純潔騎士団は童貞神父の色に狂う 〜拗らせ処女の巣窟で女神が純潔の戒律を撤廃したらどうなるか。反動ですんごいことになった〜   作:ジョイントリーゼント

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9話

 

 それから。

 

 俺たちは誰かに見つかる前に宿舎のとある一室――まあつまり、俺の部屋に場所を移して。

 

 俺の部屋デスクとベッドしかないもんだから、それぞれ副団長にはデスク用の椅子、ルウガウルさんにはベッドに座ってもらったけど。

 

 左右にその二人を配して、俺は床に正座。なんだこれ……。

 

「べつに助祭もわたしの横、座ったらいいじゃん。床じゃなくてさ」

 

「……いえ、私は――」

 

「――ダメです……ルウガウルさんと隣は。来るなら私の椅子に来てください」

 

「無理でしょ、それ一人用なのに」

 

「……。じゃあやっぱり、リグレット助祭は床です。べつに私も、床でいいですけど」

 

「いやいや、副団長を床に座らせるわけにはいかないです……。どうぞそのまま、椅子に座っていてください」

 

 言葉少なに口を尖らせる副団長を見て思う。

 

 泣き止んだのはいいけど、やっぱりなんか様子おかしいよなあ。さっきの、あの……痴態が恥ずかしかったのか言葉少ななのは別にして。いつもはもっと大人で、落ち着きがあって、しっかりしてて。

 

 でも、そんな俺たちの期待が、重圧が。副団長を傷つけちゃったのかな。

 

 なんて頭を悩ませてると。

 

 ルウガウルさんがこっちをじぃっと見てる。ベッドの上を手でさわさわしながら。

 

 な、なに?

 

「それでさ。はやく話しようよ。――なんでリグレット助祭が大聖堂から逃げ出そうとしてたのか」

 

「!」

 

 息を呑んだのは俺か、それとも副団長か。

 

 意味もないのに、無意識に時間を引き延ばそうとしてたみたいだ。これを言うことで二人にどう反応されるか――再犯を厳重に警戒されて、もう故郷を助けに行けなくなる、そんなことも十分考えられる。

 

 逆に、話すことで協力してもらえるかも……なんてのは浅い期待だよな。俺個人より組織を優先するのが当たり前だし。

 

 ただ、それはそれとして。

 

「……これだけ迷惑かけたら、なにも言わないわけにいかないもんな」

 

 よし。今後俺は自由に動くことだけはなんとか交渉するとして――――言おう、全部。

 

 俺はそう決意して。すぅ、と大きく息を吸って、吐いて。

 

 二人に告げた。

 

「――俺が向かおうとしていた先は、アキレウス王国にあるアナトリアという都市です」

 

「え……? リグレット助祭、どうして……?」

 

「アナトリア? どこそれ」

 

 反応がめっちゃ対照的だ。でも当然だよな、ルウガウルさんはあの話を聞いてないから。俺の独断で話しちゃっていいかは気になるけど、ここまで来てルウガウルさんにだけ話さないなんて納得するわけない。だから。

 

「今から話すことは、まだ聖騎士団に広く話していいことかどうか、私には判断がついてないので……どうか、ルウガウルさんは他言無用でお願いしますね」

 

「この反応を見るに、副団長は知ってることか。いいよ、わかったから……わたしだけのけ者なんて許さないからね」

 

「はい。では――」

 

 副団長はひどく混乱した表情だけど、ルウガウルさんとの会話にストップを入れることはしなかった。むしろ早く話してって感じだ。だから、俺は順を追って話すことにした。

 

「現在、アキレウス王国からシルヴェリア聖国に対して……対魔族戦線への救援が依頼されてるんです――」

 

 ――そうして、俺は説明した。

 

 アナトリアが将軍級を始めとした魔族によって陥落の危機にあること、ただし詳しい情報は政治的な意図で伏せられてること。だというのに、情報もない中いますぐに動けなんて。

 

 ……そんな事情を、あらかた説明し終わった頃。ルウガウルさんは、顔に怒りの表情を張り付けて言った。

 

「っなにそれ。枢機卿はわたしたちに死ねって言ってるわけ? お金とか食料とか、そんなものと引き換えに……!」

 

「それが納得できないから、副団長はその指示を断ってくれたんです」

 

 ルウガウルさんの憤りはもっともだ。確かに聖騎士団には信徒の危機に駆け付ける義務があるけど、それは金なんかと引き換えに無条件で働けってことじゃない。

 

 最初は俺もそんなひどい上層部に加担しようとしてたんだから、俺には怒る権利なんてないかもしれないけど。

 

 でも、とにかく。これで俺の意図を理解してもらうための背景は説明できた。あとは――

 

「――、それで、リグレット助祭……っ。いったいどうして貴方が、アナトリアに一人で向かうなんて、そんな危ない発想になるのですか……!?」

 

 副団長……。そうだよな、そう思うよな。

 

「確かにアナトリアに暮らす命を思えば申し訳ない気持ちはあります。けれどそれは……言ってしまえば、私たちに責任があることではないんです! 私たちの体も限られているんですから、できることには限界があります。貴方がそこまで身を捧げる必要はないんです……っ!」

 

 さっきまでの、どこか子どもめいた態度は鳴りを潜めて。ただただ俺の身を案じる、いつもの優しい副団長だ。

 

 うん、副団長の言ってることは正しい。強大な力を持つ聖騎士団といえど、当然完全無欠なわけない。できることには限りがある。

 

 だから、聖騎士団にできる範囲で力を尽くして、それでも力及ばないことは諦めるしかない…………理屈上はまったくもって正しい。正しいんだ……。

 

 ッだけど、これは理屈じゃない。ただの俺のエゴで、誰かを巻き込むことなんて望んでなくて。

 

 だから――

 

 

 

「――――アナトリアは、()が生まれた街です。だから、みんなに迷惑だけはかけませんから…………一人でだって、行かないわけにはいかないんです……ッ!」

 

 

 

 そう告げたのは。本当にただ俺の覚悟を分かってもらって、出立をどうにか許してもらいたいと、それだけの意図だったのに。

 

 俺の言葉を聞いた副団長は、一瞬で顔を真っ青にして、目を見開いて。まるで絶望に襲われた人のように、その口をわななかせて言ったのだ。

 

 

 

「……っ、ぁ、わ、私が……? ――――私が助祭をっ、……っ、死地に送りかけた………………?」

 

 

 

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