨日はわたしだけ帰したんだから、あれからどうなったかちゃんと説明してくれるんだよね? 一人でアナトリアに行くって話、そんなのぜったい許さないから」
鋭い眼光で俺を睨む銀狼、ルウガウルさん。
対して、彼女と視線を交錯させる俺の心のうちと言えば。
――いやあ、待ってたルウガウルさん! よく来てくれた……!