純潔騎士団は童貞神父の色に狂う 〜拗らせ処女の巣窟で女神が純潔の戒律を撤廃したらどうなるか。反動ですんごいことになった〜 作:ジョイントリーゼント
そうして。
迎えの子に連れられ、俺は急ぎ大聖堂へと向かう。
敷地内のどこからでも、もちろん訓練場からも見えていた白亜の大聖堂。無数の尖塔が天に伸びるそのふもとに向かって、急ぎ足を動かすことしばらく。
やがて着いた、たくさんの聖職者が頻繁に出入りする大聖堂の大きな入口にて、俺は見つける。
大聖堂の前に立つ、編み込んだ白金の髪をたなびかせる美女――フラウゼル副団長を。
「――副団長、連れてまいりました!」
「ありがとうございます、助かりました。それでは、貴方は戻ってください。私は上層部に呼ばれているのでしばらく帰れません。――リグレット助祭も、同行させます」
「はい、承知しました!」
素直に頷いて去っていく。
……にしても、上層部に呼ばれてるって? 俺も一緒に? …………え、もしかしてこの間のことで?
「すみません、リグレット助祭。そういうわけですから、すぐに向かわなくては。ついてきてくれますか?」
「……ええ、はい。もちろんです」
「ありがとうございます」と告げた副団長は、そのまま俺に背を向け大聖堂の中へと歩みを進める。
それについていく俺の頭をいま占めているのは――――先日、彼女のむ、胸を触らされた時のこと。
え、もしかして上層部からの話もその件? 俺教会から追放されちゃう……?
前を歩く副団長の様子を恐る恐るうかがう。
な、なんも言ってこない。怒ってる? それともまた……――
「――リグレット助祭?」
「ッ、はい、なんでしょう?」
「その、先日のことですが……」
ッ来た、あの時のことだ絶対! え、何言われる? 俺の人生終わる?
とりあえず土下座の準備を……と。そう覚悟した俺は、続く副団長の言葉に耳を疑った。
「――本当に、すみませんでした! 無理やり、その、手を取って……あの時の私はどうかしていました……」
「え……」
立ち止まって、俺の目を見ずに頭を下げる副団長。
俺じゃなくて、副団長の方が謝罪?
「あの……頭を上げてください……! 私は気にしてません。というか、副団長こそ私に怒ってたりとかは……」
「な、なぜ私がリグレット助祭に怒りを……? 勝手に貴方の手を取って、……私の体に触れさせたのは私の方ですよ? 当然、謝るべきは私です……」
「おぉ………………たしかに、それが道理だ……」
言われてみれば、常識的に考えるとそうかも。だって俺、自分から触ったわけじゃないし!
でもなんだろ。俺が知ってる女性の代表――師匠は、それでも絶対俺に怒るとこが想像できる。俺、女性の基準がもう師匠になってんだよね……。
「それで……リグレット助祭。こんな、卑しい私のことを許してくれますか……?」
副団長は不安そうに、やっと目を合わせてくる。
でも。俺はなんかもう、上司から非難されて、さらには教会上層部にさらし者にされるなんて想像までしてたわけで。
正直、許す許さないとかの前に、めちゃくちゃホッとした……! だから――
「――もちろん、私から副団長になにか言うなんてことはありません。あれは、その…………直前のこともあって、副団長も混乱してたんだと思います。誰にだってありますから、そういうこと」
そう、にこりと笑いかけながら言った。
確かに胸触らされたのはたまげたけど、怒るというか、困惑の方が強かったし。ああ、副団長疲れてるんだな……って感じ。中間管理職って大変だなあ。
そうして、副団長はそんな俺の言葉を聞いて。……一瞬、なにか尊いものを見たかのように表情を歪めたかと思うと。
「――…………やはり、ぅう、我慢が……。ダメダメ、いまはまだしっかりしないと。………………ちょっとくらい、いいでしょうか……もっと触れてもらって、撫で……、揉み……」
「んん?」
「……あっ、いえ! なんでもないんです、なんでも! さあ、それより早く先へ進みましょうか……!」
んんん? んん………………まぁいいや。聞かなかったことにしよう! そうしよう!
都合の悪いことは刹那で忘却の彼方へ。俺は歩みを再開した副団長に続いて、早足で進む。前を行く副団長の耳が真っ赤に染まってることは、見なかった振りで。
そうして、大聖堂内の内部を無言で進むことしばらく。副団長は廊下の途中にある扉の前で立ち止まって言った。
「ここです、私たちが呼ばれているのは。至急という話でしたから急ぎましょう」
「はい」
さっきまでの会話がなかったみたいに、いつも通りの副団長だ。まだちょっとだけ赤らんだ頬に名残があるけど気づかなかったことにしよう。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、副団長は目の前の扉をノックして、返事があることを確認すると扉を開けて――
「――白銀聖騎士団、副団長のエリナリーゼ・フラウゼルです。同騎士団付きの神父、クラウス・リグレットとともに参上いたしました」
中に入るとそこには。会議用の卓に、お偉い聖職者がずらりと。
入室した俺たちに、いちばん上座に座る恰幅のよい初老の聖職者が声を掛ける。
「やっと来たのか、遅いぞ。……さあ、早く席に。会議を始める」
「これは枢機卿。申し訳ございません、すぐに」
枢機卿、か。偉そうだなあと思ったら、実際めちゃくちゃ偉い人じゃん。
とりあえず俺も頭を下げて副団長に続く。こういうとこでの立ち回り分からないから副団長の真似しとこう……。
そうして、俺たちが席に着いたことで卓はすべて埋まり。進行役らしき聖職者が、咳払いをして言った。
「それでは。メンバーが揃いましたので、会議を始めさせていただきます。議題は――――対魔族、隣国アキレウス王国戦線への派兵について」
これは。もしや先日、副団長が戒律撤廃の場で言ってた話か? 騎士団が戦場に駆り出されるっていう。
しかもアキレウス王国って、俺の出身国だし……! いま魔族ってそんなとこまで来てるのか!?
「――フラウゼル副団長。王国から我らが聖国への正式な要請を受け、上層部すでに派兵を進める方向で話がまとまっております。そこで貴女には、その具体的な人員選定を依頼したく」
「……っ、詳しいお話しを、お聞かせいただけますか?」
「ええ、それはもちろん、これから。……まず、具体的な派兵先ですが。――将軍級の魔族が一体確認されているアナトリアへ、中隊規模の戦力を投入したく」
そう告げた進行役。
その言葉を受けて、副団長は少し考えたあと、より具体的な条件の確認を進め始める。進行役やその他の会議参加者と、真剣に言葉を交わしている。
だが。いまの俺には、そんな言葉が頭に入ってこない。聞かなくてはと思うも、衝撃でそれどころじゃない。
だって。なぜならば。
アナトリア、そこは――――――俺の生まれた街だ……!