純潔騎士団は童貞神父の色に狂う 〜拗らせ処女の巣窟で女神が純潔の戒律を撤廃したらどうなるか。反動ですんごいことになった〜 作:ジョイントリーゼント
俺の故郷が魔族の攻撃を……? そんな……もうそんなとこまで迫ってるなんて、そんな話聞いてないってッ。
「――アキレウス王国は聖国にも従順で、これまでの教会への貢献も大きいですから。要請を無視することは神のご意向に背くことにもなりましょう」
「ふむ。それで……――見返りは?」
「枢機卿。いますぐに中隊を編成し、魔族の将軍を討伐せしめた暁には……聖国に対して金貨五百万枚、小麦等の穀物・家畜・酒類を同額分。そのうちいくらを教会の取り分とするかは聖国首脳部との交渉次第ですが」
「ほう、それはなかなか……。他には?」
「後は、アキレウス王国にて保護・教育している魔術兵の見込みがある子どもたち、その十分の一でも強請れるかと」
「ふむ、いいじゃないか……! 後はそうだな、ついでに――」
枢機卿連中の皮算用も耳に入らない。いま俺の頭にあるのは、もう十年帰っていない故郷の景色だ。
十二にして教会に召し上げられ、それから一度も顔を出せてないけど。別に故郷に悪感情があるわけじゃない。むしろ、父さんも母さんも昔の友だちも……みんなが残ってるアナトリアは、いまでも俺の中で輝いてる。
そんな俺の故郷が……魔族の侵攻を受けてるだって……ッ?
俺は冷静でいられなくて、たまらず声を上げそうになる。いつからそんな状況に? 被害は? まだ俺の家族は……なんていくつもの言葉が喉まで出かかって。
けど、それが言葉になる直前。先に声を上げたのは――
「――すみません。お話を進めるのは、少し待ってもらえますか……っ」
「ん? どうした――フラウゼル副団長」
副団長……。団長が聖都にいない現状、白銀聖騎士団の人事含めすべてを統括する聖騎士の中の聖騎士。当然アナトリアの命運も副団長の差配に大きく左右される……!
この場に俺が呼ばれた時点できっと――騎士団唯一の治癒術士である俺が連れてかれるのは確定だよな。望むところだ、俺も故郷のために全霊を尽くしたい!
問題は俺以外の人員。誰を選ぶかは副団長次第だけど、俺の故郷が、たくさんの大切な人の命がかかってるんだ。越権行為かもだけど俺も一枚かませてもらって……と。
そんなことを考えていた俺は……もしかすると、この場で一番皮算用してたのかもしれない。続く副団長の言葉を聞いた俺は――
「――――今すぐの、派兵など! 団員の命を預かる副団長として、とても承服できるものではありません……!」
え? ……副団長、いったい何をッ?
「フラウゼル副団長。君に派兵の判断を覆す権限はないぞ。私がやれと言えば、その方法を考えるのが君の仕事だろう」
「枢機卿……! いえ。私には、聖騎士団には、その言葉を覆す方法があります。――白神さまに事の是非をご判断いただくよう申し出ることで、託宣が下るまでの勝手な行動は慎まなければなりません……!」
「な……! 君が、それをすると……ッ?」
副団長!? 今この瞬間にも、アナトリアは魔族の脅威に晒されて、命を落としてる人だっているかもしれないのに……! できる限り早く動かないとッ。
きっと、アナトリア以外にもそういう場所があることは分かってる。これが俺のエゴだってことも……。でも、俺たちにできることが、道が用意されてるなら!
そんなことを考えてるのが、たぶん顔にも出てたみたいだ。枢機卿は俺を指差すと副団長に向かって言う。
「助祭も君の意見に賛成ではなさそうだぞ……! その白い司祭服を見るに、彼が噂の『白衣の貴公子』だろう。騎士団に在籍する唯一の臨戦治癒術師であり、数多の聖騎士に好意の手綱をつけていると聞く。――どうだ助祭、君からも言ってやるといい。『同盟国やそこにいる信徒を救うことは、聖騎士団の義務ではないか』とな……!」
白衣の貴公子? 好意の手綱? ……ちょっとなに言ってるか分からないけど、でも。
大切な故郷を守るためには、枢機卿の言葉に乗った方が……? と。焦りのあまり、一瞬でもそんなことを考えて。それで、ちらりと副団長の顔を見た瞬間。
――枢機卿を気丈に睨みながら、下唇を少し噛んで。握った拳も、わずかに震えてる。一週間前、あの礼拝堂で聖騎士たちから糾弾された時みたいな……。
そんな副団長を見たら、とても彼女を突き放すことなんて言えなかった。俺は口をつぐんで、歯噛みしながら副団長が言葉を続けるのをただ聞くことしかできない。
「――王国が言う今すぐとは、本当に今すぐ、できる限り早くという意味のはず。それは情報を収集する時間がないことと同義です……。アナトリアに将軍級が一体とのことですけど、具体的な個体名は? 将軍級より下の魔族の総数は? 枢機卿」
「……王国からは、現地に騎士たちが着いてから詳しい情報を、と聞いている」
「そうでしょう? さきほど枢機卿たちが話をする際、そう言った情報は意図して隠していらっしゃいました。王国も、素直に現状を告げて聖国に足元を見られてはいけないと、そんな思考が働くはず。ですが、そんな何も分からないような状態で派兵なんて……! いま情報も足りない状態で、大切な部下たちを死地へ送ることは認められないんですっ!」
ッ! ……副団長の言う通りだ。さっきまで頭に血が上ってたなんて言い訳にもならない……。
確かに、いま副団長が言ったような状況で気軽に「はい」なんて言えるわけないよな。騎士団のみんなを思って、女神に戒律撤廃を直訴するくらい仲間思いの副団長。
「ッち。……その様子では、『白衣の貴公子』の方も駄目か」
「枢機卿。うちの心優しい助祭を、彼を……――ッ利用しようだなんて。絶対に、何があっても、看過するわけにはいきません――――!」
「ふん。彼も君も、聖十字教会という組織に所属する以上、枢機卿である私の配下であることを忘れるな。当然派兵に関する命令も――」
「それもさきほど言った通りです。確かに一介の騎士である私に、枢機卿の命令を拒絶する力はありませんが。女神さまにその是非を問うくらいは」
「ッッち! もう、いい……ッ。しかしフラウゼル副団長。この私にこうも逆らって、今後何事もなく副団長を続けられると思わないことだな……!」
ずっと冷静に振る舞ってた枢機卿はそう強い言葉を吐くと。進行役の聖職者に向かって、俺たちを退室させるよう指示する。
彼も枢機卿に忠実なしもべのようで、俺たちにひどく冷たい視線を向けると離席を指示し、そのまま部屋の外へと案内されて。
そうして、二人して会議室を出た俺たちは……気まずく目を合わせて。
「……行きましょうか、助祭。どうか枢機卿の言葉は気にしないでください。なにがあっても、貴方に降りかかる火の粉は払って見せますからね……!」
「ッ、そんな……。副団長はどうかご自分や他の騎士たちのことを。私なんかのために余計な負担は負わないでください」
「いいんです。さっき言った『大切な部下』……あれにはリグレット助祭も入っているんですからね? それに――」
でもどうする……。副団長の言うことはもっともで、すぐに騎士団を動かすことなんてとてもできないって理解はした。それでも俺は、ただ滅びゆく故郷をそのままにすることなんて……。
そう、必死に頭を悩ませる俺に。
――副団長は、言うのだ。
「……リグレット助祭――――さきほどからなにか、悩んでいませんか? いつもの余裕がなくて、様子がおかしい…………そう、たぶん、アナトリアへの派兵という話が出た直後から」
「!」
ッ気づかれて!?
「その顔、やっぱり……! どうか話してください。私、いつも助けてくれる助祭の力になりたいと思っているんです……っ」
……どうしよう、言うか? 故郷のこと…………………………いや、ダメだ。俺一人のために他の騎士を危険にさらすなんてできない。だったら、余計なこと言っても副団長に心労を掛けるだけだ。ただでさえあの枢機卿の処理に頭使わなきゃなのに。
でも、じゃあ、俺の故郷は……ッ。このままじっとしてるしかないのか?
「……気に、されないでください。大丈夫です。ただ攻められているアナトリアを思うと少しナーバスになっただけで。彼の地を救うにも、万全な準備を整えてからの方が確実というのは分かってます」
「ただでさえ大変なのに、私のせいで余計な配慮をすみません」……と。そう告げた俺に、副団長は――
「――――……っ。………………言っては、くれないんですね。リグレット助祭……」
どこか悲しそうな、切なそうな表情で、ぎゅっと拳を握って。
……きっと副団長は優しいから、俺みたいな一介の部下にも親身になってくれるけど。これ以上、副団長に負担をかけるわけにはいかないよな……。
だから。どこか暗い表情で「行きましょうか」と言った副団長と帰路を進みながら、俺はひっそりと決意する。
みんなに迷惑をかけるわけにはいかない。故郷を見捨てることもできない。なら――
――――誰にも言わずに騎士団を抜けて、俺一人でも。アナトリアへ……!
互いが互いを想うがゆえの、曇らせの種が……!