純潔騎士団は童貞神父の色に狂う 〜拗らせ処女の巣窟で女神が純潔の戒律を撤廃したらどうなるか。反動ですんごいことになった〜 作:ジョイントリーゼント
絶望する俺の前で、ルウガウルさんは片手を頭上に向けて掲げる。俺をじいっとジト目で見つめて。
「逃げないでよ。捕まえるの、めんどうだからさ。――【魔光】」
聖騎士になれるほどの強力な魔力がほとばしる。手に集まったかと思うと光の球になって、それで。
直後、シュボっと上空に打ち上げられて――――まるで空に咲く光の花のように、強烈な閃光が夜を照らして。真夜中の大聖堂がくっきりと浮かび上がる。
あぁ……これじゃもう……。
「はい、これだけ騒げばすぐ誰かくるでしょ。それこそあの、おせっかい焼きで生真面目すぎる副団長ならすぐ……」
ルウガウルさんは気だるそうにそう言ってすぐ、ぴくりと耳を震わせ一瞬後ろを見る。その瞬間――
「――何ごとですか! こんな真夜中に魔術なんて――――っ、リグレット、助祭……?」
息も切らさず全身に燐光をまとって現れた副団長は、足を止めるや否や俺を見て。なにかをひどい痛みを感じたように、一瞬大きく顔を歪める。
「……はっや、どんだけ助祭のこと好きなの。でも都合はいいね。ほら副団長、助祭がなんか逃げようとしてたよ。――――もうどこにも行けないよう、しっかり捕まえないと」
ルウガウルさんはどこか仄暗い視線で俺を牽制する。
くそ……そんなこと言われたら、もう抜け出せなく……! それに、副団長は……?
そう、恐る恐る副団長の表情をうかがった俺は。
「…………――は、ぇ?」
驚愕した。なぜなら、視界の先の副団長は……真夜中の闇の中に立ち尽くす副団長のその顔には…………――確かに光る、涙が。
「え……泣いてる……?」
俺あまりの驚きに、思わず言葉がこぼれた。
い、いつも大人っぽくってしっかりした副団長が……。泣き声を叫ぶ前の子どもみたいにくしゃくしゃに顔歪めて。目元に溜まってた涙も、大粒の雫になってぽろぽろ零れる。
な、なんで……?
とっさに声を掛けようとしたけど、俺がこれ以上なにか言う前に――副団長が決壊した。
「――――……っひぐ、……ぅ、うう……! なんでぇ……なんでみんな言うこときいてくれないのぉ……。っなんで、勝手にどっか行こうとするのぉ……! ――助祭だけが私のぉ……っ、癒しだったのにいぃ!!」
え。副団長、なんでそんなボロボロ泣いて……。ていうかキャラ違いすぎる、いつもと!
両手で涙止めようとしてるけど全然だめで、目元を真っ赤にはらして。まるでほんとにちっちゃい女の子が泣くみたいに……。
俺が呆然としてると。ルウガウルさんから冷たく一言。
「なに泣いてんの副団長……。ちょっと引く……」
「もぉおぉぉお……! ほらぁ! 言うこと! なんにも聞いてくれないじゃないですかっ! 助祭だけは違ったのに、ぅううう!」
「えええ? あぁ、っと……す、すみませんでした副団長……。ただこれには深いわけがあるんです……ッ。私にはどうしてもやらないといけないことが――」
「――――それもお! 私、今日きいたでしょう!? 悩みはないかって……! そしたら助祭、気にするなって言ったぁ!」
「あ……あの別れ際の……。すみません、でもあの時は言うわけにはいかなかったんです……。言えばまた副団長に余計な心労をかけることになるから」
「聞いたら言ってよぉ! 私、私…………――助祭に黙っていなくなられるのが、一番いやなんです……っ!!」
超高速でここまできた副団長は、ぜんぜん息切らしてなかったのに。いまはぜえぜえと息を荒らげながら、駄々っ子みたいに地団駄を踏む。
副団長……。そこまで俺のことを。これもう言うしかないよな。ここまで来たら言い逃れなんてできるわけないし。
だったら、もう――
「……分かりました。どうして私がいなくなろうとしたのか、全部きちんとお伝えします。ただ、その前に――」
そうして、俺は言うのだ。
「――まず、場所を変えましょう。ここにいたらじき、副団長以外の者もやってくるでしょうし……」
その言葉には。副団長もルウガウルさんも、この時ばかりは黙って従ってくれたのであった。
しっかりしている人ほど、影では鬱屈した思いを抱えてるもんです。ちなみにまだ副団長の曇らせは終わってない……!