純潔騎士団は童貞神父の色に狂う 〜拗らせ処女の巣窟で女神が純潔の戒律を撤廃したらどうなるか。反動ですんごいことになった〜 作:ジョイントリーゼント
そうして。
血まみれになった俺の法衣を片づけてから、俺たちは揃って応接用のソファに座る。隣は副団長で、向かいにルウガウルさんとシャリーアさんだ。
おや。なんかルウガウルさんたちにすごいジト目向けられてる。
「……副団長、助祭にくっつきすぎじゃない?」
「! そんなことはありませんっ。先ほど無茶なことをしたばかりなんですから、こうして助祭の体を支えるのは必要なことです!」
「どっちかというと副団長が支えられてますよねぇ」
うん。なんかべったり寄りかかられてる。腕をぎゅっと抱き込まれて……む、胸なんかも押しつけられて。
でもこれは――
「……副団長も、お疲れなんです。私のせいで余計な心労をたくさんかけて、誰かに寄りかかりたくもなりますよ。気にしないでください」
「っ! リグレット助祭ぃ……」
まるで年の離れた妹みたいに、うっとりと体を擦りつけてくる。妹が年上なのおかしいけど。
まあでも実際、副団長ってちょっと精神的に疲れてそうだし。これくらいで満足してくれるなら、いくらでも腕くらい貸すよ。これからまた――副団長には難しい判断をしてもらうことになるし。
ということで。
「そろそろ、話しましょうか。――――私についてきてもらう聖騎士四人を、誰にするのか」
俺がそう言うと、さっきまでのどこか緩んだ雰囲気がキュッと締まる。アナトリアの命運がかかってるんだ、俺もこればかりは真剣にいかせてもらう。
手始めに。
「まず一人、これは私の希望なんですが。――ルウガウルさんを四人の中に入れてほしいと思っています」
「! わたし?」
俺の申し出に、ルウガウルさんは驚いたように目を開く。
これは昨日「不死の小隊」作戦を考えてた時から決めてたことだ。もちろん無理にとは言わないけど、できることならと。なぜならば――
「ルウガウルさんは騎士団でも唯一の獣人族。その卓越した五感と生存能力から、小隊のハブのような役割をこなしてほしいんです」
ルウガウルさんの三角耳が動く。尻尾もゆらゆら揺らしてるけど、それどういう感情?
しかし実際、ルウガウルさんがいるといないとじゃ全然違うと思うんだよな。
戦闘力も機動力もない俺が小隊員を完全にカバーするには、小隊員の中で補佐してくれる人が必須。そしてそれは、さっき言った理由でルウガウルさんが最適なんだ。
ちなみに。獣人族ってたいてい感覚派で、物事を深く考えることを苦手とする人が多いらしいんだけど、ルウガウルさんはそうじゃない。聖騎士団に入れるくらい魔術にも精通しててめっちゃ頭いい。
だから、彼女にはできれば協力してほしいなと。そう、懇願の視線を向けると。
「――うん、いいよ。わたしはそれで」
「! いいんですかッ? そんなにあっさり……」
「べつに考えず決めたわけじゃないけど。まあ、助祭の頼みだからね」
「ルウガウルさん……」
涼しい顔で、嬉しいこと言ってくれる……! でも本人がいいって言ってくれるなら、これほど助かることもないよ。あとは副団長さえ頷いてくれれば。
「ね。それでいいでしょ、副団長。アナトリアではわたしが助祭を守るから。――……四六時中、つきっきりでね」
「っく! ルウガウルさん……貴女は……!」
え? なんで副団長そんな悔しそうにしてるの。ギリギリ歯噛みして……って痛い、俺の腕が!
「あっ、すみません! つい高ぶってしまって……」
なんなん? ほんとに。
「いえいえ、大丈夫ですから。でもこれで、アナトリアへ向かう聖騎士のひとりはルウガウルさんに決定――でいいですよね? 副団長」
「……………………そう、ですね……っ。たしかにリグレット助祭の選定理由は理に適っています。……っ止むを得ません」
「決まりだね。じゃあすぐ出立の準備もしないと。これからしばらくよろしくだね。助祭」
「はいッ。どうかよろしくお願いします、ルウガウルさん」
よしッ。さっそく一人目が決定だ。しかも一番優先度高かったルウガウルさんが決まった。彼女にはほんと感謝しないと。
なんか副団長がぐぬぬと唸ってることだけが謎だけど。
じゃあ、次は。
「残り三人のメンバーですが。正直これは、副団長の差配次第かなと思ってます。小隊連携の要であるルウガウルさんを中心に、戦闘の得意な聖騎士だと助かります。……それこそ、上級騎士であるシャリーアさんみたいな方とか」
「え~あたしぃ? まあね、あたしベテランだし? 戦闘力だってそこらの聖騎士には負けないですし!」
シャリーアさんこんな可愛らしい見た目なのに、騎士団内でも強者だって評判だし。実際あのリグレット親衛隊だって、シャリーアさんじゃないとまとめることはできなかったと思う。
もちろん、シャリーアさんが来てくれるかどうかは彼女や副団長の判断次第だけど。
あと他は誰がいたっけ。本人にも副団長にも頷いてもらえないとって考えたら、中々声を掛けられる子も限られてくるからなあ。
なんて、そんなことを考えてると。シャリーアさんがぼそっと。
「…………それに、
ん? なんかシャリーアさん、いつもの感じとだいぶ……。
「――わっかりましたよぉ! ではでは、不肖シャリーア・ブラン。『白衣の貴公子』を守る盾として、アナトリアへ向かっちゃおうじゃないですかぁ!」
気のせいかな? さっきの。でもとにかく、シャリーアさんも承諾してくれたなら……!
「副団長。そういうことなので、シャリーアさんにも来てもらっていいでしょうか?」
「……まあ、はい、シャリーアさんなら。大丈夫ですもんね」
よし! でもその「大丈夫」ってどういう意味? 戦闘力的な? ……まあいいや。
それじゃあ。
「今時点で決定したメンバーは、ルウガウルさんとシャリーアさんの二人。残りの二人は……」
「――すこし、考えさせてもらってもいいですか? リグレット助祭。もちろん時間がないことは分かっています。結論はすぐに……明日にでも出しますから」
「副団長……――はい、分かりました。それでは忙しいところ申し訳ないですが、お願いします。私たちはすぐ行動できるように準備だけしておきますね」
「はい。どうか、アナトリアで困ることにはならないよう、入念に準備してくださいね……。入用のものがあればなんでも言ってください。リグレット助祭のためなら、多少無茶をしてでも用意してみせます」
「上層部の指示から始まったことですからね」と副団長は笑って見せる。俺たちがアナトリアへ向かうことが心配なのか、まだどこか力のない笑みで、きゅっと俺の腕を握ってくるけど。
それでも。これでどうにかアナトリアへ向かうめどが立ったと、そう安心して。
――――俺はどこか、気を抜いてしまっていたのだろうか。
その後。
準備のためにと今日の業務や訓練を免除された俺たちは、副団長の執務室を出て各々の部屋へと向かった。俺もルウガウルさんシャリーアさんと別れて、今朝副団長と一緒にいた男性用宿舎に向かっていたのだが。
――事件はそのとき起きた。
「来たぞ! 『白衣の貴公子』クラウス・リグレットだ……!」
「速やかに事を済ませろよ。こいつは聖騎士団を影で支配してるとも言われているんだ。万が一聖騎士の誰かに見つかってみろ、全員血祭りにあげられると思え!」
顔を隠した黒づくめの連中が突然現れたかと思うと。なにやら薬品の臭いがする布を口に当てられて。
……――意識が、遠のいて。