適性運命論者の「アイドルのすゝめ」   作:物見遊本

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ときめきエモーションのリーリヤ強くない?贔屓目が多少入ってますけど。


『No1』の資質

 

「ねえ、君。運命って信じる?」

 

言葉と共に運ばれる圧力に、四音自身がどこか怯えていると察したのか、優希は即座に一歩下がる。

少しばかりのフリーズの後、四音は余裕を繕って返答した。

 

「っ。……思っていたよりロマンチストなのですね。それとも、それも演出の一つですか?」

 

「ロマンチスト?……いーや、運命って言うのは極めてシンプルな現実主義(リアリズム)だよ」

 

「そうでしょうか?未来はいつだって不確定なものでしょう。叶うか分からないから、アイドル(わたしたち)は夢を目指すはずです」

 

余裕の無さからか、あるいは反発心からか。

自分らしくもない言葉が四音の口を衝いて出る。

 

「君がNo1アイドルになるのは、既に確定した運命(じじつ)なのに?」

 

「……え?」

 

言葉の一言一句が常に予想の斜め上を行く。四音は惹きつけられるまいと意識してなお、優希からそんな印象を拭わずにはいられなかった。

 

「私は徹頭徹尾、単純明快な答えだけを提示し続けている筈だよ。君の奥底に隠れた本音を。白草月花を倒す、と言ったのは君の本心を口にしただけさ。君は彼女を超えたいと思っているし、超えられると思っている」

 

白草四音は、天地優希に抱いていた違和感にようやく辿り着いた。一言一句に頷かずにはいられないのだ。自分が今まで心の中に押し留めて、いつしか忘れ去っていた本音を、目の前の自分と年の変わらぬ少女に自分以上に言語化されている。()()()()()()()()()()()()そんな親近感を抱いてしまうのだ。

 

「……私もそこまで自惚れてはいません。実際に学内の評価がそれを証明しています」

 

自らの台詞に半ば不愉快さを感じながらも、子供のような感情を抑え込む。アイドルは結果が全て。そこを誤魔化す負け犬にはなりたくないという意地の表れだった。

 

「ああ、あのSとかAとかいうあれ?君にはただの騒音(ノイズ)でしょ。……少々脱線したね、教えてあげるよ。ファンタジーでもスピリチュアルでもない、運命の論理(ロジック)を」

 

優希は指を一本立てる。何度も反復したかのように自然な動作だった。

 

「ひとつ、運命とは君の適正である」

 

「人間はこの世に生まれた瞬間に、身体能力・才能・性格が凡そ決まっている。遺伝子と環境、完全に同一の条件を再現できない以上、全ての人間は平等ではない。しかし、個体ごとに適正な生き方は存在する。馬は早く走れるし、鳥は空を飛べる。全ての生物はありのままに生きれば良いのに、人間だけが不自然なんだ」

 

この哲学に対して、大抵の人間は反発を覚える。それは、この世界を複雑に捉えようとしている人間が多いことの証左でもあった。

 

「仮に人間の適正な生き方があるとしても、それは簡単に分かるものではないでしょう。一生を費やしてなお、見つからない人もいるはずです」

 

その例に漏れず、四音もそう返答した。

優希は静かに首を振る。致命的な誤解を咎めるのではなく、不幸な行き違いを正すように。

 

「ふたつ、全ての人間は生まれた瞬間から自身の適正な生き方を知っている」

 

2本目の指を立てて、そう断言する。

 

「心とはこれ以上ないほどに克明な設計図だ。遺伝子は産まれる前、心は生まれた後の設計(モノ)といえる。お腹が空けば食事を、嫌なことがあれば泣き、休息が必要なら眠る。心身が成長して行動のヴァリエーションが広がろうとそれは変わらない。自分の素直な心に従い行動し続ければ、生命は自らの目的を最高効率で達成できる」

 

人生の正解を求めて、人は多くを思考し、多くを苦悩する。

そんな常識的な探究こそが、正しい道から人を逸らしてきた。

その余分を優希は啓蒙する。

 

「みっつ、他者とはノイズである」

 

3つ目の指を立て、優希がアイドルの心奥に踏み込む。

 

「人間の精神は外圧によっても大きく変容する。誰かに憧れてわざわざ失敗する方法を選んだり、余計な期待に応えようとして非効率な見栄を貫いたり。……もし自分の感情に従った結果、適正な生き方から遠ざかるとすれば、それは不必要な影響(インプット)によるものなんだ。他人(ファン)、なんてその最たる例じゃない?」

 

「………………とても、アイドルとは思えない台詞を言いますね。まさか、ファンが必要ないとでも?」

 

惜しい回答に迷いながらも部分点を与える教師のような目で、優希は四音の言葉を訂正する。

 

「ファンの声に耳を傾ける必要がない、というのが正確かな。……いいよ、君の運命(ほんね)を代弁してあげよう。ーーファンは道具、道具の評価(あらし)など聞く価値もない。ーーーでしょ?」

 

「……ッ!」

 

それは、四音の醜い一面を抉り出す言葉だった。応援してくれるファンがいてこそのアイドル。だから、ファンからの正直な気持ちは受け止めなければならないのだと、自分を納得させ続けてきた。無論、相手を煽る目的で毒を吐くことはあっても、自分の本性は悪いものであると言い聞かせてきた。

 

優希はその虚飾を嘲笑う。

代わりに、その奥から溢れ出る本性を祝福する。白草月花が上で、白草四音は下。そんな、()()()()()()()()思い込みには価値がないのだと。

 

「ほら、持ってるじゃん。No1の資質」

 

「……No1……私が?」

 

四音の茫然とした表情に、優希はただ満足気に頷く。

 

「そう、自分を世界の頂点だと信じられるマインド。それこそがNo1の適正、トップアイドルの運命だ。……あ、勘違いしないでね。妄信的なナルシストになれって話じゃないから。自分が白草月花を超えられるのだと。現実を見た上で信じられる。だからこそ、自分を分かってもいない観客の言葉にイラつく。十分に器でしょ」

 

「……あなたは、本当に私が月花姉様を超えられると?」

 

発音して、自分のその声に何処か期待の色が乗っていることに四音は気づいた。

 

「それ以上の領域にさえ至れる。君がそれを信じるならば」

 

お世辞の類ではない。

優希の目を見て四音は直感した。この女は、自分の可能性をともすれば自分以上に確信しているのだと。

返答に一拍の間は必要だったものの、四音は乗る価値があると判断した。

 

「……分かりました。貴方の口車に乗るわけではありませんが、検討の余地はあるかもしれません」

 

「お、というと?」

 

優希からは先ほどまでの雰囲気は鳴りを潜め、軽薄な一面が顔を出す。切り替えが早い、と言うべきかもしれないが。

 

「お試し期間です。1ヶ月、私を実際にプロデュースしてみてください。撫子は、」

 

返答は言い終わる前に発されていた。

 

「お姉様がお受けされるのであれば、わたくしもついていきますわ!!」

 

言葉尻を奪い取るように、撫子は首を大きく縦に振る。自分が置いていかれることを恐れる子犬のように大袈裟なリアクションだった。

 

二人の答えを聞き届け、話がまとまったと言わんばかりに優希は一度手を叩く。

 

「お試し期間、か。1ヶ月もあれば十分だよ、よく見運命(さだ)めてね」

 

「……よろしくお願いします」

 

それじゃあ、と差し出された手を四音は握り返す。その表情に何処か不満が残ることに、優希が疑問の表情を浮かべる。

 

「ところでプロデューサー、私ばかり見透かされるのは不公平でしょう。ですので、貴方の話も聞かせて貰いますよ?」

 

優希は意外とばかりに目を瞬かせる。彼女にとって売り込み(セルフプロデュース)は、罰ゲームではなく商機(ビジネスチャンス)だった。

 

「私の?全然OKだけど、何が聞きたいの?」

 

四音は半ば意趣返しのように問いかける。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

ウィットに富んだ質問に、優希は僅かに目を細める。

 

「ロマンチック〜。私でなきゃ惚れちゃうね」

 

揶揄うような口調を残して、優希は語り始める。自分をこの場所に連れてきた過去の決断、その全容を。




学年 1年1組
氏名 白草 四音(しらくさ しおん)

 ランク-「A」
 
 歌唱力-A
 表現力-A
 ダンス力-A
 ???-?
 ???-?
 
 極月学園の1年生にして、Aランクに君臨する超新星。
 ボーカル、ビジュアル、ダンスの全てが一級品であるが、彼女の最たる素養は自身がトップアイドル足り得る世界を持っていることではないかと考える。
 ……それにしても、お試し期間か。いい口説き文句を聞いた。今度、大学時代の友達に教えてあげよう。


次回:宇宙一の『No2』
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