綾瀬凛藍は夜に駆けていく   作:眠 いつか

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第20話 スリープ・トーク・メトロポリス

8月11日、22時(午後10時)

静かすぎる綾瀬屋敷に突然賑わいが迫ってきた

扉がバァーンと開かれたかと思うと

その人影が飛び込むようにして

ふかふかのソファに飛び込んだ

 

火花「疲れたァァ〜〜〜!!!

なんか今日すごい疲れたんだけど〜〜」

 

名舟「ヒバナ、せめて着替えてから

ソファに……」

 

綾瀬「今日は許します……無事に『花火』を

『見終われて』良かったです……本当に………」

 

『6回目』の『夏祭り』から帰ってきた

3人がソファで一息つき始めた、あまりの疲労に

何もせずにぼーっとする時間が生まれた

 

綾瀬「…………?電話が」

 

と言った直後に備え付けのアンティークな電話の

ベルが鳴り響き、名舟がすぐに立ち上がって

受話器を取った

 

名舟「はい、こちらは綾瀬の御宅です

あぁ!時折間さん!どうしました?

………え?綾瀬先生いますよ」

 

綾瀬「玄君から?私にですか?」

 

名舟「今から来て良いかとおっしゃってますが」

 

綾瀬が頷いた

 

名舟「良いそうです、はい、はい、

お待ちしてます」

 

名舟が受話器を置いた

 

 

 

〔第20話 スリープ・トーク・メトロポリス〕

 

時折間「いやぁ〜突然来てすいやせん綾瀬さん!

なんか、よくわかんねぇんですけど

何度も電話された気がしましてね、

なんかあったんじゃねぇかーっ!って

俺ァ心配で心配で!」

 

綾瀬「…………ほう?玄君、

ちなみに今日は『何回目の夜』ですか?」

 

時折間「お?なんか面白い質問しやすね

なんかの謎かけ的なあれで?」

 

綾瀬「(…………『認識』していない?

もしやあれの範囲は『神社の境内』のみ……?

本当に変わったスタンドですね……)」

 

時折間「綾瀬さん?

えーと、なんかまずいこと言っちまいました?」

 

綾瀬「あぁ、いえいえ、ふむ、

しかしもやもやしたままではいやでしょうし、

簡単に今夜あったことを説明し

て差し上げましょう」

 

綾瀬が説明を始めた、ところどころ名舟と火花も

説明に口を挟みながら何度も繰り返した夏祭りを

時折間玄はそれらを驚いたり、笑ったり、

怯えたりしながら真剣に聞いていた

 

綾瀬「───と、いうのが今夜あったことです」

 

時折間「まー、なんだ!まずはお疲れさんだな!

綾瀬さんも、翠ちゃんと火花ちゃんも

しっかし俺が認識してなかっただけで

そんなことに、俺は6回もあのつまんねー

警備員講習をしてたのか」

 

綾瀬「こら、講習は警備業法で決まっている

義務ですよ、

私の裁判所のためにもお願いします」

 

時折間「へへ、勿論ですよ……

ただ、あんの話の長さと言ったら……

そんなことより!

隣町でスウィ〜ツ買ってきやした!

三人で食べてくだすって」

 

時折間がずっと片手に持っていた箱を机に置いた

 

火花「わぁ〜〜!!これッ!

『ドーナツ・ホール』の限定ドーナツじゃん!!

ありがとう玄おぢ〜!」

 

時折間「だからおじさんじゃねぇ俺はまだ25だ」

 

火花「ヒバナから見たら、おじさんだよ?」

 

時折間「……翠ちゃん、この若さゆえの傲慢が

形取ったみてーなギャルどうにかしてくれ」

 

火花が、早速カラースプレーがまぶされた

ドーナツを口にして感激で唸っているのが見えた

 

名舟「僕にも無理です……ヒバナは太陽すぎて」

 

火花「あ!りらっち先生は何にする〜?

おすすめはね〜!このココナッツハニーソース

ココアパウダートッピングアールグレイ風味

ショコラドーナツ!」

 

綾瀬「今、呪文を唱えました?

ですがヒバナのおすすめです、

それを頂きましょう」

 

火花がそのドーナツをしっかりと

綾瀬の手に持たせるように誘導して握らせた

 

時折間「気遣いは出来んだよな」

 

名舟「えぇ、なので本当に嫌といえば

おじさん呼びもやめてくれますよ」

 

時折間「いや、そこまで悪くは思ってねぇ

ギャルから見たら、

25はおじ、さん……うっっ!」

 

名舟「あぁっ!玄さんの

心が攻撃されているッ!!」

 

綾瀬「おお、確かにこれは甘すぎず、しつこくない

美味しいですねこのココナッツハニーソース

ココアパウダートッピングアールグレイ風味

ショコラドーナツ、でしたか?」

 

火花「すごいすごい!流石りらっち先生!

一回で覚えちゃうんだ!

気に入ってくれてよかった〜!」

 

綾瀬「私は六法を全て頭に入れている判事ですよ

このくらいなら余裕です、美味しいおすすめを

ありがとうございますヒバナ」

 

火花が満足げに綾瀬の隣に座ってドーナツを

食べ始めた

それを名舟と時折間が見て顔を見合わせると

真夜中が迫る屋敷で各々のドーナツを選んで

かぶりつき始めた

 

綾瀬「……………ん?」

 

名舟「綾瀬さん?何かありましたか?」

 

綾瀬「来客です、しかし……

いや、気のせいでしょうか……?」

 

時折間「どういうこって?」

 

綾瀬「玄関前の影が踏まれたのですが

去ってしまって」

 

火花「ヒバナが行こうか?」

 

名舟「いや、僕が行こう……『ヨルシカ』」

 

名舟がスタンドを出したまま玄関に近寄った

 

火花「気をつけてすいすい、最近のすいすい

スタンドの初撃を食らう要員に

なりつつあるよ〜」

 

名舟「不名誉すぎる、気をつけるよ」

 

名舟がゆっくりと玄関の扉を開いた

夏の風が吹き抜けてくる、虫の声が反響している

竹が騒めいて歌っている………それだけだった

 

名舟「何もいませんね……?」

 

綾瀬「………おかしいですね」

 

綾瀬がイン・トゥ・ザ・ナイトが

立っているだろう場所へと振り向いた

影の紳士は微動だにしていない

もう一度目を瞑った

 

綾瀬「………周辺に反応はありません

戻ってください翠、手間をかけさせましたね」

 

その時、夜の静寂の中から、ひらりひらりと

一羽の『青い蝶』が迷い飛んできた

それは、音もなく、優雅に、妖精のように

 

………名舟の指先に止まった

 

名舟「青い蝶……………」

 

名舟が膝をついた………

 

綾瀬「翠!?」 時折間「おいなんだ!?」

火花「あぁーっ!すいすい!!!」

 

名舟が両手をつく、

そしてゆっくりと身体をうつ伏せに横たえた

火花が慌てて名舟の首筋に手を当てる

脈はある、仰向かせて胸に耳を当てる

鼓動はしている、鼻の下に指を翳す

 

名舟「すぅ………すぅ…………」

 

火花「寝てる?りらっち先生、玄おじ、

すいすい、すやすやで寝ちゃった」

 

綾瀬「寝た………?

翠のヨルシカのようなもので?」

 

時折間「ただ、翠ちゃんのヨルシカは

エネルギーを減衰させて眠らせるんだっけか?」

 

火花「うん、でもこれは……なんとゆ〜か

……『純粋』な『眠らせる』スタンド?」

 

 

「起こしてあげないでください」

 

火花が、綾瀬と時折間が、さっと顔を上げた

気付かないうちに、その人物は戸口に立っていた

 

「人は誰でも『幸せな夢』を見たい思う、

そうでしょう?」

 

少し辿々しい日本語に

長いブロンドの髪とサファイアのような瞳

まるで妖精が天使のような外国人の美少女

火花が思わず声を上げた

 

火花「シャロン………ッッ!?」

 

綾瀬「斉唱四角学園生ですか?」

 

火花「うちのドイツ人留学生だよ〜

2年4組のシャルロット・ルイスちゃん!!」

 

シャルロット「グーテ・ナフト(こんばんは)

フロイライン・ヒバーナ、みなさんお揃いです」

 

火花「ラビット・ホールッッ!!」

 

シャルロット「ちょっと待つ、今攻撃はだめ

眠らせたフロイライン・スイ危ない」

 

火花「ぐっ…………っ!」

 

綾瀬「目的は何ですシャルロット君」

 

シャルロット「私に能力与えた人の言葉

そのまま伝える、『私たちを探すのをやめる』

聞かないなら私の能力で、全員閉じ込める」

 

時折間「閉じ込める?どこにだ」

 

シャルロットがカーテシーの一例をした

その後ろに青い蝶の群れが集まってきた

三人が一斉に身構えた!!

 

シャルロット「私の『夢』の中に、

だって、人は誰でも

『幸せな夢』を見たい思うから」

 

後ろに立ち上がったスタンドは、

北欧の夏至祭(ミッドサマー)のような

金刺繍が袖口と裾にあしらわれ

腰にベルトを回した

真っ白なワンピースを纏う裸足の少女

だが、その頭部には夥しい青い蝶が群がり

頭部の輪郭がうっすらと見えるだけだった

 

美しいながらも言いようも無い気味の悪さ

生理的な不安を覚える恐ろしさ、

それがシャルロット・ルイスのスタンド

 

シャルロット「『スリープ・トーク・

メトロポリス』

みんなを幸せな夢に、案内する」

 

火花「すいすい……!すいすい起きて!」

 

シャルロット「スイは起きないよヒバーナ

ううん、起きてこない、かな」

 

綾瀬「どういうことです……?」

 

シャルロット「私のスタンド、解くの簡単

『起きたい』と思えば、『いつでも』」

 

時折間「だったら翠ちゃんが

起きたいと思えばッ!」

 

シャルロット「でも見る、『起きてこない』

それは、スイが自らの意思で『起きたくない』

そう言ってる」

 

火花「『幸せな夢』………ってやつ〜?」

 

シャルロットが頷いた

 

シャルロット「それで、フロイライン・リラ

答えは?どうする?」

 

綾瀬「(ここでこの子に言って

どう伝わるのでしょうか……この子も一味の仲間

あるいは……『聞こえている』?)」

 

綾瀬「(今まで私たちと戦った斉唱四角学園生は

皆、洗脳されていた様子、ですが今まで誰も

『どうやって洗脳されたか』は覚えていない

例えば、洗脳した相手に意思を残す能力とすれば

今この瞬間も、洗脳主には聞こえている……

 

…………嘘はつけそうにありませんね)」

 

シャルロット「『答え』は?」

 

綾瀬が頷いた、時折間と火花が

それを見てスタンドを出したッッ!

 

綾瀬「残念ですが思い通りにはなりませんよ

罪もない生徒達を操って罪を犯させる外道

聞こえているのでしょうッ!」

 

そう言われたシャルロットの光がない瞳は

今までに見たことのない『紫色』に点灯した

 

シャルロット?「対戦プレイ中にプレイヤーに

煽りかけるとか常識ねぇのかよ」

 

綾瀬「声色が変わった………ッ!」

 

時折間「まさかこの声が、洗脳主の野郎か!

いや、女かッッ!?」

 

火花「あれ………?この声………」

 

シャルロット?「ま、いっか、『答え』は

聞けたし、とりまゲーム続行ってことで

『シャロン』、ポーズを解くよ」

 

シャルロットの瞳が再び光を失った……

 

シャルロット「………………では、改めて

幸せな夢へご案内、ですッッ!!

スリープ・トーク・メトロポリスッッッ!!」

 

シャルロットが指を差し向けるッ!

頭部に群がる青い蝶の一部が

三人へと飛来してきたッッ!

その数およそ30匹ッッ!

 

火花「1匹でも『止まられたら』即アウトッ!

全部の蝶を打ち落とさないとッ!」

 

時折間「ヨーホーッッ!!いいね、

スリリングなスタンドじゃあねぇかッッ!」

 

綾瀬「翠は確保しましたッ!このまま私の前の

ソファに寝かせますッ!ヒバナッ!玄君ッ!

蝶達の対処をッッ!」

 

ラビット・ホールが拳を振るって蝶を焼き落とす

ゴー・ゴー・ゴーストシップもハズレとアタリを

出しながらも臨機応変に対処する

だが、青い蝶達はただ突進するだけでなく

回避行動を取りながら隙間を縫って飛来しており

一瞬の気も抜けなかった

 

その間に綾瀬はイン・トゥ・ザ・ナイトで

名舟翠の近くの影を腕の形にすると

すやすやと気持ちよさそうに眠っている彼女を

担ぎ上げて、

そのままソファの方まで移動させると

ふかふかのソファに横たえた

 

綾瀬が寝ている名舟の顔を優しく撫でる

そこでふと気づいた

 

綾瀬「(笑っている………?)」

 

綾瀬「君は………どんな夢を見ているのです?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

………

 

………………?

 

…………!

 

名舟「あれ………僕、は……一体どうなって……

………ん?」

 

名舟が気がついた、真っ先に自分の身体を触る

夏祭り帰りで着替える暇もなかったために

群青の着流しを纏って……いなかった

黒いベスト姿のいつものボーイッシュな服装

それを着こなして、ベッドに座っていた

 

名舟「ん………?ここは……綾瀬さんの屋敷の

僕の部屋……

 

じゃないッ!」

 

名舟が顔を上げた、薄暗いながら浮かび上がった

寝室の壁には『小さい頃に書いた父の似顔絵』

枕元には読み聞かせ用の『絵本達』

名舟は思わずめまいを覚えた

 

名舟「僕の家だッ!あの日から

一度も帰っていない名舟の家ッッ!

テレポート……

いや、なら一瞬で着替えている意味がわからない

ここは……ここは『何だ』ッ!?」

 

寝室の扉が開いた、入ってきた人影に

名舟翠は警戒し、そして………

 

絶句して口を覆った

 

「お〜う、おはよう翠、ぐっすり寝てたようだな

『赤ずきん』の絵本、思ったよりエグい話で

心配したんだ、はは……」

 

それはあの日消えたはずの、

ここにいるはずのない

 

名舟「父……さん………ッ!!」

 

名舟が父に抱きついた、両目から涙が溢れた

 

名舟の父「お、おう、どうした……」

 

名舟「この匂い、この感触……!夢でも良い!

もう夢でも良い!父さん………父さん!!

会いたかった……ッッ!!」

 

名舟の父「おいおいどうした?なんだ翠?

まるで俺が死んじまったみたいに

なんか、『怖い夢』でも見たのか?」

 

名舟「うん……すごく、凄く怖い夢を見たんだ

でも、もう、大丈夫……」

 

名舟の父は困惑した顔で名舟翠の頭を撫でた

 

名舟の父「まぁいいさ、泣き終わったら

下に行くぞ、母さんが晩御飯を作ってるからな

起こしに来たんだ」

 

名舟「母さん………!?会えるの……!?」

 

名舟の父「何言ってんだ?そりゃ会えるさ

生きてるんだからな、はは!」

 

名舟翠が立ち上がった、その顔は幸せの笑顔だ

父に続いて寝室を出て行った

 

『マスター!マスター起きてくださいッ!

これは夢ですッ!夢の中ですッ!

攻撃されていますッ!マスター!

マスターーーッッ!』

 

つんざくような、誰かの悲鳴と共に。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

綾瀬「………反応が全く無い、これは本当に

シャルロット君の言う通り翠本人が

起きることを拒んでいるようですね……

玄君ッ!火花ッ!一刻も早く

その子を取り押さえてくださいッッ!」

 

時折間「言われなくてもわかってまさぁッ!

だけどよ……『蝶』が多すぎるッッ!

俺のゴー・ゴー・ゴーストシップ

じゃあ……ッ!」

 

シャルロット「防ぎ切れるわけない、私の勝ち」

 

ゴー・ゴー・ゴーストシップの海賊帽の

影に隠れていた青い蝶が優しく

時折間の鼻に降り立った

 

時折間「しまっ………ッ!!」

 

時折間が膝をついた

 

時折間「(マジかよ……ッ!『物陰に隠れる』

『攻撃をかわす』、この蝶の群れ、1匹1匹が

独自で反応してやがる……

つ、強すぎ……る……)」

 

時折間がうつ伏せに崩れ落ちた

 

火花「玄おぢッッ!ラビット・ホールッッ!

撃ち落としてッ!全部撃ち落としてッッ!」

 

ラビット・ホールが必死に応戦し続けている

飛来してくる蝶たちを片端から殴り落としている

だが、それも全くキリがない

 

火花「全滅しないッ!全く減らないッッ!

どういうこと〜?

もう30匹は燃やしたはずだよ〜?」

 

シャルロット「『蝶』はあくまでカタチだよ

ヒバーナ」

 

顔が見えかけていた

スリープ・トーク・メトロポリスの顔面から

………『無数の蝶』が『咲いた』

 

火花「……………ぁ」

 

それを見た瞬間、火花の心が折れた

 

名舟翠も時折間玄も眠ってしまった

綾瀬凛藍の影の探知は蝶が小さすぎて

抑えられない、しかし自分が撃ち落とし切れば

勝てると確信していた

だが今、蝶は無限だと言うことを見せつけられた

 

勝てない、こんなの勝ち目がない

そう、声に出かけた火花の指先に

 

『青い蝶』が止まっていた

 

火花「か…………は………ッッ!!」

 

火花が膝をついた、咄嗟にラビット・ホールで

自分を殴らせようとしたが間に合わない

敬愛する綾瀬が必死に呼びかける声がする

意識が遠のいていく、瞼が落ちてくる

せめて最後に顔を挙げる

 

親友シャルロット・ルイスの辛そうな顔が見えた

 

 

シャルロット「これで、あとはフロイラインだけ

もう一度訊く、『もう追わない』?」

 

綾瀬「…………断ります、貴女達……

こんなことをして、この私から……

『この街の正義』から逃げられはしませんよ」

 

綾瀬の顔に無数の蝶が群がったッッ!

 

シャルロット「残念、じゃあ、貴女も眠る

幸せな夢が、『聴ける』といい」

 

蝶がさぁっと離れていく、ソファに座ったまま

綾瀬は頭をもたげて眠っていた………

 

名舟翠、時折間玄、早乙女火花も揃って

眠りに落ちた……

 

シャルロット「私の、勝ち………」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時折間の耳に、蝉の声が聞こえた

 

時折間「あん?ここは……裁判所?」

 

時折間が自分の服装を見た、

杜王地方裁判所の警備員の制服を着ていた

 

時折間「あれ……俺いつの間に仕事場に……

夏ではあるか……

だが一気に時間が飛んだような……」

 

「ゲンくん」

 

時折間が顔を上げた、目の前にいたのは

彷徨うスタンド:シンデレラ・グレイに

そっくりな白いワンピースの女の子

太陽のように笑っていた

 

その姿を見た瞬間、時折間の両目から涙が

とめどなくとめどなく決壊した

全て思い出した、全て理解した

シンデレラ・グレイ?この子はそんな名ではない

 

時折間「はぁっ、はぁっ……あぁ、あぁぁぁっ!

零(レイ)!!!!!」

 

レイ「うん、レイだよ、わたしの王子様

なんちゃって、この呼び方も懐かしいかな?」

 

時折間が硬く力一杯にレイを抱きしめたッ!

 

レイ「わ、痛いよ?どうしたの?」

 

時折間「ごめん!!ごめん!!!

守れなくてごめん!!止められなくてごめん!!

俺が守ると決めたのに!

約束守れなかった……ッ!」

 

レイ「ど、どうしたの?

本当にどうしちゃったの?

わたし、ここにいるよ?生きてるよ

もう、仕事ぶりを見に来ただけだよ?」

 

レイ「それとも、ふふ……

なんか、『怖い夢』でも見ちゃったのかな?」

 

時折間は何も答えられなかった、涙が止まらない

頭が痛くなるほど泣き喚いた

レイは心底困惑していたがやがて優しく

白い両手で抱きすくめた

 

レイ「よくわからないけど、うん、うん……

 

わたしは、ここにいるよ、だって

 

 

 

きみはともだち」

 

 

 

時折間「う、あ、ぁぁああ………ッッッ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

シャルロットが、時折間の頭から手を離した

眠っている時折間の目からは床が濡れるほどの

大粒の涙を流し続けていた

 

シャルロット「フォントネルっていう

フランスの著述家は言った

『幸福を求めすぎることは、幸福の障害となる』

人は誰でも、幸せな夢を見たい思う

でも幸せすぎると、

今度はそれが壊れることを恐れてしまう」

 

シャルロット「私のスタンドは

『幸福の絶頂』を見せる、一度絶頂を見たら

二度と辛い現実には起きられない」

 

シャルロットが見渡した、

笑っている寝顔の名舟翠

泣き続けている寝顔の時折間玄

穏やかな寝顔の綾瀬凛藍

だが早乙女火花の顔はうつ伏せのせいで見えない

シャルロットが側にひざまづくと

静かに膝の上に身体を返して寝かしてあげた

 

シャルロット「ヒバーナ、あなたはどう?

どんな顔をして……どんな夢を………

 

 

ん…………?」

 

シャルロットは早乙女火花の寝顔を見て戸惑った

うなされていた、歯を噛み締め、

目をぎゅっと瞑り

まるで激痛に耐えるかのように苦しんでいた

 

予想だにしていない顔だった、自分のスタンドで

苦しんでいるのは初めて見る反応だった

思わず、後ろに佇んでいる自分のスタンドを見た

見られたスリープ・トーク・メトロポリスも

蝶が群がった顔を不思議そうにゆっくりと傾げた

 

シャルロット「どういうこと……?

わたしのスリープ・トーク・メトロポリスは

苦痛を与えるスタンドじゃ……

だって、あなたならきっと……前に話していた

2年1組の『コノミ』の夢じゃないの?

夢の中では仲良くありたい夢じゃないの?」

 

火花「うーん………ううーーん……っっ!」

 

シャルロット「……わたしがこんなこと言うのは

すごく、おかしいだけど

………どんな夢を見てるのヒバーナ………?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

早乙女火花は、深い闇の中に落ちていく

恐ろしい感覚を味わって行った

ふわふわとした浮遊感と

何も見えない暗闇感、やがてまるでいきなり

スポットライトを当てられたかのように

突然視界が晴れた

 

火花「まぶし………っ」

 

コトッ……

 

目の前にいくつかの唐揚げとサラダが

盛り付けられた皿が置かれた

 

火花「ん?」

 

コトッ……

 

次に目の前にこぼさないように慎重に

味噌汁のお椀が置かれた

 

火花が思わず顔を上げた、そして絶句した

 

火花「ママ………ッ!?」

 

火花の母「そうよ?何を驚いているの?

あ、ご飯はどのくらい食べるヒバナちゃん?」

 

声が出なかった、返答できなかった

喉から声が出ることを拒否されているように

何も言えなかった

 

火花の母「どうしたの?あ、じゃあとりあえず

少なく盛るからおかわりもあるわよ

これ、ヒバナちゃんのお箸ね

ドレッシングも多めに買っちゃったのよ〜!」

 

火花「うっ…………ぷっ………ぇ………」

 

火花が口を手で押さえて前のめった

 

火花の母「どうしたの!?ヒバナちゃん!?

ぐ、具合悪いなら言ってくれれば………」

 

 

そして、

 

早乙女火花が目の前に綺麗に並べられた

食事を力任せに全部食卓からはたき落としたッ!

ガシャンッ!パリィンッ!ボトッ!と

あらゆるものが落ちる音がした

 

火花の母「ど、どうしたの?ヒバナちゃん?

なんでこんなこと………ッ!」

 

火花「な、んで、こんなこと〜………?

なんで、なんで………?

 

 

 

ッ!!!」

 

火花「ふざけんな!!ふざけんなよ!!!

こんな食事出して何のつもりッッ!

一度だって、一度だって………ヒバナに……

『私』にご飯なんて作ってくれない癖に!!」

 

火花「どういうつもり?いまさら、許してって?

悔い改めたからって?まともに私のこと

育ててもいないじゃないッッ!!

許せるわけないでしょママッッ!!!

 

一度だって、私の味方してくれないじゃん!

ヒバナは悪くないよなんて

一度も……一度も……」

 

だが、火花の母は食卓からはたき落とされた

唐揚げをひざまづいて拾っていた

その背中がとても小さく見えた

 

火花「何してんのママ……」

 

火花の母「ご、ごめんね、ごめんねヒバナちゃん

ママ……何にそんな怒ってるかわからないの

悪いママでごめんね」

 

火花「やめてよ」

 

火花の母「こ、この落ちたのはママが

食べるからね、ヒバナちゃんは、ほらママの方を

あげるからね、だから許して、ね?」

 

火花「やめてよ……本当にやめて………」

 

火花の母「お料理うまく行かなかったかも

知れないけど、食べてほしい、なって……

思っただけで………」

 

火花「やめてよぉ………ッ!やめて………!

こんな『幸せな夢』いらない………」

 

火花が床に這いつくばる、母にひざまづいた

 

火花「ごめんなさい、ごめんなさい!

ついカッとなって、食べます、食べますから

そんなことしないで………お願い……!」

 

火花がそういうと、母は優しく火花を抱きしめた

夢ということはわかっている

わかっているのに、初めての母の温もりに

火花は、頭がおかしくなりそうだった

そしてふと目に入ったのは写真立ての中にいる

『早乙女火花』と『同年代の女の子』の写真

 

火花「ハオ………ッ!?

この夢の中では、この夢の中ではハオは……!」

 

火花の頭の中で、何かが割れる音がした

 

火花「助けて……

 

助けて……りらっち先生……!

 

あぁ、あぁ………こんなの耐えられない……

私には幸せすぎる………!」

 

火花が、母を抱きしめ返した

 

火花「ご飯、作ってくれてありがとうママ……

 

ずっと

 

ずっと

 

 

私、此処にいたいよ………」

 

早乙女火花は、そういうと母の胸に顔を埋めた

 

To be continued………

 

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