みなさんGWはどのようにお過ごしですか? 私?勿論仕事ですよ。
ファッキュー!!
俺は無事、ジョウトへ向かう船に乗り込むことができた。
途中、マチスさんまで見送りに来てくれたのはちょっと嬉しかったな。
ライチュウも元気そうで何よりだ。
レッドのピカチュウに負けてからというもの、少し落ち込んでいたみたいだったから。
俺は意気揚々と潮風を浴びながら、背後に遠ざかっていくカントーの景色を眺めていた。
俺は基本的に、どこかに腰を落ち着けるつもりはない。
その日その日を違う場所で過ごして、新しいものを見て、新しい空気を吸っていたいのだ。
毎日毎日、同じことの繰り返しなんてつまらないだろう?
……けど、俺がジジイになった頃には。
こういう穏やかな場所に住むのも、案外悪くないのかもしれない。
そう思っていたのも束の間だった。
手に持っていた軽食が、ふっと消える。
「ビィ? ビィ!」
……玉ねぎみたいな見た目の、草っぽいやつが、俺の軽食を美味そうに咥えたまま飛び去っていく。
──やっぱ嫌いだわ!!! カントーなんて!!
「この野郎!! 待ちやがれ! 俺のサンドイッチ返せコラ!!」
「ちょ、ちょちょちょ!! 何やってんですか! 危ないですって!」
「メダァ〜ッ!!」
「離せコラ!! 返せ玉ねぎモドキがぁ!!」
メタモン!!
お前まで何で俺を止めるぅ!!
どこ触ってんねん! 何をするだぁ!!
メタモンも必死に子どもの姿へへんしんして俺を引き止めているが、大丈夫だ! メタモン!
俺なら流れの速い海だって10キロくらい泳げる!
だから離せ!!!
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ムキムキマッチョマンの変態の船員に拘束されて、ようやく少しずつ頭が冷えてきた。
……あと、物理的にも頭を冷やされた。
『ふたごじま』にいる冷てぇ鳥にへんしんするのは、ずるいだろ……メタモンよ。
あとせめて『こなゆき』じゃない? なに普通に『ぜったいれいど』撃ってくんだよ……
「はあ……。つっても、あと一日か……暇なんだよなぁ」
見渡す限り、当たり前だが一面の海。もうすぐ日が落ちるのか、水平線の向こうに太陽が入ろうとしている。
他の乗客たちは、それぞれポケモンバトルをしたり、パソコンを触ったりと思い思いに過ごしているようだが……ここ最近は慌ただしく動いていたが故に、うーん、暇だ。
──だが、その時。
俺の脳内に、まるで発電所を不法占拠していた鳥にぶち当てられた電撃のような閃きが走る。
「──そうだ。絵を描こう」
「め……めた?」
俺は鞄から鉛筆とメモ帳を取り出すと、鉛筆を構えながら何を描くか吟味する。
「……何描くかな。ただの海ってのも味気ないよな。なんかアクセントというか……」
そう呟きつつも、とりあえず海を描き始める。
もちろん、自分たちが乗っている船も入れてな。
それこそアクセントとして、あの水をぶっかけてきた青いやつを描き入れることもできたが、なんか癪だから入れたくない。
ギャアァ──ス!!!
「ん?」
水平線の先で、鳥……? のような翼を持つポケモンが、水飛沫をあげて海から飛び上がった。
舞い上がった水飛沫は夕日に照らされ、きらきらと輝いている。
残念ながら逆光でその姿まではよく見えない。けれど、率直に綺麗だと思った。
俺は視線を落とし、目の裏に焼き付いたその光景をメモ帳へ描き出していく。
「──見ろよ、メタモン。俺の初めての一枚にして、会心の出来だぜ?」
「……! メタッ!」
ペタペタと手を叩いて褒めてくれる。
うん、やっぱり分かるやつには分かるんだよな。
たった一枚の絵。
でも、ちゃんと自分で満足できる一枚だった。
俺だって、船で騒ぎを起こしたことは悪かったと思ってるさ。
……あの玉ねぎモドキは許さねぇけど。
だから、船を降りる時。
俺はアサギシティの受付にその絵を渡した。
とても喜んでくれた。
ふっ。
そりゃそうだ。何せ俺の記念すべき処女作だからな。
はぁ……つらいわー。
才能ある自分がつらいわー。
「…………」
……なんて目をしてるんだ、メタモン。
やめろ、ちょっと恥ずかしくなるだろ。
さてさて……
ジョウトに来たからには──
まずはエンジュシティに行かないとな?
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「これ……」
全身を黒で統一した長身の女性は、受付に飾られた鉛筆画に目を留めた。
美しい。
色のないモノトーンであるはずなのに、見た瞬間、どこか神々しいとさえ感じる。
まるで──『やりのはしら』で出会った、あの存在たちのようだと。
「おや、その絵が気になるのかい? それはもう何年か前になるかねぇ。ある観光客が船で騒ぎを起こしちまって、そのお詫びにって置いていったものでね。あんまり出来が良いもんだから、そのまま飾ってるのさ」
「……っ!! そ、その人! 今どこにいるか分かりますか!?」
「さ、さあねぇ……。ただの観光客だったし、私もいつもここにいるわけじゃないからねぇ……」
騒ぎと聞いて「もしかしたら」とは思った。
けれど、思い違いなのだろうか……
私がようやく自由になってからも、彼とはまだ一度も再会できていないのだから。
……いっそのこと、ヒカリちゃんに頼んで、強制的に呼び寄せようかしら……?
「お嬢ちゃんは観光かい?」
「……っ……ええ! このジョウト地方に遺跡があると聞いて……いても立ってもいられず……」
そう、私は私。好きな事に向かって自由に生きる。貴方が教えてくれたことよね? カナタ──
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俺はメタモンを定位置である肩に乗せたまま、エンジュシティへ向かって歩いていた。
ジョウトは、カントーよりも街道の整備が行き届いているように感じる。
まあ、当然か。
船はアサギシティにしか着かないし、そこから先は徒歩なり何なりで街へ向かわなきゃならないんだからな。
だからといって、ポケモンたちが追いやられている感じはしない。
むしろ、カントーでは見かけないようなポケモンたちが、種族も関係なくのんびり一緒に暮らしているように見えた。
そうこうしているうちに、丘の上から見下ろす形でエンジュシティの街並みが見え始める。
「おお〜、綺麗だな〜」
「モン!」
街は全体として非常に美しく整えられていて、伊達に観光地を名乗っていないらしい。
そして、街から北へ少し外れた先には、木造の塔が高くそびえ立っている。
……よくもまあ、あんな馬鹿みたいに高い木造建築が、何年も倒れずに建っていられるもんだ。
「とりあえず、ポケモンセンターで宿を取るか」
ポケモンセンターというのは、基本的にはポケモンの治療を専門にしている施設だ。
けれど、トレーナーが付き添いのために泊まれるよう、宿泊設備もある。
安いとはいえ、当然ながら料金はかかる。
まあ、ポケモンを治療する施設だからといって、何もかも無料ってのはさすがに割に合わないだろう。
多分、その地方のリーグからある程度の支援は入っているんだろうが、俺みたいなのは基本、ポケモンが“ひんし”にでもならない限り、治療目的でそうそう世話になることはない。
だからこそ、俺にとってポケモンセンターは、どちらかといえば宿として使うことの方が多い。
「おお〜。建物から予想はしてたけど、めっちゃ和風〜」
外観もさることながら、中も見事に木造を意識した造りになっている。
木の温かみまで感じられるようで、実に趣があった。
「こんばんは! ポケモンセンターです! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
「すみません、宿泊したいんですが、部屋って空いてます?」
「はい! 大丈夫ですよ!」
ふい〜。
ここまで来て宿なしはさすがにきついからなぁ……。まあ、野宿もできなくはないけどさ。
「こちら、お部屋の鍵になります! お支払いは退室日にご精算となりますので、鍵は必ずお持ちくださいね?」
ジョーイさんと、その隣にいるラッキーが、にこにこと手を振ってくれる。
こんな夜中にすみませんね……。
まあ、何にせよ部屋があってよかったよかった。
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素晴らしき朝──と言いたいところだが……寒くね?
どうやら朝の冷え込みは、カントーだろうがジョウトだろうが大して変わらないらしい。
ジョウト・カントー地方は、シロガネ山脈と海に囲まれた土地だ。
台風や地震みたいな大きな災害は比較的少ないが、そのぶん街を少し離れれば、過酷な自然がむき出しで牙を剥く。
朝にはシロガネ山から冷たい風が吹き下ろし、春先ですら水が凍ることもある。
逆に夏は海から湿った熱風が流れ込んで、街全体がじめじめとした空気に包まれる。
だが、秋だけは別だ。
両地方ともに、秋は文句なしのベストシーズン。
だからこそ観光地としても有名で、このエンジュシティも秋になれば多くの観光客で溢れかえる。
もっとも、俺が起きた時間はまだ日が昇る前だ。
寒いのも当然といえば当然である。
けれど、そんな時間からでも、エンジュではもう動き始めている人たちがいる。
観光名所でもある──スズの塔。
大昔から存在する木造建築で、エンジュの端に建っているにもかかわらず、街のどこからでもその姿を確認できるほどの巨大な塔だ。
何年……いや、何百年か。
それほどの時を経てもなお健在であり続けるのは、それを守り、受け継いできた人たちがいるからなのだろう。
「ちょっと寒いけど、一番の朝日を見るならやっぱあそこの方がいいよな?」
「メタモ!」
俺とメタモンは足取り軽く、スズの塔がある寺院へ向かって歩き出した。
「……いや、ちょっと朝からハードすぎないか? これ……」
「……メ、メタ!」
目の前にそびえていたのは、かなりの段数がありそうな石階段だった。
うん。
昔の人はなんでこんな馬鹿みたいな数の階段を上らなきゃいけない場所に塔なんか建てたんだ?
もうちょっとこう……あっただろ。
他に。
「しょうがねぇ! メタモン! 競争だぞ! 先に着いたやつが好きなおにぎり選べるってことで!」
「メダッ! ……ピジョッ!」
「あ!! テメェきたねぇ!!」
メタモンはピジョンに変身すると、階段なんか完全に無視してそのまま飛び去っていった。
きったねぇ!!
どうしてそんな意地の悪い子に育ってしまったの!?
俺のせいですね!! 分かってますよ!!
「ピ……ピョ〜……」
「ど、同情なんかいらねぇ……」
くそったれがぁ……!!
なんで朝っぱらからこんな肉体労働しなきゃならんのだ!!
……ああ。
俺がふっかけた勝負でしたね。はい。
「っあ゛〜〜……もー動けねぇ……」
「メタ」
「あ゛……あ? おっ……」
ふと顔を上げると、目の前には、水平線から暖かな光を滲ませる太陽が、ちょうど顔を出そうとしていた。
黄金色の光が、どこよりも早く差し込む場所。
俺はメタモンと並んで座り、おにぎりとお茶を口にする。
ゆっくりと昇っていく太陽。
その美しい景色を肴に食う米と茶は、何より贅沢だった。
間違いなく、俺たちは今、最高の朝食を味わっている。