ふぃ〜……なんとか抜け出せたか。
舞台中央に観客の視線を集め、その隙に会場から脱出。
あまりにも華麗すぎて、俺、怪盗もいけるんじゃね?
「メタモン、満足か?」
「メメッ!!」
こいつ……めちゃくちゃ笑顔じゃねぇか!
よっぽど嬉しかったらしい。
よしっ!
顔は仮面で隠していたし、服装だって借り物だ。
俺だとバレることはないだろう。
……たぶん。
さて。
それじゃあ当初の予定どおり、ズイタウンの遺跡へ向かうとしますかね。
ヨスガシティから北東へ進み、209番道路へ入る。
小さな川が流れる、のどかで気持ちのいい場所だ。
道の途中には、少し崩れた塔のようなものがあり、その先にはカントーのポケモンタワーを思わせる建物も見える。
けれど、一番目を引くのは、辺り一面に広がる広大な土地だろう。
なんでも、ズイタウンにある育て屋が管理している土地らしい。
カントーにも育て屋はあったが、ここまで広くはなかったからな。
「すみません。ズイの遺跡って、どの辺りにあります?」
俺は育て屋の前で広い敷地を眺めながら微笑んでいるお爺さんに声を掛けた。
……なんだろう。世界共通かは分からないが……
育て屋って、老後の趣味として流行ってるのか?
「ん? おお、ズイの遺跡かい。それなら、ここから真っすぐ行ってじゃな……」
お爺さんは親切に道を教えてくれた。
だが、やはり「遺跡」というだけあって、ズイタウンのど真ん中にあるわけではないらしい。
しばらく歩き、街を外れた森の中を進む。
木々の隙間から差し込む木漏れ日。
鳥ポケモンたちのさえずりだけが静かに響く森の奥で、一つの石造りの神殿がゆっくりと姿を現した。
長い年月を感じさせるその佇まいは、自然と一体となりながらも、不思議な威厳を纏っている。
「……お〜すげぇ」
思わず声が漏れた。
木漏れ日に照らされたその神殿は、まるで長い眠りから目覚めるのを待っているかのようだった。
少しだけ胸を高鳴らせながら、俺はゆっくりと遺跡の中へ足を踏み入れた。
神殿の内部は真っ暗というわけではなかった。ある種の観光名所だし当然と言えば当然だが。
奥に進めば『アンノーン文字』と言われる壁画が姿を現す。
俺は常々思っていた事がある。長年謎だと言われてきたアンノーン文字。少しだけイッシュ語とか、世界各国の言語と似てるんじゃ無いかって。
俺はスタスタと階段を降りたり上がったりとしながら奥に進む。
……昔の人間はなぜこんな構造にしたのだろうか。何者かの侵入を拒みたかったのか? まあ、昔から墓荒らしとかもいただろうし、神殿に何かあるだろうと思われるのも無理はないが。
途中で探検家らしき人から話を聞いたが、この遺跡ではアンノーンを見ることができるらしい。
確かに、壁に刻まれた文字へぴたりと収まっているアンノーンを何匹も見かけた。
試しに一匹引き剥がしてみたのだが、すぐに元の場所へ戻って張り付いてしまう。
……アイツらなりのこだわりでもあるんだろうか。あ、ごめんて。睨まないで。
アンノーンと戯れながら歩き続けると、やがて広間のような空間へ辿り着いた。
辺りを見回しても先へ続く道は見当たらない。
どうやらここが最奥らしい。
ここにも、道中と同じようにアンノーン文字で埋め尽くされた壁があった。
……しかし、見れば見るほど謎だ。
かつてこの神殿を築いた人々は、何を思ってアンノーンで文字を残したのだろう。
イッシュ語に少し似ている。ガラル語にも、カロス語にも、どこか共通する雰囲気がある。
──う〜ん…世界中の言語の片隅に、アンノーン文字の名残が残っていると言った方が近いのかもしれない。
もしシンオウが世界の始まりの地だという神話が事実なら。
世界へ広がった人々と言葉もまた、このから枝分かれしていった……そんな可能性も、ゼロではないのかもしれない。
「おやおや。ここまで人が来るのは珍しいですね」
声がした方向に向くと、降りてきた階段のそばに黄色いジャケットを着たバックパッカーのような格好をした男が静かに立っていた。……初対面だけどなんかうさんくさぇな。
「珍しいもんなんですかね? ズイタウンじゃ有名な場所でしょう?」
「感性というものは、人それぞれですよ」
男は壁に刻まれた文字へ目を向ける。
「ワタクシにとって遺跡は、とても興味をそそられるものです。しかし、誰もがそう思うわけではありません」
「……な、るほど」
なんだ。うさんくせぇけど意外と話の分かる人じゃないか。
──そう。
人は、自分にとって価値のないものなら、誰かの大切なものですら簡単に壊せてしまう。
それが人間だ。愚かで、醜く、卑劣な、"人"という生き物だ。
だからこそ、こういう場所を大切に思える人間を見ると、少しだけ安心する。
……逆に、その価値を理解しようともしない連中のことを思うと……。
──反吐が出る。
「……ふっ、アンタ優しいんだな」
「?──どうしてですか?」
「歴史ってのは、人が生きた記録の積み重ねだ。それを大切に思うのは理由がどうあれ、俺は好きだぜ」
「──チッ」
あ?
なんだコイツ。舌打ちしやがったか!?
人がせっかくカッコつけたのによ! てか初対面の人にする態度じゃねぇだろ!
「ああ、気にしないでください。アナタを見て、少し腹が立つことを思い出しただけですので」
レッドみたく帽子を深く被っているせいで表情は見えない。
だが、なんとなくものすごい顔をしているのだけは想像がついた。
「そ、そうか……」
「ええ。では、ジブンはもう行きます。……もしよろしければ、これをどうぞ」
男は俺の手に、きんのたまを一つ乗せた。
……え? いや、変な意味じゃないよな?
俺にソッチの気はないぞ?
「……なんて顔をしているんですか。変な意味はありませんよ」
「だ、だよなぁ……? まあ、ありがとう」
「ええ、それでは」
男はそのまま階段を上がっていく。
しかし途中で立ち止まると、こちらを振り返らずに口を開いた。
「そうそう。その壁画には、こう書かれています」
──全ての命は、別の命と出会い、何かを生み出す──と。
「へぇ~、ありがとうな」
ふーん。
この壁画はそういう意味だったのか……。
──ん? ……いや、待て……?
あの男……今、この壁画を読んだのか?
というか、読めるのか?
再び階段に目をやるが、男はもう居なかった。
「不思議なやつだったなぁ……なあ?」
「モン?」
「H?」
あらら。
アンノーンと仲良くなってんね。
捕まえないから安心しろ。
ふむ。じゃあ、そろそろ外に──
「ようやく見つけたわ!」
突然、遺跡の中に凛とした女性の声が響いた。
振り返ると、そこには金色の長い髪を揺らしながら荒い息を吐いている美人の姉ちゃんが立っていた。
……誰だ、このパツキンの美人。
「見つけた」って何?
俺、探されてたの?
……っ!? もしかしてコンテストの件か!?
だったらまずいぞ……!
「ええっと……見つけた、とは何でしょうか……?」
「貴方、ミオ図書館で働いていた人でしょう?」
「え?」
「係の人から聞いたわ!」
……ミオ図書館。
シンオウに来て間もない頃、少しだけ世話になった場所だよな?
ってことは……。
あれから結構時間が経ってるよな…
まさか、今の今まで俺を探してたのか?
……怖いって。
「貴方、何でも屋らしいじゃない? だから貴方に依頼したいことがあって」
……あ、なんだ。
仕事の話だったのね。
も〜、それならそうと早く言ってくださいよ。
……っぶねぇ。コンテストの件じゃなくてよかった……。
「ああ、承知しました。しかし、それはそれとして……とりあえず外へ出ましょうか。詳しいお話はポケモンセンターで伺います」
「ええ」
───────────────────────────
ズイタウンのポケモンセンター。
カフェテリアの窓からは、広大な育て屋の土地と、その向こうにそびえる美しいテンガン山が見える。
だが、私の視線は景色ではなく、目の前の青年へ向いていた。
カナタと言うらしい男はメタモンと共に書類を机へ広げ、慣れた手つきで契約書を作成している。
「なるほど。つまり今回の依頼は、論文の添削・改善、その他雑務、それにフィールドワークによる現地調査……という認識で間違いありませんか?」
「ええ。それと……時々でいいんだけど、貴方自身の意見も聞かせてほしいの。……むしろそれが一番お願いしたいことかもしれないっていうか……」
「問題ありません。その内容も『その他雑務』に含めるものとしますね」
彼は迷いなく契約書へ書き込んでいく。書類に目を落としてペンを握っている姿はなかなか様になっている。
「報酬につきましては、こちらに記載した口座へお振り込みください」
「わかったわ」
……意外。
何でも屋と聞いていたから、もっとラフな人だと思っていた。
けれど仕事となると、一つ一つ確認を取りながら契約内容を整理し、必要事項を漏れなく書き込んでいく。
提示された契約書にも、不自然な点は見当たらない。
「あ、メタモン。これコピー取っておいてくれ」
「メッ!」
メタモンはドーブルへと変身すると、シロナが署名した契約書を寸分違わぬ形で複製してみせた。
「……え」
思わず声が漏れる。
コピー機いらずなの? え、便利。
「では、これで契約成立となります」
二部に分けた契約書のうち、一部を私へ差し出した。
「契約の終了についてですが、原則として双方の合意の上で行うものとします。ただし、こちらで『もう必要ない』と判断した場合には、改めてご報告させていただきます」
「ええ。それで構わないわ」
基本的には双方の合意。
つまり、私が納得した上で契約を終了するか、彼自身が『必要ない』と判断しない限り、契約は継続されるということだろう。
ならば、こちらから手放す理由はない。
少なくとも、彼から聞きたいことは山ほどある。
「それじゃあ、早速聞きたいことがあるのだけれど……いいかしら?」
「ええ、どうぞ」
待ってましたとばかりに身を乗り出しそうになるのを、どうにか堪える。
私がどうしても聞きたかったこと。
そして、今回執筆している論文の根幹にも関わる──神話についてだ。
「貴方は、カントーとジョウトに滞在していたことがあるのよね?」
「ありますね」
「特にジョウトでは、このシンオウ地方との繋がりを感じたと聞いたわ」
彼は僅かに目を細めた。何処か懐かしそうにしている。
私は机の上で指を組み、真っすぐに彼を見る。
「その話、詳しく聞かせてもらえるかしら」
千載一遇の機会だ。逃してなるものか。
───────────────────────────
「なるほど……つまり、ジョウト地方とシンオウ地方には深い繋がりがある、と……」
シロナは腕を組み、何かを整理するように小さく頷いた。……様になってんなぁ……
「アルフの遺跡……やっぱり一度、きちんと調べてみたいわね……」
全身黒コーデのパツキン女──シロナは、目を輝かせながら俺とメタモンを見つめている。
「ねぇ、メタモン。あなたが見たっていうポケモンに変わってみてくれないかしら……!」
「メタ……ぁ?」
突然話を振られたメタモンは、困ったように首を傾げた。
「ガブァ……」
おい。メタモンに勝手なこと頼むな。
困惑してるじゃねぇか。
ガブリアスもなんとか言ってくれよ。
あと、涎垂らすな。美人なんだから少しはさぁ……
「あ〜……とりあえず、大丈夫ですかね?」
「っ!! そ、そうね!」
ようやく我に返ったシロナは咳払いを一つする。
「と、とりあえず連絡先を交換して、それから私の論文の修正をお願いしたいわ」
論文の修正ね。
まあ、オーキド博士の研究所でもそういう仕事はしていたし、そこは問題ない。
……内容にもよるけど。
「分かりました。どれくらいの量ですかね?」
「えっと……たしか、このくらいだったかしら」
シロナが両手で示した厚みは、ちょうどミックスオレの缶ほど。
……。
…………。
いや、アホか!!
今からやったとして、一体どれだけ時間が掛かると思ってんのや!!
お久しぶりです。いや〜もう本格的に夏ですね。仕事も忙しくなり大変です。
私事ですかポケモンの工芸展?に行って楽しんで来ましたよ。日本の伝統がポケモンと融合した素晴らしいものでしたね。
それはそれとしてあっちぃ…