夜明けの黄金城   作:桃羽玉箱

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5話 初パーティ

 

 チュートリアルを終え、鞄を手に入れた今の俺は、もう立派な黄金城プレイヤーの一人。

 これからは魔力無し縛りなんて捨てて、もっと真面目にもっとゲームを楽しむのだ。

 その為の準備を終えた以上、これ以外にはありえない。

 

 『黄金城』の楽しみ方は幅広いが、やはりメインとも言えるのはクエストとそれによる戦闘や迷宮探索であろう。俺もそれをやるつもりだ。

 本当はゲーム世界の根幹に関わる所謂メインストーリー、メインクエストの類をやりたいのだが、残念なことにそれはできないらしい。

 メインシナリオの進行は定期開催の全サーバー同時開催の大規模イベントでしか行われず、それまでは現状の環境が維持される仕様。他ゲーで言うランクマッチとかのシーズンの切り替わりタイミングでしかシナリオが進行しないようなものだ。

 

 そして、残念なことに今はその期間外。

 

 前回のメインシナリオ『はじまりの襲撃』はサービス開始から三週間、今からは半年くらい前の出来事なので、次開催はまあそう遠くはないと信じよう。報酬もかなり豪華らしいから、それまでは臥薪嘗胆。

 

 メインが駄目なら、サブをやればいいじゃない。

 ということで、やって来ましたは始まりの町である『オリゴ』の中心地に存在する『冒険者組合』である。

 

 うん、冒険者組合。そう、冒険者組合である。

 異世界ファンタジーに、冒険者は付き物だよねってことで、この『黄金城』にも当然のようにそれは立っていた。

 感動に胸を膨らませながら、いざ入店。

 ガラリ、と年季の入った扉を開いて中に入ってみると──

 

「おお……!」

 

 半裸のゴリマッチョ、エロい格好のお姉さん。魔法使いっぽいおじさんや女の子に、鎧着て盾と剣を持つ戦士っぽい人。

 良いね良いじゃん良いじゃんけ。

 こう言うので良いんだよ。

 

 どうやら、入ってすぐのところは依頼の受注をできる受付と隣接するように食堂みたくなっているらしく、食事している人、机に座ってパーティの仲間と談笑している人、パーティを募集している人など、たくさんの目的の人たちが集まっているようだ。

 

 これ、あれだ。既視感がある。

 アニメとかでモヒカンの男が出て来て『おいおい新人か? そんなヒョロい体でよぉ!』とか言ってくるタイプの場所だ。テンプレ背景が過ぎるだろ。実際に目にすると、ちょっと感動すら覚える。

 

 

「何受けた?」「森狼討伐」「またかよ」「楽で良いじゃん」

「パーティ募集中でーす。森林迷宮行きまーす」「あ、報酬どんな感じですか?」「あー、等分で考えてます。斥候だけ少ないとか無しで」「お、自分斥候得意なんですけど良い?」「頼んます!」

「あれ、猫探し前もなかった?」「それ常設だよ」「猫脱走しすぎで草」

「あのー、誰か金キノコの生えてるとこ知ってる人居ませんか」「俺知ってるよ。君かわいいね」

「倉庫防衛キツくね?」「PVPの練習クエだからね。AIも結構良いの入ってるらしいよ」

 

 

 みんなごちゃごちゃと話しているようだが……現実に、新人狩りをするようなチンピラは居ないらしい。そりゃそうか。そんな治安悪くないな。それに、来られても弱い俺が対応できないだろうし。

 安心したような、ちょっと残念なような……気持ちになりながらも、俺は受付へと足を進める。そこにはNPCらしき綺麗なお姉さんが制服を着込んで座っていた。

 

「ご用は何でしょうか?」

 

 言葉と同時に、俺の目の前にメニューに似た表示が展開された。

 

『クエスト』『登録』『会話』

 

 メニューは表示されるものの適切な会話を行えばメニュー操作をせずとも話の内容は進行するらしいのと、会話コマンドからは特定の会話を挟むことでさらに特殊なコマンドに入れるらしいが……それも気にはなるが、今はそれ以上に早くクエストを受けてみたい。

 さっさとメニュー操作で話を進めよう。

 

「クエスト……じゃなくて、最初は登録からだっけ」

 

 『登録』コマンドを選択。

 

「冒険者登録ですね。それでは、こちらの板に掌を乗せてください」

 

 指示の通りに、差し出された大きなプリンターみたいな装置に手を置くと、ピカッと一瞬だけ光が放たれた。直後に装置から一枚のカードが排出されると、彼女はそれを手に取って軽く読み取る仕草の後に、俺へと手渡した。

 

「そちらが冒険者証となりますので、大事に保管してください」

 

ーーーーーーーーーー

名前:リン

性別:男

階級:1

自由記入欄:

ーーーーーーーーーー

 

 俺も軽く目を通し、

 

「わかりました。あと、クエスト受けていいですか?」

「了解しました。それではお選びください」

 

 すると、眼前に再びさっきの物と似たメニューが表示される。そこには最下級である俺でも受注が可能なだけが並んでいるらしく、名前からしても簡単そうなのばかり並んでいた。

 

 『猫探し』『薬草探し』『森狼討伐』『森猿討伐』『建築の手伝い』『農業の手伝い』………………。 

 

 せっかくだから討伐系を選ぼう。そうすると『森狼討伐』または『森猿討伐』のどちらかか。

 森狼は俺から腕を奪ったあいつ。

 森猿はまだ見たことないが、講習で習ったことがある。1メートルくらいの体格に高い握力で……チンパンジーみたいな魔物。

 どっちでも良いけど、どうせならリベンジも兼ねて、今度こそ正面から狼に勝利したい。

 

 俺は『森狼討伐』を選択した。

 

ーーーーーーーーーー

名称:森狼討伐

難度:1

地域:オリゴ町から西方の森林

内容:森林に居る『森狼』を5体討伐すること。

   討伐証明として標的の生首を該当数提出すること。

報酬:5000セン。

備考:6体以上討伐しても報酬の追加は無し。

ーーーーーーーーー

 

 例の如く、これを受けるかどうかと『承認』『拒否』の選択肢が表示された。

 難易度は最低の1。

 地域もこの町から少し歩いたところ。

 討伐証明が生首というのに衝撃を受けながらも、そんなのもドロップ品にあるのかと運営の趣味の悪さを感じる。猟奇的過ぎないか。なんか他になかったのか。

 報酬は5000セン。この世界の金銭の単位は『セン』で、一応設定的には本位貨幣らしい。でも、運営もそこまで細かく作るのは難しかったのかシステム的にその辺は数字(データ)としてしか変動しないことになっていた。システム操作すれば実体化させることも可能だが、持ち運びに不便だし、利用するときはデータに戻さないといけないので、する理由もないだろう。

 

 全部に目を通して、特に気になることはなかった俺は『承認』を選択する。

 

「森狼の討伐ですね。動きが素早く群れることも多い魔物です。攻撃魔法は使えませんが、爪と牙は鋭いです。十分に気をつけてください。頑張ってくださいね!」

 

 お姉さんが笑顔でそう言った。

 事務的だけど、綺麗なその笑みはとてもじゃないが人工知能による動作とは思えないほどに自然だった。こう言った小さな部分からも、本当にこの世界がゲームだとは信じられなくされる。

 

 それに、こういうちょっとした激励の言葉があると臨場感が増すし、綺麗な(ひと)に言われると嬉しくなる。

 少し迷ってから、必要はないだろうが俺は小さくお辞儀して受付を離れた。心なしか、彼女も嬉しそうに見えた。

 

「ぁ、あの……!」

 

 さて、講習によって手に入れた魔法の力。実践の時は来たのだ!

 

「あっ、あ、あ、あのっ!」

 

 振り向くと、そこには初期装備に身を包んだ少女が居た。

 白髪だが、顔つきは日本人。俺と同じく、アバターの外見をほぼ弄っていないタイプの人だと思われた。

 ちなみに、ほぼ弄らない派は案外少ないらしくて、みんな髪色に鼻や目元など悪影響のほぼ出ない部分当然として、身長も1から3センチくらいは上底感覚で、女性は胸尻も数センチは結構弄っているらしい。どおりで町に居る人たちからは日本人感と共にファンタジー味もある訳だ。でも、そうするとやっぱり動きに支障はでるらしいので、俺はやらない方がいいと思うんだけど。

 

 それはともかく、この子……誰?

 『あのあの』 と緊張した顔で鳴いているようだが、彼女の近くに友人と思わしき人姿は見当たらず、視線は俺へと向けられている。つまり、おそらくは俺に話しかけられていると思われるのだが、こんな顔の子を俺はご存知ないのである。

 

「……俺に話しかけてる?」

「は、はい! その、いきなり、すいません。さっき、受け付けで『森狼討伐』を受けて、いらしました、よね?」

「そうだけど。もしかして、自分も同じの受けてるから邪魔すんなよって?」

 

 リソースの奪い合い。

 このゲームでも起こりうるらしくて、攻略の前線では大手の同盟(プレイヤーたちが結成し、所属し、運営する大規模な集団)同士での小競り合いが多く、PKを含んだPVPも稀ながら発生しているらしい。黄金城においてPKは強く嫌悪されているのだが、それでも起きているのだから資源の奪い合いとは恐ろしい欲望の戦争である。

 

 もっとも、俺と彼女みたいな初期装備同士がやり合っても、しょうもないだけだし、あまりやる気が起きないんだが……襲われたら俺も抵抗しない訳にはいかないんだよなぁ。

 

 そんな俺の考えは間違っていたらしく、彼女は必死そうに首を振って否定の意を露わにする。

 

「い、いえいえっ、とんでもない! その、わたし、さっき戦ってきて……死んではないんですけど、ま、負けちゃって、逃げてきて。その、よっ、よかったら、一緒にやってくれませんか? あなたも、独りのようですし……」

 

 どうやら人見知りちゃんらしい。

 声は段々と尻すぼみしており、最初は頑張って俺の目を見て話していたが最後には胸の辺りへと移っていた。手はお腹の辺りで結ばれ、足は小さく震えている。

 

 よくもまあ、こんな子が他人(おれ)に話しかけられたもんだ。そう思った直後に、頑張ったからこそか、と思い直す。

 彼女を見ていると俺は、懐かしい、そう思った。

 俺も初めてオンラインゲームをやった時は、他のプレイヤーに話しかけるのに緊張したものだ。個別チャットのつもりが間違えて全体チャットに流し『なにこれ?』と知らない人に反応されてしまった時の羞恥は今でも忘れられない。

 チャットの誤字、通話での音量ミス、ルームの間違い。思い出すだけでも幾つもの嫌な歴史が脳裏に流れる。

 

 この子も、きっとそうなのだろう。オンライン初心者なのだ。

 それどころか、フルダイブという現実的な環境で俺という異性に話をかけたのだ。もっと褒め称えるべきかもしれない。

 しかし……ふむ。

 顔……可愛いな。

 

 年は16前後? 少女と女の中間地点。

 気弱そうな丸く垂れた瞳は不安に揺れていて、背の中程まで伸びた黒髪はジメっと垂れている。しかし、そんな酷い表情でも顔の造形は整っているのがわかる。

 初期装備だからこそのシンプルな格好で、だからこその本人のポテンシャルだけが輝いて見えた。手足は長く、健康的な肉付きに、綺麗なお胸。

 

 あれ。美少女じゃないか、この子。

 顔も雰囲気も暗く、話し方まで酷い物だったから最初は気づかなかったが、よく見ると可愛い。あと良い匂いもする。

 

「……あ、やっぱり、その遠慮しておきます」

 

 不味い。俺の沈黙が長すぎて、彼女が諦めてしまう!

 

「待って!」

「……っ」

「せっかくだし、一緒に行こうよ」

 

 答えると、彼女は嬉しそうに何度も頷いた。そこには喜びだけではなく、安堵も混じって見えた。

 

「っは、はい!」

 

 下心はある。否定はしないさ。

 でも、男だから。特に、俺みたいな童貞は可愛い女の子が話しかけて来たら、ワンチャンあるかも……! という期待を持ってしまう悲しき生き物なのだ。

 言い訳としては……こういう初心な子は悪い奴に捕まって裸の写真とかを要求されるかもしれない。俺はそれから守ったのだ。

 あとは……あー、単純に、下心無しに考えてみたけど、初めての討伐クエストだし独りよりは初心者でも二人の方が安全か。態々拒絶する理由もないし。

 何せ、俺は近接戦闘のセンスが皆無。

 もしも囲まれたりしたら、逃げることもできずに蹂躙される可能性が高い。他に一人でも居るだけで敵が向けるターゲットは増えるし、奇襲にも気付きやすい。そう考えると、渡りに船って奴か。お互いに泥舟(どろぶね)なのは問題だが、そこは支え合っていきたい。

 

「俺は『リン』君は?」

「わ、私は『スイハ』と申します!」

「スイハさんね。パーティは組むってことでいいか?」

「はっはい!」

 

 メニューを展開し、初めてのパーティ申請の操作に少し手間取りながらも何とか成功。目の前のプレイヤーであるスイハを選択し、申請を送った。すると、彼女は左手を慌ただしく動かし始めた。俺の目には彼女のメニューが見えないが、それを操作しているのがすぐにわかった。

 

 多分、承認を選択するだけで良いと思うんだけど、彼女は何をあんなにごちゃごちゃ動かしているのだろうか。

 

 それから少しして、左上に表示されている俺の体力と魔力ゲージの下にスイハの名前が表示が現れた。

 どうやらパーティ結成はうまくやれたらしい。

 

「改めて……俺はリン。まだ始めたてでこれが初めてのクエストだけど、一回だけ森狼は倒したことはあるから、少しは役立てると思う。よろしく」

「す、スイハです。その、戦闘は初めてですので足を引っ張ってしまうかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」 

 

 こうして、俺はスイハという少女と共に森へと進み始めた。

 

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