「ワン、ツー、スリー、ここでターン!」
初顔合わせから数日。優希、四音、撫子の3人はレッスンに打ち込んでいた。
優希の理想、「宇宙一のステージ」とやらが、四音と撫子には未だにピンときていない様子だった。優希自身も、自分の構想はまだ共有すべき時でないという思いがあった。
とりあえず、優希は目下の最優先事項である四音と撫子のデータ収集、そして自身をアイドルとして調整するために、3人合同のレッスンを提案した。
ダンスを一区切り終えたかというところで、四音と撫子に目を向けるが、基礎能力の違いは如実だった。
四音は多少疲労が見えるものの、余裕を残している。しかし、撫子はついていくのも息絶え絶えという様子だった。
「大丈夫ですか?撫子」
「ハァー、ハッ、ゼ、ゼェー……。んぐっ、大丈夫、ですわっ!」
「撫子、自身のコンディションはしっかり申告した方が良いよ〜。私が弱音吐けなくなっちゃうからね」
「よく言いますね。まだ余裕でしょう、あなた」
飄々とした優希に四音はじっとりとした視線を向ける。撫子ですら苦戦する水準のダンスレッスンを涼しく流す優希の技術を見定めているかのように。
「その、優希様。つい聞きそびれていたのですが……」
「うんにゃ?何?」
いつの間にか自身に"様"をつけていることに少し小恥ずかしいものを感じつつも、優希と撫子は概ね良好な関係と言える。
そんな撫子が躊躇いがちに話しかけてくることに疑問が浮かぶ。と、同時に氷解。
「ああ、自分が選ばれた理由が不安っぽい?」
「な、なぜ、それを……」
絶句しているところ悪いが、分かりやすすぎて別に運命を「視る」までもない。……とは流石に口にしないものの、撫子へのメンタルケアの必要性を優希は感じ取った。
「うーん、お世辞って思われたくないんだけど、私が見てきた中で一番理想的なアイドルって多分撫子なんだよね」
「ふぇっ!?」
「はぁ!?」
撫子に続き、四音も頓狂な声を上げる。
「え?なんで四音まで?」
「いや、どうしたも何も、あなたは私が『トップアイドル』だと言ったんですよ!!それなのに撫子の方が理想的とはどういうことですか!」
「えー、何も矛盾はしてないでしょ。私は基本的に全人類肯定論者だよ。全ての人間には本来優劣なんてないんじゃない?それぞれの適性から生まれるそれぞれの良さがあるんだし、さ」
「それはっ。そうかもしれませんが……」
「ただ、」と優希は続ける。
「それでも、好ましい人間の型があるとしたら、それは『適性に従っているかどうか』になるね。自分が自覚的に望む姿と、適性としてそうあるべきと定まっている姿が一致してるかどうか。撫子ほど自我と適性が一致した美は初めて見た」
「私が美しい……ですか?」
信じられない、という思いとその奥に微かな優越を覗かせる撫子に優希は首肯する。
「白草四音は生まれながらのトップアイドル。つまり『No1』適性だ。私は観察と適応で世界そのものを変革したい『No2』。この2つに足りないものを補ってくれる存在がいるのだとすれば、それは『No3』というべきなのかもしれないね」
優希の語る世界観に四音は呆れながらも歩み寄る。
「曖昧ですね。もう少し言語化していただきたいものです」
「それもそっか。『No3』はいわば仲介のポジションと言うべきもの、かな。No1とNo2に限らず、方針や理念の違いは時に歪みや軋轢を生む。それは自然の摂理でどーしようもない。だからこそ、チーム内に対立を解消するピースが必要ってワケ」
内容を聞き終えた途端、撫子があたふたとし始める。
「わ、わたくしが四音お姉様と優希様の仲介……?ム、無理ですわっ!」
「できるよ、撫子可愛いもん」
唐突な流れ矢に、またも撫子が赤面する。
「はぇっ?」
「優希、あなたさっきから撫子で遊んでるでしょう」
「うーん、10%ぐらいは」
「そんなっ!」と涙目になる撫子に優希は諭す。
「『No3』の形には、色々と種類があるんだけど、撫子は可愛いという固有の武器を活かせば良いと思うよ。仲介っていうのは喧嘩した時仲直りさせるだけじゃない。1番や2番が持ち合わせていない
「可愛いという、武器」
呆然としながらも咀嚼するように呟かれた言葉は思ったよりも早く喉元を通り抜けそうだった。
「撫子、もしかしなくても自分が能力的に劣っているかもしれないって焦ってるでしょ」
「……うっ!な、何故それを」
「撫子が勝負すべきはそこじゃない。アイドルはヴォーカル、ダンス、ビジュアルだけで決まるほど甘くないんだよ。可視化できないだけで、多くの要素が複雑に絡み合っている。そして、本能でも最適解の一つを体現しているのが今の撫子だ。……目先の数値だけに囚われるな。自分が今見せたいありのままの自分でステージに立てば良い」
優希の言葉に、ハッと撫子は顔を上げる。
「…………分かりましたわ。やってみます!優希
少しばかり変化した呼び名に優希は嬉しそうに笑う。
「ふふ、良す良す。その調子で全人類の妹になってみな。『No3』のキューティー・ハニー」
「……うちの撫子にあまりおかしなことを吹き込まないでいただけますか?」
置いてけぼりをくらった四音は少しだけ不服そうにしていた。
学年 1年3組
氏名 藍井 撫子(あおい なでしこ)
ランク-「B」
歌唱力-C
表現力-A
ダンス力-B
愛嬌?-A+
???-?
極月学園上位層であるBランクとしてポテンシャルの高さが窺えるものの、要領の悪さ(当社比)で損をしていると言えなくもない。
基礎能力、刺さる層には刺さる容姿などアイドルとしての武器は持っているので、活かし方をこれからじっくり教えていくのが最善と思われる。
今回のレッスンは立ち回りとか順応の早さもあるから、撫子の方がアイドルとしてはまだまだ上だと思う。ので、そんな気にしなくて良いんじゃないだろうか。
あと、「お姉様」呼び。ちょっと痺れた。
次回: 賀陽燐羽