次書くならそっち系を書いてみようかな?
神殿の中はひんやりとしている。
だが、吹雪の中を歩いてきた身からすれば、外よりは断然暖かい。
外から差し込んだ光が雪に反射して入り込んでいるのか、明かりらしい明かりがないにもかかわらず、神殿の内部はうっすらと青白く照らされていた。
「……すげぇな。ズイの遺跡も凄かったが……ここはそれ以上だな」
「ええ」
隣を歩くシロナも、いつの間にか研究者の顔になっていた。
「調査が進んでいるとはいえ、まだほとんど手付かずだもの。壁画、石像、建築様式……ここにあるもの全てが歴史的資料と言ってもいいくらいよ」
「そりゃ研究者には宝の山だな」
「そうなのよ!」
「うおっ」
食い気味に来たな。
目ぇキラッキラじゃねぇか。
俺はシロナから少し距離を取りながら、改めて神殿の中を見回す。
石造りの巨大な柱。
壁面に刻まれた、今では意味の分からない文様。
そして神殿の内部には──複数の巨大な石像が佇んでいた。
「……あれは?」
まるで腕を胸の前で交差させるような姿。
長い年月のせいか、全身には無数のヒビが走り、ところどころ欠け落ちてもいる。
「よくここまで原型を保ってるもんだな……」
一体、どれほど昔からここにあるんだろうか。
俺は肩に乗っている相棒へ目を向ける。
「メタモン」
「メ?」
「念のため、ボールに入っとくか?」
何があるか分からない場所だ。
遺跡そのものが脆くなっている可能性もあるし、野生のポケモンだっているかもしれない。
だが──
「メッ!」
メタモンは即答するように首を横へ振った。
そのまま俺の肩にぺったりと身体をくっつける。
「……そっか」
まあ、お前がいいならそれでいいけどさ。
「落ちんなよ?」
「メッ!」
俺はメタモンの頭を軽く撫でると、再び神殿の奥へ目を向けた。
静かだ。
外ではあれほど吹き荒れていた風の音さえ、ここまではほとんど届かない。
まるで──この場所だけが、遥か昔から時間を止めているようだった。
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シロナからは、『気になるものがあれば、写真を撮っておいてほしい』
と言われ、カメラを持たされている。
言われた通り、俺は神殿内部を歩きながら気になった場所を片っ端から撮影していく。
建材が剥がれ、内部の石材が露出している場所。
経年劣化によって亀裂が入っている柱。
壁面の文様、神殿内部の構造が分かるような全景写真。
こういうのは後から見返した時に、思わぬ発見があったりするからな。
「……う〜ん」
「メタ〜?」
しかし……写真を見返しながら肩の上でメタモンも俺と同じ方向へ首を傾げる。
なんというか。
個人的には、少しだけ違和感がある。
キッサキ神殿は、どうしてここにあるんだ?
街から少し歩いただけの場所に、まるで最初からそこに置かれていたかのように、ちょこんと存在している。
大抵、神殿というものは──神に近い場所へ造られる。
空に近い山頂、人里から遠く離れた聖域。
あるいは、その土地で特別な意味を持つ場所。
もちろん全部がそうだとは言わないが……。
これだけ巨大な神殿を建てるなら、わざわざこの場所を選んだ理由があったはずだ。
「貴方達、本当に仲良しね」
「ん?」
振り返ると、いつの間にかシロナが立っていた。
「どうしたの? 二人して。何か気になるところでもあった?」
どうやら、ようやく自分の世界から帰ってきたらしい。
さっきまで壁に張り付いて調べてたからな、この人。
正直言ってキm……
「う〜ん……いや」
俺はもう一度、神殿の内部を見回す。
「個人的にちょっと気になっただけだよ」
「そう?」
「それより昼にするか。神殿を汚すわけにもいかねぇし、一旦外に──」
「外は吹雪いてるわよ」
「……そうだった」
「ここで汚さないように食べましょう」
「了解」
こういう時のために用意しておいたレジャーシートをリュックから取り出し、床へ広げる。
「……随分用意がいいのね」
「一週間籠もるつもりで来たんだから、そりゃな」
その上へ持ってきたギアを一つずつ並べていく。
「…………」
「ん?」
シロナが妙な顔でこちらを見ている。見てないでお前も手伝え。
「どうした?」
「手慣れてるわね」
「まあ、これでもそこそこ長いからな。な?」
「メタ」
まったくだ、と言わんばかりにメタモンが頷いた。
思えばお前とも長い付き合いだよな。
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「ほい、お茶」
「ありがとう」
湯気の立つカップをシロナに手渡す。
熱いから気をつけろ? まあ、この寒さだし問題ないとは思うけど。
「砂糖とミルクはそこな?」
「うん」
シロナは砂糖を少し、それからミルクを注いで軽くかき混ぜる。
意外〜甘いのが好きなのか? なら今後の飯は少しだけ甘くするか? いや……何でもかんでも甘いのは違うか?
「ん……おいしい。これ高いでしょ? 大丈夫なの? お金とか」
「お目が高い。だが金のことなら心配ねぇよ。これ自家製だから」
なんせ、カントー産モンジャラの葉を頂戴して作ったお茶だからな。
そこにミルタンクのモーモーミルクなんて入れた日には、アフタヌーンティーを越えてオールデイティーになっちまうからな。
「…………」
我ながら何言ってんだろ。
まあ、美味いならヨシ。
「ねえ、聞いていい?」
「うん?」
カップを両手で包みながら、シロナがこちらを見る。
「貴方って、いつからこの仕事をしてるの?」
「この仕事?」
「何でも屋」
突然だな。
俺の仕事──万事屋の始まり、ねぇ。
「ガキの頃からだよ」
「そんなに昔から?」
「まあな。最初は仕事ってほどじゃなかったけど」
困っている人がいれば手伝う。
壊れた物があれば直す。
ポケモンを探したり、荷物を運んだり。
頼まれれば何でもやった。
金を貰うこともあれば、飯を食わせてもらって終わりなんてこともあった。
「ちゃんと仕事にし始めたのは、メタモンと一緒になってからかな」
「メタ♪」
隣で昼飯を食べていたメタモンが、嬉しそうに身体を揺らす。
「へぇ……」
シロナはふんふん言いながらお茶を飲み進めている。……うん、話振ったくせに飲むのに夢中かよ。
まあいいけどさ……。
俺は今幸せだし、メタモンがいるから寂しくない。
「俺も話したんだ、お前も話せよ」
「わ、私?」
当たり前だろ。俺ばっかり不公平だろ? ガブリアスとの馴れ初めを聞かせてもらおうじゃないの。
「私のガブリアスはある人から貰った卵から孵った子なの」
「ドラゴンタイプのポケモンを一から育てるなんてのは難易度が高いだろうに、よくやったな?」
「最初は苦労したけどね? ジムチャレンジや冒険をしていくうちに、今では唯一無二の相棒よ」
シロナはガブリアスを見つめながら微笑む。当の本人であるガブリアスは恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻いている。
そうか……卵からとは。初めてのポケモンがドラゴンタイプかつ、卵から。しかも今では手持ちのエースとはな。運命的じゃないのよ。
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休憩を終えた俺たちは、すぐに調査を再開した。
一階だけではない。
階段を見つけるたびに地下へ降り、壁や柱、石像なんかをシロナと手分けして調べていく。
「…………」
……やっぱりだ。
調べれば調べるほど、違和感が強くなっていく。
最初はただの思いつきだった。なんで、この神殿はここにある?
それだけだったはずなのに。
内部を歩いて、写真を撮って、階層を降りていくうちに、その疑問が頭から離れなくなってきた。
ここ最近になって、ようやく本格的な調査ができるようになったとは聞いている。
それでも、俺やシロナより先にここへ入った研究者はいるはずだ。
誰も気付かなかったのか?
それとも──気付いた上で、答えが出ていない?
「シロナ」
「なに?」
「この下が最後の階なんだよな?」
「ええ。現在確認されている構造では、地下五階が最下層よ」
「……そっか」
石造りの階段を一段ずつ降りていく。
下へ行くほど、空気が冷たくなっていく。
そして──地下五階。
「うお……」
思わず白い息が漏れた。
広い……上の階層とは比べものにならないほど巨大な空間が広がっている。
壁際には氷が張り付き、天井からは大小様々なつららが伸びていた。
床の一部まで凍りついている。これは間違いなく滑るだろうな……
そして、その最奥。
巨大な何かが佇んでいる。
一階で見たものとは比較にならないほど大きな巨像。……えらいカラフルだな。
「さすがにここまで下りてくると寒いわね」
シロナも白い息を吐きながら、自分の身体を抱くように腕を組んだ。
「まあ、風がないだけありがたいけれど」
「それはそう。しかし……ここはまるで冷蔵庫だな」
外の吹雪に比べりゃ天国だ。
……寒いのに変わりはないが。
「メタ……」
肩のメタモンも少し縮こまっている。
「寒いならボール入るか?」
「メッ」
また拒否された。
頑固な奴だなぁ。ここ最近はレッドを意識してるのかボールに入りたがらない。
4キロって意外と重いんだよ?
「それじゃあ探索といきますか」
「ええ!」
俺はカメラを構え、最下層をゆっくり見回す。
広々とした空間に佇む巨像とこれまでの道のり、神殿の外見から推測される内部とはえらい違いだ。
「…………」
「どうしたの?」
「いや……」
ずっと感じていた違和感。
それが最下層まで来たことで、むしろ強くなっている。
俺は階段を振り返った。
一階から、ここまで。
頭の中で神殿の構造を組み立て直していく。
「……シロナ」
「なに?」
「この神殿の見取り図ってある?」
「あるけど……どうして?」
「お前の論文には使えないと思うが……一つ気になったことがある」
その言葉を聞いた途端、シロナの目つきが変わった。
「何か気付いたのね? 聞かせて」
「……お前の論文って、シンオウ神話についてだろ?」
「ええ」
「でも多分、ここはシロナが調べてる神話とは別のものだと思う」
「……どういうこと?」
これに関してはただの勘だ。証拠なんてものはない。
だから論文には使えない。
ただ──
「ここって、シンオウの大地を引っ張ったっていう巨人を祀るための神殿だったんじゃないか?」
「…………」
シロナは俺の言葉を聞くと、顎に手を当てて考え込んだ。
その視線が巨像から柱へ、柱から壁へと移っていく。
……やっぱ様になってんなぁ。
さっきまでお茶飲んで喜んでた人と同一人物とは思えん。
「なるほど……」
やがてシロナが口を開いた。
「かつてシンオウの大地を形作ったとされる巨人。それを冠するポケモンを祀る場所……それが、この神殿……」
「俺はそう思ってる」
少なくともディアルガやパルキア、あるいは、シロナが調べている世界の始まりに関する神話。
それらを祀った場所には、どうしても見えなかった。
「あともう一つ」
「まだあるの?」
俺は後ろを振り返る。今まで降りてきた階段の構造に違和感があったのだ。
何故地下五階まで存在するのか。神殿の外見からはとてもじゃないが地下があるようには見えなかった。
「元々、俺たちが入ってきた場所は……『一階』じゃなかったんじゃないかって思ってる」
「……!」
シロナの表情が変わった。
「どういうこと?」
「最初から違和感があったんだよ。なんで、これだけデカい神殿なのに地下ばっかりなんだ?」
「…………」
「地下五階まであるのに、地上は一階だけ」
普通なら、地下に何らかの目的があったと考える。
けど特に何かあるわけでもなく、一番最下層にこの巨像が存在するだけ。なら道中の階層はなんのためなのか……
「これは仮説だぞ? もしかしたら──」
長い年月の中で地形が変わり、埋もれ、雪が積もり、建物が崩れて今の状態になったのではないか?
「今の一階より上にも、神殿が続いてたんじゃないか?」
今俺たちが『一階』と呼んでいる場所。
そこは本来、神殿の中腹、もしくはそれ以上の階層だったんじゃないか?
「上側が崩れたのか、それとも神殿そのものが地面に埋まったのか……なにが原因でそうなったのは分からん」
「でも、そう考えれば……」
何故これほど巨大な建造物なのに、地上の外見だけが不自然なほど小さいのか。
何故、最下層がこれほど深い場所にあるのか。
そして──何故、キッサキ神殿がこんな場所にあるのか。
「……やっぱり」
「ん?」
シロナがこちらを向く。
その顔には──ものすごく獰猛な笑みが浮かんでいた。
「貴方と出会えてよかったわ!」
「……お、おう」
「早速まとめましょう!!」
「はぁ? ちょっ! おい!!」
突然腕を掴まれる。
そのままシロナは、階段を勢いよく登って入り口へ一直線に歩き始めた。
「待て待て待て!」
「こうしてはいられないわ! 見取り図と照合して、地質資料も確認して、それから過去の積雪量と──」
「行く! 行くから!」
だから引っ張るな! 腕がちぎれる! ちょっ!
「は、離せって! 力強っ!!」
「早く!」
「分かったってのぉぉぉ!!」
こんなにも周りが見えなくなるもんかな!? これだから学者ってやつはぁ!!!!
ズッ──ズッ……。