【SENSE~Beyond the blue sky.~】 作:柳川 秀@尾上 愛【新人Vtuber】
運命って、あると思う?
Do you think that there is fate?
神様って、いると思う?
Do you think that God exists?
人間って、汚いと思う?
Do you think that people's minds are dirty?
キーン、コーン、カーン、コーン。
古びた高校の校舎に響く、聞き慣れたチャイムの音。
「起立、姿勢」
吊り目で黒眼鏡の学級委員の号令に合わせて起立し、姿勢を正し、
「礼」
「ありがとうございました」
頭を下げてから、周りに合わせて中くらいの声で挨拶をする。
その後生徒たちは駄弁るために中庭へ向かったり、もしくは読書するために図書室へ向かったりしていた。そうでない奴はまだ中に残っている。
ここは初夏の2年A組の教室。3階建ての校舎の2階。
廊下はグラウンド側にあり、反対にはガラス窓がある。その向こうには青々とした森が広がっている。
森を抜けて飛び込んできた風が、自分の机に突っ伏して寝ようとしていた俺の頭を乱雑に撫でていった。
真っ黒の髪についた寝癖は怠慢で残しているものではない。いくら直してもボサボサ跳ねたままになるんだ。
『カラス頭』とよくバカにされる。まぁ、カラスの方が毛並みはしっかりしていそうだが。
自他共に認める、何の才能もないただの少年。
特徴らしい特徴は特にない。成績は平均的、体格は中の中、容姿は友人からモブキャラクターと言われるほど。
極普通のサラリーマンとパート主婦の間に生まれた、どこにでもいるような高校2年生。
歴史の表舞台に立つこともなければ、世間の注目を集めることもなく、周囲にすらどうとも思われていないような存在。
……ああ、そうだ。もう昼飯の時間だった。
顔を上げると、何人かの生徒たちが机を動かして自分たちの居場所を確保している。
俺の机を使われることもあるし、だったら邪魔になるなと判断するのは当然のこと。
むくりと起き上がって、机の横に掛けてあるカバンから弁当とライトノベルを取り出し、教室の出口へと向かった。
だたの高校生。そういう奴が何かしらあって物語の主人公になる話はよくある。今俺が持っているこの本の主人公だってそうだ。
平々凡々に日常を生きていて、ある日超能力に目覚めて、ツンデレのヒロインやキレ易いライバルやら、個性豊かな登場人物たちと関わっていくことになる、そういうありふれたフィクション。
そう、フィクションはフィクション。リアルはリアル。
魔法や超能力、萌えキャラ、ご都合展開……全部この現実世界においては有り得ない。
まぁ……魔法や超能力は、存在はするけど確認されていないだけかもしれない。その可能性はゼロじゃない。
でもどのみち、そういうのに巡り合う確率が低いことは分かり切っている。
運命の出会いに恋焦がれたって無駄だ。居もしない神様に祈ったって無駄だ。他人に期待したところで何になる?
本当はどうでもいいんだ。なにもかも、このライトノベルの続きさえどうでもいい。
学校に来るのも含めて全部を全部惰性でやっている。周りがそうしているから、そうしなければ普通でないと言われるからそうしているだけ。
叶うことなら何もしたくない。楽しいことだけしていたいとか、そういうのですらない。
どれだけ願っても満足のいく体験は得られないし、どれだけ努力しても何も変えることはできない。
朝起きて、学校に行って、授業を受けて、帰宅して、寝て、繰り返して、卒業して、進学して、朝起きて、大学に行って、講義を受けて、帰宅して、寝て、繰り返して、卒業して、就職して、朝起きて、会社に行って、仕事をして、帰宅して、寝る。
何もない日々を過ごしてなんてことない人生を終える。きっとそれが俺という人間だ。
この世に生まれた意味なんてない。人の存在、俺の存在に意味なんてない。
主人公みたいに華々しくエンディングを迎えることはない。きっとガンになったり、心臓か脳が駄目になったり、肺炎になったりして特に変わったことなく普通に死んでいくのだろう。
生きたいから生きてるんじゃない。死ぬのが怖いから生きてるんだ。
瞬間、甲高い音が背筋をぞっと撫でた。
ガッシャーンとガラスが割れる音。振り向くと、散乱した窓ガラスの中に銀色の――パチンコ玉(?)が転がっている。
「誰かが撃ってきたんか!?」
「外は森なのに!?」
「こっわ」
「とりあえず、誰か先生を呼んできて」
さっきの学級委員が、教室の角にあるロッカーから箒と塵取りを取り出しながら指示を出した。
冷静で、判断と行動が素早い。尊敬に値する。
でもそれだけだ。手伝うつもりはない。幼馴染の好とか、そういうのはない。
薄情だなんて言われる筋合いはない。一人で充分な作業に、一応の社交性を見せて必要ない援助をしたって無駄なだけだ。
「いいや、お前は薄情だ。というより、感情そのものが死んでいるのだな」
「ッ!?」
冷たい言葉が背後から聞こえてもう一度振り向く。
そこには――鉄の質感の肌を持つ、人間の形をした何かがいた。長い髪、大きい目、ワンピース姿のさほど背の高くない少女。すべてが銀色で出来ている。
まさか、さっきのパチンコ玉がコレになったのか? コイツから言葉が発せられたのか?
そんなことがリアルにあっていいワケがない……そういうのは、フィクションの中にだけある話だろ!?
ギリギリという音を立てながら、ぎこちない動きで俺に近づいてくる鉄人間。
伸ばされた手から感じ取れるのは明らかな害意だ。俺を、襲おうとしている!
「ならばいっそ肉体も死んでみるか?」
廊下に向かって慌てて走り出す。首の後ろをひんやりとした硬い手で掴まれる。開けられていた廊下の窓から飛び出されて、体は鉄人間と一緒に宙へ。
俺が必死に伸ばす手は何も掴めない。
校舎の外、体育館の前、アスファルトの大地。足を着け、その反動で鉄人間は放物線状に跳躍する。
そして、ドォンとけたたましい音を立てて、グラウンドの中心にクレーターを作り上げた。
衝撃が掴まれた首から伝わって、余計に息が苦しくなる。
「カッ……!」
叩いても殴っても蹴っても、鉄の指は喉を文字通り潰すかの如く力を強め、気管を圧迫し、食い込んでいった。
友だちと喧嘩をしたとき――といっても何年も前だが――マウントポジションをとられ、首を絞められたことがある。
さすがに込められる力は強くとも躊躇いがあって、全力というワケでは決してなかった。
だが今のこれは違う。
何の思いもない、まさに鉄のように冷ややかな心で、コイツは俺を殺そうとしている!
「絶体絶命、というヤツだが。死の間際でお前は何を思う?」
何を……何を?
人の世界には『輪』が存在する。
その内側では『正の方向へのループ』が働いていて、誰かのために動ける奴が誰かから助けられて、誰かから助けられる奴が誰かのために動ける、そういう循環が起きている。
俺はダメだ。そこにいられなかった。
誰かのために動く気が起きない。だから自分が誰かに助けられるビジョンも見えない。そういう自分が醜くて、自分のために何か行動を起こすつもりも起きなくて、変化を起こそうとしても無駄になるだけ。
何故だ……? 何故俺は、そういう『輪』の外側に、『負の方向へのループ』に至ってしまった?
去年の春、なにか部に所属してみようと思った。高校デビューのつもりだった。特にどの部活にも楽しさが見出せなかった。
ボールをゴールに入れて、得点になって、それで何になる? 走って、跳んで、記録を出して、それで何になる? 何か芸術を生み出すことも、レシピや楽譜通りにすることも、何の意味がある?
どれも下手ってワケじゃない。上手くできるワケでもない。人並みで、それ以下でも以上でもない。
何故そういうことへの楽しみを、熱意を抱けなくなった……?
中学最後の水泳大会。友だちからどっちが速いか決着をつけようと持ち掛けられた。
学年別に遅い組と速い組で分けられて、俺はなんでも平均的だったから、遅い組のトップ層だった。
勝ってかっこつけたかった。それなりに気合を入れて練習して当日を迎えた。
朝、発熱した。夏風邪だった。珍しくした努力は無駄になって、ソイツとの関係もぎくしゃくするようになった。
小6の田植え体験。幼馴染の女子の腕に蜂が止まった。取ってあげようと手を伸ばした。
一躍ヒーローになれると思った。誰かのために役に立って、たくさん褒められて持て囃されると期待した。
急に蜂が俺の顔めがけて飛んできた。思わず振り払おうとして、蜂に手が当たった。瞬時に太腿を3発刺された。
助けようとした子の前で思いっきり泣いた。痛くて痛くて泣き叫んだ。惨めな気持ちがすごくして泣き喚いた。
小3のとき、夏祭りで掬った金魚を飼っていた。親は反対したけど、「ちゃんと世話するから」「しっかり面倒見るから」と泣きついて飼わせてもらった。
金魚を入れた水槽の汚れが気になるようになった。ちゃんと手入れしてあげなくちゃ、と思った。
母さんが使っているのを見ていたから、容器を洗うならこれだろうと、台所から食器用洗剤とスポンジを持ってきて、エアーポンプ含めてゴシゴシ洗った。
水槽に戻してから少し経つと金魚はみんな死んでいた。俺が殺した。
すごく小さい頃、大好きな女の子を救えなかった。
救おうとはした。無力で、何もできなかった。結局他の奴が救ってくれた。
別に俺じゃなくてもよかった。最初から出しゃばらなければよかった。
「努力は無駄にならない」と、大人は子どもを騙そうとする。
「人に親切にしていれば良いことがある」と、大人は子どもを誑かそうとする。
大人が子どもを操るのに使う耳障りのいい台詞に、もう振り回されるような歳じゃない。
努力は無駄になる。期待したときは失敗する。良かれと思ってやったことは裏目に出る。
いつもそうだった。きっとこれからもそうだ。
だったら、最初から何もしない方がいい。何も頑張らずに、何にも希望を見ずに、何もかもただ自然の流れに任せて受け身であればいい。
この世に生まれた意味なんてない。人の存在、俺の存在に意味なんてない。
ただ生きて死んでいくだけが人間で――たとえ俺がここで死んだって、母さんや父さんは泣くだろうけど、それだけだ。
死後の世界は信じてない。子を亡くして悲しむ親の姿を俺は見なくていいし、場の空気に流されて一応涙するだけの同級生たちも見なくて済む。
だったら……抵抗しなくてもいいんじゃないか?
何故、城の崎にてネズミがそうしたように、死ぬ前に藻掻いているんだ、俺?
どうせここで諦めても問題ない、つまらない人生だろ?
誰だって嫌いな人のために何かするのは難しい。だから、大嫌いな自分を奮い立たせるのはハッキリ言って無理だ。
「コイツはどうせ失敗する」と、それを根底で理解しているから、自分を見限っている節がある。
それじゃダメだと思って頑張ってみても、なんだか頑張り切れなくて、結局失敗して、自分を助けなかった自分を嫌いになる。
ああ、なんて醜いんだろう。
自分で自分を呪って、自分の手でその呪いを成熟させている。
手に入った小さな幸せより、届かなかった想いや隣人の笑顔に執着する。
そんな俺が、この世界に必要なのだろうか?
「お前、本当に死ぬぞ?」
要らない。俺は、不要だ。
口に出すことももう叶わないけど、足掻いていた体を止めて力を抜く、その態度で示した。
生きたいから生きてるんじゃない。死ぬのが怖いから生きてるんだ。
そしてその死の恐怖だって、過ぎればどうでもよくなるハズだ。
死ねば全部チャラ。繰り返してきた無力感と、じっくり培った虚無感も、何もなくなる。
いいや……そもそも『何もない』じゃないか、俺。
視界が真っ白になる。呼吸が完全に止まる。
重力が今までで一番強く感じられて、体がグラウンドの砂の上に落ちていく時間は、すごくゆっくりだった。
「本当にそれで納得できる?」
雪が降り注いでいた。
粉雪というよりかは明らかに大雪で、周りの世界は全て白に染められている。
空は暗雲に包まれており、疾風が途切れ途切れに吹いて雪を斜めに落ちさせていた。
山に囲まれたその場所に、ひとり佇む男がいる。こんな寒さの中、ただ雪と同じ色のジャージだけを着ている。
『怪物』だ。まるで清純な青年に見えて、ただ他を害することでしか喜びを得られない、人類とは決して相容れない怪物。
「よォ」
怪物の口が開かれ短い挨拶が放たれた。
そして、白の世界に異色の者が踏み込んでくる。
「やっと来たか……オレと対等の存在がァ!」
喜ぶ怪物の視線の先、異形の『英雄』の姿は黒かった。全身に黒い炎を宿し、自らの命を燃やしながらこの場で怪物を討とうとしている。
「そうこなくっちゃなァ……!」
怪物が不適な笑みを漏らし、その体を英雄と似た異形に変身させた。ただし、姿も纏う炎も白い。
誰も知らないであろう寂しい場所に、世界を滅ぼす程の力を誇る2つの存在が対峙した。
怪物の目は青く、嫉妬に泣いているかのようにも見える。だが、そこには確かな快楽が宿っていた。
英雄の目は赤く、憤怒に燃えているかのようにも見える。だが、そこには確かな覚悟が宿っていた。
少しの時が流れ、それぞれの目が光を放った。
瞬間、両者は相手に向かって一気に駆け出す。
「ハァ!」
「アァ!」
金の拳がすれ違い、互いの腹部に直撃し、今は硬い装甲と化した皮膚を突き破り、血を飛び散らせた。
一瞬狼狽えたが、英雄も怪物も退こうとはしない。ここで相手を殺すことは、絶対なのだ。
ともかく全てが生々しかった。拳が他方の肉体にぶつかり、それを壊していく音が。それを痛む声が。
いつしか両者の周りの白は赤く染まっていた。
怪物は笑っている。初めて対等に殺し合える存在の登場に、全開で暴力を振るえる事実に喜んでいる。
英雄は泣いている。繰り返す分かり合えない存在との戦いに、暴力でしか解決できない事実に悲しんでいる。
黒い彼に、本当はこんなことする義務はない。でも、他の誰もこの怪物に太刀打ちできないから彼は戦い続けた。
仕方なくとか、みんなに負わされてという感じは微塵もなかった。ただ「ボクがみんなの笑顔を守りたいから」という理由で、彼は戦い続けた。
――ああ、『ヒーロー』だ。覚えている。子どもの頃好きだった特撮の最終決戦だ。
ただ気楽に冒険だけしていたかったのに、手は人を笑わせる芸とサムズアップのためだけに使っていたかったのに、その自分の想いをベルトに封じ込めて、涙を仮面の下に隠して、彼はみんなの笑顔のために大嫌いな暴力を振るった。
そして全てが終わったあと、自らの心を癒すために、誰にも言わず旅に出た。
俺は、青空になりたかった。
また彼の笑顔が見られるように、彼が笑顔を取り戻せるように。彼の大好きな青空と同じ、清々しくて居心地のいい世界を作れる人間になりたいと、子ども心に思った。
どうしてそう思えていたんだろう? どうして彼は、こんな何もかも無駄な世界の中で、そうまでして戦えたんだろう?
「だって、その方が納得できるじゃない?」
英雄の声がする。全50話中のどこかで発せられた台詞だ。
「何もせずただじっとしていれば、そりゃあ疲れることもないだろうけど。でも、それで何もできなかったときより、何かしようとして『ダメだったー!』ってときの方が納得できない? 『ボクはやるだけやってダメだったんだ!』って、分かるから」
どうして今更こんなことを思い出す? 納得したいのか、俺は?
自分の人生に満足して死ねる人間がどれだけいるのだろう? 自分の生き方に納得できる人間がどれほどいるのだろう?
「何もしなかったあとって、『もしあそこで何かしていたらどうなってたんだろう?』って、ずっと考え込んじゃうもん。だからさ――」
きっとまた無駄になる。頑張って立ち上がっても裏目に出る。
なのに……どうして心がざわめいている? このまま終わりたくないって、叫ぼうとしている?
「どうせ無駄になるかもしれなくてもやってみようよ!」
分からないまま終わる、そんなのは嫌だ。
「きっとその方が、生きるのに楽だから!」
ヒーローが目の前にいる。親指を立てて、俺に向けてくる。
ああ、そうだ……これは、自分の行いに満足して納得した者のする仕草だ。
目を開けると、俺は立ち上がっていて、左腕を水平に伸ばしていて、その先では鉄人間が浮いていた。
……俺が浮かしているのか?
腕を上げれば、それに連れて、空中で溺れたように藻掻く鉄人間も上昇していく。
そして、視界に入った太陽が眩しくて、瞬きをした途端、吊るしていた紐が切れたみたいに鉄人間は自由落下を始めた。
ドォォォォオオオオオオン。
教室で机を倒してしまったのとは比べ物にならない重音を響かせ、グラウンドにもう1つクレーターが出来上がる。
やった……のか? なんだこれ? 魔法? 超能力? 俺に? 何故?
「そうか、お前がソイツを宿すとはな……」
呆気にとられている暇もなく、声のした方をバッと振り向く。
そこには、担任の
ハズなのだが。今この状況では、何かしら事情を知っていそうで頼りになりそうだ。
「よォ虚川。まだ大丈夫そうだな」
「先生……何なんですかこれ……何が起こったっていうんですか!?」
「何って……超能力」
「いやそれは見れば分かります。……いいや、解りはしないですけど、そうじゃなくて」
「まぁーまぁー。物事には順序ってもんがあんだろ? 説明なら全部ソイツがしてくれるぞ」
ダサイが、クレーターから浮かぶ土煙を指差した。
どういうことだ……? 鉄人間が教えてくれるのか?
「お前は……何処かで会ったか……?」
そこからさっきと同じ、透き通るような声がする。
瞬間、風がブワァっと巻き起こって、土煙を払い飛ばして、中から――
「天使……?」
白い大きな羽と、反対の黒いワンピースと、水色の長髪と目の少女が現れた。
「一分一厘合っているワケではないが、そういう認識でも構わない。私は、『始まりの値 ゼロ』」
「始まりの値? ぜろ?」
「奇々怪々だろうがよく聞け。お前に宿ったその力は『SENSE』という。要は超能力だ」
それは分かる。解らないけど分かっている。
「SENSEは千差万別。宿主の生き方が反映された能力をもたらす」
ポイっと、ゼロが突然どこからともなく取り出した手鏡を投げ渡してきたので、俺は慌ててなんとかキャッチした。
「左目を見てみろ。そこにSENSEは宿っている」
言われた通りに鏡で自分の顔を覗くと、左目は真っ黒に染まっていて、白い文字で縦に『浮遊』と書かれていた。
サイコキネシス的な感じか? だから、なんか鉄人間と化していたコイツを浮かばすことができたのか。
「私たちゼロの使命は、適合者のSENSEを目覚めさせ、『この星の次の支配者を決める戦い』へ誘うこと。死に瀕したときSENSEは目覚めやすい……禽困覆車というワケだ」
「それで、俺を殺そうとしたと?」
「そうだが?」
そうだがじゃないが。
「俺に神になれって言うのか……? ハハ、本当にライトノベルみたいだ。現実で合ってるんだよな、これ?」
「それが現実なんだよこれは。かくいう俺も、前回の参加者だ。今の星の支配者とチームを組んでいた」
「! そうか……それでお前に見覚えがあったのだな」
「もう20年近く前の話だ。すっかりオッサンになっちまったってのに、よく分かったな」
なんだろう、急に壮大な話がそうでもなくなった気がするのは、まだ夢見心地でフワフワしているからか? ダサイみたいなのが前回参加者なら割と大したことない戦いに思えるからか?
「その戦いへの参加、断ったらどうなる?」
「断ることなどできない。これは義務だ。というより、私たちゼロと契約しなければ、お前たちはSENSEに――6つ目の感覚に侵され、五感を失う」
「は?」
くらっとして、世界が真っ暗になった。否応なく一瞬で。
何も聞こえないし、声を発することができているのかも分からない。焼けたグラウンドの砂、大量に流した汗の匂いもしないし、そもそも今自分が立っているのか倒れているのかも分からない。
――星の支配者っていうのは、きっとヒーローだ。
他人のために動き出すことができる、だから他人に愛される、そういう『正の方向へのループ』の中にいるに違いない。
たとえば、自分が愛されたいから、ヒーローになりたいからってその中に飛び込もうとするのは、自分本位な考え方なのか?
そんな後ろめたい気持ちも呑み込めて、「それでも輪の中に入りたい」と言えるなら、そのくらい自分の価値を認められるなら、もっと楽に生きられただろうに。
……もしかして、最初に自分で自分を許すことが輪の中に受け入れられるための前提条件なのか?
――無理だ。
俺は俺のことを好きになんかなれない。こんな自分は否定しかできない。
――分かってる。それで納得できないんだ。
本当は、自分の行いに満足して納得したいんだ。サムズアップしてみたいんだ。
『もしあそこで何かしていたらどうなってたんだろう?』って、うじうじ考え込まないために。
大嫌いな自分のために生き続けることができなくとも、せめて名も知らぬ誰かのために負けて死ね。
「契約する! どうせ無駄になるかもしれなくても、抗ってみたいんだ!!」
きっと声は出ていた。夢は口に出せていた。
結局、城の崎のネズミと同じだった。
「――我は今契約す。星の未来、人の生きる道、欲望の彼方……果てなき戦いにおいて、我は今この者と歩むことを決める」
目を開けると、俺はベッドに寝転んでいて、視界には知っている天井が広がっていた。
保健室だ。頻繁に来る場所じゃないけど、この消毒液の匂いは覚えている。
「起きたか、虚川」
「ダ――太宰先生」
カーテンで仕切られた空間に椅子を持ち込んで、ダサイが座っていた。
「夢じゃない……んですよね?」
「あぁ」
窓側にいるから、ダサイの顔が逆光でよく見えない。
「ゼロは?」
「知らねぇよ。まぁ、アイツらは契約者に付き添わなきゃならねぇからな。今日中にでもまた現れるだろ」
「俺が襲われたって騒ぎは?」
「他の奴らの記憶は支配者のSENSEでキレイサッパリ書き換えられてる。お前は5限前に腹が痛くなって、ここに来たことになってらぁ」
「……先生、泣いてるんですか?」
ダサイが鼻をすすった。
「この星の次の支配者を決める戦い、それが始まるってことは、今の支配者の寿命が近いってことだ」
「えっ、チームメイトだったって……」
「幼馴染。最近、連絡寄越さねぇなと思ってたけどよ……」
「……。どんな人なんですか、今の支配者って?」
「そうさなぁ――」
「他人の笑顔のために自分を犠牲にできる、よく晴れ渡った青空みたいなヒーロー」