「どうも、十王星南。初星学園を楽しませてもらってまーす」
初星学園現生徒会会長にして、最強のアイドル『一番星』。
その座に君臨する帝王、十王星南に対して、優希は昔馴染みの友達のようなノリで話しかける。
「あら、ようこそ初星学園へ。学園長から来賓で来られることは聞いています。楽しんでいただけているようで何よりよ」
すぐに距離を詰めない辺りは、良くできた箱入りお嬢様という感じに思える。
初対面の微妙な空気。優希は自分から踏み込む必要性を悟った。
「N.I.Aお疲れ様でした。有望なアイドルをプロデュースしながら、自身も参加とは流石でした。これからの自分にとって良いお手本になったと思います」
相手と会話するなら、共通点から。これは関係構築の鉄則になる。
「お手本?では、貴方も」
「はい、プロデューサー兼アイドル志望です。始動まではもう少しかかるんですけどね」
どことなく軽薄さが感じられる口調だったからだろう。咎める、というほど剣呑ではないが、素行の悪い生徒を諭す教師のように星南は語りかける。
「そう。説得力がないかもしれないけれど、相当な重みよ。生半可な覚悟なら、潰れてしまうことになるわ」
苦労を知っているからこその、現実的なアドバイスだったのだろうが、教え子相手につぶれるなんてことはこと天地に関してはあり得るはずもない。その意図を端的に表現する。
「大丈夫ですよ。慣れてますんで」
強がりでも、その場しのぎでもなく、純然たる確信を満ちた答えに星南は追求をやめた。
そして、優希の影でひっそりと隠れている下手人に目を向ける。
「美鈴、隠れてもダメよ。レッスンがあるのだから早く来なさい。佑芽も待ってるわ」
会話が切り上げられる流れになっているが、優希としては少々どころでなく勿体無い。会話の流れから、元SyngUp!の秦谷美鈴が新しく選んだユニットメンバーが十王星南。そして、佑芽と呼ばれた少女もまたこの2人に負けない才能の持ち主なのかもしれない。
この魚達は逃さない、と優希は反射的に口を挟んだ。
「それ、私もついて行って良いですか?」
✳︎✳︎✳︎
「へー、優希ちゃんってりんはちゃんと同じ極月の生徒さんなんだ」
「まあね、極月は私の適正と一致してるんだけど初星という土壌も一度良く観察すべきかなって思ってさ」
物見遊山でついて行った待ち合わせのレッスン室。そこで出会った花海佑芽と、優希はすっかり仲良くなっていた。佑芽は一人でウォーミングアップを終えていたので、星南と美鈴が同じくウォーミングアップする間だけ話し込んでいたのだ。
「つまり、今のところはこの3人でユニットを組んでいると。そういうワケ?」
「うん!お姉ちゃん達に勝つために組んだ最強ユニットだよ!!」
「なるほど……確かに良いチームだね。美鈴のマインドは大体読めた。一番星の解剖も既に終わり、佑芽についても大分分かってきたよ。この3人が組むことには合理性がある」
「へぇ、その話詳しく聞かせては貰えないかしら」
周りも気にせず、というほど話し込んでいたつもりはないが気づけば後ろで星南が好戦的な笑みを浮かべていた。
「ああ、このチームに対する私なりの分析?全然いーですけど。そんなに気になります?」
「ええ、貴方の論理(ロジック)を聞かせて欲しい」
真摯な問いかけには、いつだって喜んで答える。優希は自分のモットーに従い、話し始める。
「多分なんですけど、十王会長ってNo1に座することにそこまで興味関心がないですよね?」
「……何故、そう思ったのかしら」
「私は人間を見る時に大まかなフレームワークでカテゴライズするようにしてます。その中に、『創出派と応答派』っていうのがあるんですよ」
続けて、と目で促す星南に優希はとりあえず最後まで話すことを決める。
「人間は誰であれ、自分の中に唯一の感性を持っるんです。言葉を覚え、価値観を共有していく上でそのオリジナルな感性は一般化されていきます。つまり、成長するにつれて人はある程度『世界』と『自分』の差異を受容する。創出派は、この差異を受容せず自分の価値観を守り続けるタイプ。逆に応答派は、自分の価値観を世界側に近づける。そんな感じです」
星南は真剣な表情で聞き入っている。
理論的な話になるので、難しい言葉を使いすぎてしまっているが問題なくついていけているようだ。
佑芽は頭がこんがらがっているのか、八の字眉になってうんうん唸っている。知能指数の高い美鈴は……あくびすらしているが、興味がないだけだろう。話を理解していないという点は似たもの同士の両者である。
「"創出"とはこれまでにない新規軸の価値を生み出すという意味合い。自分の価値観を先鋭化させるからこそ、クリエイティブな能力が光るわけです。反対に"応答"は、世界のトレンドを捉え続けるメンタリティの持ち主に相応しい。社会で結果を出している人材というのはこのどちらかに分類できる、ってゆーのが私の理論」
星南は話を一通り聞き自身の見解を口にする。
「なるほど、大体分かったわ。その理屈でいくと、私は応答の側なのでしょうね。常に模範たるよう清く正しく美しくを心がけてきた」
理解力の速さに優希は内心舌を巻く。白草月花は、直感的にイメージで優希のビジョンを取り込んでいたという感じだったが、十王星南は理知的に言語化して誰でも理解できる形にまで落とし込んでから咀嚼する。
自分に少し似ているかも、とは言わなかった。
佑芽と美鈴を一瞥して優希は続ける。
「花海佑芽は典型的な創出派。自己中とか、我儘とか、そういう意味ではないけど根本的に自分の中にある判断材料や物差しを基にすることでしか何かに没頭できない。例えば、一番星の称号をポンと渡されて嬉しいなんて思わないでしょ。自分が認めた相応しい人から貰いたい、って突っ返すタイプ。美鈴も一度決めた自分の考えは絶対視するきらいがあるから同じ穴の狢かな」
優希の個人的な人物像の一つ考察について、当の二人は首肯して返す。
「えー!優希ちゃんすごい!!なんで分かったの!?」
「まぁ。私についても概ね正しいかと思います」
二人の反応を確認して、総括を述べる。
「生産性の高いチームとは創出だけでも応答だけでも回らない。どちらの要素も決められた比率のパワーバランスで運用されるべき。その点で言えば、十王星南というキャリアも能力もズバ抜けた応答が創出2人を支えるというのはチーム構成として悪くない。私から見ても、全員が特に取り繕うことなく自然な状態で現在のチーム運用ができているのならばこれほど理想的なことはない。……そんな感じですかね」
あえて口にするまでもないことだが、このユニットの恐ろしいところはこの娘だな。
そんな内心の想いを抱えて、優希は佑芽を見遣る。
肉体性能、精神のタフネス、結果を出すことにこだわる向上心。
これらの要素は、獲得するための再現性がまずない。肉体のギフトは言うに及ばず、精神的な強さも後天的に身につく人間とそうでない人間がいる。人間は基本的に苦痛を嫌う生き物だからだ。現代日本という恵まれた環境がそれを助長させているのも一員だが。
このレベルのウルトラチートモンスターは、組織に入っても能力や意識の落差で宝の持ち腐れになってしまうことが多い。ところが十王星南や秦谷美鈴という同レベルかつサポーターに回れる人材がいることで、その適性が遺憾無く発揮されている。これでまだ発展途上であるなど、何かの冗談たろうか?
「いや、ホント。末恐ろしいな」
「へっへーん!そうでしょー!」
優希の複雑な胸中、……どころか直前の理論の話もろくに聞いていないだろうに佑芽は胸を張って威張る。それを微笑ましげに見つめる星南と美鈴を見て、良いチームだなという漠然とした感想を優希は抱く。同時に、今のこの3人から見るべきものはもうないという確信も。
「じゃ、私はもう行きます。レッスンの邪魔をしてすみませんでした」
「いいえ、興味深い話を聞かせてもらったわ。……案内は求めていないだろうから気の済むまで初星を見て行ってね」
あまりにも寛容な星南に、優希は一応確認といった調子で尋ねる。
「一応、敵情視察なんですけどね」
「なら、尚更よ。十全の準備をしてかかってきなさい。この初星学園に!」
実に『一番星』らしい自負の言葉で返されたが。
学年 3年1組
氏名 十王 星南(じゅうおう せな)
ランク-「A」
歌唱力-A
表現力-A
ダンス力-A
???-?(最低ランク以下)
???-?(最低ランク以下)
初星学園生徒会長にして、現『一番星』。
おそらく、白草月花と同様のアイドルの才能を見抜く能力がある。プレーヤーとしても、プロデューサーとしても適性があることは間違いないものの、正攻法で研鑽を続けてきた自分に成長限界を感じている素振りが見られた。
それを学ぶ意味も込めて花海佑芽や秦谷美鈴とユニットを組んでいるのかもしれない。
学年 1年2組
氏名 花海 佑芽(はなみ うめ)
ランク-「B+」
歌唱力-C
表現力-C
ダンス力-B
運動能力-S
アイドル力-B
補欠入学……補欠入学!?
元アスリートらしく身体能力は折り紙つき。
どうやら姉の花海咲季を目標としているらしくアイドル未経験ながらも急成長を続ける逸材。
普通、未経験の壁ってあんな簡単に飛び越えられるものじゃないんだけど……。
え、鏡見ろ?まぁ、それは確かに。
次回:踊りの好きな女の子