メタモン連れの万屋さん   作:スペースデブリ

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FRLGやってますか皆さん。デオキシス4体色違い集めるの苦労しますね。



トラブルまみれの万屋さん

 

 

 

 唐突だが、俺は幸せな人生を送っている。

 

 地図にも載らないような村を飛び出したばかりの頃は、金なんてほとんどなくて、その日その日をどう凌ぐかで精一杯だった。

 まあ、それはそれで悪くなかったけど。

 

 メタモンと一緒にあちこちを渡り歩くうちに、きのみの種類や効能、食えるものと食えないものくらいは自然と頭に入った。

 その知識は、今でもかなり役に立っている。

 

 そんな相棒のメタモンと一緒に万屋──いわゆる何でも屋を営むようになってからは、暮らしもある程度軌道に乗った。

 忙しいなりに充実しているし、何だかんだで今の毎日は結構気に入っている。

 

 ──ある一点を除いては。

 

 

 

 

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「悪気はなかったんだって! たまたま通ろうとした先が君たちの縄張りだったなんて知らなかったんだよ!」

 

 

 俺は今、森の中を全力疾走しながらスピアーの大群に追い回されている。

 

 経緯は単純だ。

 オーキド・ユキナリ博士に雇われて、フィールドワークの手伝いをしていた。今日の内容はナゾノクサの葉っぱを採取させてもらうだけの簡単な仕事。ここまでは良かった。

 

 無事にナゾノクサたちから葉っぱを分けてもらい、帰り道についたところで──ほんの少しだけ、魔が差した。

 

 

 ──ここ、突っ切った方が早くないか? 

 

 

 その“ほんの少し”の横着がまずかった。

 

 近道しようと踏み込んだ先は、よりにもよってスピアーたちの巣の近く。

 見事に縄張りのど真ん中だったらしい。

 

 はい。

 誰が何と言おうと、横着しようとした俺が悪いです。

 本当にありがとうございました。

 

 

 ──そう、幸せな人生における唯一の懸念。

 それは、とにかくよく"トラブル"に見舞われることだ。

 

 ある時は万屋の仕事中、なぜか迷子の赤ちゃんを見つけたり。

 ある時はお茶会が趣味なお嬢様の男慣れのために駆り出されてビンタされたり。

 ある時はただ釣りをしていただけなのに、いきなりデカい青色の体した見たこともないポケモンに水をぶっかけられたり。

 

 他にも数え出したらキリがない。

 

 こんな感じで、特に何かしたわけでもないのに、トラブルが勝手に向こうからやって来るのだ。

 

 特に釣りのやつはいまだに根に持っている。

 あの野郎……いきなり『ぎゅらりゅう!!』とか大声で叫んだ挙句水ぶっかけやがって。何なんだあいつ。せっかくの釣り日和だったのに天気も悪くなったし。

 

 次に会ったら吊り上げて、陸の上で強制『はねる』させてやる。

 

 

 

 そういうわけで、今日も今日とてスピアーの大群に追いかけ回されるという、実にいつも通りのトラブルに見舞われていた。

 

 まあ幸いなことに、今のところ命に関わるような目には遭っていない。

 ……はずだ。多分。きっと。絶対。

 

「もどりました〜」

 

「おお! 待っておった……ぞ? ど、どうしたんじゃ? ずいぶん汚れておるが……」

 

「さっきスピアーの大群に襲われまして」

 

「……よく無事で帰って来れたのう。いや、無事なのか?」

 

 無事です。

 そこで疑問形になるのやめてもらっていいですかね。あなた世界的権威でしょうに。

 

「はぁ……。あ、これ頼まれてたナゾノクサの葉っぱです。お土産できのみもいくつかもらいました」

 

「おお! すまんのう! このあたりでは昼間にナゾノクサと遭遇するのはなかなか難しいからの!」

 

「よしっ……じゃあ俺、次はポケモンたちの世話に行ってきますね」

 

「うむ、頼んだぞ〜」

 

 ……トラブルが絶えないが、なんだかんだでこういう毎日は嫌いじゃない。

 

 もともと体を動かすのは好きだし、俺はトレーナーではないけれど、オーキド博士の口利きもあってブリーダーの資格も取れている。

 ポケモンの世話ができるのは普通に楽しいし、万屋としても、できることが増えるのは悪くない。

 

 やれることが増えれば、そのぶん誰かの役にも立てる。

 そういう意味では、今の暮らしは結構気に入っている。

 

 

 

 

 

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「ぶもっ!」

 

「おーしおし。相変わらず元気だねぇ、ケンタロス〜」

 

「ぶもうっ!」

 

「ぐぼっ!!」

 

 いや、なんでさ。

 

 あんなに気持ちよさそうに撫でられてたじゃん、ブラッシングされてたじゃん。

 何でそこから頭突きに派生するんだよ。

 

 90キロの物体が全力気味にぶつかってくる。

 字面だけで既に命の危機なんだが。

 

 ……いや、まあ。

 ツノが当たってないから多分これでも手加減はしてくれてるんだろうけど。

 

 

 

「相変わらずダッセェな」

 

 ……元気があって、なおかつ人を露骨に小馬鹿にしたようなこの声。

 間違いない。ガキンチョだ。

 

 芝の上に転がったまま目を開けると、茶色みがかった明るい髪の少年が、腕を組んでこちらを見下ろしていた。

 

 グリーン。博士の孫だ。

 

 もうすぐ旅に出るらしく、最近は博士に「早くポケモンをくれ」としつこくせがんでいる。

 

「お〜う、ガキンチョ。相変わらずちっせぇな。ちゃんとジョウトのモーモーミルク飲んでんのかよ?」

 

「誰がガキンチョだ!!」

 

「お前しかいねぇだろ、ガキンチョ〜」

 

「このやろう!!」

 

 うん。

 大人気ない。実に大人気ない。

 

 だが、それでいいのだ。

 

 こういう、大人をナメきったクソ生意気なお子様には、現実ってやつを教えてやらなければならない。

 

「メタ〜……」

 

 相棒のメタモンは、やれやれとでも言いたげに体を揺らした。

 

 なんでだ、メタモン! 

 お前は俺の味方だろ!? お前もヤドンにへんしんしてこいつを煽ってくれ! 

 

 馬鹿野郎この野郎と互いに煽り合いながら、俺たちがヒートアップしかけたところで、グリーンの肩を叩く手がひとつ。

 

「ああ!? 今忙し──」

 

「…………」

 

 赤い帽子を被った、グリーンと同い年の少年。レッドだ。

 表情がほとんど動かないまま、淡々とグリーンの肩を叩いている。

 

 いや、ほんとに動かないな表情。

 何? 子供ながら早々に表情筋死んでるの? 今から笑顔の練習しな? いつか何とかなるかもしれんぞ。

 

「なんだよレッド! 俺はいま忙しいんだよ!」

 

「…………ナナミさんが呼んでた」 

 

 ふむ。どうやらナナミさんに呼ばれているらしい。どうせコイツのことだから家の家事すっぽかしてきたんだろ。手のかかるお子ちゃまだな……ナナミさんにはあとで謝りに行かないとな……

 

「だそうだぞグリーン。お姉ちゃんの言うことは聞かないとねぇ〜」

 

「……っ! チッ! 命拾いしたな!」

 

 ズカズカと自分の家へと戻っていくグリーン。俺とレッドはその場に立ちすくんでいる。

 

「はぁ〜、ったく。なんでグリーンはあんな喧嘩売ってくんだよ……」

 

 思えば俺が博士に雇われてからしばらくしてああいった態度を取るようになっていたような気がする。まあ、分からなくもない。いきなり見ず知らずの男が入ってきて博士に馴れ馴れしくしてるんだもんな。孫としては心中穏やかではないはずだ。

 

 ……でもだからといって気に入らないことは気に入らないので、今後も俺はあの子を煽るだろう。そんなことを考えていると白衣の袖をチョンと摘んで小さく少年は呟く。

 

「……カナタさん。またいろいろ教えてほしい」

 

「おうおう、勉強熱心だねぇレッド君は。そんなに楽しみか?」

 

 レッドは帽子を少しだけ深く被って、こくんと頷いた。

 可愛いやつだ。

 

 あともう少しでこの子達は10歳になる。10歳ともなれば、カントー地方ではポケモンの登録名義に自分の名前を載せる事ができる年齢だ。

 

 つまるところ、ポケモントレーナーとして登録する事ができる年齢なのだ。

 ただ10歳でトレーナーって大丈夫なのかという疑問は感じている。先程のケンタロスがそうだ。

 

 ポケモンは家族や仲間、相棒として接する事があるが、人とは違って危険な生き物であることは間違いないのだ。毎年毎年、ポケモンによる事故で亡くなる人も少なくない。

 ジョウトにはそういった基本知識を身につけるための学校もあると聞く。

 

 ……先にそっちに通わせるべきじゃない……? 

 

 ……まあ、これからこの子たちはいろんなものを見るだろう。

 

 楽しいことも、苦しいことも、きっとたくさんある。

 それがこいつらにどう影響して、どう変えていくのか。俺も少し楽しみなのだ。

 

 子どもってのは、知らず知らずのうちに成長していく。

 それを祝福しない人間がいるか? それに成長する姿を見るのは、意外と気持ちの良いものだ。

 

 

 ……おい、何でそんな微笑ましそうな顔で俺を見るんだメタモンよ。

 

 

 

 

 

 

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「行っちゃいましたね」

 

「うむ。あの子たちがこの旅でどのように成長するのか。今から楽しみで、年甲斐もなくワクワクしておるわい」

 

「う〜ん……あの3人には図鑑があるし、通信で博士のところに進捗もデータも入ってくるし……」

 

 そう、もともと俺がここに雇われていたのは、オーキド博士が高齢で、かつてのようにフィールドワークへ出られなくなったからだ。

 

 けど、レッド、グリーン、ブルーの3人は図鑑を手に旅立っていった。

 これからあの子たちは、俺が今まで出会ってきた以上のポケモンたちと出会うだろう。

 その詳細なデータも、これからは博士のもとへ送られてくる。

 

 そう考えると、もう俺がここにいる意味は薄い気がした。

 

 もちろん、研究所のポケモンたちの世話をするって道もある。

 けど、それなら俺じゃなくてもいい。

 ここには俺以外にもたくさん研究者がいるし、俺が教えられることを教えた相手もいる。

 

 ──潮時だ。

 

「うん……博士」

 

「んん? どうしたんじゃ?」

 

「俺もそろそろ、ここを発とうと思います」

 

 博士は少し寂しそうに笑いながら、頭をぼりぼりと掻いた。

 

 ……あんまりやりすぎないようにしてくださいよ。

 その、ほら。若くないんだから。なくなったら……さ? ……ね? 

 

「そうか……。思えば君とも長かったのう。君と過ごした毎日は刺激で溢れておったわい」

 

「俺もいろいろ勉強になりましたよ。たまたま見つけてもらって、そのまま雇ってもらえるとは思いませんでしたし」

 

「最初は怪しいとは思っとったんじゃがな? ポケモンには好かれるし、あの三人とも仲良くできておったからの」

 

 怪しいと思ってたんかい。

 

 ……まあ、そうだろうけど。

 逆の立場だったら、俺も疑うし。

 

「次はどこに行く予定なんじゃ?」

 

「う〜ん……特に決めてませんね。とりあえず、カントーをぶらぶらしようかなと」

 

 ぶらぶら歩いて、頼まれごとがあれば何でもやる。

 それが万屋だからな。

 

 旅は道連れ、何とやらってね。

 

 

 

 

 

「さあて。どこ行くか、メタモン」

 

「めたぁ〜」

 

 メタモンは俺の肩の上で身体をぐにょ〜っと伸ばし、ぺたりと一方向を指した。

 

 ふむ。

 メタモンが言うなら、こっちだな。

 

 ……とはいえ、歩くの面倒くさいな。

 

「なあメタモン。なんか鳥ポケモンに変身して『そらをとぶ』とか……」

 

「めた」

 

「あ、やりたくない……そうですか」

 

 ……まあ、そんなこともある。

 けれど、それでいい。

 

 行き先なんて、歩きながら決めればいい。

 どうせまた、面倒ごとの方から勝手にやって来るんだろうしな。

 

 

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