メタモン連れの万事屋さん   作:スペースデブリ

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ビバ、シンオウ地方

 

 

 

「到着……っと」

 

「ミャア! ミャア!」

 

 おお〜、キャモメだ。

 

 カントーやジョウトでは見かけないポケモンだな。

 てか、シンオウにもいるんだな……てっきりホウエンだけかと思ってた。

 

 ミオシティ。

 

 シンオウ地方の西側に位置する港町で、同じ港町のアサギシティやクチバシティとはまた違った雰囲気がある。

 

 この街でひときわ目を引くのは、大きな図書館だ。

 なんでも蔵書数で言えば、シンオウ随一らしい。

 

 しかしながら、今回シンオウに来たはいいものの──あまりにもノープランすぎる。

 

 特に「ここへ行きたい」という場所があるわけでもない。

 そもそも、ジョウトで色々観光したせいで金がない。

 

 ……うん。まずいな。

 

「仕事探すかぁ」

 

「メタ……メッ!」

 

 メタモンが俺の肩を、とてとてと叩いてくる。

 

「ん?」

 

 メタモンが体を伸ばして指し示した先には、ポケモンセンターがあった。

 

 なるほど……流石相棒。

 

 旅先で情報を集めるなら、まずはポケモンセンター。

 トレーナーも地元の人間も集まるし、掲示板に依頼が貼られていることも多い。

 

「じゃあ、まずは情報収集と行きますかね!」

 

「メタ!」

 

 ポケモンセンターの中の一角に設置された掲示板には、いくつもの求人が貼られていた。

 

 船からの荷下ろし。

 迷子のニャルマー探し。

 その他諸々。

 

 そんな中で、少しだけ興味を惹かれるものが目に入る。

 

「図書館の資料整理、清掃……」

 

 図書館……ということは、間違いなくミオ図書館のことだろう。

 もともと行きたいと思っていた場所だし、ちょうどいい。

 

 

 

 

 

 ───────────────────────────

 

 

 

 

 

「この図書館にいる間は、そのタグを失くさないでくださいね。それが関係者である証明になりますので」

 

「分かりました」

 

 受付の人や裏方の人たちと一緒に、俺は図書館の清掃と資料整理を始めることになった。

 

 どうやら今日は休館日らしく、図書館内に利用者はいない。

 これなら遠慮なく掃除できる。

 

「へぇ〜、ジョウトからここまで来たんですか?」

 

「ええ。気晴らしの観光で行ったんですけど、縁あってシンオウまで……」

 

「……どういう縁ですか? ジョウトからシンオウって、そこそこ遠いですよね……」

 

「まあ、フットワークの軽さが自慢なんで」

 

「確か万事屋さんでしたっけ? 他の地方まで依頼で行くんですか? ……凄いですね」

 

 引かれつつ何だかんだ話しながら蔵書を整理していく。

 

 新しい本もあれば、かなり古い本もある。

 ジャンルも実に様々だ。

 

 お、スズの塔の建築考察本なんてものまであるのか。

 

 ……埃も結構溜まっているな。

 特に奥の方は、普段ほとんど人が入らないのだろう。

 

 俺は整理ついでに、一冊の本を手に取ってぱらぱらとめくってみる。

 

 うおっ……埃がすごい。

 なになに? タイトルは……シンオウ神話。

 

 時間と空間。

 それぞれを司るポケモンたち。

 

 そして、人に心をもたらしたとされるポケモンたち。

 

 ……え? なんか壮大すぎない? 

 

 時間に空間。そこへさらに心ときた。

 シンオウ地方が歴史深い土地だとは思っていたが、まさかここまでとは……。

 

 ページをめくっていくと、さらに妙な記述が目に入った。

 このシンオウの土地すらも、ポケモンが引っ張ってきた可能性がある──らしい。

 

 ……バケモノすぎるだろ。

 

「大地を動かす」とまではいかなくても、土地や地形に関わるポケモンなら世界に山ほどいる。

 だが、大地そのものを引っ張ってこの地方を作ったなんて、どんな怪力のポケモンだよ。

 

 ……はっ! まずいまずい。

 このままでは仕事が進まなくなる。

 

 俺は本を棚へ戻し、整理作業に戻った。

 メタモンもいるし、埃の一つも残さねぇぜ。

 

 窓を全開にして、スズの塔で見た鳥ポケモンとなったメタモンが大きな翼で館内の空気を全て吹き飛ばす。

 

 ふぅ〜〜気持ちが良いぞい。

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました……! 本当に助かりました」

 

「いえいえ、こちらも貴重なものを見せてもらいましたから。報酬は口座に振り込んどいてください」

 

「分かりました。それにしても、よくここまで綺麗にできましたね……。奥の奥までピカピカですよ」

 

「いや〜、こんないい図書館なのに、歴史ある本が埃被ってちゃ可哀想でしょ? ちょっと本気出しちゃいましたよ」

 

「ふふっ。シロナさんが見たら、きっと喜びます」

 

「シロナ?」

 

 どこかで聞いたことがある名前だ。船で移動中にテレビに映ってた気がする。

 

 ……まあ、いいか。

 

 とりあえず資金も入った。

 さて、次はどこに行くか……。

 

「あ、そうだ。ナナカマド博士に挨拶に行くか……?」

 

 

 

 

 

 ───────────────────────────

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 また駄目だった……

 

 検証が甘いという指摘は分かる。

 私自身、その自覚はあるもの。

 

 けれど、前提となる文献があまりにも少なすぎる。

 それで結論を求められても、どうしようもないではないか。

 

「だからって、あそこまで問い詰める必要があったかしら……」

 

 シンオウ神話は、他地方の伝承とは根本的に性質が異なる。

 

 語られている規模が、"地方"ではない。

 "世界"そのものなのだ。

 

 私は、その対象をあくまでシンオウ地方に絞って調べている。

 それでも、残されている記録はあまりに断片的だった。

 

 神殿も、遺跡も、チャンピオン権限を得てようやく立ち入れるようになったばかり。

 

 解読されていても意味が繋がらないもの。

 解読すらできていないもの。

 存在は確認されているのに、研究がほとんど進んでいないもの。

 

 目の前に宝の山がある。

 

 それは分かっている。

 なのに、その輪郭すら掴めない。

 

 ……こんなにもどかしいことが、他にあるだろうか。

 

「今日はため息ばっかりですね……シロナさん」

 

「いや〜……見事に先輩方に砕かれちゃって……」

 

「中継、見てましたけど……良くできてたじゃないですか。かなり調べられてましたし、なるほどって思うところもありましたよ」

 

 そう言ってもらえるのは、素直にありがたい。

 

 けれど、研究者として見れば、きっと穴だらけだったのだろう。

 推論は甘く、根拠は薄く、検証も足りない。

 

 実際、私はこうしてここで打ちひしがれている。

 

 それが何よりの証拠だった。

 

 研究者としては正しいんだろうけど……もう少し新参者とか、若者に優しくても良いと思うのだけれど……

 

「というか、とても綺麗になってるわね。本のいい匂いがするわ」

 

「ええ! 昨日、とてもいい助っ人さんが来てくれたんです。手際はいいし、扱いは丁寧だし、何より知識が豊富で!」

 

「へ、へぇ……すごいテンションね……」

 

 知識が豊富……。

 

 このミオ図書館の管理を任されている彼女がそう言うのなら、余程の人物なのだろう。

 

「ジョウトから観光? で来たらしくて、アルフの遺跡は見ることができなかったらしくて、シンオウとの繋がりを──うえぁ!」

 

「今、なんて言った?」

 

 自分でも分かる。

 声の温度が変わった。

 

 彼女がびくりと肩を揺らしたのを見て、少しだけ申し訳なく思う。

 けれど、それ以上に今の言葉を聞き逃すことはできなかった。

 

 ──アルフの遺跡。

 ここ最近になって発掘が進んだ、ジョウトの古い遺跡だとは聞いている。

 でも、シンオウとの繋がり? 

 

 ジョウト地方とシンオウ地方。遺跡を通じて他の地方との繋がり? 

 

 どれも、これまでの私からは出なかった発想だ。どうしてジョウト地方での観光が、シンオウに繋がる発想が出るの? 

 

 その人は何を見たの? 

 何を知っているの? 

 何に気づいたの? 

 

 知りたい。

 

 ──っ……ああ、私の悪い癖だ。

 

 その人は、私が知らない何かを知っている。

 

「その人の名前とか、特徴とかって分かる?」

 

「えーと……カナタって名前の男の人で……あ、メタモンを連れてましたよ。シンオウじゃ珍しいなぁって思ってて」

 

 メタモン。

 へんしんポケモンか。

 

 シンオウにも、ウソッキーのように木へ擬態するポケモンはいる。

 けれど、他のポケモンに完全に成りきる存在はかなり稀有だ。

 

「そのメタモンが色んなポケモンにへんしんして、掃除では大助かりでした」

 

「どこに行ったか分かる?」

 

「そこまでは……。あ、でも本人は万事屋って言ってましたね」

 

 万事屋……何でも屋、ということかしら。

 

 ふふ、それならちょうどいいわ。

 

 

 

 

 

 ───────────────────────────

 

 

 

 

 

 ミオシティから出ようとしたものの、目の前には海。

 

 どうしようか。そう思案していたところ、草むらから前歯が立派な一匹のポケモンが現れた。

 そして、何故か俺を運んでくれた。

 

 別れ際にはサムズアップまで決め、そいつはノソノソと草むらの中へ帰っていく。

 

 ……何だ、あのイケメンポケモンは。

 

 え? 

 ていうか、シンオウでは野生ポケモンとの距離がこんなに近いの? 

 

 これが普通なの? 

 

 その後、変なピエロに絡まれながらも何とかコトブキシティを抜け、俺はナナカマド博士がいるというマサゴタウンへ辿り着いた。

 

 マサゴタウンは、海にほど近い小さな町だった。

 ここに、オーキド博士の先輩だというナナカマド博士がいるらしい。

 

 町の端の方には、大きな屋敷のような建物が見える。

 オーキド博士も、マサラタウンという静かで自然豊かな場所に居を構えていたし……。

 

 やっぱり博士ってのは、静かな場所で自分のペースに、もりもり仕事したい人ばっかりなんだろうか。

 

 ……いや。

 

 あの三人がいた時点で、オーキド研究所は別に静かじゃなかったな。

 

 もう数日……1ヶ月経つかな? アイツらは元気だろうか? 

 これから色んなところで、あの子たちのような才能あふれる者たちが現れるだろう。

 

 その手助けができるのなら嬉しいけどな。 そうだろ? 

 

 

 

 

 

 ───────────────────────────

 

 

 

 

 

「こんちわ〜」

 

 そう言いながら荘厳な家の扉をノックすると、中から眼鏡をかけた研究者らしき人が出てきた。

 

「あ、ナナカマド博士はいらっしゃいますか?」

 

「ええ。君はどちら様かな?」

 

「あ、申し遅れました。少し前にオーキド博士の助手をやっておりました、カナタと申します」

 

 俺はとても丁寧に頭を下げる。

 

 オーキド。

 その名前を聞いた瞬間、研究者の人はハッとしたように笑った。

 

「ああ! 君がオーキド博士が言っていた助手くんだったんだね! どうぞどうぞ!」

 

 白衣の研究者は、俺を研究所の中へ招き入れる。

 

 ……いいのか? 

 あんた、ここの主じゃないだろうに。

 

 まあ、いいか。

 

「客人か?」

 

 奥から、低く太い声が響いた。

 振り向くと、白い髭を蓄えた老人がこちらを見ていた。

 目つきが鋭い。

 

 ……怖っ。

 子供泣くって。

 

「博士。この方、オーキド博士のお知り合いのようで」

 

「ふむ……オーキドが言っていた優秀な助手というのは、君のことか」

 

「初めまして。カナタです。あのナナカマド博士とお会いできて光栄です」

 

 俺は改めて頭を下げる。

 

 ナナカマド博士。

 

 ポケモンの“進化”について研究していることで知られる博士だ。

 ポケモンはなぜ進化するのか、進化によって何が変わり、何が変わらないのか。

 

 それらには、今なお分かっていない部分が多い。

 

 

 

 

 

 ───────────────────────────

 

 

 

 

 

「ベックシッ!!! っあぁ〜……」

 

 俺を探して、わざわざ頂上まで上がってきた親友が、大きなくしゃみをした。

 とても寒そうだ……。

 

「…………」

 

「ったく……何でこんな雪山で修行なんかしてんだよ」

 

 そう思うなら、降りればいいのに。

 昔から、グリーンは変わっていない。

 

 俺はもう、この寒さに慣れてしまった。

 

「……」

 

 でも──そんな寒さの中でも、胸が熱くなっているのが分かる。

 

 俺に勝負を挑んできた、先の少年との戦い。

 その戦いで、俺はギリギリ勝った。

 

 そして思い出した──あの人を。

 

『いけっ! メタモン! めざめるパワーだ!』

 

『ピ゛ガチュ……!!』

 

『……っ! ピカチュウ!』

 

『ピッ!? ピカァッ!?』

 

 初見殺しだったなぁ……

 タイプが変わってしまう技もあるなんて、あの時は知らなかった。

 

 バトルには勝てた。

 でも、正直あれは「勝たせてもらった」という方が正しい気がする。

 

 あの人は、三年前にカントーを離れてから帰ってくることはなかった。

 

 ジョウト、シンオウ、ホウエン、カロス、イッシュ、アローラ。

 

 色々な場所で噂は聞く。

 けれど、あの人が今どこで何をしているのかは、分からないままだ。

 

「おい、レッド。話聞いてんのか?」

 

「…………?」

 

「お前、その顔は聞いてなかったろ……はぁ……」

 

 グリーンは呆れたようにため息を吐く。少し吹雪いてきたな……丁度いい。

 

「……グリーン」

 

「あ?」

 

「……また戦いたいな。カナタさんと……だから──」

 

「へっ、奇遇だな」

 

 グリーンがボールを構える。

 チャンピオンだったあの部屋の……あの時と同じ獰猛な笑みを浮かべて。

 

「──俺様もだ」

 

 俺も、ボールを構える。

 

 カナタさんにも言われていた。

 俺は、表情を作るのが苦手だと。

 

 少しだけ、グリーンが羨ましい。

 あんなふうに、自分の気持ちを真っ直ぐ顔に出せるところが。

 

「……お前」

 

「……?」

 

「今、すげぇ顔してるぜ?」

 

 そう言われても、俺にはよく分からなかった。

 

 ただ、胸が熱かった。

 この寒さの中でも、指先まで血が巡っているのが分かる。

 

 また戦いたい。

 

 カナタさんと……そして今は、目の前の親友と。

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