純潔騎士団は童貞神父の色に狂う 〜拗らせ処女の巣窟で女神が純潔の戒律を撤廃したらどうなるか。反動ですんごいことになった〜   作:ジョイントリーゼント

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7話

 

 ――……辺りは、静まり返っている。

 

 月と星明かりにだけ照らされた大聖堂の敷地内は、昼間に見えるそれとはまったく表情が違う。清浄で澄んだ空気はそのままに、どこか仄暗い雰囲気が……と。

 

 でもそれは、世界を認識する俺の精神の問題かもな。なんたって今日俺は。

 

 ――すでに数年居ついたこの場所を発って、明日をも知れない戦場に向かうことになるんだから。

 

「はは……ちょっと感傷的すぎたかな」

 

 でもいいよな、最後くらい。

 

 重たい背嚢を背負いなおした俺はそう呟いて。こっそり抜け出した聖職者用の宿舎を背に、故郷へ向けて歩み始めた。

 

 

 

 ――結局あの後、大聖堂を抜けた副団長と俺は。

 

 騎士団本部へと帰って、副団長は対枢機卿のあれこれを、俺は医務室で心ここにあらずのまましばしば訪れる怪我人の治療をと。それぞれにすべきことをしていた。

 

 そして、患者の騎士たちから妙に体を触られるのを防ぎつつ、改めて故郷のことを考えて結論を出した。

 

 ――動き出すなら早い方がいい。今夜にでも聖都を出て、アキレウス王国アナトリアへと向かうべきだ、と。

 

 考えるべきことは他のも色々ある。道中までの交通手段どうするか、食料は、それに俺一人で向かったからって何ができる? ……と。

 

「でも、一応全部、ガバガバでも考えは持てたし」

 

 正直、交通手段や食料なんてどうにでもなるからなあ。給金は仕送り分を除いてほとんど使わずに貯めてたから、とりあえずなるようになるって。最悪は現地調達、自給自足でなんとでも……。師匠のしごきでそういうの慣れっこだし。

 

 あとは、具体的に俺一人でどうやって故郷を救うのかだけど、これは――

 

「――なんとか、腕の立つ冒険者なり傭兵を調達するしかないよな」

 

 そんな都合よくいくか? って話だけど。それくらいしか思いつかんし……。

 

 まあ数だけでも揃えられれば、俺の治癒魔術で不死の軍団(嘘)を。それをアナトリアにもともといる王国軍に加えたらなんとかならんかなあ。

 

 後は、俺は意外と俺自身の重要性も評価してる。教会にいるとあんまり実感できないけど、世間一般的に治癒術師ってめちゃくちゃ貴重らしいし。王国軍にも数人いれば良い方ってくらいで、その術師のレベルも教会所属のに比べたら天と地って聞く。

 

「それってつまり、俺という教会所属の治癒術師が一人いるだけでけっこう戦線に貢献出来たり……なんて、甘い見積もりかあ……」

 

 でも、とにかく。俺程度でも現地に行けば手伝えることは絶対ある。ここで指くわえて故郷滅亡を眺めてるくらいなら、たとえ一緒に滅びるとしても……。

 

 そんな覚悟とともに歩を進めることしばらく。

 

 一応誰かに気づかれないよう魔力は使わず歩いて、敷地の外へ繋がる門はもう目の前だ。城や都市自体の門と違って門衛がいるわけでもなく、ただの立派な鉄柵みたいなもんだから、内側からならそれなりに簡単に出られる。

 

 それじゃあ……もうここともお別れかな。無事に戦争を切り抜けられたとしたって、無断で脱走して俺が戻ってこられるとは思えないし。

 

 そう思ったらほんと、急に感傷的に……。

 

 厳しくも厳しかった師匠、優しくも……最後はなんか激しかった同僚の聖騎士たち。そして――本当に優しくて立派で、最後まで尊敬できる人物だった副団長。

 

 あとはまあ、めっちゃ強くて適当な、ちっちゃい師匠みたいな団長は……あんまり話したことないか。

 

 そんなバラエティ豊かで、俺の人生の半分近くを過ごした教会との決別を。

 

 いま、門扉に伸びる俺の手が決定的なものにしようとして――――――

 

 

 

「――――なに、してんの。助祭……!」

 

 

 

 ッ! こ、こんな時間に誰が!

 

 背後から掛けられた声に、俺は素早く後ろを振り返って。そして目を見開く。

 

「――君は……ルウガウルさん……!?」

 

「質問に答えてよ。こんな時間に、こんなとこで、そんな荷物背負ってさ。なにしようとしてるの、助祭――?」

 

「……ッ」

 

 暗い夜闇でも、わずかな光を拾って輝く銀髪と、冷たい青の瞳。俺を貫くその冷えた光は、誤魔化しは許さないと言ってるみたいだった。

 

 どうする? 一か八か【強化】で全力逃走? いや無理だろ、相手は獣人の聖騎士だぞ。追いつかれて捕まるに決まってる。

 

 でもじゃあ、正直に言うなんてのもそれはそれで……。

 

 え、手詰まりでは? この状況……!

 

「はぁ……。なにも言わないつもり? こんな怪しい行動しててそれって、やましいことあるって白状してるようなもんだけど。――わたしがいつも通りあんたの匂い追ってなかったら見逃してたよ」

 

 どうするどうするどうする……! ここからの最悪は、ルウガウルさん以外の聖騎士、それこそ副団長とか呼ばれちゃうことだ。そうなったらもう脱出なんて夢のまた夢!

 

 考えろ。どうすればこの危機を乗り越えられるか!

 

 こっちを睨みつけるルウガウルさんに「もう少し時間を」なんて祈りながら、かつてないほどの速度で頭を回す。こんな必死になるのはまさに……師匠との山籠り、以来だッ。

 

 そうして、まるで時間がゆっくり流れてるみたいに錯覚するほど考えて、考えて、考えて……。

 

 ――ついに、起死回生の策を思いつく。この土壇場で思いついたと思えないほど上手い、ちょっと下品なその言い訳。

 

 それすなわち――

 

「――――私はこれから……しょ、娼館に行こうと思っていたんです」

 

「……は?」

 

 ひ、ひぃい、目が怖い! 分かってるよ、女の子にこんなこと言っちゃダメだってことは! でもしょうがないだろ、この嘘が最適解なんだからッ。

 

 誰にも言わず、年頃の男が夜中に一人で。女職場に男が一人、そんな環境なら仕方がないってきっとみんな思うはずッ。……いや、もちろん娼館なんて行ったことないけどさ、怖くて。

 

 でも、これなら行動に説得力が出て、他の人に言わないでとお願いする理由にもなる。軽蔑はされるけど、それくらいのお願い最後に聞いてもらう程度の仲ではあった…………はずだと信じたい。

 

 これが俺と彼女との最後の会話になるのはアレだけど。

 

「さあ、ルウガウルさん。…………私が気持ちの悪い人間だと理解できたなら、この場は見なかったことにしてくれないですか? もちろん、もう二度と私からルウガウルさんに話しかけないことは誓い――」

 

「――は? いま、なんて言ったの?」

 

 ……み、見逃してもらえないほど怒らせちゃったやつ? 明らかにさっきより顔が怖いんだけど!

 

 ッでも、なら。みっともなくても、土下座でもなんでもして――!

 

 俺がそんなことを考えていると。

 

 ルウガウルさんは目を吊り上げて、ひくひく耳と鼻を動かし――

 

「――そんなくだらない嘘、信じると思った?」

 

 え。なんで……嘘だって。

 

「ずっと普段のあんたを見てたわたしが見破れないわけない。それに、匂いも心拍も嘘つかないし。……イヤだったのは、わたしのあんたへの信頼が低く見積もられたこと」

 

 そうして。怒った顔のルウガウルさん――――いま、俺が一番聞きたくない台詞を言った。

 

 

 

「もう腹立つし……――副団長呼ぶから」

 

 

 

 あっ。やばい、終わった……。

 

 

 

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