夜明けの黄金城   作:桃羽玉箱

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9話 黒霧−2

 

 馬車が発進して、目的地であるオリゴ東にある森へと向かい始めた。

 一台十人乗りの馬車が五台。最後のは六人しか乗ってないので、合計四六人。

 何となく雰囲気的に、既に組んであるパーティは離れない様に固まって組んで行ったので俺みたいなボッチ勢は数合わせとして馬車を選ぶこととなった。自然と、乗った馬車のメンバーで戦闘時のグループ分けもすることとなる。

 別にこれは俺も望んでいたことなので是非もない。だが、乗っている面子が問題であった。

 

「サンドイッチ、美味しいですか?」

「ああ、やっぱルリちゃんの料理は美味いな」

「不味くない」

「いつもありがとな、ルリ」

「皆さんお肉が好きなようでしたから、先日のクエストで行った村で買っておいて良かったです」

 

 ……何も言うまい。

 

「…………」

「…………」

 

 乗っているのは、カエデレ、ブラッド、ケンシン、ルリの逆ハー四人組。それに、リューゲという全身マントの怪しい男、そして俺。

 

 逆ハー集団はずっとイチャイチャしてるし、リューゲはずっと黙って俯いてるし……なんだこれ。なんなんだこれ。

 フルダイブじゃなければ画面を放置してスマホでも使っていれば良かったが、今はそうも行かない。このクソ気まずい状況で狭い場所の中じっとしていないといけないのだ。拷問か?

 ちなみに、この六人でパーティを既に組んでいるのだが、ルリは無反応だった。俺なんて粉かけまくった有象無象の一つに過ぎないのだろう。俺は無言でフレンド欄から彼女を消した。

 

「そう言えば、カエデレさんは昨日はお休みでしたよね。昨日みんなで食べたクッキー画残っているんです。是非後でも食べてください」

「あ、ありがとう! 現実でサークルの先輩に呼ばれちゃってて……忙しかったんだ」

「お前、四日前も先輩とやらと組んでなかったか?」

「ああ、うん。黒い霧に行ってたんだよ。ルリちゃんで失敗させる訳には行かないからね。事前調査だよ!」

 

 理由はともかく、経験者が居るのは心強い。

 そんな会話を聞き流しながらガタゴトと揺られていると、ついに馬が足を止めた。

 そうして森の近くに到着すると、調査員NPCとその護衛に選ばれたプレイヤーのパーティが前に立って話を始めた。

 

「これから私はこの黒い霧の正体についての分析を始めます。その間、護衛以外の皆様には研究の邪魔をされない為、そして凶暴性を増した霧の魔物が森から人里に降りてこないように、間引いて欲しいのです。依頼書の通り、討伐数に応じて報酬はお出ししますので。それでは皆様、あとは宜しくお願い致します!」

 

 俺たち以外のパーティはその言葉を聞くやいなやノソノソと森、そして黒い霧の中へと歩みを進めていった。その多くは自信を感じさせる風貌に慣れた足取りで、きっと既にこの黒霧の調査クエストの経験者ばかりなのだろう。

 それに対して、俺たちはどうやら未経験者ばかりのようだった。唯一の経験者らしきカエデレすらも含め逆ハー集団はちょっと不安そうにルリを中心とした陣形を組でいたからだ。経験者があれだと、余計に他も緊張せざる得ないと思うのだが……あれでよく騎士を名乗っているな。

 リューゲ? アイツはずっと顔隠して俯いてるから論外だ。声も出さない。そりゃ俺みたいにボッチだわ。

 俺もまた、このパーティでは疎外感を感じざる得ないし、このクエストは初めて……まあ、前途多難であろうことは想像に易い。

 

 つか、こいつらいつまで外で霧を眺めてるつもりだよ。俺は観光に来たんじゃないぞ。少し恥ずかしい気持ちを堪えながら一歩前に出て声を出す。

 

「あのー、そろそろ中に行きませんかー?」

「お、おう! ほら、ルリちゃんたちも行こう!」

「ああ、俺が全部燃やし尽くしてやる」

「おい森だぞ。引火したら俺たちもで死ぬからな」

「ふふっ、リンさんも一緒に頑張りましょうね!」

「…………」

 

 協調性があるだかないんだが……信用して良いだか……。

 まあ……あれだな。

 

「いざと成れば……一人で逃げるか」

 

 逃げるは恥だが役に立つ、ってな。

 所詮はゲーム。見捨てても恨まないでくれよ。

 

 

 + + + 

 

 

 黒い霧に包まれた森に入って三十分ほどが経過した。

 数メートル先しか見えない鬱蒼とした薄暗い森の中を俺たちは支給された地図とコンパスだけを頼りに歩き、そして襲いかかってくる魔物を殺しながら、更に進む。前半の十五分くらいでは他のパーティとも三回ほど遭遇したのだが、近頃はめっきりと合わなくなった。段々と深入りしている証拠だろう。

 前も後ろも碌にわからない状況で命綱とも言えるコンパス・地図のセットを逆ハー集団でいつの間にか独占されてしまっているのは気に食わないけども。どうやら黒い霧は濃い魔力が含まれているようで、俺の持っている魔道具コンパスはグルグルと地軸もびっくりな大回転を見せていた。

 しかし、そんな不安を他所に順調に事は進んでいた。

 

「……ふんっ」

 

 沈黙の陰キャ、リューゲ。

 彼は剣士なのだが、そのコミュ力に反してかなりの強者。盾を使わずに、軽々とした身のこなしで攻撃を避けては的確に攻撃を刺し込み、まさに凄腕の剣士であった。

 お前本当に現代日本人か? と疑いたくなるほどに。世が世なら武士だったのは間違いない。

 

「”火よ、我が敵を包め──炎柱”」

 

 厨二病魔法使い、ブラッド。

 思考はハッピーな彼だが、それに反して手先はかなり器用。リューゲという初めての共闘相手と完璧な連携はできていないが、それでも邪魔はしない程度に魔法攻撃での共闘ができており、それで十分。自分の立ち位置の調整もまた合理的。常に魔物との間に仲間を挟み、しかし自身の射線を確保する動きは俺も見本にしたいほど。

 

「おいおい、やんちゃじゃねーかコイツら!」

 

 気取った剣士、ケンシン。

 頬に十文字傷の装飾を付けている愉快な彼だが、その剣捌きは見事。

 刀身が細長い(かたな)に似たサーベルを使う彼は、素早く敵の急所や関節を切断、無力化し、純粋なキルスコアではあまり稼げていないが、アシストでは間違いなくトップ。

 

「る、ルリちゃん、俺の後ろに!」

 

 騎士っぽい男、カエデレ。

 なんかアイツずっとルリの近くに居るだけで何もしてないんだよね。いやまあ、逆ハー集団のやる気は彼女の鼓舞によって成り立っているから、それを守るのは士気の維持に直結する重要項目かもしれないが……納得はできないというか、『お前マジ?』とは言いたくなる。言わないけど。

 まあ、ルリ含め他三人は優秀だし、一人くらいはこう言うのが居ても良いけどさ。

 

「”癒しよ、彼の者を治せ──小治癒”。”光よ、我が敵を撃ち抜け──光球”」

 

 逆ハーの女王、ルリ。

 希少な治癒魔法に加え光と水と風の中級魔法を使いこなす彼女は、間違いなくこのパーティの要。軽い怪我なら瞬く間に治し、敵が隙を晒せば高火力の光魔法で一発、水と風で補助までできる。

 正直、俺は彼女のことを馬鹿にしていたのだが……どう考えても、俺の上位互換だった。俺より優れた装備によって純粋なスペックで負け、使える魔法の種類で負け、パーティの雰囲気作りでも負け……泣きそう。

 

「……”光よ──光球””光線”」

 

 今のところ居ても居なくても変わらない男、俺。

 近接はできず、魔法もブラッドとルリに負け、チマチマした光魔法でチョコチョコと敵を倒すことしたできていない。

 あれ……俺、要らない子?

 本当だったら希少な純魔法職として高火力砲台になる予定だったのだ。バッタバッタと遠距離で魔物を薙ぎ払って皆に尊敬されるつもりだったのだ。が、何故かこのパーティには希少な魔法使いが俺以外にも二人居るのだ。ちゃんと優秀なのが。なんで?!

 

 つーか、こいつらなんか普通に強いんだけど?!

 特にルリ!

 ああ言うのってさ、魔物を前にしたらキャーキャー叫んで動かなくなるのが一般的じゃないのか? どうしてめっちゃ冷静に魔法攻撃で瞬殺してるの? なーんで俺より火力高いの?

 逆ハーメンバーたちもさぁ、カッコ付けようとしてすっ転んだりしないの? 普通にカッコいいじゃんお前ら。なんなの?

 

「ったく、ずっと暗いじゃねーか。おい、ブラッド、同じ後衛だからってさりげなくルリちゃんに触るんじゃねーぞ」

「俺は下衆な考えが過ぎる貴様とは違う。おい、カエデレ、ルリに怪我させたら殺すぞ」

「ちょ、おいおい、俺はルリちゃんだけの騎士だぞ。心配すんなって」

 

 まあ、なんかギスギスはしているんだがな。いつ奇襲されるかもわからない危険地帯で仲違いはやめて欲しいんだが。

 しかし、まあ、それはそうと。

 俺はブラッドくんがさりげなくルリの背後から髪の匂いを嗅いでいるのを見逃さなかったぞ。それに、馬車ではケンシンもさりげなくルリの方に腕を回しては避けられてたし、カエデレも挙動が怪しい。

 こいつら童貞だな。間違いない。

 

「……っいたぞ!」

「何処だ?!」

「右側に大鹿、既に気づかれてる!」

 

 ケンシンとリューゲは素早く魔物の方へと駆け抜け、ブラッドとルリは詠唱を開始。俺は杖を構えつつも大鹿(まもの)へは向けず、周囲への警戒を重視。

 正直な話、俺は足手纏いだ。

 今のパーティは前衛3の後衛3でバランスは悪くない。しかし、問題は俺が初見での連携が可能なほどに器用ではないということ。黄金城にはFF(フレンドリーファイア)があるので後衛の俺の場合、前衛へ誤射をやりかねない危険性があり、そうなると、やはり何もしない方が良い場合も少なくない。

 なので、俺は思い切って魔物の数が前衛と同じ数の三体以下の場合は最初から攻撃を諦め、警戒に重きを置くこととしていた。実際、それによって奇襲を二度防げているので間違っては居ないと思う。

 

 一方、戦場では。

 大鹿は足から頭まで1.5メートルほど、そして角が全長一メートルはある細くも筋肉質な鹿型の魔物。

 殆どの雑魚魔物に該当することだが、角や爪、足や腕など一部のみを強化する身体強化の魔法しか使えないことが多い。大鹿もそれに違わず、角が光っている間は硬く小さく尖るので、その攻撃を受ければ致命傷になりかねない。

 

 先制──ルリが風魔法で軽く目潰しすると同時に、ブラッドが火魔法で右前脚を焼いた。

 怯んだ隙に、既に駆けつけていた二人の剣士が足の全てを斬り落とし、大鹿を達磨にしてしまった。

 

 戦闘終了──紛う事なき完全勝利。

 

 森狼より少し強い程度の大鹿は、俺らにとっては雑魚でしかないのだ。時間をかけて良いのなら、全員がタイマンでも勝利できるだろう。もっとも、時間をかけると言っても10秒くらいで済むと思うけど。

 

「やったな。大鹿の角は高く売れる」

「待て。その前に、結晶石やポーションに加工した方が高くなる。手間はかかるが、俺ならできるのは知ってるだろ。俺に寄越せ」

「別に良いけど、売って手に入れた金は分配させてもらうからな」

「わかってる。だが、俺は少し多く貰うのも承知して貰おう。なんせ、俺が加工するんだからな」

「いや待てよ。勝手に提案しといてそれはねえだろ」

「俺が手間をかけるのだからその分を貰って何が悪いと言うのだ?」

 

 ガミガミ、ギャーギャー、と。彼らは喧嘩を始めてしまった。

 

 大鹿の角、高く売れるんだよね。具体的に、無傷なら20万セン。ちょっと傷がついてても10万は行く。今回の場合は多分20は最低……黒霧産だと素材の質も良くなるらしいから、30は見えるかも?

 そりゃあ、喧嘩にもなるだろう。

 でもさ、なんで俺とリューゲくんを無視して勝手にお話を始めているんだい? 結晶石とポーションへの加工も絶対に成功するわけじゃなく、失敗すると素材は消えるかもしれないだよ? 俺はそんなに君たちを信じられないんだけど?

 

「やれやれ……君は愚かだと思っていたが、そこまでだったとはね」

「俺も、お前の自分勝手なトコはずっと嫌いだったよ。厨二病キモいんだよ」

「お前こそ、飄々とした侍ロールしておいて女に不慣れなのはどうなんだ?」

「っお前!」

「……醜いな」

 

 なんか、段々とヒートアップしてきてるんですけど。

 俺はどうすればいいんだろうか。人の喧嘩とはかなり滑稽な物で、その顛末をここで見届けたい気持ちはあるのだけど、そうもいかない。

 だって此処って危険地帯な訳で。仲間割れは流石に冗談で済まない。後衛と前衛が不仲になって、平然とフレンドリーファイアが飛び交ったら俺にも流れ弾が当たりかねない。前衛が減れば俺の危険だって増す。勘弁してくれよ。

 とは言え……ここで大して知り合いでもない俺にできることはないというか、俺にそんな対人スキルはない。あったらとっくに彼女だって作れてる。

 

 俺が期待を込めてルリへと視線を向けると、そこには面倒くさそうに僅かに眼を細める彼女がいた。

 カエデレもまた、俺と同じくルリのそんな顔に気づいたのだろう。彼女に格好付けたいと、彼は男を見せようと前へ出て、しかし二人に睨まれて身を竦ませる。

 

「お、おい、ここは黒霧の中だぞ。落ち着けって」

 

 彼はいつも通りの不安そうな顔でそう言うと、鞄から水筒を取り出してコップに注ぎ、差し出した。

 

「ほ、ほら、落ち着けよ。ハーブティー、二人とも好きだろ? ほら、ルリちゃんも」

「……ありがとうございます」

 

 どうやら意外にも家庭的な男らしい。水筒から茶を取り出しては差し出す、その動作は自然的で、手慣れた物だった。もしかすれば、あの二人の喧嘩は珍しいことではなく、同じように宥めたことが何度もあったのかもしれない。

 カエデレは最後に自分の分も淹れようとして、しかし水筒からは数滴の雫が落ちるばかり。彼は俺とリューゲに小さく頭を下げた後、残念そうに水筒を鞄に戻した。

 譲ろうか、そんなルリの素振りにカエデレは首を振る。

 ルリはそれでも……とは思いつつも、考え直したのだろう。小さく頷いて、一息にそれを飲み干した。それを見て、喧嘩していた二人もお茶を喉へ流し込む。

 

 こうして喧嘩の場は、ルリをも巻き込んでお茶会へと場を変えたのだ。

 

「ブラッドさん、我々はチームです。貴方が手間を掛けたとしても、事前に報酬は山分けだと決めていたのですから、それを変えたいというのなら町に戻ってから全員で話し合いましょう。リンさん、リューゲさんと、まだ知り合ったばかりの人も居るのですから。それに、少なくとも私の分は融通しますから」

 

「ケンシンさんも、気持ちはわかりますが落ち着いてください。メンバー最年長の頼れる殿方である貴方が、ここで冷静さを失ってしまえば皆にも波及します。此処は一つ、私に免じて……お願いします」

 

 そう言うと、ルリは二人に頭を下げる。

 ブラッドもケンシンも、気まずそうにしながら──────?!?!?!

 

「(まさか……!)」

 

 俺はさり気なくすり足でポジションを変え、ブラッドとケンシンの斜め横くらいに位置取る。そこから見た景色は────

 

「(上乳じゃねぇか……!)」

 

────絶景だった。

 

 頭を下げた拍子に、ルリの緩い襟部分から彼女の胸が見えた。

 彼女は……ぶっちゃけ、ロリ体型だ。小さく、手足も細く、肉付きだってあんまりない。でも、その雰囲気や立ち振る舞いには何処か老成した物を感じた。加えて、彼女は優秀な魔法使いだ。的確なタイミングで牽制の魔法を飛ばし、隙を逃さず攻撃魔法を撃ち、邪魔にならないよう素早く仲間を治癒する。

 幼い笑顔が、小さな立ち姿が、舌足らずな話し方が、しかし落ち着きと知性を感じさせるのだ。

 男に貢がせる悪女の中に垣間見えるは男好きなパッパラ淫乱みたいな阿保でも、守られるだけの童女でもなく、考え戦うことのできる『強い女』。

 それが良いのだ。

 可愛い物好きな不良娘、ドスケベ清楚地味図書委員娘、処女ビッチ……そう言ったギャップに、人類は勃起してきた。

 ロリババア、合法ロリ……見た目は幼く小さい童女、しかし中身は成熟した頼れる女。その庇護感を擽らせながらも、むしろ守られたい気持ちも湧き出てくる矛盾には、俺も興奮を隠せ切れない。きっと、彼らもルリのこう言うところに惚れたのだろう。俺も惚れそう。

 

 先ほどまで喧嘩していた二人は、その胸元に意識の全てを奪われて、その熱を鎮火……いや、頭から血が下がったと言うべきか。

 とりあえず、落ち着いたのだ。

 カエデレの援護があったとは言え、演説とたった一つの動作でこうも騒ぎを沈めさせるとは……ルリ、侮れぬ。

 

「あ……なんだ、俺も、悪かったな」

「そう、だな。報酬は、後で話し合おう」

 

 俺は思わず、彼女から警戒の眼差しを逸らせなくなった。

 くそっ、目が……目が……胸に……!

 

「さあ、それでは、次の魔物を探しましょうか!」

「あ、ああ」

「……了解した」

 

 上体を起こしたルリ。

 残念そうな二人の声。俺もそうなの。

 でも、お金は大事だ。もっと魔物を狩って金を稼がないと……俺はスイハに向ける顔がなくなってしまう。

 

「……あら? カエデレさんは──」

 

 

 倒れ伏しピクリとも動かないマントの男。

 

「あれ」

 

 リューゲだっけ。

 あいつなんであんなとこで寝て──いや違う。

 これ奇しゅ────!!!

 

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