「どけぇッッ!!」
人の波を掻き分けるようにして男は
通勤・通学ラッシュでごった返している
杜王町駅の構内を走っていた、
口はパクパクと開き
顔中から脂汗を撒き散らし、目は見開いており
明らかに尋常ではない様子だった
サラリーマンの男は、ただの会社員だった
いや、ただのではない、日々のストレス解消に
揺れる列車の中で女学生の……特に美少女が多い
斉唱四角学園生を触る、最悪な男だった
今日の朝もそれを発散した
………それだけだったのに
痴漢男「なんでッ!なんでこんな目に……ッ!」
男の足元に血が滴る、それも点々とではない
『ボタボタ』と、
男のスーツはよく見るとボロボロで
その全ては鋭利な何かで切られたように
切り刻まれていた
ブゥ…………ンッ!
ザグッ!!という嫌な音と共に
いきなり頰が切れた、悲鳴を上げながら、
なんとか逃げようともがきながら
男は段々と人気のない出口通路の方に
出てしまっていた
ブゥ…………ンッ!
ザグッ!!と今度は腿が横から裂けた、
あまりの激痛に男は顔から前に転倒した、
そして後ろを見る見えたのは、
『歩いてくる女子高生』
金髪を頭の上で結え、制服シャツのボタンを
プロポーション抜群の胸元まで開け、
スカートもギリギリで詰めた見るからに
奔放そうな斉唱四角学園生、
その顔は愉悦に歪むように笑んでいた
「おじさんさ〜、こんなところまで
逃げるなんてさ〜
おじさんとの『おにごっこ』は
新鮮でちょい楽しかったかな」
痴漢男「ひっ……ひぃぃ……ッ!」
彼女の名は吉野 陽菜、
火花が「ひなひな」と呼んでいる
2年3組の生徒、
そして今さっきこの男に痴漢されたのが
まさに彼女だった……はずなのだが
陽菜「おじさん、
ウチの触って気持ちよかったっしょ?
じゃあさ、今度はウチが気持ちよくなるターン」
陽菜はそういうと、男のぽっこりと出た腹に
両脚を広げて、跨るとネクタイの先を
掴み上げて無理やり顔を浮かせた
あまりに官能的なその姿勢も、
既に傷だらけにされた
男には恐怖でしかなかった
陽菜「ね、おじさん?『踊り』とか得意?」
痴漢男「は、え……?えっえっ?」
陽菜「その身体じゃ無理そうだね〜、じゃあさ
ウチが踊らせてあげるよ、立って」
陽菜は脚を回しながら身体の上から降りた
そして、訳もわかっていない
痴漢男が立つのを待った
その瞬間だった、男の脇腹が切れた!
体が思わず弾む!
続けて、手首、臍、鳩尾、肩口、脛、足の甲、
額、うなじ、二の腕、胸、脇の下と矢継ぎ早かつ
物凄いスピードで男は全身を切られ始めたッ!
痴漢男「いだい!!いだい!!
いだあああい!!!」
あまりの速度と痛みと恐怖に、男は痛みに悶えて
身体をくねらせた、脚も腕も大きくばたつかせた
痴漢男「ぎゃあああああああッッッ!!」
そのうち痛みに男はグリンと白目を剥き仰向けに倒れた
陽菜「あっ……はっ………ッ!」
陽菜の瞳孔が開く、ゾクリと快感が駆け巡った
陽菜「良かったよおじさん、
20才くらい若く見えたし」
そう吐き捨てて背を向けて歩き出すと、少し前に
拍手をしている紫髪のへそだしパーカーの
少女が見えた
"オンディーヌ"「いいスタンドじゃーん?」
陽菜「スタンド……?てかあんた誰?」
"オンディーヌ"「オンディーヌって呼んでー
それよりかっこいいスタンドじゃん?
うん………いいね………」
陽菜「だからなんの話……あれ?てかさ」
と、突然だった陽菜の頭に
何かがガシリと取り憑いた!
人間の脳のような頭部に宇宙飛行士の
バイザーを被り、機械で出来た触手を持つ
タコといったコズミックホラー溢れる
気味の悪いビジョンのスタンド
陽菜「あっ……!?あああっ………
ああああああああああ!!」
"オンディーヌ"「『シークレットコマンド・トゥ・ビカミング・ハッピー(幸せになれる隠しコマンド)』……そう呼んでるんだ、これ。
きみに司令を与えるよー
正直、きみなら頼んだらやってくれそうだけど
きみみたいな異常性癖者は『信頼』に欠ける」
陽菜の瞳から……『光』が消えた
"オンディーヌ"「殺して欲しい人がいるんだ、
引き受けてくれるかな?」
陽菜「──OK、じゃあ、そいつ教えて、
やったげるよ、最ッ高のウチのスタンド
『B・B・クイーンズ』でね」
陽菜が光のない瞳でゾッとするほどの
笑みを浮かべた……
〔第11話 B・B・クイーンズの群れ〕
杜王町駅の前にある複合商業施設
『アイオーンモール』
食料品、日用品特化の亀友デパートとは違い、
こちらはファッショナブルでアミューズの店が
豊富な二階建ての大型店舗であり、
学生達の憩いの場でもある
名舟「すみません咲織さん、
プライベートなのに」
名舟が2階通路を歩いて行く、
隣を歩くのはたまたま
ガチャガチャの密林にいるところを遭遇した
焔森咲織だった、そのまませっかくなので
ウィンドウショッピングをしていた
咲織「私思うのよ、
助手君はもっとメイクした方が
いいわ、絶対もっと可愛くなる」
名舟「でも僕、男で一つで育てられたから
コスメが何もわからなくて、あと校則的にも」
咲織「早乙女がいるじゃない、
彼女には教わらないの?
めちゃくちゃ詳しいと思うんだけど」
名舟「前に火花に魔改造されました、
でもあまり気に入らなくて」
咲織「あーそれなら強制はしないわ、
でも名舟、肌綺麗よね……
なんか付けたりしてる?」
名舟「特に……?
毎朝顔洗ってるくらいですかね」
咲織「『若さ』か………」
咲織は口に出しながら軽くショックを受けた
25歳といえばそろそろアラサーに
差し掛かるという現実にも胸が貫かれた
名舟「でも咲織さんも、綺麗じゃないですか
いつものスーツ姿もかっこいいですし
僕は咲織さんみたいなスタイリッシュな大人に
なりたいですよ」
咲織がもう外目からわかるほどに
機嫌を取り戻した
咲織「サーティーワンアイスいる?奢るよ?」
名舟「え………いります」
咲織「素直でよろしい、私はロッキーロードと
ポッピンシャワー、これが最高なのよ
なんていうか『ミントの爽やかさ』と
『チョコの甘さ』がハーモニーを
生み出すっていうかとにかく最高なのよ、
助手君は?」
名舟「あ、えっと、バニラとチョコで」
咲織「なんですって?
ここはサーティーワンアイスよ?
街のアイスクリーム屋さんじゃないんだから」
名舟「見知った味しか『冒険』
出来なくてですね……
他の味は知らないから……」
咲織「わかったわ、なら私がおすすめを教える
店員さんロッキーロードと
ポッピンシャワーのカップを2つお願いします」
数十分後、貰ったアイスを名舟が口に入れた
名舟「美味しい………!!
口の中がパチパチします
そしてこれはマシュマロ……!?」
咲織「そうでしょう、そうでしょう!
食べ物は冒険してなんぼよ、
こうして発見もあるし
ダメだったらその時はその時なんだから」
名舟「こないだ綾瀬先生との昼ごはん失敗して
しまいましてね、ちょっと臆病になってました」
咲織「聞かせて?」
名舟「あぁ、リゾット・ネーロを作ったら
1合に対して2合分のソースを入れてしまって……
綾瀬先生の鼻を磯臭さで曲げるところでした」
咲織が口を開けて笑った、名舟に取っては
笑い事ではなかったがなんだか楽しくなった
アイスを片付けて、名舟は施設の隅にある
ゲームセンターへ咲織を
連れて行くことにしてまた
通り過ぎる様々な店頭に目を引かれながら
練り歩いていた
咲織「ゲームか……ちょっとレースゲームを
やったことがあるなって感じかしら」
名舟「咲織さん、車好きそうですよね
いつもフィガロに乗せてくれて嬉しいです」
咲織「いい車でしょ?毎日に磨いてるし
休みの日もドライブで
必ず一度は動かしているわ」
名舟「乗り物……いいですよね、うちの高校の
風紀委員の星街先輩がホンダの……
なんでしたっけなんかかっこいい音楽の名前」
咲織「うーん………ジャズかしら?50ccの」
名舟「そんな名前です、
それ乗っててかっこいいなって
僕も移動手段になんか取ろうかな……」
咲織「4月生まれなら16歳は越してるよね
原付と小型なら免許も取れるわ、取ってみたら?
ベスパとか似合うと思うけど」
名舟「調べてみます、楽しいですね……
火花とショッピングする時とは違う
楽しさがあります
大人って憧れなんですよね」
咲織「そう言ってもらえると嬉しいわ、
私も助手君と話すの楽しい」
名舟「『翠』でいいですよ、
そう呼んでください」
咲織「本当?じゃあ、
遠慮なく翠と呼ばせてもらうわ」
2人が歩いて行く、
その後方10m後ろの人混みの中
………『吉野 陽菜』が立ち止まった
陽菜「いたわ……!楽しそうに話しちゃってまぁ
女の子を痛めつけるのは"来ない"けど
たまには味変しないと
わからないからねぇ……!」
名舟「僕、実は格闘ゲームが得意でして
昔は学校から帰ってきてから
父と対戦するのが好きで
まぁ、父に勝てたことなかったんですけどね……
でも好きになったゲームで────」
ブゥ…………ンッ!
と、いきなり名舟が頬を抑えてうずくまった……
名舟が頬から手を離すと、べったりと血がついた
『頬が切れている』
咲織が名舟に腕を回すと近くの
防火シャッターの窪みに引き込んだ!!
咲織「『スタンド攻撃』!?遠距離型ッ!
それもこんな人混みの中から撃ってきた…!?」
名舟が顔を上げる、2階通路は往来する買い物客で
ごった返していた、
老若男女が何も知らずに歩いて行く
だが、名舟は頬が切られた、それもその瞬間に
近くを通り過ぎた者はいないッ!
信じられないが、
それはつまり『通行する一般客』の
中から名舟だけを狙って
狙撃してきたということッ!
名舟「危険すぎる……ッ!一般人に
流れ弾が被弾したらどうするつもりなんだッ!」
咲織がそっと顔を出す、狙撃は来ない
狙いは律儀にも名舟 翠だけのようだった
名舟「咲織さん、先に出てください……ッ!
狙撃に気をつけて」
咲織「どうするのかしら?」
名舟「正体が不明すぎます、本当に僕だけを
狙っているかもわからない上に
狙撃手もわからない、
このままでは買い物客が巻き込まれかねません」
名舟「僕と『ヨルシカ』が引き受けます
咲織さんは狙撃手の特定をお願いできますか?」
咲織は……微かにはにかんだ
咲織「スタンドを持って
更に良い女の子になったわね翠
……私と『ハビット』に任せなさい」
咲織が、ゆっくりと顔を窪みから出すと
そのまま走り去ったッ!
狙撃された様子はない、次に翠がそっと顔を出す
キュインッ!と鈍い金属音と共に窪みの角が
切り裂かれたッ!
名舟「やはり狙いは僕か……ッ!」
名舟が転がり出る、そして……
名舟「『ヨルシカ』ッッ!!!」
ヨルシカ『はい、マスター。』
目の前に、向日葵で顔を隠した夏の少女が現れた
名舟「飛翔体を止められる!?」
ヨルシカ『マスター、進言です。
この人混みの中だと
飛翔体もろとも一般人を眠らせる
可能性があります』
名舟「そっか……それはまず……いッッ!!」
名舟の右の二の腕が切れたッ!
名舟「(どうなってる……!?狙いが正確すぎる
どうやってこの人混みの中から撃ってるッ!?
いやそもそも!
『何が』飛んできているんだッ!)」
名舟も背を向けた、ヨルシカもそれに付き従う
ノースアヴェニューの2階通路を駆け抜けて行く
そのまま急カーブと共に
サウスアヴェニューへ通じる
細い通路へと入った、両方とも往来は激しいが
出口と入り口に立ち止まっている人はいない
名舟「これでもし、攻撃された時にどちらかに
立ち止まっている人がいたらその人だ………
あッ!?」
だがッ!名舟の脇腹が切れたッッ!
流石に胴体は激痛のあまりうずくまった……ッ!
名舟が瞬時に入り口出口を見る、
そこに人はいなかった
名舟「は………ッ!?お、おかしいッ!?
本当に僕は何に攻撃されているんだッ!?」
それに回答するように、
名舟が立ち上がる前に左腿と
肩口、更に右脛が切り裂かれたッ!!
名舟が悲鳴が漏れないように口を手で抑えた
名舟「(少なくともこれは弾丸による
狙撃じゃない
例え、痛めつけるタイプのスナイパーだとしても
こんな際を何度も皮膚を掠める意味がない
恐らく飛んできているのは『刃物』
だとするともう一つ……ッ!
『どうやって』人混みの中
『僕だけを』攻撃しているのか……ッ!)」
名舟はそのままサウスアヴェニューへと抜けた
日曜日の午後のアイオーンモールは物凄いまでの
買い物客で溢れていた、
ざっと見ただけでも100人以上
この中からたった1人の『狙撃手』を探すのは
骨が折れるなんてレベルではない
名舟「それにそんな悠長なことをしていたら
いつか僕が耐え切れない、僕はもう6箇所も
切り裂かれている、
これ以上は失血で動けなくなる
可能性がある………ッ!」
と、胸ポケットのスマホが鳴った、察した翠は
耳にBluetoothをつけてハンズフリーで
電話に出た
咲織『ハビットが追跡中よ、ただ一つ情報を
周辺を見てるけど武器や飛翔体を持っている
スタンド使いはいないわ、
恐らくは何らかの操作で飛ばしているか』
名舟「遥か遠方から撃ってきているか……
引き続きよろしくお願……わっ!!」
と、急に進路を変えたせいで前から来た女学生と
軽くぶつかってしまった
「すみません!私もよそ見を、
お怪我は……あれ?」
その纏う制服は緑色のセーラー服、
名舟と同じぶどうヶ丘高校の
中等部の生徒だった、
緑銀の長い長い髪が揺れていた
名舟「……一花、こんにちは」
一花(いちか)と呼ばれた生徒がふわりと
カーテシーで挨拶した
一花「先輩……!いえ、そっ、それより!
け、怪我していますよ翠先輩!
すぐに手当てを……」
名舟「い、いや大丈夫、ちょっと転んで……
また明日学校で!!」
一花「あっ!待ってくださ………
あ……行ってしまいました……」
不思議そうな一花を背に名舟は駆けていく
名舟「いやッ!やはり近くにいるに違いない
遥か遠方だとしたら連絡通路に逃げ込んだ僕を
狙撃出来ないッ!逃げ込んだのを
目の前で見ているはず
そこに操作して叩き込んだッ!」
名舟「自動操縦型とも考えにくい、
だとしたら小さすぎる、見えないほどの飛翔体を
飛ばすスタンド……
可能性があるとしたら群体型ッ!」
だが、逃げる名舟をまたしても足の甲が革靴ごと
切り裂かれた、あまりの痛みに前のめりに
転倒したッ!転んだ瞬間に背中と内腿が
立て続けに切られるッ!
流石に耐えられなかった
名舟「うぅっ……!あぁぁぁっっっ!!!
い、いたいっっ!!痛い!!」
ヨルシカ「マスター、ご指示を、このままでは
マスターが重体になる可能性大」
名舟「わかっ……てる……ッ!
今、考えてる……ッ!」
通行人がどよめいている、血が床に滴っている
立つのももはやままならない
名舟「つ、強すぎる……ッ!
なんなん、だ、このスタンドは……ッ!
せめて、何に攻撃されているかだけでもッ!」
でもどうやって?いつ、どこから、
飛んでくるかわからないのに?
ふと顔を上げる、そこは咲織と約束していた
ゲームセンターの前、
ふと店舗の奥から聞き馴染みある
ゲーム音声が聞こえてきた
[YOU LOSE……Ah〜〜!!]
それは、かつて父と遊んでいた
格闘のアーケードゲーム
何故かこんな時に思い出した
父のプレイキャラは胴着を着たムキムキの男
自分のは片脚を上げた構えをした悪そうな女
翠は父のキャラが放つ「波動弾」に
連続で打たれてどんどん追い詰められていた
翠「ちょっと!ねぇそれ禁止!!
どうすればいいの!」
翠の父「はっはっはー!
そう言う時は攻撃を誘うんだ
相手がそうとしか出来ないようにな!」
言われた翠は考えた、そして画面端まで下がると
ガードしたまましゃがんだ、飛んでくる波動弾を
ただガードするだけの置物になった
翠の父「上手いな!!そう、そうしたら俺は
近寄るしかないんだぁー!」
そんなありし日のひと時をふと、思い出した
翠「まるで、あの時の
ハン・ジュリだな今の僕は……だったら……
あの時のように、『ガード』をするッ!
狙撃手がそうしか出来ないようにッッ!!」
そう言うと、翠は2階通路の欄干に脚をかけると
なんとそのまま吹き抜けへと身を投げたッッ!
翠「『追って』来いッ!食らわせてやる
僕の『風水エンジン』をッッ!
『ヨルシカ』ッ!僕の落下エネルギーを減衰ッ!
同時に天井に速度エネルギーの
減衰を放てッッ!!」
ヨルシカ「はい、マスター。」
名舟 翠がゆっくりと吹き抜けの
空中を落下していく
ヨルシカはその上に現れて
向日葵を上に向けていた
名舟「どんな狙撃にせよ、2階の手すりを超えて
僕を狙撃しなければならないッ!
弾丸軌道は自動的に僕を真上から襲うッ!
どうやっても向日葵に見られるッ!」
と、まさにその時だった、ヨルシカの先、
名舟の上に、6つの点が現れた、いや違うッ!
速度エネルギーが0にされて
停止させられたのだッ!
その姿は形だけならまるで熊蜂
だが、黒い体色に赤いラインが走るそれはまるで
ガラス細工のように無駄のない
流線型のフォルムを描いており、
蜂の針部分には刈り払い機のように
『回転ノコギリ』が横向きに高速回転していた
特質すべきはその小ささ、
大きさにしておよそ1cm
指の第一関節以下の微小なスタンドであったッ!
まるで『切り裂く』ことだけを表したかのような
殺意の高いスタンド、
それこそが有り余る嗜虐性と
残虐性を何よりの性的興奮とする吉野陽菜の
陽菜「………『B.B.クイーンズ』
………へぇ、止めるんだ、あれ」
バウ!バウバウ!!
陽菜「で?どうすんのさ、
いつまでも止めてられないっしょ?」
バウバウ!!バウバウバウ!!
目の前でゆっくりと落下していく、
だが6匹のB.B.クイーンズはまだ狙いを定めたまま
ヨルシカが気を抜いた瞬間、空中の名舟へと
飛翔して切り裂く準備は整っている
バウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウ
陽菜「うっさいなァッッ!黙っててよ!!!
バウバウやかましいっつーのッッ!!」
陽菜がブチギレながら振り向いた!!
そこには『スタンド』の警察犬ハビットが
ハッ、ハッとおすわりしていた
…………だが周囲の通行人は、頭に「?」を
浮かべているかのように
突然キレ出した女子高生を見つめていた
「ママーあの子どうしたの?」「何かあったのかしら……」「急に大きい声出すなんて……」
陽菜は自分の状況に気づいた
陽菜「しまっ………ッッ!!」
咲織「ハビット!ゴーー!!」
ハビットが猛りながら陽菜へと飛びかかった!!
陽菜がたまらず、6匹のB.B.クイーンズの
攻撃を中止させるとその場から離れた!!
陽菜「きゃあっ!!」
ギリギリで身体を捩ってかわすと、
柵にハビットが猛烈に激突する勢いで飛びかかる
陽菜「なんでウチがわかったし!?」
咲織「いいえ?今の今まで分かりませんでしたよ
私はただ、落ちていく翠を見ている全ての客に
吠え掛かっていただけです、ハビットはスタンド
誰でも見えるわけではありませんから」
陽菜「くっそ……」
咲織「翠?見つけました、
金髪ポニテで胸元を開いた斉唱四角学園生です
………さぁ、大人しくしなさい、
じゃなきゃボコボコにします」
陽菜「…………あはっ⭐︎
勝った気でいんなよおばさん、
まだウチの『B.B.クイーンズ』の『全景』を
見てないくせにさぁッッ!」
咲織「(全景……?何かヤバい気がするわ、
その前に押さえつけるッッ!)
ハビットッッ!ゴーーーッッ!!」
咲織がハビットを出動させた、大口をあげて
陽菜の胴体へと噛みつこうと襲いかかった
だがその瞬間、ハビットが『全身40箇所』を
一気に切り裂かれたッッ!!
咲織「う、ああああああッッ!!!?」
咲織が絶叫する、
一瞬にして全身が傷だらけになった
その場に倒れ込むように膝をついた
急いでハビットを引っ込ませようと意識を送った
だがそれよりも早く、更にハビットの全身が
ズタボロに切り裂かれた!!
咲織「あぁあっっ!!
い、あああああっっっ!!」
ハビットを何とか引っ込めるが、
あまりのダメージに咲織は立ち上がれなかった
血が滲み出てくる、裁断機に突っ込まれたような
猛烈な激痛に苛まれる、加えて嫌らしいことに
とても致命傷には感じられなかった
つまり、これは殺すための傷ではなく
咲織「(痛めつけるための傷……
最悪だわ……)」
陽菜「『6匹』じゃないんだよおばさぁんッッ!
ウチのは『蜂』のスタンドじゃあないッッ!」
陽菜の後ろに小さなスタンドが集まってくる
どんどん、どんどん、
もっともっともっともっと!
咲織「うそ…………?」
蠢くスタンド達だけで等身大の黒い人間の姿が
出来あがっていく、ズズズッとそれはゆっくりと
起き上がった、陽菜と同じくらいの背丈の
蜂のスタンドで出来た黒い人間、物凄い数だった
陽菜「総数は『300匹』ッッ!!!
『蜂』ではなく『蜂の巣』のスタンドッ!
あっはぁっっ!!それがウチの
『B.B.クイーンズ』ッッッ!!!!」
300匹のB.B.クイーンズが『解散』した
アイオーンモールの2階エリアにそれは身を隠した
もはやどこから、何匹に襲われてもおかしくない
そこに何も知らずに1階から駆けつけた
名舟 翠が走ってくるのが見えた
咲織「…………ッ!!翠!!逃げなさい!!
B.B.クイーンズはもっといるわ!!
正面からでは手に負えな………」
しかし、ついに床から上体を上げて這いつくばる
咲織本人の身体が一気に切り裂かれた
陽菜「あっは⭐︎余計なこと言わないでよねおばさん
来なよッ!名舟翠ッッ!!
もーーっとウチが切り刻んであげるッッ!!」
翠がはっきりと視認できる距離に近寄った
陽菜が出撃の司令を出すために構えた
翠がボロボロの咲織と、
笑顔を歪ませる陽菜を見る
そして、
いきなり手に持っていたアイオーンモール
備え付けの火災用消火器を向けたッッ!!
陽菜「はッ!!!?ちょっ、バカ………ッ!」
そして何と陽菜と名舟の間に通行する
買い物客達もお構いなしに噴射したッッ!!
咲織「翠!!!?」
だが………なんと、噴射された消火液は
レーザービームのように陽菜だけに
直撃したッッ!
周りの買い物客は何事もないように歩いていく
ヨルシカ「………マスターと、貴女の距離間のみ
消火液の拡散エネルギーを停止させました
放射状に広がることはありません」
直撃した陽菜は転倒するどころの騒ぎではない
消火液の泡に飲み込まれて
あまりに一面真っ白の酷い視界不良に陥っていた
流石に周りの客がその緊急事態に逃げ始めた
更に消火液の煙を感知した
天井のスプリンクラーが作動して陽菜へと
降り注いで来たッッ!
陽菜「うわッ!ちょっ……!
サイッアクッッ!!」
逃げ惑う一般客達の中、
晴れていく消火液の向こう
真っ直ぐ名舟 翠がゆっくりと歩いてくる
陽菜「マジイカれてる……ウチだってやろうと
思えば周りの客ごと切り裂いたってよかったし
ホンット、ホンットッ!マジでぶっ殺す!!
ズタボロの雑巾よりも切り刻んでやるし!!!」
陽菜「B.B.クイーンズッッ!!」
全方位から蜂の群れが襲いかかった!!!!
名舟「ヨルシカ。」
その全てが名舟の周囲で停止した
陽菜「は、うそ……なん……で」
名舟「何かを飛ばしているのか
何かをコントロールしているのかわからない
しかもそれで狙撃するという圧倒的ポテンシャル
どこから飛んでくるかもわからない精密さ
でもそれは、君の冷静さと嗜虐さが成せる技だ」
名舟「冷静さを失った君なら、
きっと全方位から切り裂きにかかると
思っていたよ、罠にかかったんだ、
君たち蜂の群れは向日葵の罠に
ここからは、僕が狩る時間だ」
陽菜「キッモッッ!!関係ないしッッ!
ウチのは300匹もいるんだ、
もういい全匹で頸動脈を掻っ切って
殺してやるッ!」
B.B.クイーンズが名舟へと猛烈に襲いかかった
そこに何かが蜂の群れの向こうから飛んで来た
飛んで来たのは持ってきていた消火器
ヨルシカの能力か減速してゆっくり飛んでくる
それは完全に目で終える速度であり、
陽菜は余裕でそれを身体を捻ってかわした
そう、ほんの一瞬、名舟から『目を離した』
ヨルシカ「こんにちは。」
ヨルシカが顔の目の前に向日葵を持っていた。
陽菜「…………ッッ!!」
名舟「そして、おやすみなさい。」
向日葵からお日様の光が陽菜へと放射された
陽菜「ぎゃっ………はっ…………っっっ!!!」
陽菜が膝をついた、瞼が落ちていく
だがここで陽菜は予想外の行動に出た
B.B.クイーンズの1匹で
自分の脇腹を切り裂かせた!
陽菜「いっ………つぅっ……ッッ!!
ウチ、被虐気質はないん、だけどぉ……ッ!」
名舟「な、何をやってるんだ君はーーーッ!?」
しかしッ!名舟は気づいた、その痛みで陽菜は
目が覚めていたッ!
名舟が焦る、このままでは反撃が来るッ!
と、思われたが陽菜は背を向けると
一目散に逃走していった………
名舟「は………?
いや、お、追わないとッッ!」
慌てて追うが、店内は落ち着きを
取り戻し始めていた上に、
そもそも何が起きたのか知らない1階に
逃げられてしまい、
陽菜は人混みの中、どんどん離されていく
名舟「このままだと、見失ってしまう……ッ!
確かに酷い目に遭わされたけど、
意識を奪わないとあの子は操られたままッ!
しかも、2年3組の校章が付いてたってことは
少なくとも火花のクラスメイトだッ!」
名舟はそう言いながら恐らく逃げた先、
1階の店と店の間の通りに曲がった
そして、絶句した
休憩椅子は真っ二つにひしゃげ、
陽菜はその上でうつ伏せに倒れ込み
瞳孔を見開いて気絶していた
まるで、上から物凄い力で叩きつけられたように
何より、その近く、それを見下ろすように
一花「………暴れていたのはこの子ですか?
翠先輩?」
一花が両手でバッグの持ち手を前に持って
緑銀の長い髪をたなびかせて立っていた
名舟「一花………!?
そう、だけど……まさか!」
一花「うふふふふっ!殺すわけないでしょう?
わたし、街のお助け屋さんをしているのです」
一花が、音もなくゆっくりと楚々と近づくと
耳元に口を近づけた
一花「『スタンド使い』だったのですね
嬉しいです……今度聞かせてください
その時は、わたしのも教えてあげますね
───先輩」
耳元から口を離すと、ふんわりと
またカーテシーでご挨拶した
一花「それではごきげんよう〜」
長い髪をわさぁっと手でくし上げる
まるでそれは目に見える深緑の風のように
あるいは外套のように翻し、そのまま去っていた
名舟「街の、お助け屋さん……君は何者なんだ
『広瀬 一花』…………」
と、名舟は思い出したかのように、
倒れている吉野陽菜を抱き起こした、
確かに意識を失っているだけで
何処かが折れていたりという様子はない
開かれた眼もしっかりと光が戻ってきていた
名舟がそっと両瞼を閉じてあげた
咲織「はぁ……はぁ……今回は酷くやられたわ」
名舟「咲織さん!大丈夫ですか……!?」
咲織「凄く痛いわ……ただもっと嫌なのが
すぐに塞がりそうなレベルの傷ってところね
めちゃくちゃ痛いだけで、殺すほどではない傷を
付けるスタンドなんて、悪趣味すぎるわこの子」
名舟「捕まえます?」
咲織「いいわ別に……こんなの立件できないし
多分操られていただけで普段から
こんなことをしているわけでは………」
名舟と咲織の目線が、気絶する陽菜の顔に落ちた
咲織「ない……はず」
名舟「…………そうですね」
吉野陽菜 スタンド:B.B.クイーンズ 再起不能
数日後に焔森咲織と名舟翠宛にお菓子の箱と
可愛い便箋に入った「ごめんなさいでした」的な
面白い文章の謝罪の手紙が送られてきた
To be continued………
[B.B.クイーンズ]
【破壊力-D/スピード-A/射程距離-C/
持続力-C/精密動作性-B/成長性-C】
尻の針部分が横向きの
回転ノコギリになっている流線型の
黒色に赤いラインの蜂、
それが人間の形になれるほどの300匹という
とんでもない数の群体系スタンド、
故に、正確に表現するのなら
『蜂の群れ』のスタンドである
目で追えないほどの超高速で飛行し、
進行方向先を切り裂く、
あまりの速さに被害者はろくな対処も取れず、
意味も分からぬまま切り刻まれる
最も嫌らしいところは致命傷になるほど
深くは切れない、つまりただ激痛に苛まれ、
全身から出血し、悶えさせられる
悪辣なスタンドである
ちなみに立ったままこれに襲われると
痛みに苦しむため、
『踊りを踊っている』かのようとは
マスターの陽菜の談
元ネタは日本の音楽グループから