純潔騎士団は童貞神父の色に狂う 〜拗らせ処女の巣窟で女神が純潔の戒律を撤廃したらどうなるか。反動ですんごいことになった〜 作:ジョイントリーゼント
――――白亜の大聖堂のお膝元。そこには、様々な施設が建ち並んでる。
騎士団本部も、敷地内に勤める聖職者の宿舎も、庭園だって。
そして。いま俺がいる石畳の大きな広場、騎士団専用の屋外訓練場もそう。
――あれから……この恐ろしい日々の幕開けとなった純潔の戒律撤廃の日から、早一週間。
俺は聖騎士のみんなからの要請で、訓練をつけるみんなの治療を目的に、訓練場隅のベンチに控えてるんだけど。
「――助祭! 怪我、怪我しましたっ! 骨が折れたんです! ほら、ここっ」
きゃーっと黄色い声を上げながら、やけに嬉しそうに駆けてくる少女騎士。
痛そうなそぶりも全くないけど。え、骨折れてるんだよな?
「ちょっと待ってくださいね、確認するので」
「はい! ぜひ触って確かめてくださいっ。あの、その……どこでも遠慮なく……!」
いや、患部しか触らないよ? というかうわ、ほんとに折れてる。痛いだろうになんでそんなニコニコできるの? やっぱ聖騎士強すぎない?
「はい、確かに申告通り右前腕が折れてますね。では治療します」
「……もうお触り終わりですか? もっとお喋りは?」
「……いえ、早く治さないと痛いでしょうし。では――」
「――待って! あ、もしかしたら足も痛いかも? こっちも折れてる気がしてきました!」
さっき走ってきてたのに? 無理あるって。
苦しい嘘で時間を稼ぐ少女に俺は苦笑いする。別に暇なら雑談くらい構わないんだけど、あいにく……。
「じゃあ手早く足も見ますが、まずは腕の治療から――」
「あの! それより私、今日は助祭にプレゼント持ってきたんです! いつもお世話になってるお礼にって」
「え? プレゼント? あの、すみません。気持ちは嬉しいですが、そういうのは私的な時間に……」
「ちょっと待ってくださいねぇ。えーっと――」
「――ねーまだぁ? 後ろつっかえてるんだけど!」
ああほら、また追加で怪我人が。早くしないと。
焦りが鎌首をもたげるけど、目の前の聖騎士は依然動かない。なにやら懐に手を入れゴソゴソしてる。
でも無理やり止めるのも怖いし。俺、聖騎士怒らせて帰らぬ人になるのやだよ……。
なんて、すっかり困り果ててたその時だった。
「――ちょっと。あんた、いい加減にしたら? いまは訓練の時間なんだけど」
そう、目の前の聖騎士に声を掛けたのは。
銀の髪をウルフカットにして、青い瞳を鋭く光らせる、また別の聖騎士。俺より年下なのに、その鋭い眼光はなかなか威圧感もあって。その理由の一端はきっと、頭の上にある……あの三角の狼耳。
「――ルウガウルさん」
俺がそう声を掛けると、後からやってきたルウガウルは俺に視線も向けず、気だるそうに頷いた。
「……いま私、助祭に治療してもらってるの。ただでさえ助祭人気だし、こんな時しか話せないんだから。……邪魔、しないで!」
「べつに治療ってお喋りの時間じゃないから。さっさと腕治してもらって場所開けて」
「っなんでそんなことあなたに言われないといけないの? あっち行ってよ!」
「いや、後ろ見て、怪我人たまってんの。これ以上余計な時間遣わせないで。……ほら、さぁ……あんたの大好きな助祭だって困ってるのわかんない?」
「え……」
最初の聖騎士は、うんざりしたルウガウルさんの言葉に背後を振り向く。そこにいるのは、こうして話してる間にも列を増やしてく怪我人の騎士たち。
……そう、怪我人多すぎるからさ。一人に時間使いすぎてると捌けなくなっちゃうから。
「ぁ…………り、リグレット助祭……ご迷惑、でしたか……?」
「えっと……プレゼントをくれる、その気持ちはとっても嬉しいですが。今はルウガウルさんの言う通り、訓練の時間ですから。もし個別にお話ししたいことがあるなら、また別の時間に……お願いできますか?」
「……っご、ごめんなさい! 私、舞い上がっちゃって、迷惑かけてるの気づかなくて……。でも……助祭、ずっと人気でいつも誰かと話してるから。っ私、この時間くらいしか……!」
「そう、ですね。私はひとりしかいないですから、最近は正直全員と十分お話しする時間を取れなくて。……ですが、最近すこし、やり方を考えたんです」
「やり方……?」
「はい。……おっと、ちょうどよいところに。――シャリーアさん、いま少しいいですか!」
視界の端にちらついたのは、揉め事の匂いを感じ取ってやってきたらしい黒い影。
「はいはーい。どうも、シャリーアですよぉ。――それでリグレット助祭、いかがしたかね……っと」
やってきたのは、この訓練場でも人一倍小さな聖騎士。すこし赤みがかった黒の長髪を揺らし、その……正直、性徴期前の少女にしか見えないシャリーアさんは首を傾げて見せる。
これで俺より二つ上の二十四歳って言うんだもんな。聖騎士ってやっぱ怖い。
「助祭ぃ? それでご用は? そこの小娘、列からひっぺがせって?」
「ああいえ、違います。そうではなく、そこの彼女にシャリーアさんのことを紹介したく。例のその……――り、リグレット親衛隊の件で」
「あぁ、新しい入隊希望者! 了解ですよぉ、それならここからはあたしにお任せを」
シャリーアさんはそう言って目を輝かせると、揉み手しながら言い出した。
「――結論から言いましょ。リグレット助祭ともっと個人的な時間を過ごしたいなら……あたしが隊長を務める親衛隊に入るといいですよ」
「親衛、隊……?」
「そう! 助祭の安全な日々を守って、騎士団内での助祭に関するルールを遵守して――――そんでそのご褒美に、持ち回りで助祭の個人的な時間をもらうことができる。そういう組織です!」
流れるような説明。俺にプレゼント渡そうとした聖騎士の子以外にも、後ろで待ってる子たちも聞き入ってる。
……あ、ルウガウルさんこっちきた。
「あの様子なら、シャリーアに任せてれば大丈夫でしょ。それよりあんたさ、もうちょっとはっきり断ったら?」
「そうなんですけどね。どうも、そういうのが苦手で。ルウガウルさんに仲裁してもらえて助かりました、ありがとうございます」
「はぁ……。べつに、それくらいはいいけど。わたしたち聖騎士全体のモラルが問われるのもイヤだし。でも助祭ももうちょっと強く断ってよ。そういう過剰なやさしさが厄介ファン生んでるんだから」
「ご忠告、肝に銘じます。いつも本当に助かってます、ありがとう……」
「ふん……」
ああ、呆れたような視線。でもしょうがないんだって。下手に強く拒絶したら後からなにされるか分かんないし。俺が聖騎士に襲われたらボコボコにされるからね。
と、そんなことを話してると。
「――――はーい、加入まいどぉ! じゃあさっそく隊費の徴収を……あっ、そっちのあなたも入りたい? いいですねぇ、一緒に助祭を守って役得もらっちゃおう! そっちも、あ、そっちも?」
ぉお、シャリーアさんめっちゃうまいことやってる。ウハウハで顔緩んでるよ。
でも実際、シャリーアさんの個人的な儲けが目的だったとしてもありがたいんだよな。この一週間、最初の頃はほんとに地獄だった……。
仕事中もその後も、毎日昼夜関係なく迫りくる聖騎士たち(ゴリラ女子)。普通の生活が一切できなくなるほどで、騎士団内はまさにモラルハザード……って時に現れた救世主がシャリーアさんだ。
隊員のために個別の時間を取ることを考えても、プライベートが完全になかった数日を思うとずいぶんましになった。
おまけに彼女、ちゃんと隊費の一部を俺に還元してくれるんだよな。全部自分でがめないだけ偉い。俺にがっついてもこないって意味でも、ルウガウルさんと合わせて、今の俺の二大オアシスだよ……。
二人のありがたさに泣きそうになりながら、親衛隊への加入を済ませたらしい怪我人たちがまた俺の前に並ぶのを見て。
「――すこし混乱が起きましたけど。では本題に戻って、治療を進めていきますね。患部を出してください、はい、じゃあ――――【治癒】」
ぽぁ……と俺のかざした手から魔力が滲んで、さっきの子の骨折をさっさと治す。
「親衛隊のご褒美楽しみにしてますっ」と言い残して去っていく彼女に、無茶なこと言われなきゃいいな、なんて遠い目になりつつ。続く怪我人たちも捌いていく。
はぁ、良かった。これでなんとかこの時間も乗り切れそうだ。ルウガウルさんとシャリーアさんには感謝を、と。まだちょっと後ろで見守ってくれてる二人に念を送っていた、その時だった。
訓練場の外から走ってきた聖騎士の子が俺に向かって――――あ、ルウガウルさんたちに止められた。……あ、通された。
え、なに? またなんか厄介ごと?
そう、戦々恐々としつつ、列に並んでた最後の怪我人を治癒して帰したその直後。
「リグレット助祭……! 至急の用事が!」
「あ……お仕事の話ですね? なんでしょう?」
「――――フラウゼル副団長がお呼びです! すぐに大聖堂に来るようにと!」
……!
おそらく今日の鬼門だろうと思ってたトラブルが終わったと思ったら。
特大のやつが残ってたんだけどッ!