メタモン連れの万屋さん   作:スペースデブリ

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 GW開け、皆様体調は大丈夫ですか? 
 黄砂や花粉を燃やし尽くしたくなりますね。
 デオキシリボ核酸も4体目集めないといけないし大変だ。


勇者の資格

 

 

 

 

 

「食ったなぁ……」

 

「モン〜」

 

 エンジュシティ……ありがとう──満腹だ。

 

「よっこいしょ」

 

 俺は立ち上がり、背後を振り返る。

 そこには美しくそびえ立つ塔と、対照的に焼け落ちて朽ち果てた塔があった。

 

 俺は迷うことなく、その燃え朽ちた塔の方へ足を向ける。

 

「……見事に焼けてんなぁ」

 

 近くには、『危険につき、関係者以外立ち入り禁止』と書かれた看板が立っていた。

 

 まあ、そうだろうなとは思う。

 これだけ傷んでいれば、いつ崩れたっておかしくない。

 

 ……けど、なんでわざわざ残してるんだ? 

 

 安全性を考えるならいっそ壊してしまった方がいいだろうに。

 

「おやおや……こんな朝早くから観光ですかな?」

 

 振り向くと、道着のような服をまとって頭を丸めた男が立っていた。管理してる和尚さんかな? 

 

「あ、もしかして迷惑でしたか?」

 

「いやいや。君のような若者が、わざわざこちらへ来るのが少し珍しくてね」

 

 ん? 

 どういう意味だ? 

 ここは観光名所なんだから、人なんてしょっちゅう来るもんじゃないのか? 

 

「不思議そうですな。この『焼けた塔』は、今から100年以上前に落雷で火事になってね。それ以来、ずっとこのままなのです」

 

「このまま? 取り壊さずにです?」

 

「ええ。この塔は、スズの塔と同じくジョウト地方に伝わるポケモンを祀るために建てられた由緒正しい塔なのですよ」

 

 へぇ、知らなかった。

 

 まあ、ポケモンを祀るなんて話は別に珍しくもない。

 人間には説明できない現象や、畏れを感じるものをポケモンに結びつける。

 

 そうやって、人とポケモンの歴史は積み重なってきたわけだしな。

 

「それに、この『カネの塔』は上ではなく、下へと伸びている塔なのです。ですから、壊そうにも簡単には壊せないのですよ」

 

「へぇ〜! これ、地下があるんですか! あ、だから立ち入り禁止って……」

 

「ええ。誤って入って落ちてしまったら大変ですからね。それに、ここは慰霊碑としての意味もありますので……」

 

 ん? 慰霊碑? 

 なんだそりゃ。

 

「もしかして……! もうすでに誰か亡くなって……!」

 

「いやいや、人ではありませんよ。……この塔が焼けた時、三匹のポケモンが犠牲になったと言われています」

 

「だから、慰霊碑ですか」

 

 なるほど……。

 そりゃ気の毒に。ナムナム。  

 

 

 

 それから、お坊さんは色々と話してくれた。

 

 カネの塔──今では焼けた塔と呼ばれているここは、やはりどうしてもスズの塔と比べると、あまり人が訪れる場所ではないらしい。

 

 そもそも、ポケモンが亡くなったという話自体がどうしても縁起の良いものではない。

 そういう“ネガティブな場所”として敬遠する人も多いのだという。

 

 加えてスズの塔そのものも、誰でも気軽に入れるような場所ではなく、観光客の多くは遠目から眺めるだけで満足してしまうらしい。

 だから、ここまで足を運ぶ人間は思ったより少ないのだそうだ。

 

 まあ、あの地獄みたいな階段を見たら、わざわざここまで来る気が失せるのも分からなくはないけど。

 

 

 けれど──それはちょっと、寂しいだろ。

 

 

 そりゃ確かに悲しい話だろうけどさ。

 せっかくここまで観光に来てるんなら、手のひとつでも合わせてやれってんだ。

 

 そうすりゃ、ここに眠るやつらだって少しは報われるだろう? 

 

 

 

 

ショオォ────ッ!!!  

 

 

 

 

 うるさっ。

 

「うるせぇオニドリル……だよな? 発情期かよ……」

 

 上を見上げると、光を反射してぎらつく鳥ポケモンの影が、山の方へ向かって羽ばたいていく。

 

「あ? なんだありゃ?」

 

 飛び去っていくその後ろ姿から、赤い光球がひとつ落ちていくのが見えた。

 

 その瞬間、直感した。

 ──あれはやばいと。

 

「ちょちょちょっ!! 何やってんだあの鳥ぃ!」

 

 俺は大急ぎで駆け出した。

 

 あの光球、間違いなく火だ。

 あんな炎の塊が落ちたらどうなるかくらい分かる。

 

 この寺院の周辺は年間を通して紅葉に彩られた場所。管理する人間がいるとはいえ、基本は紅葉といったら乾燥してるもの。

 そんな自然の着火剤まみれの森の中にでも落ちたらどうなるか、ヤドンでもわかる。

 

「ふざけんなよ……! 焼鳥にしてやんぞあの鳥ぃぃ!!! 」

 

 寺院の柵を越え、森の中を突き進む。

 道中、枝葉が腕や頬をパシパシと打ち、ぴりぴりとした痛みが走るが、そんなものを気にしている場合じゃない。

 

「クソッタレが! メタモン! へんしんだ!」

 

「っ! メダッ──グォン!!」

 

 へんしんしたウインディの背に飛び乗り、そのまま森を疾走する。

 

 薄暗い森を抜けた先で、視界に飛び込んできたのは燃えるような赤だった。

 

 音もなく、紅葉した葉がひらりひらりと舞い落ちる。

 そこはまるで小道のような場所で、石畳の上には落ち葉が幾重にも積もっていた。

 

「綺麗だな……っ! いや、それどころじゃねぇ! あの鳥野郎! どこに落としやがった!」

 

「ガウっ!」

 

 メタモンは一声吠えると、迷いなく駆け出した。

 

 流石だぜ。

 煙の匂いはちゃんと覚えてるな。

 

 いつも火を起こす時は、ほのおタイプにへんしんしてもらってるからな。

 こういう時に役に立つってわけだ

 

 先へ進むと、炎に包まれた何かが地面に落ちていた。

 

 クソッタレが……! 

 メラメラ燃えてやがって、迂闊に手も出せねぇ! 

 

「メタモン! みずでっぽうだ! 念のため辺り一帯も湿らせろ!」

 

「ガウっ!! ──ガメェッ!!!」

 

 メタモンはカメックスにへんしんすると、空に向かって大量の水を撃ち放った。

 

 上空で弾けた水は、大粒の雨となって降り注ぐ。

 目の前の火の玉も、その雨に打たれて無事に消火された。

 

「……なんとか火事にはならなかったか。ったくよぉ……冗談じゃねえっ……て?」

 

 火が消えた場所には、一枚の羽根が落ちていた。

 大きく、温かく、そして美しい輝きを放っている。

 

「なんだこりゃ……」

 

 俺は恐る恐る、羽根の先をちょんと指でつついてみる。

 さっきまで燃えていたはずなのに、火傷するほどの熱はなかった。

 

 そっと持ち上げてみると、ぽかぽかと心地いいくらいに温かい。

 しかも、羽根にしては少し大きい。

 

 少なくともオニドリルのものじゃないだろう。

 

 ……けど、こんなでかくて、こんな綺麗な羽を持つポケモンなんて、この地方にいたか……? はっ! オニドリルのオヤブンってことか!? しかも色違いか!? 

 

「こらぁ!!! 何をしとるんか!! ここは関係者以外立ち入り禁止じゃぞ!!」

 

 背後から、和尚さんが箒を振り回しながらものすごい勢いで突っ込んできた。

 辺りは水浸し、充満する煙の匂い。

やっっべぇ──

 

「ちょっ! 待ってください! これにはカントー海溝よりも深い訳がですね!」

 

「お主……! それは……!」

 

 

 

 

 

 

 ───────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ──私は、生まれた時よりこの場所を守り続けている。

 父から、祖父から、ずっと繋がれてきたものだからだ。

 

「……どうでしたかな?」

 

「また、駄目でした……」

 

 この者も、“ホウオウ”に選ばれし者ではなかった。

 

 “にじいろのはね”。

 それは、ホウオウが認めし者にのみ与えると言い伝えられている羽。

 

 その羽を授かった者だけが、塔の頂にて、ホウオウの担い手たる資格を試されるのだと。

 

 かつて、この地では大きな争いがあった。

 

 多くの人が死に、ポケモンもまた命を落とした。

 その惨状に心を痛めたホウオウは、この地方を去ってしまったのだという。

 

 もう、ここ十数年。

 羽を持つ者は現れていなかった。

 

 ホウオウは、愚かな私たちに愛想を尽かしてしまったのだろうか。

 だから羽を授けはしても、勇者として認めることはしないのだろうか。

 

 しかし──

 

「……そなた……それを、どこで?」

 

「……え? こ、この羽根ですか? なんかデッケェオニドリルみたいなのが落としていったんですよ……燃やしながら。酷いと思いません? 危うくここが燃えるところでしたよ!」

 

 嘘は言っていないように見える。あたり一面が濡れているところを見る限り、この者のポケモンが消化したのだろう。

 

「……それは、この地に伝わる伝説のポケモン──ホウオウの羽根じゃ。お主は、ホウオウに選ばれたのじゃな」

 

「へ……へぇ〜」

 

「どうじゃ? 塔の頂へ行くのか?」

 

「はい? なんで?」

 

 少年は羽に目線を落として何やら難しい顔をしていたが、私の質問には目を丸くしてさも当然かのように疑問の表情を向ける。

 

「……? お主は勇者として、ホウオウに挑む資格があるのだぞ?」

 

「──よく分かんないですけど、伝説は伝説だからいいんじゃないっすか。この地に伝わる由緒正しいポケモンなら、なおさら」

 

 私は驚きのあまり、しばらく口を閉じることができなかった。

 かつて、このようなことを言う人間は一人としていなかった。

 

「じゃ! 俺行きますわ! 羽は置いてくんで!」

 

「ま、待つんじゃ! お主、名は!」

 

「ふっ! 名乗るほどのものでは……!」

 

「ガウっ!」

 

「あだっ! メタモンお前なぁ!」

 

 

 

ショオォ──ッ!!  

 

 

 

 

 走り去っていく彼を塔の上から見つめながら、金色の鳥ポケモンは空に響く声をあげた。

 

「っ……ホウオウ……!」

 

 この世に生まれ落ちてはや何十年……ようやく、この目でその姿を拝することができた。

 

 美しい。

 まるで、暖かな陽の光そのもののようだ。

 

 ホウオウよ……貴女は、何を思って彼を選んだのですか? 

 これまで貴女のもとへ足を運んできた彼らとは、何が違ったのでしょうか? 

 

 ホウオウはちらりと私へ視線を向けると、静かに瞳を閉じ、大きな翼を広げて飛び去っていく。

 

 ああ……また行ってしまうのですね。

 

 けれど……私は今、とても幸せなのです。

 貴女は、私たちを見限ってなどいなかった。

 

 我らの知らぬ場所で、今もなお、このジョウトを見守り続けてくださっていたのですね。

 

 そして──彼は最後まで、自分が何に選ばれたのかすら気づかぬまま、生きていくのでしょう。

 

 けれど、それでよいのでしょう? あの少年は、貴女が選んだあの少年は

 ──選ばれたことに価値を求めるような御仁ではないのですから。

 

 

 

 

 ───────────────────────────

 

 

 

 

「さて、こっからどうすっかね」

 

 まだまだ見たいものは山ほどある。

 アルフの遺跡だろ? いかりのみずうみだろ? フスベシティのりゅうのあな……まあ、あそこはいいか。

 

「あ! そうだ! 一番の目玉を忘れてたぜ!」

 

「メタ?」

 

 エンジュシティを出てから数日。

 アルフの遺跡を横目に眺めつつ、俺たちはなんとかヒワダタウンへ辿り着いた。

 

 お〜。

 ザ・田舎って感じだな。マサラタウンとはまた違った空気だ。

 

 アルフの遺跡も本当ならじっくり見たかったんだが、まだ発掘作業が続いているらしく、関係者以外の立ち入りは制限されていた。

 

 ちくしょ〜。

 見たかったなぁ。

 

「さてさて……どの辺に住んでんだろ……お、あそこか?」

 

 街の外れに、家がぽつんと建っている。

 噂じゃ気難しい人らしいが……まあ、当たって砕けろだ。

 扉の前に立って声をかける。

 

「こんちわ〜」

 

 返事はない。留守か? ええ〜……結構楽しみにしてたんだけどなぁ。

 

「メタっ?」

 

「ん? ……ありゃ?」

 

 メタモンが引き扉を触ると、カラカラと簡単に開いてしまった。

 どうやら鍵は閉まってなかったようだ。

 

 おいおい……セキュリティとかどうなってんのよ……。

 それともローカル地域っていつでもウェルカムな感じなの? 

 

「ガンテツさ〜ん? いらっしゃいます〜?」

 

 家の中からは、やはり何も聞こえてこない。

 結構暗いな。まあ、洞窟よりはマシだけど。

 

「だ、大丈夫か? 中で倒れてるとかないよな?」

 

「モン……!」

 

「行くか……失礼しま〜す……」

 

 俺は意を決して中へ足を踏み入れた。

 靴を脱ぎ、家の中へ一歩、また一歩と足を進める。

 そのたびに、床板がギシギシと小さく軋んだ。

 

 平屋ではあるが、家そのものはかなり大きい。

 

 しかしながら家の中に特におかしな様子はない。

 年季は入っているが、手入れの行き届いた良い家だ。

 

 しばらく進んだ先に、灯りのついた部屋が見えた。

 恐る恐る中を覗くと、一人の男が黙々と座って作業している。

 

「あの〜……」

 

「…………」

 

 む、無視……。

 

 いや、違うな。

 そもそも俺が入ってきたこと自体、気づいてないのか? 

 

 男の手元で形を成しているのは、どう見ても“モンスターボール”だった。

 間違いなく、ガンテツさんが手作りしているそれだろう。

 

 ヒワダタウンのガンテツといえば、知らない者はいない職人だ。

 昔ながらの製法でボールを作り上げ、その完成度と希少性から、一つあたりの市場価格は何十万にもなるという。

 

 目の前の御仁の手から生み出されるボールが何十万、か。

 

 ……もはや実用品というより、芸術品と言った方が近いのかもしれない。

 

 中には遠い地方からわざわざ足を運んで、ボールを売ってもらえないかと頼みに来る者もいるらしい。

 けれど、俺はそうじゃない。

 

 俺はただ単純に、ガンテツさんの技が見たいのだ。

 

 ジョウト地方はカントーと隣接し、さらに遠いシンオウ地方とも関わりがあると言われている土地だ。

 そんな場所で、昔ながらの製法のままボールを作り続けている職人がいる。

 

 その技が、その技で作られたものが気にならないわけがない。

 

 俺は思う「物」ってのは、その人が生きてきた人生そのものなんだと。

 

 何であれ、どんな形であれ。

 俺は見てみたいのだ。

 

 その(世界)を。

 

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