手作りのお弁当。
優しくて穏やかな距離。
神崎悠真にとって、小泉花陽との関係は、少しずつ特別なものになり始めていた。
しかし、その距離が近づくほど――
花陽の想いもまた、強くなっていく。
「好き」という感情は、時に人を優しくする。
そして――
時に、人を変えてしまう。
気づいた時にはもう遅い。
逃げられない視線は、
すでにすぐそばまで迫っていた。
「神崎くん…おはよう」
朝、校門の前で花陽に声をかけられた。
「おはよう」
花陽と朝に会うのは珍しかった。
「今日は早いんだな」
「うん…ちょっと早く来ちゃった」
そう言って、花陽は少し嬉しそうに笑う。
「一緒に教室行こう…?」
「いいよ」
並んで歩く。
その間、花陽はずっとこちらを見ていた。
「どうかした?」
「…ううん」
花陽は首を振る。
「ただ…嬉しいだけ…」
そう言って、少しだけ近づいた。
昼休み。
いつものように花陽がやってくる。
「神崎くん…一緒に食べてもいい?」
「もちろん」
そう言うと、花陽は隣に座った。
「今日はね…」
弁当箱を開ける。
「おにぎり…作ってきたの」
小さく整えられたおにぎり。
「すごいな…毎日作ってるの?」
「うん…神崎くんのために…」
少しだけ、間があった。
でもすぐに花陽は笑った。
「食べて…?」
一口食べる。
「美味しい」
そう言うと、花陽は安心したように微笑んだ。
その時だった。
「神崎ー、今日体育一緒の班な」
クラスメイトが声をかけてきた。
「お、そうだっけ」
「よろしくな」
そんな会話をしていると、花陽が静かにこちらを見ていた。
「…神崎くん」
「ん?」
「その人と…仲いいの?」
「まぁ普通に」
そう答えると、花陽は小さく頷いた。
「……そっか」
少しだけ、声が小さかった。
放課後。
今日は花陽と帰る約束をしていた。
だが、クラスメイトに呼び止められる。
「神崎、ちょっと手伝ってくれ」
「ごめん、少し遅れるかも」
花陽にそう伝えると、
「……うん」
花陽は小さく頷いた。
作業が終わった頃には、すでに夕方だった。
急いで昇降口へ向かう。
すると――
花陽がそこにいた。
「花陽?」
「……待ってた」
小さな声だった。
「ずっと?」
「うん…」
外はすでに暗くなり始めていた。
「ごめん、帰っててよかったのに」
そう言うと、花陽は首を振った。
「神崎くんと…帰りたかったから」
そう言って、花陽は微笑んだ。
でも、その目の奥には――
どこか強い感情が見えた気がした。
帰り道。
花陽がぽつりと話す。
「神崎くん…今日、体育の時…」
「うん?」
「楽しそうだったね」
「そう?」
「うん…笑ってた」
花陽はずっと見ていたような口ぶりだった。
「見てたの?」
そう聞くと、花陽は少し迷ったあと――
「うん…」
素直に答えた。
「神崎くんのこと…気になるから…」
そう言って、そっとこちらを見る。
その視線は優しい。
でも――
どこか逃げられないような感覚があった。
その日の帰り道。
別れたあと、ふと振り返る。
まだ花陽が立っていた。
こちらを見ていた。
目が合う。
花陽は、ゆっくりと微笑んだ。
そして――
しばらく動かなかった。
まるで、見送るというより――
見続けているようだった。
その視線が、なぜか頭から離れなかった。
第3話を読んでいただきありがとうございます。
今回から、花陽の「好き」がさらに強くなり始めました。
待ち続ける行動や、常に見ている視線など、少しずつヤンデレ要素が強まっています。
まだ花陽自身は、普通の好意のつもり。
しかし、その想いはすでに少しずつ歪み始めています。
次回、第4話ではさらに花陽の依存が強まり、
悠真もはっきりとした違和感を感じ始めます。
物語は終盤へ向けて、ゆっくりと進んでいきます。