純潔騎士団は童貞神父の色に狂う 〜拗らせ処女の巣窟で女神が純潔の戒律を撤廃したらどうなるか。反動ですんごいことになった〜   作:ジョイントリーゼント

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3話

 

 礼拝堂に響き渡る、凛としつつも力強い声。さらに、稲妻のように凄烈な魔力が声に遅れてびりりと広がる。

 

 俺を取り囲んでた聖騎士たちもたまらず動きを止め、揃って声の方に視線を向ける。俺を中心に集まっていた人の壁が割れ、姿を現したのは――

 

「――フラウゼル副団長……!」

 

「リグレット助祭……。申し訳ありません、このようなことになって。部下たちの蛮行の責任は私にあります」

 

「いえ、副団長。どうかお気に病まれないでください。今回の原因は私にある、のかは、……なんとも言えないですが。ともかく私は気にしてませんから」

 

「……そう言っていただけると、私としても助かります。本当に助祭にはご迷惑をおかけして……」

 

 おお……。その大人っぽくも可愛らしい端正な顔を、悲痛な表情に染めて。そんな顔をされるとこっちが申し訳なくなるな。

 

「本当に、お気になさらないでください。みんなもきっと戒律が一つなくなるなんて一大事に冷静ではいられなかったんですよ」

 

 ほんとはまだ怖いけど。副団長の登場で今は静まり返ってるものの、またいつ俺に牙を剥くことか。みんなもっと男選んだ方がいいよ……。

 

 そんなことを考えていると。

 

「――……副団長、ずるい」

 

 え? 今の誰が……というか、ずるいってなにが?

 

「戒律の撤廃なんて、そんなことしたらこうなるのは火を見るより明らかだったのに。自分だけ安全地帯からいいとこ取りして……!」

 

「っそ、そうですよ! なんだかんだ言ってこのまま助祭をお持ち帰りする気じゃないですか!?」

 

「上司の横暴を許すなー!」

 

 ええ? みんな、なんてことを。

 

 聖騎士たちの怒りの声は次第に膨れ上がって、いまや礼拝堂中に響き渡る。

 

 年齢構成が全体的に若めな組織だけあって、こういう時に収拾つかなくなりがちだよなあ。上の人、それこそ副団長とかは俺より歳上だし落ち着いてるけど。

 

 きっとこんな野次も受け流して――

 

「……っ」

 

 ええ? なんかめっちゃ唇噛んで、図星みたいな…………えっ? 冗談だよな?

 

「やっぱそうなんだー! 副団長の卑怯者!」

 

「卑しい女!」

 

「年増ー!」

 

「……っだ、誰が年増ですか、さすがに聞き捨てなりませんっ! 私はまだ二十六です! っぴ、ぴちぴちですよ!?」

 

 お、おぉ……。怒るよそりゃ。むちゃくちゃな言われようだったし。いくら穏和で大人っぽい副団長といえど、事実無根……かはわかんないけど、あんなこと言われちゃあ。

 

「だいたい、貴方たちこそ卑しいのではないですか! 節操なく助祭に擦り寄って、体にまで触れて……!」

 

 うん。触られるのはほんとに怖かったよ。彼女らまじで強いからね、俺なんて紙クズみたいに扱えるからね。

 

 さすがに俺もその……ただ近くにいるみたいな人じゃなくて、いつかお互いに好き合った人と、って思ってるし……。

 

 そんな「誰も聞いてねーよ」とか言われそうなこと考えてる間にも、副団長とみんなの言い合いはヒートアップしていく。

 

 これ俺、今のうちにこっそり帰っちゃダメ? ……あ、逃げ道塞がれてますね、ダメですね。

 

 じゃあ副団長頑張ってと、心の中でエールを送って、引き続きその舌戦を見守るしかないんだけど――

 

「――こんな無理やりのような……! あまりにも酷いようなら、白神さまもお言葉を撤回されるかもしれないのですよ! もっと相手の気持ちを考えて行動してくださいっ」

 

「っそ、それは……! 困りますけど!」

 

「たしかにまあ……冷静に考えたらこれ、純潔の戒律以外の教えに背いてるかも。というか下手したら法律にも……」

 

「まあ……無理やりはよくなかったね……」

 

 おお、さすがは副団長! 人としてのあるべきを説いて、見事に聖騎士たちの茹だった頭を冷ましてみせた……!

 

 これなら、もう誰も傷付かず罪も犯さず、なんとかこの場を終えられそう……と。

 

 そう思った、矢先のことだった。

 

 

 

「――――でも私たち…………これから戦争に行かなきゃなんだよね?」

 

 

 

 誰かがそうぽつりと溢した。覚悟と悲哀がこもった、切ない言葉。

 

「――っ……!」

 

 稲妻に打たれたみたいな心地だった。副団長も、衝撃を受けた顔をしてる。

 

「…………たしかに、そうだよね。私たちが行かなきゃいけないことは分かるけど、でも。もう二度と、ここに帰ってこられないかもしれないし」

 

「きっと白神さまだって、後悔しないようにって。そういうお心で」

 

「だったらやっぱり、やりたいように――?」

 

 ちょ……ッ! またおかしな流れになってきてんだけど!

 

 いやまあ、確かに戦場にいかなきゃいけないなら、やり残しはできる限りない方がいいと思うよ? ……法律は守った上でね!?

 

 ほら副団長も、そんな悲痛そうな表情で黙ってないで! 俺を援護して!

 

「――……貴方たちの言い分は理解します。もしかしたら自分に残された時間は長くないかも、神のご威光のもと平和に殉じなくてはいけないかも……そういう気持ちがあることはわかります。でも――」

 

「――――副団長はいいですよね。とっても強いから、死んじゃうとしても最後の方だし。そもそも、自分だけ安全な戦場を選ぶことだって……――」

 

 ッ! それ、は。ッ言っちゃいけないだろ……!

 

 思わず、横から口を挟んでしまいそうになった、その時だった。

 

「――――それ以上は、もはや多めに見ることはできませんよ」

 

 冷たい声と視線。その、上位者として板についた厳格な態度に、突っかかってた聖騎士の子もまずいと気づいたらしい。

 

 意地なのかなんなのか謝りはしなかったけど、それ以上たてつくこともなく口をつぐむ。

 

 それを見てため息をついた副団長は言った。

 

「ここは学校ではありません。世界に神の教えをあまねく広めるための、実力をもった布教組織。そのことをけして忘れぬよう」

 

 ごもっともなことを言う副団長だけど、周囲からは反感のこもった視線がいくつも……。さっきの酷い発言に感化された子が何人もいるんだ。

 

「はぁ……。白神さまの託宣はこれで終わりです。各々、今日お話しした内容をよく考えて、神のしもべに恥じない行動を。――さぁ、リグレット助祭、こちらへ」

 

 俺の隣まで来た副団長が「またさっきみたいにならないように」と、俺を礼拝堂の外へと連れ出してくれる。

 

 数多の仄暗い視線に背中を刺されながら、礼拝堂の入り口を潜って外に。そのまま通路を進みながら、副団長が口を開いた。

 

「今日、この後はどのようなご予定でしたか?」

 

「ええと。この後はいつものように医務室に詰めるか、訓練場に控えて怪我人の治療をと思ってたんですが」

 

「今日のところは、どちらもやめた方が賢明かもしれませんね。リグレット助祭の居室までお送ります。申し訳ないですが、今日は一日お部屋でゆっくりしてもらっていいでしょうか?」

 

「ええ、それはもちろん。むしろなんだか……申し訳ないです、私のせいで不要な混乱を」

 

「いえっ、リグレット助祭はなにも悪くありませんから! むしろ部下を統制できていない私の責任で……」

 

 はぁ、と。またため息を吐いた副団長について、俺たちは騎士団本部の回廊を歩く。

 

 フラウゼル副団長、ずいぶん疲れてそうだなあ。でも、それも当然だ。さっきの子の副団長に向けた言葉……あれは酷すぎる。

 

 俺は斜め前を無言で歩く副団長の横顔を見る。俺と四つしか歳が変わらないとは思えない。この、組織の副長としての責任・使命感に満ちた表情……。

 

 それに。ちょっと足されてるのは……悲哀、かな。やっぱさっき酷いこと言われたの気にするよなあ、絶対。俺だったら泣いてるよあんなこと言われちゃ。

 

 よし。俺程度の言葉、気休めにもならないだろうけど――

 

「――副団長」

 

「………………っん、はい! あぁ、すみません考えごとをしていて……! どうしました? やっぱりお部屋に缶詰は嫌でしたか……?」

 

「ああ、いえ、違うんです。そこは納得してます。ただ、副団長もすこしお疲れ……というか、落ち込まれいるんじゃないかと思って。さっきの……」

 

「ああ、あの――私にはあの子たちと比べて時間や余裕があるのでは、という話ですね……」

 

 やっぱり、気にしてそう。表情も少し暗くなって、俯きがちで。

 

「確かに、あの子たちの言葉は間違いではないんです。私やそのさらに上は、危険な戦場へ行けと気楽に命令しているようにも見えると思います。でも…………私だって、たくさん悩んでいるんですけどね……」

 

 そう言った副団長に顔は、本当に疲れ切ってて。日々たくさんの厄介ごとを捌く、中間管理職としての悲哀に溢れてるみたいで。

 

 だから。たまらず俺は言ったんだ。

 

「――ッあの。もしよければ、私も副団長のお力になりますから。雑用でも、気軽な相談でも……なんでも言ってください。騎士団付きの助祭って、意外と時間に余裕あるんですよ」

 

 少しでも気が楽になったらって、にこりと笑いかける。

 

 それを見て、一瞬なにを言われたか分からないみたいにきょとんとする副団長。足も止まって、至近距離で見つめあう。

 

 …………な、長くない? なんか俺まずいこと言った? 副団長があんまりにも可哀想だったから、少しでも力になれればって、それだけだったんだけど。

 

 綺麗な紫苑の瞳がじぃっと俺を見る。小さく口が動いて――

 

 

 

「……じゃあ…………――――私のことをたくさん、可愛がってくれますか……?」

 

 

 

 んんん? な、……なんて?

 

「……聞き間違いですか? いま副団長、え、なんと……?」

 

「聞き間違い? いえ、そんなことはないと思います。こんなに近づいてるんですから、きっと私の思いは伝わっているはず。ね、そうでしょう……?」

 

「、う、わっ」

 

 俺の手が取られて副団長の方へ……って、え!? は!? え!? ……やわらかっ――

 

「――っどうですか、感じますか? 心臓、ドキドキしているでしょう?」

 

 え、これヤバいんじゃ! なんか、脅されたりしない!? だってこれ俺、副団長の胸を……いや力強! 動かせん……!

 

「ほら。私、精一杯頑張ったんですよ? こんなに激しく鼓動するくらい、はずかしいのに。…………褒めてほしぃ、から……――」

 

 いやああああ! ヤバいってこれ! 師匠だったらこっから数発殴られて、山の中の貴重な食糧全部要求してきて、それでそれで……とにかくヤバいことに!

 

 それに、こんなとこ他の誰かに見られでもしたら――――っあ…………。

 

「――――っず、ずるいぃぃいい……! やっぱり副団長、やっぱり、やっぱりじゃないですかぁ!! こんなとこで助祭と乳繰り合ってぇえ!」

 

 礼拝堂から向かってきた数名の聖騎士が叫ぶ。鬼の首取ったと言わんばかりに、こっちに走ってくる。

 

「っく…………場所が悪かったですか……」

 

 そういう問題じゃないんだけど!

 

 悔しそうな顔で歯噛みする副団長と、肩を怒らせて向かってくる聖騎士たちを見て。

 

 俺は心の底から思う。

 

 ――この手、早くはなして……。

 

 そんな心の声は、当然誰にも届くことなく。

 

 俺はやいやいと言い合う副団長や聖騎士の子たちに囲まれて、しばらくこの針の筵にい続けることになるのであった……。

 

 

 

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