呪術師ジュジュ呪術中   作:小河白明夫

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第8話 幸せの形は人それぞれ

 先日の客がまたジュジュの店へとやって来た。

 

「実はお二人に報告したいことがあって参りました」

「結婚が決まったんです」

 

 そう伝えにやって来たのは侯爵家の執事であるセバスチャンと、リーシャの家のメイドであるメルリ。

 

「わーっ、おめでとうございます。クリストファーさんとリーシャさん、うまくいったんですね」

「どうなることかと思ったけど、丸く収まってよかったね」

 

 しかしそうサラとジュジュが二人のことを祝福すると、セバスチャンとメルリは二人がそんなに祝福されるような状況ではないことを語った。

 

「いえ、お二方とも相変わらずあのままでして…」

「全然うまくいっているとは言えない状況です」

「えっ、じゃあ無理やり結婚を推し進めたってこと?」

 

 うまくいっていないのに結婚するということは、そういうことなのかとジュジュは尋ねた。

 すると…

 

「いえ、そうではありません」

「結婚するのは私たちです。ねーっ、セバスちゃん」

「はい、メルりん」

 

 まだ若いメイドと老執事という親子以上に年の離れた二人の突然の報告に、ジュジュとサラはただこう思うしかなかった。

 そっちがくっつくの?…と。

 

「あ…あの、お二人はどうしてそういう仲に…」

 

 サラにそう尋ねられて、セバスチャンとメルリの二人は照れ臭そうに語る。

 

「手のかかるお嬢様の世話を焼いているメルりんの話を聞いていたら、どうにも他人とは思えませんでしてな」

「ええ。あの大変なお坊ちゃんのお世話をしてきたセバスちゃんなら、私の苦労も分かってくれそう…って…」

 

 要するに、思いっきり面倒な主を持つ者同士、大いに共感しあったということらしい。

 

「まあ何はともあれ、おめでとうございます」

「うん、おめでとう」

「いやいや、あはははは…」

「私たちが結ばれたのもお二人のおかげです。本当にありがとうございます」

 

 そしてそんな幸せそうな二人に、ジュジュは一つあることを訪ねた。

 

「それで今日はわざわざ、その報告のためだけに来たの?」

 

 すると二人は、突然ものすごく真剣な目つきでジュジュに迫ってきた。

 

「ぜひともお嬢さんにお願いしたいことがありまして!」

「どうにかして、リーシャお嬢様とクリストファー様の仲を取り持ってほしいんです!」

「お二人が今の状態のままでは、(わたくし)たちは堂々と結婚することもままなりません!」

「どうかよろしく言お願いいたします。私たちの未来のために!」

「二人とも、うちはあくまで呪いの力を提供するお店であって、お悩み相談所じゃないって分かってる?」

 

 ジュジュの言い分はもっともである。

 だがこの件についてこの店以外に頼れる相手のいない二人は、一歩も引く気がない様子。

 

「これはまた面倒なことになったね」

「でもジュジュさん、この件の解決方法は分かりきってるんじゃないですか? クリストファーさんを痩せさせるか、リーシャさんに今のクリストファーさんを受け入れさせるかの二択ですよね」

「それが難しそうだから困ってるんだよ、サラちゃん」

 

 好感度を上げる呪いは、もともと相手が自分に対して多少なりとも魅力を感じている場合に、その魅力を増幅させる類のものなため、リーシャに嫌われている今のクリストファーにそれをかけても、おそらく効果は表れないと思われる。

 

 そして痩せさせる呪いは、クリストファー自身が今の見た目で完璧だと思っていて、そんな呪いを受け入れる気が全くないため、使おうにも使えない。

 

「正直、二人が執事とメイドの仕事辞めるほうが手っ取り早いと思う」

 

 身もふたもない解決法である。

 だがそんな解決法を聞くと、セバスチャンは突然笑い声をあげた。

 

「はっはっは…。メルりんはともかく、(わたくし)はこの年ですよ。今執事の仕事を辞めたら再就職先など見つからず、メルりんのヒモになってしまうではないですか」

 

 笑えない話だった。

 

「じゃあ、どうしようか…」

 

 結局はクリストファーを痩せさせるしかないのだが、当のクリストファーがあれではどうしようもない…と、困り果てるジュジュ。

 するとサラがとある案を思いつく。

 

「クリストファーさんに痩せる呪いを与えるんじゃなくて、リーシャさんのほうに痩せさせる呪いを与えるってのはどうですか?」

「お嬢様の手で、坊ちゃんを痩せさせるってこと?」

「そうです」

「でも自分自身じゃなくて、他人を痩せさせる呪いなんてものはさすがにないよ」

「そこはほら、なんとか無理やりにでもクリストファーさんを思いっきり運動させたりして、地道に根気よく痩せさせる…とかでいいんじゃないですか。リーシャさん、痩せてるときのクリストファーさんの見た目はかなり好みなようですし、目標があればやる気は出ると思うんですよ」

「ではぜひともお願いいたします!」

「お嬢様ならきっとやってくれます!」

「じゃ…じゃあ、それで試してみるよ」

 

 セバスチャンとメルリの圧があまりにもすごかったので、とりあえずジュジュはこのサラの案を採用することに決めた。

 

 

 

 

 そして後日、リーシャとクリストファーに店に来てもらった。

 

「おおっ、我が愛しのリーシャ嬢!」

「きゃあっ!」

 

 クリストファーは早速リーシャに抱きつこうとした…が…

 

「今飛びついたら指輪の呪いで吹っ飛んじゃいますから、クリストファーさんは少し後ろに下がっていてくださいね」

「しかし…」

「リーシャさんとは後でいくらでもいちゃいちゃ出来ますから」

「そうか、ならば今は下がろう」

 

 サラの手によってクリストファーはリーシャから離され、その間にジュジュがリーシャに呪いのことを説明。

 

「それで、今日は何のためにあたくしたちを呼んだの?」

「これを渡すためだよ」

「鞭?」

「そう、呪いのアイテム、調教師の鞭」

 

 そしてジュジュは、この鞭の使い方について語る。

 

「これは本来、ペットのしつけ用に使う呪いのアイテムなんだ。まずこの鞭を手にした状態で、ペットに好きなようにさせる」

「どういうことですの?」

「要は、部屋を荒らされたり物を壊されたりしても、怒らずに我慢して耐えるってことだね。それが呪いの力を使うための代償になる。もっとも今回の相手はペットじゃなくてあの人だから、抱きつかれたりしても我慢する…とかかな」

「あの豚に?」

「そう、豚に」

「うっ……」

 

 リーシャはものすごく嫌そうな顔をしてる。

 

「けどそれを我慢したら、いよいよ呪いの力が使える」

「どんな力なの?」

「この鞭で地面を叩きながら命令することで、相手に言うことをきかせることが出来る。有効な命令は、あくまでペットのしつけの範囲内だけどね」

「ふーん…。それで、あたくしにどんなメリットが?」

「その命令で思いっきり走らせたりしたら、一応ダイエットにはなるんじゃないかな」

「つまり豚化の呪いが解けて、あの美しい姿に戻るってこと?」

「豚化は呪いじゃないけどね」

 

 そんなジュジュの説明を聞き終えると、リーシャはすぐさまこの鞭を手に取り、そしてクリストファーから遠ざかるために着けていた指輪を外した。

 

「ク…クリストファー様、もう近づいても大丈夫…ですわよ」

「おおっ、そうかリーシャ嬢!」

 

 指輪に付与された呪いの効果で結構長い間リーシャに近づけなかったクリストファーは、すぐさまリーシャのもとに駆け寄ってリーシャを抱きしめた。

 

「うっ…うぅっ……」

 

 抱きしめられているリーシャはものすごくつらそうな顔をしている。

 だがリーシャは我慢した。

 ほおずりされようが、頭を撫でまわされようが、呪いの力を使うために今は我慢した。

 

「も…もう、無理…」

 

 そして我慢の限界に達したリーシャは、手に持っていた鞭で床を叩きながら、クリストファーに命令を下した。

 

「おすわり!」

「わんっ!」

 

 クリストファーはリーシャの体から手を放し、その場でかがんだ。

 

「わんって言ったね」

「わんって言いましたね」

 

 人間に使ったら、わんとか言うとは思ってなかったので、ジュジュもサラもちょっと驚いている。

 

「本当にこれ、命令をきかせることが出来るのね。ねえ、何か投げるもの…」

「ボールならありますよ」

 

 リーシャはサラからボールを受け取ると、早速それを店の外のほうへと放り投げて、鞭を鳴らしながら命令を下した。

 

「取ってきなさい!」

「わんっ!」

 

 クリストファーは四つん這いで店の外へと勢いよく駆けていった。

 

「確かにこれは、結構いい運動をさせられそうね。うふふふっ…」

 

 リーシャの様子がちょっとおかしい。

 

「わう、わうっ!」

 

 そしてクリストファーがボールくわえて戻ってくると、すぐさまリーシャは鞭を鳴らしながら再度クリストファーに命令。

 

「三べん回ってわんと言いなさい」

「……………わんっ!」

 

 クリストファーは命令通り、三回まわってからわんと鳴いた。

 

「いいわ、これすごくいいわ」

 

 もはやダイエットとはあまり関係のない命令を下したリーシャは、恍惚の笑みを浮かべている。

 そして命令されたクリストファーもどこか嬉しそうだ。

 

「ジュジュさん、あの二人、なんか変な趣味に目覚めちゃってませんか?」

「どっちも幸せそうだから別にいいんじゃない」

 

 この先、クリストファーが無事痩せたとしても、当分この関係は続きそうである。

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