「さてさて、来たは良いけどどうしたものかね」
初星学園を訪れた優希は、学園内で迷子になっていた。
一応、正規の手続きで入校している。どうやったか?金と権力とコネ。
では、案内人がついているだろうと普通は思うかもしれないが、他校であろうと変人を貫き通すのが優希の流儀だった。
他者によって舗装されたルートではなく、偶発性から生まれる些細なポイントを視察(スキャン)する。だから、校内の情報を事前に取得することもしないし、結果として迷子になってもそれはそれと考えている。
しかし、そろそろお昼時。よく分からない倉庫の集合体みたいなところまで迷い込んだことでいよいよ収拾がつかなくなってきたと思った矢先。ーーー運命(ぐうぜん)に出会う。
「あの、大丈夫ですか?」
「実は結構、大丈夫じゃないかも」
銀髪のショートカットがよく似合う少女は、優希の弱音に目を丸くした。
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「いやぁ、助かった。案内をつけずに学校見学に来たものの迷子になっちゃってさ、リーリヤちゃんに見つけて貰わなかったら本気で危なかったかもしれん」
「あはは……初星学園は広いですからね。ああいう狭い場所に入っちゃうとスタッフの人とか中々通らないので」
遭遇から、僅か数分。優希とリーリヤはすっかり仲が良くなっていた。
「うーん、次からは携帯くらい持っていこうかなぁと思うよ」
「え、持ってないんですか?」
「うん、持ってるメリットとデメリットを天秤にかけてデメリットの方が重いかなって。余程のことがない限りは手も触れない。とはいえ、発信機くらいは装着するよ」
現代人が携帯なしで、案内もなく他校で迷子になる。少し恐ろしいものを感じながらリーリヤは気を取り直す。
「へ、へぇー……。そう言えば、天地さんって極月学園の生徒さんなんですよね?どうして、初星に?」
「そうだね、極月に移籍してくれるアイドル募集中。的な?」
突然、聞き捨てならない台詞を放つ優希にリーリヤは思わず聞き返す。
「え?」
「て言うのは半分冗談としても、初星のアイドル育成方針についてはちょっと気になってるんだよね。極月のようなエリート思想とは違う。プロデューサー科のシステムは面白いと思うよ。不完全だからこそ補う存在が必要、というのは共感できるね。リーリヤちゃんもいたりするの?プロデューサー」
「あ、はい!こんな私でも支えてくれる素敵なセンパイです」
自分のプロデューサーの話になった途端饒舌になるリーリヤに優希は人格面の評価を大まかに確定する。
「……ほぇー。なんか立て続けに悪いけど、なんでアイドルになったの?」
「友達とステージを見に行ったんです。……それで、私たち二人でいつか同じステージに立とうって約束したんです」
正直、陰キャ特有の空気があっただけに少し意外だと思ってしまったのは内緒だ。
「おお、アオハルじゃん。なんか甘酸っぱいね〜」
今度はリーリヤが質問側に回る。
「天地さんは、どうしてアイドルになったんですか?」
「私?んー、詳細を話すと長くなるから一言で言うと、アイドルとして宇宙を開拓したいから、かな」
「アイドルで宇宙開拓……ですか?」
「うん。でも、それは私一人の力だけじゃダメだ。例え、ユニットを組んでも無理。この地球上に生きる全ての生命が自らの役割を全うした先にある世界。私はそこに行きたい」
あまりにも世界観の違う話をされて、リーリヤは圧倒されているようだった。
やっぱ、月花(あのひと)おかしいわ。と優希は改めて納得する。
「……すごい、ですね」
「そう?」
「私は、特別なものなんて何もないから。……初星に来て改めてそう思います。みんな才能があって、特別で、私はアイドルに向いてないんじゃないかっていつも思ってます」
「流石にそれは卑下が過ぎる気がするね」
優希の否定に意表を突かれたといった表情を浮かべるリーリヤ。
「え?」
「私の持論だけど、アイドルに適性のない人間なんていないんだよ。ただ、自分をプロデュースする方向を間違ってるだけだね」
「プロデュースする方向……ですか?」
「そ。美しさを前面に押し出したいタイプ。カッコ良さで周りを引っ張りたいタイプ。愛嬌で賞賛を集めたいタイプ。人間なんて中身の塊なんだよ。だから、自分の中にある全部を正しくファンにお出しすれば良い。まぁ、それが出来てないからこんだけ苦労してるわけだけどね」
「とはいえ、まあ」と優希は続ける。
「リーリヤはアイドル向いてると思うよ」
「そう、でしょうか?」
「適性の範囲が広い、とでも言えば良いのかな。アイドルに求められている様々な要素についてどれかに特化しているのではなくどれも持ってる、みたいな?才能が多彩なんじゃなくて、どういう方向のプロデュースでも、質さえ確保できれば高い結果が出せる感じ」
リーリヤが自身の言葉を飲み込むのを待つ。今は消化も納得も出来なくて良い。頭の片隅に留めておけば、いづれ何かが開花する。
「だからこそ、君自身の声が必要になる。リーリヤってさ、自分のために必死になれないタイプでしょ。自分が世界の中心にいる主人公だなんて思えない。多分、アニメのキャラクターに感情移入してようやく自分に都合の良い世界を生きられるって経験ない?」
優希は、何故それを。と言いたげな表情に返答する。
「
「主語?」と疑問符を浮かべるリーリヤにさらなる説明が必要と判断。
「自分なんかを選んでくれたプロデューサーのため。友達と同じステージに立つため。自分を物語の主人公にするってことは幸福を我先にと掴み取る覚悟も、痛みを全て受け止める孤独も抱え込むってことだ。……君は、まだ観客側にいるね。辛うじて背中を押されれば、アイドルらしく振る舞えるってとこかな。君自身が引いた白線をいつか踏み越える覚悟が必要だ」
「私自身が引いた、白線」
ふと、優希にいたずら心が芽生える。
「私はどんな人間にも適性があると思ってる。君がアイドルに必死なのはアイドル以外の道以外を知らないからで、他の道の方が君の人生は幸せになれる、みたいな未来があるとしたらどうする?」
「他の未来、ですか?」
そのまま待っていたら、「そんなことは考えたこともない」なんて言い出しかねない様子に、先んじて二の句を継ぐ。
「君には間違いなくアイドルという夢を追いかける理由がある。でも、君にとって目標に全力で挑むのは
リーリヤは一瞬、驚いたような顔をした。しかし、優希の問い自体には微塵も動揺していない。そう応じるようにきっぱりと答えた。
「違います。確かに決めた目標にはいつだって全力ですけど、全力になれない目標なんて立てません。私はセンパイと清夏ちゃんと、私をいろんな人と繋げてくれたアイドルだから目標にするって決めたんです。だから、どんな夢でも良かったってことでは、ないです」
力強い言葉だった。自己肯定や自信とは違う。自分が譲らないと決めた夢(うんめい)だけは決して手放さない。その精神性が獲得した光だった。
「良いね、君。アイドルに運命(さだま)ってる」
優希は最大限の賛辞をもってそう返した。
「……ところで、食堂何処か分かる?お腹減ってるんだけど」
即オチ2コマのような、言葉の温度差にリーリヤは吹き出した。
学年 1年1組
氏名 葛城 リーリヤ
ランク-「B」
歌唱力-B
表現力-B
ダンス力-B
度胸-E
体力-D
アイドルとしてのキャリアの短さ。突出した武器を持たない故の自信のなさで、伸び悩んでいる時期であることは明白。しかし、アイドルとしての意識は大したもので成長性には大いに期待できる人材という印象を受けた。
ここから、彼女自身がどのような個性を見せてくれるのか楽しみではある。
個人的には良いものを見せてもらったって感じかな。最後の台詞はちょっと痺れた。
次回: 傲慢的な敬意