夜明けの黄金城   作:桃羽玉箱

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サブタイが限界過ぎるので消滅します。良い案が浮かんだら随時……きっと、生えてくると信じましょう。


7話

 

 時間の流れは早い物で、俺がスイハと出会ってから早くも二週間が経過した。

 その間、俺は毎日ログインしていたのだが、驚いたことに彼女もほぼ毎日『黄金城』に来ており、休んだのは三日だけであった。

 いつも夕方から夜にかけて彼女はログインしているようで、俺の活動時間とも重なる部分が多く、俺と彼女はほぼ毎日のように顔を合わせては冒険をして、段々と打ち解けることに成功していた。

 

 当然、その間は色々とあった。

 

 

 * * * 

 

 

「あれ……っ」

「ぁ……」

「あ、その……スイハ……さん、だよね?」

「っひゃ、はい……り、リンさん……」

「昨日ぶ……だね。今日も、その、クエスト受けるの?」

「は、はい……」

「……」

「…………」

「……」

「そ、その、よ、よかったら……一緒に、やりませんか……?」

 

 素面でスイハと再開してしまって、なんとなく気まずかった翌日のこと。

 

 ***

 

「ぁ、き、奇遇ですね?!」

「お、おう……おはよう」

「おひゃようございますっ……その、よ、よかったら、今日も一緒に、いきませんか……?」

「あー……わかった。一緒に行こうか」

 

 翌々日、俺がクエストに出て行くのを組合から外、終わって組合に戻るまでの間ずっと後ろから着いて来ていたかと思えば、組合で次のクエストを探している俺に、明らかに怪しい様子で不自然に話かけて来たり。

 無言でずっと着いてくるから何されるのが怖かった思い出。

 

 ***

 

「あ、待たせちゃったか。ごめん」

「い、いえいえ! 黄金城も朝日が昇るんだって、楽しめましたので!」

「……朝日昇るのって今から一時間くらい前じゃない?」

 

 初めて待ち合わせをした思い出。

 

 ***

 

「ウキィ!」「ウキキ!」「ウギギィ!」「ウキッ!」

「「「「「「「「「「ウキ────────!」」」」」」」」」」

「死ぬううぅぅううーーー!!!」

「いやぁーーー!!!」

 

 数えきれないほどの猿の大群から逃げ回った思い出。

 

 ***

 

「ごめん……マジで、もう……無理そう…………」

「あ、あと少しで教会ですからっ、もうちょっと、もうちょっとだけ、頑張ってください!」

 

 攻撃を庇って死にかけ、ギリギリで回復が間に合った思い出。

 

***

 

「これ、食えるかな」

「どうみても毒キノコですよ……?」

 

 毒で気絶し、回復と解毒魔法を使えるNPCが居る教会まで引きずられた思い出。

 

 ***

 

「折れたぁ?!」

「整備しないからですよ!」

「だって初期装備だから買い替えた方が良いかなってぇ!」

「でも今死にかけてるじゃないですかぁ!」

 

 俺の初期装備の剣がご臨終し、そのまま片腕を捥がれた思い出。

 

 ***

 

「次、あっちのパフェ食べませんか?! 私、一度パフェ食べてみたかったんです!」

「おっけー。そういや、俺もパフェ最後に食べたのいつだっけな」

 

 初めて女の子とデートっぽいことができて、すごい嬉しかった思い出。

 

 ***

 

 などなど、と…………色々とあった。

 

 その間、俺はクエストを受けつつ、装備や講習の更なる受講、ネットでの情報集を行なって、前の立ち回り不安定な初期装備ではなく、それなりに確固たる戦法と装備が出来上がって来た。

 スイハとの模擬戦を何度か行なった結果として、やはりと言うべきか俺に接近戦の才能は微塵もないことが判明。フルダイブという環境だからこそ表面化したプレイヤー(俺自身)のスキルの限界。故に、俺は近接戦闘を諦め、魔法方面に力を入れていたのだ。

 

 

 まず、武器。

 剣を短剣へと変更しメインから降格、接近された時の護身用へ。

 杖を中級光魔法の杖に買い替えてメインへ昇格、サブとして下級の火と水が使える物を買って二本体制へ。

 

 次に防具。

 こちらは全体的に少しだけ質の良い物へと変わったが、ほぼ同じでしかない。

 理由としては単純にお金が足りないというのと、『黄金城』はリアル路線ということもあって、どれだけ防具をカチカチに固めても頭部へ大ダメージが入ったら即死か気絶するし、首を跳ねられても即死。兜を被ると視界が悪くなる。近接センスがゼロの俺では回避や受け身が難しく、接近された時点で割と死にかけるので、そもそも近づかれないことを念頭に置いている。そんなスタンスなので、防御力自体を俺は重視していないのだ。

 それにこの世界、重量が嵩むとちゃんと『重み』を感じる。運搬クエストで重量物を運んだ時は重過ぎて辛かった。全身鎧とか考えたくもない。あと、重い鎧は逃げたり敵との距離調整にも邪魔だしね。

 なので、比較的軽くて動き安い布と皮、一部金属板入りの装備を基本に、魔力強化のバフが入るローブを着ている。

 

 

 一方、スイハは俺とは逆に、近接方面へと進んでいた。重戦士というよりは身軽に動き回る剣士。

 武器をより質の良い片手剣に、予備にもサーベルを装備している。

 彼女は魔法はあまり得意ではなかったようで戦場で咄嗟に使えなかったこともあり、断念。一応、俺のお古の下級光魔法の杖を持ってはいる。

 

 防具は軽鎧を全体的に、加えて俺と同じローブを纏っている。

 何故魔法を使わない彼女がローブを着てるのかと言うと、『黄金城』では魔法などを使わなくとも、魔力を消費することで身体能力を全体的に強化することが可能。その精度は装備や本人の技術に依存しているのだが……ともかく、魔力を強化するというのは、実質的に全能力の上昇に繋がるので、とりあえず装備し得なのだ。

 防具の防御力はあまり高くないようだが、俺と違って接近戦の素質があるらしい彼女は、回避や受け流しがそれはもうお上手。なら、それで流しつつカウンターで攻撃、または素早く先制で倒す方が効率が良い……とのことで。

 

 そんな訳で、二本の剣を腰に携え、最低限の鎧に外套を纏った彼女は流浪の剣士みたいで格好良かった。

 俺は冬の寒さに震える一般人みたいな感じなのに、どうしてこうも違うのだろうか。

 

 そんなこんなで、今日も彼女と冒険に向かっていた。

 

 

 * * * * * 

 

 

 鬱蒼とした樹海の中──二人の男女と大きな熊がいた。

 

 2ー3M(メートル)ほどの巨体に鋭い爪と激しい眼光。筋肉に包まれたその体は、どうみても二人へと殺意を向けていた。

 対して。

 女──スイハは剣を構え、男──リンは白い宝石の目立つ長い杖を右手に持ち左手には赤と青二つの宝石が先端に付いた短杖を構えていた。

 僅かな睨み合いの後、リンは静かに呟いた。

 

「”火球”」

 

 ボウッと燃え盛る火の球が生成、射出され熊の顔面に直撃。

 熊はそれに触発され飛び出した!

 

「(運が良いとこれで逃げてくれるんだけどね)」

 

 リンは内心ボヤきながら改めて杖を構え直し、魔力を練り上げ、今度は殺すことを考える。

 その間、熊の攻撃はスイハが華麗に()なしながら反撃に斬り上げ、瞬く間にその片腕を撥ねていた。

 

「リンさん!」

「わかってる。”光よ──光線”」

 

 短縮された詠唱から中級魔法が放たれる。

 スイハとリン、二週間の間共に冒険を続けていた彼らは短いながらも濃厚な時間を過ごしたことで、感覚で互いの行動のタイミングを察することが可能になっていた。

 スイハは短い合図と共に熊の顔面を剣の側面で叩き上げ、既に放たれていた”光線”はちょうどのタイミングで無防備な獣の頭部を襲う。

 

 バタリ──倒れた熊の死体は、ポリゴンと化して消滅していった。

 

 それを確認した二人は武器を納めると、面倒くさそうに見つめあった。

 

「これ何回目?」

「魔物は37回目。熊だけなら12回目です……」

「カースス王国東部樹海……国を出たのは初めてだったけどさぁ……魔物多すぎない? どれも半端に強いし、熊なんか皆気性も荒いしさー。冬眠準備でもしてんのかって」

「で、ですけど、採集物はもう手に入ってますし後は帰るだけですよ!」

 

 鼓舞するようにスイハは鞄に仕舞っていた籠を取り出す。

 竹に近い材質の籠を開くと、僅かに黄金色の光が溢れて見えた。

──『黄金キノコ』。

 スイハの細い手よりも遥かに大きく、現実の松茸よりも大きいか。それでいて形状はマッシュルームに近いのだから、遠目には黄金色のボールに見えるだろう。

 

 樹海の奥深くにある洞穴に自生する希少アイテムであり、食用から薬用まで幅広く用途がある。

 今回の二人は採集クエストでの目的であった。

 

「何回見てもキモいな」

「そうですか? 愛嬌あると思いますけど」

「金色に光る菌糸類だよ。なんかヤバい細菌とか混じってそうじゃない?」

「そ、そう言われるとなんか気分が……」

「実際、高性能の麻痺毒の材料にもなるらしいし、あまり吸いすぎるとデバフ入るから気をつけてな」

「さ、先に言ってください?!」

 

 慌てて黄金キノコを籠に仕舞ったスイハを面白く思いながらリンはメニューを開くと、それをスイハにも可視化させる。

 

「いやいや、クエストの備考欄見た?」

「え……強い毒性があるので注意……か、書いてある……」

「見てないの?」

「……り、リンさんが受注してたから、私も受けただけなので……」

「俺、前の森猿討伐でのこと覚えてるからな?」

 

 思い出すは──リンがスイハと出会った一週間ほどが経過したタイミングで赴いた『クエスト:森猿討伐』での出来事。

 

「バナナの匂いには敏感なので持って行かないようにしましょう──あの備考ってネタだと思ってたよ。俺」

「う、うぅ……」

 

 森猿の好物、バナナ。

 魔物の中には食に対して好き嫌いの傾向を持つ種類が存在し、珍しくはあるがそれの使いようによってはテイム、または怒り状態に移行することがある。

 なので、討伐クエストの際にはその情報が載せられていることが多いのだが、そもそもシステム的にアイテムボックスが存在しない黄金城において食料の持ち運びは鞄の容量を無駄に埋める行為に近く、する人は少ない。

 だが、この女──スイハはいつもお菓子を持ち歩いているのだ。

 

「だ、だって……バナナ味のマカロンにまで反応するとは思わないじゃないですかぁ!」

「はいはいごめんごめん。そういえば、今日もお菓子って持ってるの?」

「あ、はい! 蜂蜜味のクッキーです。クエストが終わったら一緒に食べませんか?」

「マジ? 楽しみ」

 

 黄金城は五感も実装されているフルダイブゲーム。美味しい食べ物は美味しいのだ。実際、黄金城だけでグルメ系配信をして、それで多くの視聴者を稼いでいる者が居るくらいには。

 素直な喜びを口にしつつ、リンはジト目をスイハに向けた。

 

「あと、関係ないかもだけど、樹海熊の好物って蜂蜜らしいよ」

「樹海熊って……あ、さっきからよく見るあの熊の……ま、もの……」

 

 小さく「わ、私の所為……?!」と呟くスイハを面白く思いながら、リンはポケットに入れていたコンパスを確認した。

 これも魔道具であり、記録した地点を常に指し続けるという地味に便利な魔法が宿っていた。もっとも、内部的に方角を記録して針を動かすだけというシンプルな術式が故に迷宮の罠など高濃度な魔力障害を受けると瞬く間に狂ってしまう欠陥品であるが。

 

「あ、ごめん。ちょっとズレてた」

「樹海ですもん。ずーっと同じ景色で困っちゃいますね」

 

 早くも気を取り直したか、開き直ったか。お菓子のことをなかったことにしたスイハも困り顔で同感を示した。

 

「にしても……これ終わったら、所持センが100万超えるわ。とりあえず装備は最低限揃ってるし、次は何しよっかね」

 

 今まではクエストを受けては立て続けに装備の更新を行っていたので、残金はジェットコースターの如く乱高下していたのだが、最近は貯蓄ばかり。後もうちょっと頑張れば、新しく中位魔法の杖を変えてしまうくらいには貯まっていた。とはいえ、それも「なんか違うなー」とリンは一人ごちる。

 そんなリンに、少し顔を赤らめたスイハは言った。

 

「じゃ、じゃあ! 今度、その、一緒に別の国に行きませんか?」

「別の国? 帝国とか?」

「それ王国から真反対じゃないですか。港町とか、近くの小国とか。あ、カーススの町でも良いんですよ? ご飯、食べに行きませんか!」

 

 ふむ、と顎に指を当ててリンは考え始めた。

 彼は魔法を含め戦闘や自由を楽しむ為にこの黄金城へとやってきた。

 しかし、最近は戦ってばかりで少々疲れてきたのも事実。ここは一つ、休憩を挟むのも良い気がしてきた。

 もちろん、それだけではなく──

 

「(なんかデートみたいじゃないか?!)」

 

 可愛い女の子とのデート。

 ゲームとはいえ、女の子との二人きりでのデートなんてやったことのないリンは興奮を始めていた。

 

「(告れば行ける? いや、待て待て勘違いするな。失敗すればそこで終わりだ! まだ、まだ……その時じゃない──!)」

「……リンさん?」

「んぉっふぉん!」

「だ、大丈夫ですか?」

「すっごい大丈夫。元気ビンビンだよ……じゃなくて」

 

 ネット掲示板で見た漫画肉の再現料理をリンは思い出す。

 あれとまでは行かないが、黄金城は中々にユニークな料理も多い。味だって、現実では食べられないような絶品を比較的簡単に食べられる。

 まあ、もちろんのことそういうのは非常に高価だが。

 

「楽しみだな……うん。わかった。行こうか」

「どこに行きたいとかありますか?」

「あー、特には。料理系はスイハの方が詳しいと思うし、任せてもいいか?」

「っはい! 絶対ですからね!」

 

 無邪気に笑うその顔に、リンは先ほどまでの自分が情けなく感じた。

 

 スイハとの出会いはリンにとって偶然で、こんな付き合いになるとは思っていなかった。最初は色々と疑っていたが、もうしていない。

 惚れているかと聞かれると、それはリンでもわからない。彼にはまだ、性欲と恋愛の区別がついていないから。

 それでも、一つだけはわかるし、真実だと思っていることがある。

 

「(やっぱ、可愛いな)」

「まずはケーキ! リンさんって甘いのもいけますよね?」

「もちろん」

 

 そうして、二人はキノコを抱えて森から出ていくのだった。

 

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