適性運命論者の「アイドルのすゝめ」   作:物見遊本

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ナチュラル・グッド・ボーン 〜あるいはセンスの要件〜

 

「え?ダンス対決?……なんで?」

 

危っぶ、ミスった。清夏の困惑した反応で優希は己の言葉足らずが発動したことを悟る。

 

「清夏のダンスを見てみたい、って言うのと今の私がどの程度通用するのか知りたいんだ。一応、トレーニングは積んでるから素人みたいなことにはならないと思うし。アイドルならステージでお互いを理解するとかあるじゃん?」

 

主張がどことなく支離滅裂だが、清夏は何かツボに入ったようだった。

 

「それで、勝負?……ぷっ、くく。何それ、ちょっとウケる」

 

「あー、やっぱ変?」

 

「いや、ごめんごめん。そうじゃなくって。うちのクラスに似たような子がいるんだよね。なんか勝負の果てにお互いを理解するー、みたいなマンガ系主人公がさ」

 

清夏は心底可笑しそうに、優希の知らない誰かの話をする。優希にとっては清夏の反応から逆算して、ある程度どのような人物かを推測することもできるのだが、それは運命(てん)の巡り合わせに任せるべきと判断し、思考を中断した。

 

「へー、熱血系。字面だけなら気が合いそうだけど多分私の真逆な気がするなぁ、その子」

 

「どうだろうねー?もし初星に来ることがあったら紹介するよ。それでダンス対決、だっけ。うん、別に良いよ。審査員見つけなきゃだけど……」

 

清夏が快諾することと、何を気にするかを先読みしていた優希は素早くスマートフォンを取り出して、画面を操作する。

 

「あ、それならもう連絡取ってるから安心してよ」

 

「へ?もう?……誰?」

 

「ん、十王星南」

 

そう言って、先ほど交換したメルアドに送信した文章を見せる。

清夏は何秒かフリーズした後、再起動した。

 

 

「………………はぁぁーー!?」

 

実にギャルらしい絶叫だった。

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

「いや〜、すいません。さっきの今で呼び出しちゃって。もうレッスン終わりました?」

 

「貴方から連絡を貰ったのはちょうど終わったタイミングだったから大丈夫よ」

 

何故か今日初めて見学に訪れた女子高生が『一番星』を携帯で呼び付け、旧知の様に振る舞っている。清夏からすれば訳が分からない状況だった。

 

「うわぁ、本当に十王星南だ……」

 

「貴方が紫雲清夏さんね。N.I.Aでは、素晴らしいステージを見せてもらったわ。特にダンスには目を見張るものがあった。H.I.Fでどんな成長を見せてくれるのか、楽しみにしているわ」

 

「あ、あはは〜。……恐縮でーす」

 

星南はどことなく緊張した様子の清夏から視線を外し、優希にこの会合の真意を聞く。

 

「それで?ダンス対決の審査をして欲しいとのことだけれど。どうして私なのかしら?」

 

「んー、なんとなくですけど。星南さんと私と清夏はどことなく似てるから、ですね」

 

何を?というまでもなく星南は意図を汲み取る。

 

「先ほどのレッスン室でした話かしら」

 

「そうですね。あれが間違っているとは思わないですけど、まだ足りないものがある。この直感を試すには私たち3人に共通するものを探るのが手っ取り早いよね〜、みたいな」

 

ついていけず、不思議な顔をする清夏。一方で星南は何かを考えこむ様に一度目を瞑る。そして、開くと同時に優希に提案をしてきた。

 

「なるほどね、良いわ。その審査引き受ける。その代わり、貴方がこの対決で何かを掴んだなら、その気づきを私にも教えてくれないかしら」

 

「えー、全然おっけーですけど、要求する対価しょぼくないですか?」

 

自分のアイデアなど無償提供が当たり前の優希からすれば、報酬扱いというのは不自然な格上げだが、星南は頑として譲らない。

 

「そんなことはないわ。十分に釣り合った提案よ」

 

「はぁ。ま、良いですケド」

 

「もう私には何が何やら分かんないよ」

 

置いてけぼりの清夏を安心させるつもりで、優希は声をかける。

 

「あー、大丈夫だよ。清夏は私のことをぶっ潰すことだけ考えてやってくれれば良いから」

 

「いや……えぇ?お手柔らかにじゃないの、そこ?」

 

一般的な感性に優希の行動原理(きづかい)は理解不能だった。

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

レッスン室に移動した優希、清夏、星南の3人はそれぞれの定位置につく。

 

「じゃ、清夏からね」

 

「うん、分かった」

 

清夏は元々ジャージ姿だったこともあり、優希が持ってきた服に着替えれば直ぐにダンスを始められる状況になった。

 

「こちらの準備はできたわ。いつでも始めてちょうだい」

 

「分かりました!」

 

形式はフリースタイル。動きのキレ、発想力、引き出しの多さなど複数の要素を見られる以上、単純にダンスの経験値が物を言うわけではない。とはいえ、これが優希にとって圧倒的に不利であることは明らか。

 

もっとも勝敗にはなんの意味もない。この対決の主題は観察と分析。だからこそ、清夏というアイドルの運命を見極めるため、優希は清夏の一挙手一投足に注意を払う。

 

一呼吸、そして清夏は踊り始める。

N.I.A出場者のデータは全て頭に入れていたとはいえ、映像越しではなく間近で見ると圧巻の一言だった。

 

滑らかな動きは、素人とは明らかに隔絶した差であることが一目で分かる。消耗の激しい動きがありながら、継続しても失速を見せない運動量。

曲は流れていないはずなのに、自然と周りをノセてしまう臨場感。

 

優希とて、アイドルに関する知識は相応に身につけている。だからこそ目の前のステージから、全容とはいかずともどのような技術が詰まっているかを大まかに把握できる。この領域に辿り着くに至った経緯を想像して、すぐさま紫雲清夏の評価を完了した。

 

天凛(センス)、か」

 

結局、そこに尽きる。どれだけ理屈を捏ねようと、恵まれた生まれ方をした人間は自然と成功する。根性論という名の、優希からすれば机上の空論でしかない戯れ事に成功例が少ないのは人間という生き物に定まった生き方が存在しているから。

 

紫雲清夏は、ダンスという天凛を持って生まれ、

十王星南は、アイドルという分野そのものを歩く運命で、

天地優希は、この星を幸せにするために生まれてきた。

 

三者とも、ベクトルは違えど成功する土壌を持っていること。それが優希の感じた共通点であることは間違いない。

ただ、この言葉ではまだ本質的な説明には足りない。

そこまで考えたところで、清夏がピタリと動きを止める。どうやら演目は終わったらしい。

 

「見事だったわ。正直私でもここまでのパフォーマンスができるかは分からないわね」

 

「……ハッハッ、……ありがとう、ございます!」

 

流石に息切れをしたのか、清夏は前屈みで膝に手をついている。

文字通り全力を出し切ったのだろう。思いつきの提案にも、やる気を持って全力で取り組んだということ。天凛に恵まれた星々の一欠片に優希は最終評価を下す。

 

 

 

 

 

 

詰まるところ、()()紫雲清夏は運命(さだ)まっていない。

 

 

 

 

 

「次は貴方の番よ」

 

「りょっす」

 

これから何を見せてくれるのか、あるいは自信を無くしているのか。期待と不安が半々に入り混じった内心を隠すように、言葉少なく促す星南に応じ、優希は定位置へ移動する。

緊張も、感傷も、自意識すら消し去って。十王星南の目を見据える。

 

……もはや、ここから先の過程を描写することに意味はない。

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

「……貴方、何をしたの?」

 

星南の第一声がそれであったことに、清夏は疑問が残るだろう。優希のダンスはアイドル始めたてであれば200点を渡せるレベルだが、清夏と比較すれば数段劣るというのが客観的な評価だ。

事実、星南自身もそのように結論を出したからこそ、次に口にすべき言葉を躊躇う。

 

「あー、その反応ってことは、多分私の仮説通りに進んだのかな?どっちが勝ちでした?」

 

直接促されてしまえば、もう答えざるを得ない。

 

「私の主観も入ってしまうけれど、……天地さんだと感じたわ」

 

「……ッ!」

 

自信はあったのだろう。清夏は正しく驚愕という熟語がよく似合う表情を浮かべる。

 

「うん、やっぱりセンスは正しく使うべきだね」

 

訳知り顔で頷く優希に、星南は詰め寄らんばかりに話しかける。

 

「教えてちょうだい。何が起こったのか、私には分からないわ」

 

「それ、私も知りたいな」

 

清夏も、真剣な表情で聞き手に回る。立ち直りの早さに更なる成長の余地を感じながら優希は説明を始める。

 

「私たちはジャンルが違えど、共にセンスがある人間っていうふうに周りからは評価される。で、センスっていうのは先天的な条件で再現性がないんだよ。他者と価値の差別化をするのに再現性の無さ、希少性を重要視するのは当然のこと。このダンス対決、私は私の希少性を有効活用した。清夏はそうじゃなかった、そういう話だよん」

 

言いたいことは分かるものの、清夏も星南もまだ優希の感じ取ったビジョンには追いつけていないといった様子だった。

辛うじて、といった様子で清夏が口を開く。

 

「私、ダンスは本気でやったつもりだけど」

 

少し不満気に見える疑問で語る清夏だが、根本的に勘違いがある。

 

「そうじゃないよん。ダンス対決とは銘打ったけど、別にダンスの技量だけを見ているわけじゃないし。これは十王星南からより高い評価(レス)を獲得する試験だ。そういう意味では、ただ難易度の高いパフォーマンスに集中するだけでは意味がない。十王星南の評価を最大値にするための最適な方法を模索することが最重要ってわけ。その観点で見るとどーでした、星南さん?」

 

2人のパフォーマンスを思い返した星南はすぐに自分の疑問が氷解していくのを感じた。

 

「紫雲さんは、ダンスに関しては抜きん出ていたけれど私へのアピール、言ってしまえばビジュアル面については今ひとつという印象だったわ。逆に、貴方は私を意識していることが動きの節々から見てとれた。パフォーマンス中の無表情さを織り込んだダンスもできていたわね」

 

ダンス対決という言葉からダンスに主眼が置かれがちだが、これはフリースタイル。分野が決まっていない以上、審査員をより魅了できた方が勝つという結果論に行き着く。

基本性能では勝てないと踏んで、創意工夫のプラスアルファで価値を創造する。これは優希に与えられた天凛だった。

 

「相手から如何に評価を得るか、みたいな課題解決能力には一日の長があるもんで。……多分だけど清夏って理想の自分を観客に届ける、的な方向にシフトしてない?」

 

「……なんで、分かるの?」

 

いつも通りの反応はスルーして、優希は続ける。

 

「そこでズレが出てるって感じかな。ダンスの才能は十分にあるからそれをボーカル、ビジュアル含め最適に運用する方針にした方がいいと思うんだけど、背伸びした自分以外見せられないって振り切れちゃってるような?それが清夏の適性と合ってないんだろうね」

 

根本的には、今まで優希が説いてきた適性運命論の話と何も変わらない。

ただ、それを言語化しアイドルという観点で改めて再定義しただけのこと。

 

「君は既に恵まれてる。自分のナチュラル・グッド・ボーンを自覚した方が良い。心を無理矢理歪めて作り出した虚像のせいで、君本来の適性が死んでるよん」

 

優希はそう締め括った。

 




学年 1年1組
氏名 紫雲 清夏(しうん すみか)

 ランク-「A」
 
 歌唱力-A
 表現力-B
 ダンス力-A+
 トラウマ克服度- B+
 ???-?

見た目通りのバリバリギャルルン。
ダンスに関しては、N.I.Aを通じて別人と言っても良いほどに成長している。トラウマに関しては、……なんか別のやつ発症してない?基本的にセンチメンタルな娘なんだろうなぁ。彼女が抱える適正不一致は長期的に問題を発生させる気がする。
リーリヤちゃん!あと、プロデューサーさん!出番ですよ!!


次回: Queen & Prince
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