神様の祝福は不要です! ~こじらせ魔導師と異世界ガノタ少女のビーム魔法開発記録…のはずだが、周りの連中が勝手に二人をくっつけようとしてくる件~   作:小河白明夫

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第22話 逃げ出したもの

 ついに完成した光の剣の魔法によって、オークはいとも簡単に両断された。

 そしてその光景を物陰に隠れながら見ていたアナはものすごく感激し、すぐさまレクスのもとに駆け寄っていった。

 

「すごいです、レクスさん! あんなに長い術式だったのに、こんなにも簡単に使いこなしてるだなんて」

「術式の長さは、これくらいなら大して気にならん」

「じゃあ、他に何か気になるところはないですか?」

「いや、特にはないが…」

「そうですか。じぃーっ……」

 

 アナは光の剣がどのような感じのものなのかを確認するために、結構顔を近づけて光の剣を観察している。

 

「レクスさん、前に変質した光はバチバチしてるって言ってましたけど、あまりそんな感じはしないですね」

「そうだな。剣の形にしてからは、静かにうなっているような感じだ」

「なるほど……」

「それよりも、そんなに顔を近づけると危ないぞ。これに触れたらやけどごときじゃ済まんからな」

「そうですよね。あのすごい切れ味……」

 

 そしてアナはその切れ味を確認するために、腹を真っ二つに切り裂かれているオークの死体のほうに目をやった。

 

「うっ…うぷっ…」

「どうした?」

「ちょっと…これは、無理そう…です……」

 

 光の剣によって焼き切られたオークの腹の切断面がかなりグロくて、どうやらアナは耐えられなかったようである。

 

 ともかく、これにてこのクエストは完了し、光の剣の性能も試せたということで、オークの討伐証明部位を回収後、二人はさっさと町へ戻ることにした。

 

 

 だが二人が林から街道に出たところで、何かを叫びながら近づいてくる男の声が聞こえてきた。

 

「はあっ、はぁっ…。た…助けてくれーっ!」

 

 小太りな中年といった感じのその男はレクスたちのもとまでやって来ると、ずいぶんと切羽詰まった様子で必死に助けを求めてきた。

 

「き…君は冒険者ですか? お…お願いですから、あれをなんとかしてください! このままじゃワタシはあれに殺されてしまう!」

「あれって何だ?」

 

 そう尋ねたレクスの問いに中年男が答えるよりも前に、レクスはこちらへと向かってくるそのあれを目にしてしまった。

 

「オーガ…だと?」

 

 大鬼の魔物、オーガ。

 冒険者ギルドでの討伐報酬の額は金貨十枚で、オークやゴブリンロードよりもずっと高い。

 その理由はただ単純に、すごくでかくてものすごく力強いからである。

 

「アナ、逃げるぞ!」

「えっ?」

 

 レクスはアナの手を引いて走り出した……が、アナの足はあまり速くはない。

 オーガは動きの素早い魔物ではないものの、巨体である分一歩一歩の歩幅が大きく、アナの足ではそのうち追いつかれてしまう。

 そこでレクスはアナを抱きかかえて走ることにした。

 

「きゃっ! レ…レクスさん? あ…あのっ、あのっ…」

「騒ぐな、おとなしくしてろ。暴れられると走りづらい」

「は…はい……」

 

 とりあえずアナは、黙ってただレクスにしがみつくことにした。

 思いっきり顔を真っ赤にしながら。

 しかしそんなレクスとアナの真横には、レクスたちから離されないよう、汗と鼻水をだらだらと流しながら必死に走っている中年男の姿が。

 

「ま…待って、あれなんとかしてください! おいていかないでくださいよぉっ!」

「うるさい、あんなやばい奴の相手なんてしてられるか」

 

 レクスはあのオーガと戦うことを相当危険だと判断しているようだが、レクスがあまりにもあっさりとオークを倒した光景を目にしているアナには、それが少し疑問だった。

 

「あの…レクスさん」

「何だ?」

「光の剣じゃ、あのオーガは斬れないんですか?」

「いや、当てられれば余裕で斬れるはず」

 

 すると、その余裕で斬れるという言葉を耳にした中年男は、ここぞとばかりにものすごく図々しい要求をしてきた。

 

「あのぅ、余裕で斬れるんならあれなんとかしてくださいませんか? 殺さない程度にいい感じにダメージ与えて、あれを捕らえちゃってくださいよぉ。どうかよろしくお願いします、んふふふふ…」

 

 中年男は思いっきりレクスに媚びるような態度でそう求めてきたが、明らかにこの男の要求は普通ではない。

 普通はこの状況なら、誰でもあのオーガを倒してくれることを望むはずだが、この男は殺さずに捕らえろと要求してきた。

 

 そこでレクスはこの男の身なりが気になった。

 ずいぶんと高そうないい服を着ているが、どこか妙に血なまぐさいにおいを感じる。

 そして、あのオーガを捕らえてほしいという言動。

 

「闘技場の支配人か」

「そうです、そうです。ワタシ闘技場の支配人をやってまして…」

 

 闘技場。

 かつては闘技者たちに殺し合いをさせてそれを見世物としていた場所だが、人間同士に殺し合いをさせることが法で厳しく取り締まられるようになった現在では、人間同士の戦いは基本的に素手か殺傷能力の低い木製の武器のみでの戦闘となっている。

 

 だがそれでは満足せず、もっと過激な見世物を求める客のために、闘技場では生け捕りにした魔物を連れてきて、人対魔物の戦いを見世物にしているのである。

 

「つまりあのオーガは、お前が連れてこようとして逃げられたと…」

「まあ、そういうことになりますかね」

「ふざけるな」

 

 レクスは支配人を蹴り飛ばした。

 

「ぐはぁっ! ちょ…ちょっと、待ってくださ…」

「うるさい、全ててめえのせいだろうが。俺たちを巻き込むな。そこで囮になっとけ」

「そ…そんなっ!」

 

 レクスは自分が生き残るためには手段を選ばない男である。

 

「レクスさん、あれはさすがにちょっとひどいんじゃ…」

「意外と逃げ足速かったから、運が良ければ生き残れるだろ」

 

 レクスはそう言ってアナを無理やり納得させ、とっととこの場から離れようとした…が、このまま見捨てられてはなるまいという支配人は、必死にレクスを呼び止めようとした。

 

「お願いします、お金は払いますからっ! あれを捕らえてくれたら、ギルドの討伐報酬と同じ金貨十枚を…」

「馬鹿か。ただ倒すよりはるかに難易度高いのに、誰がそんな額で引き受ける」

「じゃ…じゃあ、倍の二十枚!」

「っ!」

 

 レクスの足が一瞬止まった…が、レクスは再び走り出す。

 だがそんなレクスの様子を見逃さなかった支配人は、金額次第でなんとかなると考え、さらに金額を釣り上げてきた。

 

「じゃ…じゃあ、三十枚でどうですか!」

「うっ…」

 

 レクスの足の動きが明らかに遅くなった。

 

「では三十五…いえ四十!」

「ぐっ……」

 

 レクスの足がもう少しで止まりそうである。

 

「あともう一声ということですか。だったら持ってけ泥棒、金貨五十枚でどうだっ!」

「乗った!」

 

 割に合わない仕事は絶対に受けない男、レクス。

 高額報酬の依頼には弱い。

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