早くHOMEと連携ほしいなぁ
レッドに勝つ。
言うのは簡単だ。
けど、あいつだって修行して、今この瞬間も強くなり続けている。
事実、俺は負けたんだから。
……じゃあ、俺に足りないものは何だ?
知識か? 経験か? それとも……もっと別の何かか?
でも、あいつと──カナタと戦って、ひとつだけはっきり分かったことがある。
自分より強い相手と戦うことは、確実に多くのものを得られるってことだ。
強いってのは色々あるが、少なくとも野生のポケモン相手じゃない。
技を読み、指示を飛ばし、ポケモンと息を合わせて戦うトレーナー……だろうな。
そういう相手と、何度でも戦える場所……。
──!!
へへっ。使うもん使わないと損だもんな!
───────────────────────────
「うーん……どうしたものか……」
執務室の無駄に座り心地の良い椅子に座りながら、まるでコダックのようにズキズキと痛む頭を押さえる。
ここ最近立て続けに起きた衝撃的な出来事が、四天王にしてチャンピオン代理を務めるワタルの頭を大いに悩ませていた。
カントー地方最年少のチャンピオンが誕生した。
それも、たった短い間に二人も。
どちらの少年も、トレーナーとして並外れた才を持ち、ポケモンに愛され、また心からポケモン愛していた。
まさに、チャンピオンの座にふさわしい子どもたちだった。
しかし──二人目の少年。
チャンピオンに就いたばかりの彼は、我々ですら思わず耳を疑う言葉を口にしたのだ。
『俺は……チャンピオンにはなりません……』
『な、何故だい!?』
『俺は…………まだ旅がしたいです…………』
リーグを勝ち上がり頂点に立った者がまさか……その頂点の座に座りたくないときた。
そもそもカントーリーグで僕たち四天王まで届く者が少ないのだ。それ故にリーグ開設以降、ジムバッジ全てを揃えてリーグに挑戦して僕の所まで来るトレーナーは居なかった。
『し、しかし……っ』
『おやおや。若者の旅路を邪魔するなんて、ちょっと野暮じゃないかい?』
『キクコさん!』
『チャンピオンくらい、あんたがやりな! ドラゴン使いなんだし、ちょうどいいさね!』
『勘弁してくださいよ……!』
強いだけで務まるほど、チャンピオンという名の称号は安くない。
だが、だからといって旅の途中にいる若者の背を無理やり掴むのも違う。
「……はぁ。本当にどうしよう……」
僕は代理として一応チャンピオンの座についてはいるが……仮にこのまま正式にチャンピオンになるなら、四天王も補充しなければならないし、リーグ全体の体制も考えなければならない。
……やることが多い。多すぎる。
「ん?」
その時、部屋に備え付けられた電話が鳴り響いた。
誰だ?
こんな大変な時に。……そういえばポケモンタワーに関してシオンタウンの開発事業者から連絡あるって聞いたような……
「はい……ワタルですが……」
『この間ぶりだな! オレ様だぜ!』
「グリーン君!?」
今まさに頭を抱える原因の一端でもある少年、グリーン。何故彼がここに電話を……
いや、待て。むしろ好都合じゃないか!
そうだ、彼にチャンピオンをやってもらえばいい! 元々彼だって僕を倒しているし、ちょうど良い!
それなら僕は四天王として続投できるし、リーグの体制も──
『トキワジムってジムリーダー不在だったよな! オレがなってやるぜ!』
「え」
『とりあえずアンタには話通しといた方がいいと思ってよ! 一応、委員会にも許可もらってっから! じゃ!』
「ま、待ってく──」
通話はそこで、ぷつりと切れた。
……最悪だ。
確かに、トキワジムのジムリーダーはロケット団に関わっていた人物だったらしく、今では行方知れず。そのまま除籍処分になっている。
空席があるのは事実だ。
──事実だけども……
何で君がなるんだい!?
どういう風の吹き回しなんだよ!!
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──3年後 トキワジム
「お前がジョウトのジムを全部制覇したって? ……くっ、はははっ! ジョウトのレベルはそんなもんかよ。まあいいさ、戦えば分かることだ」
グリーンは不敵に笑い、ハイパーボールにも似たような帽子を被った挑戦者を真っ直ぐ見据える。
「──お前の実力が、本物かどうかはな!!」
「負けませんよ、グリーンさん! オレが勝ったらモーモーミルク奢ってもらいます!」
「……は?」
一瞬、グリーンの顔が止まった。
「なんでモーモーミルク?」
「……え? 好きなんですよね? モーモーミルク」
「ふざけんな! 誰情報だそれ!!」
「ええ!? じゃあ、お兄さん嘘言ってたのか……?」
「……アイツは今度会ったらタダじゃあおかねぇ……ひとまずオマエに八つ当たりするぜ!」
「理不尽だ!!!」
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ふっ、いい顔になった。
シオンタウンにいるとは聞いていたが、あんなにやばい顔してるとは思わなかった。
まあ、久しぶりにメタモンもバトルで身体を動かせたし、何はともあれ一石二鳥ってやつだな。
俺は無事にポケモンタワーでの仕事を終え、次の約束があるタマムシシティへ向かっていた。道中いろんなポケモン絡まれたり、一生お茶啜ってるお前の胃袋どうなってんの? と思うような警備員に会ったりと色々あったが、無事に目的地には着いた。
……のだが。
「があああ!!! クソがぁ!!!」
「あっはははは!! お兄さんめっちゃ吸われてるじゃないっすか!」
「……まだだ! まだ終わらねぇ!! 人の夢はぁ!!」
約束の時間までまだ余裕があったので、ゲームコーナーでスロットに熱くなっていた。
このゲームスロットも、最近いろいろあったらしい。
何でもロケット団とかいう、いかにも「怪しいです」みたいな連中の隠れ蓑になってたんだとか。
うん。なんで?
普通バレるだろ。
普通に考えたらそういう団体がどこから金を引っ張ってくるのかとか、よくよく調べれば分かると思うんだが……もしかしてカントー委員会って無n──
「めた」
うん、この話はやめよう。
メタモンがすんごい顔してた。
テレパシーはフーディンとかのエスパー系に変身しないと使えないはずなんだけど……今のは確実に「それ以上はいけない」って言われた気がする。
「は〜あ……よっと」
「あれ? もう行っちゃうんすか? これから当たる気がしますよ〜?」
「バカ、仕事の時間なんだよ。それにこれ以上やったら生活費にまで手ぇ出しそうだ」
「何言ってんすか。いいすか? 課金は家賃までっすよ」
……駄目だこいつ。
クマだらけの顔したこのスロカス女、本当に筋金入りだな。
その様子じゃ、ここ最近ろくに寝てもいないくせに、わざわざ打ちに来てるだろ。
……たくっ。
「うるせぇよ……メタモン、さいみんじゅつ」
「メタっ!」
メタモンはスリーパーにへんしんすると、指先の振り子を揺らしながらさいみんじゅつをかけた。
みるみるうちに女の目は虚ろになり、口元からは涎まで垂れ始める。
きたねぇ。
「よし。そのまま家に帰るよう暗示頼むわ」
「もん!」
「すろっとおお……」
「お〜お……執着やばすぎだろ。アーボックかよ……」
はぁ……少し時間を食っちまった。
まあ、今日の依頼はジム周りの手入れだから、多少遅れてもそこまで問題はないんだけど。
ただ、個人的にタマムシジムのジムリーダーは少し苦手だ。
ぽわぽわした雰囲気で、いかにも清楚なお嬢様って感じの人なのだが、頭がとにかく良い。
このタマムシシティの大学で、講師まで務めているほどだ。
グリーンたちより年上とはいえ、15か17くらいで大学の講師をしているとなれば、どれだけ頭がいいかは分かるだろう。
一見すると、「苦手になる要素ある?」と思うかもしれない。
だが、そこが問題なのだ。
こんなハイスペックな人に、俺みたいなのが少しでも近づこうものならどうなるか。
ファンクラブの連中が、めちゃくちゃ面倒くさい。
「はぁ〜あ……」
「もん……」
大丈夫だよ、メタモン。
仕事を投げたりはしねぇよ。……多分。
うだうだ言ってても仕方がない。
俺は意を決してジムの扉を開けた。
……まあ、自動ドアなんだけど。
「こんちわー」
「ん? あら、ジムチャレンジャーの方ですか? 今日は予約は入ってなかったはずですが……」
「ああ、いえ。先日ご連絡いただきました万屋です。ジムリーダー、エリカ氏から依頼を受けて、ジムの清掃に来ました」
俺が“エリカ”という名前を口にした瞬間、相手の目の色が変わる。
あー、くそ。やっぱりだ。めんどくせぇ〜……
「エリカさんに……? 失礼ですが、少々お待ちいただいても?」
「ええ、もちろんです」
受付をしていた女性トレーナーが裏に入っていく。相変わらずここのジムは女の園になっているようだ。よくこんなジム突破できたなアイツら……
しっかし……うーん……。
ぱっと見た限り、手入れが行き届いていないようには見えない。
まあ、多少は草木のツルが伸びているが、ここにいる人たちだけでも十分対処できる程度だ。
……となると、本腰入れて手を入れるべきはジムの外か。
このタマムシシティのジムは、ジムリーダーが花好きで有名だ。
そのため、ジムの中も外も色とりどりの花や草木で覆われている。
見るぶんには実に綺麗だが、管理する側からすればなかなか骨の折れる環境でもある。
「フラ?」
「お? どうした、お前」
足元を見ると、ジムで管理されているであろうラフレシアが、じっとこちらを見上げていた。
ラフレシア。
カントーでも屈指の大きな花を持つポケモンで、世界一とも言われるその花から放たれる花粉は、人によってはアナフィラキシーショックを引き起こしかねないほど危険だ。
見た目はのんびりしてるんだけどな。ギャプが激しいポケモンだ。
しかも野生でラフレシアに出会うことはほとんどない。
そもそもラフレシアは、『リーフの石』で進化するポケモンだ。
自然の中で暮らすクサイハナが、都合よくおちているリーフの石に触れて進化するなんてこともあるらしいが……まあ滅多にない。
だからこそ、こうして人の手が入った場所にいるラフレシアは、大概が管理された環境で進化した個体だと考えるのが自然だ。
「ラ、ラフ……」
「めた?」
「ラフ……」
……?
なんだ……?
どうしてこいつ、こんなに震えてるんだ?
「大変お待たせしました。ジムリーダーの確認が取れました。本日の依頼は、ジムの内外および周辺の手入れをお願いいたします」
「あ、はい。分かりました」
俺はひとまず道具を取り出し、作業に取りかかる。
けれど、ラフレシアは変わらずその場にいて、じっとこちらを見つめていた。
……なんだ、この感じ……?
そもそもラフレシアは、種としてかなり強い部類に入るポケモンだ。
どくのこな、しびれごな、ねむりごな。
厄介な技をいくつも使い分け、相手をじわじわ追い詰めていく。
さらに、クサイハナの頃から引き継いだ強烈な匂いもある。
本気を出せば、数メートル先にいる相手にまでしっかり届くほどだ。
なのにだ、
あのラフレシアは、ずっと震えている。
匂い自体は漂っているが、せいぜい「少し臭う」程度。人を気絶させるような濃さではない。
おかしい。
いくら人に管理されている個体だからといって、本気になれば人間くらい簡単に倒せるポケモンが、ここまで怯えているなんて──何があった?
……まあ、今は仕事だ。
メタモンにストライクへ変身してもらい、伸びた草木を手際よく剪定していく。
切り落とした草は、今度はマルノームに変身したメタモンがまとめて回収する。
その繰り返しだ。
「こんなもんか? あんまり切りすぎてもだしな。あとは外だな……」
ジムの外へ出て、建物全体を眺める。
……なるほど。
確かに、少し伸びてるな。
特に建物に沿うように伸びた草は、かなり高い位置まで絡みついている。
普通の手入れじゃ、なかなか届かないだろう。
「よしっ。メタモン」
「メタ!」
声をかけると、メタモンは脚立へ変身し、壁際へぴたりと立てかかった。
俺はその脚立を上りながら、ハサミで伸びた草を順番に切っていく。
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「ふい〜。そろそろ休憩するか」
「めた〜」
かれこれ数時間。
だいぶ綺麗になったし、これなら今日中に終わりそうだ。
「お疲れ様です」
そう言ってお茶を差し出してくれたのは、タマムシジムのジムリーダ──―エリカだった。
ジョウトの舞妓を思わせる着物を見事に着こなし、草タイプを操るその姿から、熱狂的なファンも多い。
まあ、それも分からなくはない。
容姿端麗、頭脳明晰、文句のつけようがないくらいに完璧なお嬢様。
……だからこそ、正直に言うと苦手だった。
最初の通り、俺みたいなのが彼女に近づけばファンクラブの連中がうるさい。
それだけでも十分面倒なのだが。
けど──
それ以上に、苦手なのはこの子の目だ。
なんて言えばいいんだろう……ニャースがポッポを狙ってる時みたいな。
あるいは、ゲンガーが影の中から人を見てる時みたいな。
上手く言葉にできない。
ただ、ぞわりと背中に引っかかるような視線だった。
「依頼を受けてくださって、ありがとうございます。ここはほとんど女性しかおりませんから、どうしても高い場所は殿方のお力を借りたくて」
「いえ、気にしないでください。こっちも、やりがいのある仕事で助かってますから」
「ふふふ……そうですか」
苦手なんだよなぁ……そのジロって見られる感じ……。
それに俺が博士の所から出ていって、タワーでの仕事が終わったと同時ぐらいに連絡があったからなぁ……なに? どっかで俺のこと見てたの君?
……はぁ……ちょっと考えすぎだろうな……多分博士とかが色々話してるんだろ。仕事があるのは嬉しいから何も言わないけどさ。
「よっこいしょ……いくか、メタモン」
「メタァ!」
「あら、もういいんですの?」
「ええ、小休憩ですから。しっかり仕事させてもらいますよ」
「うふふ……無理はなさらないでくださいね? それと……」
「はい?」
「ジムチャレンジなどはしないのですか?」
……ジムチャレンジねぇ。レッドにも言われたんだよなぁ……それ。
「貴方はとてもお強い殿方ですわ。それも、たった1匹のメタモンで私を蹂躙できるほどに……」
──買い被りすぎだろ。
「生憎と、そう言ったことに興味なくてね。名誉とか、大層なもんは俺には必要ないんでね」
「うふふふ……」
……なんだかなぁ
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小休憩を挟んでからぶっ通しで作業し、気づけばもう日が傾いていた。
ふう……何とか一日で終わった。
メタモンがいなきゃ、ここまで早くは終わらなかっただろうな。
「お疲れ〜、メタモン〜。マジで助かったぜ! 今日は奮発して、いいもん食うか!」
「メタッ!?」
めちゃくちゃ嬉しそうだ。
分かるぜ。汗水垂らして働いた後の飯は最高だよな。
特に風呂上がりのサイコソーダとか、ミックスオレなんかは格別だ。
「ラフ……」
……やっぱ、なんか変だよな。
「どうしたんだよ、お前……」
今日、俺が来てからこいつはずっと様子がおかしい。
ポケモンにも人間と同じように性格がある。
トレーナーに対して強気な『いじっぱり』もいれば、引っ込み思案な『おくびょう』な奴もいる。
けど、こいつのこれは、そういう話じゃない気がした。
「はぁ……もう仕事は終わってるってのに……お前をそのままにして帰れねぇじゃねぇかよ」
まあ、乗りかかった船だ。
人間だって、時にはポケモンに助けてもらうことがある。
だったら、その逆があってもいいだろう。