起動幻想記ガンダム-BuildFighters-   作:KuRoMa

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第2話 泡沫か、真秀ろばに喘いでも

私は、神楽を舞うことを嫌いではない。

 

 

体の動きに半歩遅れ、重さを忘れたように舞う髪。

視界の端に映る、たなびく大袖。

 

魂を震わす鈴の音とそれを運ぶ扇の風。

 

腕の角度に足運び。

 

溢れる祝詞。

現れる掌印。

 

呼吸の間隔に至るまで調律した動きは、

 

私を縛らない。

 

世界も過去も呑み込んで。

世界から私を切り離すため。

世界の先に私がいる。

 

 

───私は自由になれるから

 

 

 

そんな、いつも通りの神楽舞の稽古。

その最中、どさりと音がした。

 

境内に入ってきた気配には、既に気づいていた。

 

だが——まさか、すぐそこで気を失うとは思わなかった。

 

本来なら、助けに向かうべきなのかもしれない。

 

——だが、私は動かない。

 

勝手に踏み入った侵入者だ。

そのような痴れ者のために、稽古を中断する理由はない。

 

終われば介抱はしてやる。

それだけでも、充分に慈悲だ。

 

——そこに転がる”赤”は、その程度で満足するべきだろう。

 

 

「おーい、燈華(とうか)ー。稽古終わったー?」

 

鳥居の方から、よく通る声が飛んでくる。

 

 

甘城(あましろ)リナ

 

明るく、騒がしく、そして必要以上に世話焼きな女。

文を生業とする変わり者であり——私の、数少ない友人だ。

 

休みだと言いながら顔を出すあたり、理由など知れている。

 

それはそれとして、手土産を所望するところだ。

 

「ええ、今しがた終えました。それと——そこに一人」

 

言いかけて、言葉を切る。

 

 

「え?おいおーい!人倒れてるよ!?!」

 

 

(……相変わらず、声が大きい)

 

「……社務所まで運びます。手をお貸しください」

 

「それはいいけど……この雨の中で?」

リナは傘をさしていた。

 

空を仰ぐ——否。

 

応じるように、視線が上がる。

 

荒れ狂う空。

雨は狂ったように打ちつけ、風は木々を軋ませ、遠雷が低く唸る。

 

——確かに、濡れる。

 

もっとも。

 

その雨が、己に触れることはないが。

 

一歩、踏み出す。

舞台の端。

 

「……今、止めます」

 

手のひらを、空へ。

 

一呼吸。

 

そして——横へ、なぞる。

 

雨が、止んだ。

 

正確には、

この境内の上空が切り取るように消えた。

 

「これで、よろしいでしょう」

 

 

「いつも思うけど、なんでもありだね。それ。」

リナが傘の雨水を払いながら呟いた。

 

 

舞台の端から見下ろす、不埒な侵入者と友人を目に入れる。

 

瞳を見開いた。

 

「赤い頭髪と赤いコート……」

 

思わず呟いた。

 

───まさかね

 

滲み出た思考を払うように聞く。

 

「ところでリナ、本日は何を見るのですか?」

 

「ふっ、遂に劇場版のOOさ!」

 

────────────

 

 

 

俺は、なにか”夢”を見ていた。

なにか……懐かしいような”夢”だった気がする。

 

でも忘れた。

 

夢はやっぱり”夢”だな。

 

―――

 

目は空いてない。

光は見えない。

これはイメージだ。

 

意識が、混濁の海を浮上して行く。

ゆっくりと、水面に向かう気配がある。

 

見えないのに分かる。

 

天井ツラして光を乱反射し。

ステンドグラスの様に輝く水面が。

仰向けのまま、浮力に任せて浮上する俺の前に広がる。

 

そして―――

 

眼が醒める。

 

木製の香りがする。

身体の上に微かな重さを感じる。

 

 

目蓋を取るとそこは―――

知らない部屋だ。

俺はベットに寝かされていた。

 

天井しか見えない。

意識はまだ気怠いが、体の方は冴えてるらしい。

質のいい睡眠、とは行かないがソレに近い物だった。

 

 

目を左に向ける。

 

理解出来たことは。

 

人は居ない事。

ベットの横に俺のトレンチコートがある事。

窓から差し込む光から、今は夜という事。

 

不可解なのは

 

(……全部だよな)

 

あの光は何なのか。

あの巫女は何なのか。

ここは何処なのか。

 

「とりあえず行くか」

 

―――不可解なら理解しに行けばいい。

 

 

俺は布団を剥いで起き上がる

気だるさはもう無い……と思う。

 

俺は進み、ドアノブを掴む。

 

「……」

 

迷い無く扉を開け、廊下に出た。

 

「どっかの屋敷か?」

 

(いや、さっきの神社か?)

(誰かに運ばれた?)

 

軋む廊下を歩く。

 

今の場所、この建物について知るために。

 

どうせ何も分からないのは、いつもの事だ───

 

 

 

───「天御白神社(あまのしろみやじんじゃ)、その社務所でございます」

 

「……ッ!?」

 

後ろを見た。

白い髪の女だ。

そうだ、さっきの巫女だ。

 

真っ白な髪と漢服。

頭に紫の彼岸花をつけている。

 

でもそれよりも───

 

(こいつ、気配が無かったぞ!?)

 

 

「お目覚めのようですが、まだお身体は万全では無いでしょう?」

 

巫女は優しい声と、微笑みで言う。

 

「お前……」

 

俺が喋ろうとしたら、被せくる。

 

「あちらへどうぞ?寝ていろと申しても寝ないでしょう?」

 

 

巫女は、俺の背後の扉に向かい歩く。

 

床が軋む。

巫女は、俺の横をすぎて行った。

 

とても綺麗な姿勢と丁寧な所作、あの舞の時のようだ。

 

「どうぞ?こちらへ、大丈夫ですよ」

 

何が大丈夫なんだよ……

(んな白い格好で言われてもビビるだけだわ!)

 

「大丈夫です、ムシャムシャと食べたりは致しませんから」

 

 

(……気ぃ使われた?)

 

まぁ、敵意は無いし?

いや、気配もねェんだけどな?

 

まぁいいか。

 

 

───ついて行った。

 

「おっ赤い少年!起きたか!」

扉が空いたあとすぐ声がした。

ウェーブの金髪、セミロングの女だ。

座布団に腰をおろし。

ポップコーンの入った器を抱え。

正面のテレビをリモコンで操作してる。

 

(神社でテレビって……)

 

「私は甘城(あましろ)リナ、よろしく!赤い少年」

 

「……」

「熾薙(さかなぎ)……帝月(みかづき)

 

 

「……どうぞ、お入りください?」

 

先に部屋に入った白髪の巫女が手招きする。

 

「なぁ、ここ静岡のどの辺なんだ?」

入りながら聞いた。

 

巫女が小首を傾げて言った。

 

「ふむ、貴方様は勘違いしていらっしゃいますね」

 

―――巫女は語った。

 

「ここは……」

「神秘の果てにして、幻想が息づく大地」

 

淡々と。

静かに透き通る声で。

子守唄を歌うように。

 

「そして……」

「遍く世界の裏側、無限が滴る世界」

 

 

「セデカラムからあなたは、クリフォトの門をくぐりやって来た」

 

 

「そう、来界人の貴方様から見れば……」

 

「異界、ここはオウルクララムです。」

 

 

「あ?なんだよ、俺は異世界転生でもしたか?」

 

 

「転移の方が正しいかと」

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