メタモン連れの万事屋さん   作:スペースデブリ

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仕事が忙しぃ〜書く時間がないのがなかなか…


古の記憶

 

 

 

 ワシはここ最近、すらんぷというやつに陥っている。

 

 どんなぼんぐりでボールを作っても、どうにも納得がいかん。

 気に入らんガラクタばかりが日に日に増えていき、それが目に入るたび、気が滅入ってしまう。

 

「はぁ……」

 

 今日も駄目だ。

 どうにも身が入らん。

 

 カントーのある企業から、試作ボール模型の制作を頼まれてはいるが……こんな調子では完成はだいぶ先になるだろう。

 

 情けない話だ。

 ここまできたら、ボール作りもワシの代で終いかもしれん。

 

 可愛い孫が時々手伝ってはくれる。

 だが正直、あの子にはあの子で別の道もあるのではないかと思ってしまうのだ。

 

「ん? ……誰じゃお前は!!!?」

 

 気の落ちたワシの前にいたのは、珍しいポケモンを連れた男だった。

 しかも、綺麗な正座で座っておる。

 

 男は、心底安心したように息をつくと、

 

「観光客Aです」

 

 などとぬかしながら、茶を差し出してきた。

 

 ……いつの間に淹れた。

 しかも、美味いのが腹立つ。

 

「で? お前は何しにここへ来たんじゃ? 言っておくが、ボールは作らんぞ」

 

「ボールを作ってもらいに来たんじゃないっすよ! 作るところを見せてもらいたいんです!」

 

 ボールを作るところだと? 

 

 ぼんぐりを削り、磨き、ボールの形に整えていく。

 そんな地味な作業を見ても、面白くもなんともなかろうに。

 

「今日はもう作らん。そこらにあるガラクタでもよければ、勝手に見ていけ」

 

 すると男は目をきらきらと輝かせながら、ここでは珍しいメタモンと共に作業場の隅に積まれた残骸を眺め始めた。

 

 ワシは縁側へ腰を下ろし、頭を捻る。

 

 仕事に詰まった時は、こうして緑の見える縁側で考える。

 それが、いつもの日常だった。

 

「いいね! カッコいいじゃん!」

 

「ん?」

 

 ワシが背後を振り向く。

 

 そこには、ニャースと共にボールの残骸を削り、一つの新しい形へ仕立てている男の姿があった。

 

 

「おいっ! 見ていいとは言ったが、触っていいとは言っとらんぞ!」

 

「勿体ないですよ……こんなに綺麗なのに……!」

 

 勿体ない、か……。

 

 毎日毎日、食傷の日々。

 どんなものを作っても納得がいかない。

 

 孫からは、少し休むべきだとも言われている。

 だが、休んだら休んだで、今度は腕が鈍ってしまう気がしてならない。

 

「どうです? 俺のオリジナルボール。寄せ集めで作ったんですけど……」

 

 男が差し出してきたボールは、ぼんぐりの木目が残ったままの拙いものだった。

 漆すら塗られていない。

 

 だが──初めて作ったものとしては、上等だった。

 

「ふん、よく作れたもんじゃ。工具は貸した覚えはないが……まさか、勝手に使ったのではあるまいな?」

 

「職人の道具を勝手に使うなんてしませんよ!」

 

 ……つかみどころのない若造かと思っていたが。

 意外と、熱を持っておるやつじゃな。

 

「……道具もなしに作ったにしては上出来じゃが、まだまだじゃな」

 

「うわっ! この人プロである自分を棚に上げてる! あんまりだぞっ! なあ、メタモン!」

 

「メ、メタ!?」

 

 なんじゃこいつ……。

 メタモンまで困惑しておるではないか。

 

「ボールの艶出しには、漆を使うんじゃ」

 

「へぇ〜……漆を使うんですね……あ、エンジュの塔も似たような感じだったかも」

 

 なんじゃろうな……この感じは。

 

「ボールの金属部や内部構造は、今では企業から買うしかない。じゃが、大昔はそこも手作りだったそうじゃ」

 

「あ、やっぱそこは現代感あるんすね」

 

 何故だろうな。

 この者に教えていると、自らの感覚まで研ぎ澄まされていくような錯覚を覚える。

 

 ボールを作る手順を、一つずつ紐解くように説明していく。

 もちろん、説明したからといって万人が作れるようになるわけではない。

 

 だが、この者は違った。

 

 メタモンと共に……ワシほどではないにせよ、確かにボールを形にしている。

 どうやら、手先はかなり器用なようだ。

 

 ……だが、それ以上に気になるのはメタモンの方だな。

 

 工程ごとに必要なポケモンへ姿を変え、その都度、彼奴を的確に支えている。

 

 削る時、磨く時、形を整える時。

 まるで、二人で一つの道具のように動いている。

 

 懐かしいの……。

 ポケモンと共に作る、か。

 

 

 

 

『どうだ! 見ろよこれ! 俺様の作ったピカピカな泥団子だぜ!』

 

『うわっ……汚ったな! あんまり近寄らないでよ!』

 

『なにぃ!! この団子の素晴らしさが分からないだとぉ!? わざわざクラブがいっぱいいるところから厳選した泥をかき集めて作った、至高の一品なんだぞ!!』

 

『本当に馬鹿だねぇ……』

 

『お前なら分かるよな!! ──ガンテツ!』

 

 

 

 

 

 ユキナリ、キクコ。

 ワシらは歳をとってしまったな。

 

 じゃが、こやつを見ていると、若かりし頃のお前たちを思い出す。

 無茶をして、馬鹿をして、それでも目の前のものを面白がることを忘れなかった、あの頃のお前たちを。

 

「貸してみい」

 

 ふむ。

 これなら、少し磨いてやるだけで十分使えるボールになるじゃろう。

 

 ワシはそのボールを手に取り、表面を丁寧に磨いていく。

 

 ぼんぐりの木目を殺しすぎず、けれど粗さは残しすぎない。

 ある程度の光沢が出たところで手を止め、若造へとボールを返した。

 

「うぉ〜、ピッカピカじゃん……! 何ボールかわかんねぇけど……」

 

「そりゃあ、色んなぼんぐりを合わせて作ったんじゃ。ワシの作るような決まったボールにはならん」

 

 ワシは小さく笑う。

 

「しかし……あえて言うなら、これぞ“モンスターボール”じゃな」

 

「おお〜、原初的なモンボ……。どうだメタモン、こっちに引っ越s──」

 

「メタ」

 

「あ、嫌……そうですか」

 

 ワシのボール作りを見にきたといっていたが、この者は旅をしておるのか? 

 それにしては、荷物が少ないようにも見えるが。

 

「若造。お前はワシにボールを作ってもらいに来たわけではなく、ただ単に作る技術を見たかっただけなのじゃろう? これからどうするつもりなんじゃ」

 

「う〜ん……おおかた観光し終わったんで、次は「シンオウ地方」に行こうかと思ってます」

 

「シンオウ? なら、ちょっと待ちなさい」

 

 ワシは記憶を頼りに箪笥を漁る。

 

 ……こんなに荒れておったか……? 

 少し整理せんといかんな……確かここら辺に……

 

「あった! あったぞ、若造!」

 

 確か数年前だったか、シンオウで開催された展覧会にワシの作品が展示されるとかで、シンオウ行きのチケットを貰っていたのだ。

 

 ワシはそういう場にあまり興味がなかったので、結局使わずじまいだった。

 

「シンオウに行くなら、これを持っていけ。ワシが持っておっても仕方のないものじゃ」

 

「これって……良いんですか?」

 

「おう。世話になった礼だ」

 

 若造は丁寧にチケットを受け取るとメタモンと共に微笑む。

 ふっ、ほんとに仲がいいんじゃな。

 

「じゃっ、遠慮なく。またこっちに来た時は、土産話でも聞かせますよ!」

 

「ふん」

 

 今日はもう遅い。

 そのまま若造──カナタを、家に泊めることになった……のだが。

 

 

 

 

「う、美味い……」

 

「でしょ? ここは水も良いし、昔ながらの釜もありますからね。料理は火加減ですよ、火加減!」

 

 

 

「……良い湯加減じゃな……」

 

「竹で作られた良い風呂ですね〜。俺も入るの楽しみですよ〜」

 

 

 

 

 なんなんじゃ、コイツ。

 あまりにも、なんでもできすぎじゃろ。

 ……孫の婿に欲しいわ。

 

 

 

 

「あれ? お爺ちゃん、玄関前よりずっと開けやすくなってるね……てかなんか全体的に綺麗になってる?」

 

「ん? ああ。万事屋が直していった」

 

「万事屋さん?」

 

「今時の若いもんにしては珍しい、見る目のある奴じゃ」

 

「ふふっ。お爺ちゃんがそんなふうに褒めるなんて珍しいね」

 

「ヤツのおかげで試作ボールも形になった。名付けて……マスターボールじゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 ───────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 シンオウ地方。

 

 かなり広大な地方で、中央には「テンガン山」と呼ばれる、空にまで届くんじゃないかと思うほど大きな山がそびえている。

 その山によって、シンオウは東西に大きく分かれているらしい。

 

 さらに、ジョウトやカントーと違ってかなりの寒冷地だ。

 暖かい服装は必須。油断すると普通に凍える。

 

 このシンオウ地方に観光名所があるかと言われると……個人的にはそこまで多い印象はない。

 いや、もちろん歴史ある場所や景色の綺麗な場所はあるんだろうが、分かりやすい名物といえば、やっぱりコンテストだろうか。

 

 ポケモンとトレーナーが力を合わせて、技の美しさや魅せ方を競う舞台。

 

 俺とメタモンも、出ようと思えば出られるんだろう。

 あいつのへんしんは見せ方次第でかなり映えるだろうしな。

 

 ……でも、あんまり目立ちたくはない。

 

 うん。やめとこう。

 

 確かに、俺は「シンオウに行こうかな〜」くらいの軽い気持ちで言いましたよ? 

 

 ガンテツのじっちゃんもチケットをくれたし。

 せっかくだから行ってみるか、くらいのノリだった。

 

 でもさ? 

 

「なるほど……つまり、ジョウト地方とこのシンオウ地方には深い繋がりがあると……。アルフの遺跡……やっぱり一度、きちんと調べてみたいわね……」

 

 全身黒コーデの長身女は、目を輝かせながら俺とメタモンを見ている。

 

「ねぇ、メタモン。あなたが見たっていうポケモンに変わってみてくれないかしら……!」

 

「メタ……ぁ?」

 

 なんで俺、シンオウチャンピオンの助手をやることになってんですかね。

 

 おい。

 メタモンに勝手なこと命令すんな。困惑してんじゃねぇか。ガブリアスもなんとか言ってくれよ。

 

 あと涎垂らすな。

 チャンピオンとしての威厳はどうした。

 

 

 

 

 

 

 ───────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ────? 

 

 ──なんだ。

 

 ──こいつは……。

 

 ──妙な気配がする。

 

 ──均衡を壊す可能性がある。

 

 ──消すか? 

 

 ──いや、早計か。

 

 ──奴と同じには、死んでもなりたくない。

 

 ──今はまだ、見ておくとしよう。

 

 

 

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