リーリヤに食堂を案内してもらった後、優希は一人で食券販売機械の前に立っていた。
「この後、用事があるので」と別れたが、いつかまた会いたいものである。
そんなわけで、無難に(?)ラーメンを注文して、座る席を探す。できれば誰かと一緒に食べたい。それも、才能の原石であれば尚良し。
とはいえ、お昼を少し過ぎているので人もまばらだ。あまり選ぶのに時間はかからないか、と思い立ったところで、一方的ではあるものの見知った顔を発見。早速、話しかけてみることにした。
「やあ、どうも。相席よろしくて?」
「はい?ええ、まあ……構いませんよ」
どことなくおっとりとした声音。紫の髪を肩口で切り揃え、口元のほくろが妙に色気を醸し出している。元「SyngUp!」の秦谷美鈴は、優希の突然の申し入れにも特に動揺した様子なく受け入れてくれた。
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優希がここに来た事情、極月学園の生徒であることなどを一通り話し終える。特に話を遮ることなくきいていた美鈴だったが、極月で優希が燐羽と会話したことを知ると途端に食いついてきた。
「賀陽さんには、素直になるよう助言したけど、あそこまでのバブみを見せられたら、否が応にも歩み寄るしかないかもね」
「ああ、りんちゃんが言っていた極月の生徒さんはあなたのことでしたか」
元ユニットメンバーの話なので、多少は会話のタネになるだろうと持ち出しただけだったが、自分の預かり知らぬところでいつのまにか共有されていたことに、優希は若干驚く。
「へえー、りんちゃんなんか言ってたの?」
口調の伝播、では決してないが、りんちゃん呼びに一瞬美鈴が険のある目つきになる。続く言葉はよもや意趣返しなのでは?と優希は邪推した。
「『スカした態度で見透かしてくる論理不快(ロジハラ)女』、だそうです」
「はは、じゃあ私のことだね」
中々、面白い渾名だと感心する。なるほど、経営者としてハラスメントはダメだ。
「燐羽にも面と向かって凄く嫌いって言われちゃったんだよね。私としては、どうせ戻ってくると分かりきった運命(みらい)に少しでも早く辿り着いて欲しかったんだけど」
「まあ……なぜ、そう言い切れるのですか?」
「彼女が一面の闇だと思っている宙(そら)には、これから眩い星々が現れるから。・・・君ではなく、この私の手で」
瞬間、美鈴から表情が消える。図星を突かれると、例外はあれど基本誰でもキレる。が、しかし優希はさらにその一歩奥へと踏み込む。
「君、結構不良でしょ。慇懃無礼じゃなくて、傲慢的な敬意を払うタイプの」
ポーカーフェイスの美鈴が、少しばかり表情を崩す。優希以外には驚いてるのか判断がつきにくい表情で返答してきた。
「初対面で不良呼ばわりされたのは初めてです。それと、日本語は正しく使った方が良いですよ」
「君を表現する適切な単語を辞書に載せていない出版社が悪い」と流しながら、優希は言葉を続ける。
「初対面で君を誤解するのは、外面を見ていない人が多すぎる良い証拠だね」
「私は外見こそ不良に見えないのでは?」
「まさか、君の内面を推し量ろうとすればするほど誠実さと実直さが垣間見えるよ」
一見、素行が悪いようで、長く深く付き合えば彼女の真摯さは見えてくるのだろう。他人の目がある時は自由気まま、他人の目がない時は自分を律する。ある意味プロフェッショナルとも言える。
「魔訶不思議なことに、表面的なものだけを見るという観察方法を多くの人間が軽視する。別に人間なんて刹那の積み重ねなんだから、親友とか恋人にでもなるつもりがないなら、基本は外見に現れる情報だけで判断すればいい。余計なものまでしっかり見ようとするから、無駄な時間を使って運命(ほんしつ)から遠ざかる」
「……内面などどうでも良いと?」
「コスパの話だよん。その人の本当の姿を理解するのは長い時間をかけて、それでも無理なことすらある。中途半端に理解した気になるくらいなら、ある程度の観測と分析に留めるのが人付き合いの基本、ってのが私の持論だね」
優希はその理念をずっと守ってきた。所詮、人は人を理解することはできない。長く貴重な時間をかけてその人の奥深くまでを理解した錯覚に陥るくらいなら、9割9分確実に断定できる情報の収集のみに努めればいい。
「つまるところ、どれだけ見透かしたようなことを言ったところで私にも見えないものはあるってコト。人間の外から内まで全てを私は理解できないし、する気もない。燐羽がアイドルに復帰することには興味があるが、その過程はどうでも良い」
自分の友達についてどうでも良い発言。
美鈴は、その言葉の意図を正しく読み取った。
「ふふ……私たちは似たもの同士なんですね。自分勝手で他人のことなど気にしていないように見えて、自分なりの方法で相手を尊重している」
そこで一度言葉を切る。その先を口にするのを少し躊躇うかのように。
「ありがとうございます。りんちゃんに貴方なりのやり方で向き合ってくれて」
初星に来てから、優希は自分が驚かされてばかりだと気づく。自分の言葉は大抵、相手とすれ違うことにしかならないというのに。
……いや、それは今もだ。すれ違ってはいる、ただし、優希の言葉を自身の糧にしている。
リーリヤも美鈴も。
「面白い」
自然と笑みが溢れる。今のところ、2人中2人が優希の人生の中でそうそうお目にかかれない人材(げんせき)。
偶然か?この学園は目利きに優れているのか?この学園を、その根幹をもっと知りたい。
ここに入る前とは別種のモチベーションを自分が獲得していることを優希は自覚しながら、美鈴に話しかけようとして、
「ちょっと美鈴!集合場所にいないと思ったら、またサボっているの!」
聞き覚えのある声のした方向を振り向く。
「まあ、会長。お昼寝をしてしまったので遅めの昼食を取っていました。それと、来賓の方に学校の案内を」
しれっとダシにされてるし、案内って食堂で話してただけだけど、というツッコミはあえてしないでおく。
美鈴にあしらわれるのは、いつものことなのだろう。呆れた表情を浮かべながらも近づいてくる人物は初星でなくとも知らないものはいないだろう。
「どうも、十王星南」
「貴方は……」
次の観察対象(えもの)に、優希は内心で舌なめずりをした。
学年 1年2組
氏名 秦谷 美鈴(はたや みすず)
ランク-「A」
歌唱力-A
表現力-B+
ダンス力-B
傲慢さ-S
素行-E
のんびりマイペース。自分にも他人にも優しく甘い。世話好き、甘やかしたがり、まで想像つくわ。秘めているポテンシャルはまあ大したものであると分かる。良く燐羽と手毬とユニット組めてたねこの娘。
広とウマが合いそう。
次回:『一番星』の解剖、『チートモンスター』との邂逅