大怪獣ラッシュ外伝 スメラギとハンターズ・クロニクル 作:クォーターシェル
宇宙は静かではない。
無数の星々の狭間で、獣の咆哮が響く。
それは野生ではない。狩りだ。
プラズマ怪獣――
その体内に宿る膨大なエネルギー“プラズマソウル”を求め、宇宙の各地からハンターたちが集う時代。
そして、その中にあるのが――
宇宙ハンター拠点
ステーションT1116
巨大なリング状構造のステーションには、今日も多種多様な宇宙人が行き交っていた。
武器を担ぐ者。
報酬を数える者。
次の獲物を求める者。
その中に、一際目立つ存在がいた。
青黒と金の装甲を纏う異星人。
鋭い眼光と、隠しきれない闘気。
テンペラー星人の若きハンター――
スメラギ。
「……ここが、ハンターの拠点か」
低く呟く。
その手には一本の槍。
テンペラーランサー零式
母から託された武器。
その重みを、スメラギはまだ完全には理解していなかった。
「……新人か?」
背後から声。
振り返ると、数人のハンターがこちらを見ている。
「テンペラー星人だぞ」
「珍しいな……ハンター登録なんて」
ざわめき。
視線。
値踏み。
スメラギはそれを正面から受け止める。
「問題があるのか」
短く返す。
その態度に、何人かが鼻で笑った。
「いや別に。ただ――」
「生き残れるかどうか、興味があってな」
その時だった。
「……通してもらおう」
低く、重い声。
場の空気が変わる。
ハンターたちが一斉に道を開けた。
現れたのは、異様な威圧感を放つ存在。
ゼットン星人
ト・パーズ。
ステーションT1116の管理者にして、ハンターリーダー。
「新規登録個体……スメラギ」
「テンペラー星人……か」
ゆっくりと近づく。
視線が交わる。
まるで全てを見透かされているような感覚。
「力はあるだろう」
「だが――」
一拍。
「この場所で必要なのは“結果”だ」
スメラギは一歩も引かない。
「結果なら出す」
即答だった。
わずかな沈黙。
その後、ト・パーズは僅かに頷く。
「いいだろう」
「ならば証明してみせろ」
空間に投影されるホログラム。
そこに映し出されたのは一体の怪獣。
地中を進む巨大な影。
地底怪獣パゴス討伐任務
「初任務だ」
「チームを組め」
スメラギは鼻で笑う。
「必要ない」
「一人で十分だ」
その瞬間。
周囲の空気が凍った。
ト・パーズは否定しない。
ただ一言。
「……そうか」
その言葉には、期待も、制止もなかった。
ただ
結果を見届ける者の声だった。
遠く、誰かが小さく呟く。
「……死ぬな、あれは」
スメラギはそれを無視する。
槍を握り直す。
「見ていろ」
「俺が――狩る」
その言葉が
“未熟さ”であることを
この時の彼は、まだ知らなかった。
◇ ◇ ◇
「ちょっと待った」
その時1人でプラズマ怪獣のハントに行かんとしていたスメラギに声を掛ける者がいた。スメラギは声を発された方を振り向き存在を確認する。
「なんだ?」
「なんでもありのプラズマ怪獣ハントですが、最低限のルールはありますよ。ハンターは基本3人1組のチームで行動すること。その位のルールを知らない程のお上りさんでもないでしょう?」
「お前は……、ビラ星人か」
スメラギに声を掛けて来たのは宇宙蝦人間の別名が示すとおりエビのような姿をしたビラ星人のハンターだった。
「ええ、リンプと申します。ト・パーズさん、このテンペラー星人は一旦こちらで預かって臨時チームを組んでも構わないですよね?」
リンプはト・パーズにそう呼びかける。ト・パーズもスメラギを単独で行かせるよりもマシだと判断したようで許可を出した。
「ああ、いいだろう」
「ありがとうございます。それにしてもあなた、随分な自信ですね?そこのプラズマ怪獣を1人で倒すつもりなんですか?」
「なんだ、文句があるのか」
リンプは呆れていた。このハンターは危機感がないと……。しかし自分も似たようなハンターに助けられて今こうしてハンターとして活動しているのだ、と。
「まずは自己紹介からさせていただきますね。私はビラ星人リンプ。あなたの名前は?」
「スメラギだ」
「わかりました、ではスメラギさん。私と共にハントに行く予定のメンバーをご紹介します」
「この方はグローザ星系人のグレンさんです。主にシューターとして活躍してます」
「アタイはグレンだ。まぁ短い間だけどよろしく頼むよ」
氷の結晶を思わせる身体の女性ハンターが握手の為に手を差し出す。しかし、スメラギは応じない。
「俺はなれ合う為にハンターになったわけではない。それでチームは俺を入れてこの3人か?」
「あと1人いるんですけれど……。ト・パーズさん、今日はザグレスさんは来ていないのですか?」
「ザグレスなら今日は休みだ。しばらく家に戻ると言っていた」
「ああ、そう言えばそんな事言ってましたね」
ザグレス、リンプと同じチームを組んでいるガッツ星人のハンターである。だが生憎と今日はオフの日らしい。まあ3人いれば任務に支障はない。
「では皆さん、準備が出来次第船の方へ来て下さい」
スメラギ、リンプ、グレンは案内に従いターゲットのパゴスが居る惑星行の宇宙船に乗ることになった。
「そういえば……」
「なんだ」
「スメラギさんはパゴスに関しての知識はありますか?」
「……穴を掘るのが得意な怪獣という事は知っている」
「プラズマ怪獣はプラズマソウルを取り込み巨大化しても大体の生態は大きく変わりません。パゴスはウラン等の放射性物質を好む怪獣で、分子構造破壊光線を口から発射します」
「お前も奴のハントは初めてなのか?」
「ええ、今回は私がリーダーを務めますがスメラギさんも良いサポートをお願いしますね」
「……サポートか……」
正直、スメラギの気持ちは浮いていない。そもそも自分は母との誓いを果たす為にハンターになったのだ。実家にいた頃も何度かパゴスや同じく地底怪獣のテレスドンの駆除作業に参加していた。あの程度の怪獣なら自分1人でも容易く倒せるはずだ、と。
「惑星J5704へのゲートを開きます」
ステーションのアナウンスの後に目の前にワープゲートが出現し、宇宙船がそこに入って行く。
「我々の任務は地上に出現したパゴスの撃退及びプラズマソウルの回収です。あ、スメラギさんは今回の任務が初ハントですからこの先で得た経験は貴重なものとなるでしょうね」
「ほんとアンタ……そんなことばっかり言ってて疲れないわけ?」
「いえ、全然。どうやら私は人助けの為に生まれてきたみたいです」
「あー、そういう事言うんだ……」
「まあでも、そういうグレンさんも面倒見が良いことでステーションT1116内で有名じゃないですか」
「まあね……、アタイも結構長くハンターやってるとどうしてもね、ほっとけない事があるんだよ」
リンプとグレンは互いに信頼し合っているようだ。一方、スメラギは黙っている。母以外の者との会話はどうにも苦手だった。
「あれ、もしかして何か機嫌悪い?」
「いつもこんな感じなのかもしれませんよ。それよりそろそろ目的地に着く頃なので注意しましょうか」
リンプは話を打ち切る。確かに現在の会話より怪獣と戦うことの方が重要だ。
「地上に出たらすぐにパゴスを探しましょう」
「そうね。じゃあ行ってくる!」
リンプ達は宇宙船から地上へ降下する。目的の怪獣を探して。
「プラズマ怪獣か……」
スメラギの視線は前方へと向けられる。
その目はどこか懐疑的だった。
(テンペラー星でも、怪獣は狩ってきた)
(だが、そのすべては“力のある怪獣”だった)
(この場所の怪獣も……そんなものなのだろうか?)
彼はすでに過去、地底怪獣パゴスとも何度か対峙してきた。彼らを屠るのは簡単なことだった。しかしそこで得るものなど何も無い。ただ力による制圧があったのみであった。
(試したい、この槍で)
(俺の力を)
「……パゴスが目撃されたのはこの地点の付近ですね」
リンプが通信越しに言う。
スメラギは答えず、静かに地面を蹴った。
次の瞬間
地響き。
大地が脈動するように震えた。
「来る!」
グレンの声と同時に、大地が割れた。
轟音と共に、岩盤が砕け散る。
地底から巨大な影が這い上がってくる。
地底怪獣 パゴス
全身を覆う岩塊のような皮膚。
地中を移動することで養われた強靭な筋肉。
そして――
殺意を孕んだ黒い双眸。
その巨躯が太陽の下に晒された瞬間、
周囲の空気が凍りつくように冷たくなった。
「やはり、出てくるな」
スメラギの手が槍の柄を握る。
「待ってください、スメラギさん!まずは――」
リンプの声は途中で遮られた。
スメラギが既に走り出していたからだ。
「下がってろ」
その一言と共に、スメラギはパゴスの真正面に立った。
槍を構える。
(……あの怪獣と同じだ)
(テンペラー星に現れた、無意味な敵)
(ただ邪魔をするだけの“標的”)
(だから俺が……屠る)
狙いはパゴスの背中に露出しているプラズマソウルの結晶である。プラズマの怪獣のハントは怪獣の身体のあちこちに露出したプラズマソウルを破壊することで獲得できる。尚、プラズマソウルは破壊すると自動的に回収・転送され、露出したプラズマソウルが全て破壊されたプラズマ怪獣は戦闘不能になる。無論、破壊が困難であれば直接怪獣の身体にダメージを与えて倒しても良いが……。
「っ!」
プラズマソウルに攻撃しようとしたスメラギだったが、パゴスの反応は早かった。巨大な尾でスメラギを払いのけ、後退させる。
「くそっ……!」
スメラギは素早く距離を取った。プラズマソウルに攻撃できなくとも、まずは自分が接近するチャンスを掴まなければならない。
「スメラギさん、無茶はしないで下さいよ!まずは周りを固めてパゴスの行動パターンを把握しましょ……グレンさん、アイツを捕まえてください」
「ああ、任せときな!」
グレンは自らの愛用武器である二丁拳銃、『グロウ&ザムス』から氷のエネルギー弾を発射してパゴスの足元を凍らせて動きを封じようとする。しかし、パゴスはその重厚な身体からは想像できないくらい軽快にジャンプして氷の弾丸を回避した。
「なに?」
「思った以上に俊敏な動きですね……、このままではいずれパゴスは地中へ逃げてしまいます。スメラギさん!」
「わかってる!」
パゴスが地中に戻ろうとしたら今度は槍を振るう。プラズマソウルを破壊するのは不可能だがパゴスの気を逸らすことは可能だ。
「グレンさん、連携してパゴスに攻撃を加えてください。動きを止めれば私とスメラギさんがプラズマソウルを破壊します」
「了解!」
グレンの銃が火を吹く。正確な射撃によりパゴスの片目が潰れ、その巨体が揺らいだ。
「今です!」
リンプの指示。
スメラギの槍が、再び閃く。
空気を裂く音。
刹那。
鈍い衝撃。
槍の刃が、パゴスの胸部のプラズマソウルを貫いた。
青白い閃光。
弾けるような爆発音。
プラズマソウルが砕ける。
プラズマソウルの爆発光が視界を染めた瞬間──
スメラギの腹を灼熱が貫いた。
「ぐっ……!!」
パゴスの尾が鞭のようにしなり、鎧の隙間を抉っていた。深紅の液体が草地に滴る。槍の切っ先は確かにパゴスの胸郭に突き刺さっていたが、その代償は重かった。
「スメラギさんッ!」リンプの叫びが虚しく響く。「攻撃直後は必ず防御姿勢を!」
だが忠告は遅すぎた。激痛の中、スメラギは立ち尽くした。呼吸が荒い。槍を握る手に力が入らない。
パゴスの瞳が嘲笑うように歪んだ。赤く濁った血を吐きながらも、その巨体はゆっくりと土壌へ潜り始める。
「逃げる……!?」
咄嗟に駆け寄ろうとした脚がもつれる。大地に崩れ落ちる寸前でグレンが肩を支えた。
「バカ!深追いするなって言ったでしょ!」
「……!」スメラギは唇を噛んだ。焦燥と屈辱が脳裏を掻き毟る。「また逃がすのか……」
リンプが端末を叩きながら冷静に分析する。「深度センサーに反応あり。潜行速度は想定より速い……追撃はリスクが高い」
「何故だ……!まだ戦える!」
「アンタの身動きが取れない限り、“三人のチーム”は成立しない」グレンの低い声に棘がある。「個人プレーが勝利条件じゃない。これは狩りだよ、スメラギ」
「…………」
スメラギは歯ぎしりしながらも返す言葉を持たなかった。ただ地面に広がる自身の血液が夕陽に照らされて揺れているのをぼんやりと見つめていた。
駄文閲覧ありがとうございました。