当たり前のように隣にいる存在。
神崎悠真にとって、小泉花陽は、すでに特別な存在になり始めていた。
しかし――
特別な存在になればなるほど、
花陽の中の想いは、さらに強くなっていく。
離れたくない。
誰にも取られたくない。
その感情は、少しずつ形を変え始める。
優しさの奥にある、重たい想い。
それはもう、
簡単には離れられない距離まで近づいていた。
最近、花陽は朝も一緒に登校するようになった。
「神崎くん…おはよう」
家を出ると、すでに花陽がいた。
「花陽?どうしたの?」
「えっと…偶然…」
そう言いながらも、少し照れた様子だった。
それが何日も続いた。
偶然にしては、出来すぎている。
でも、嫌な気はしなかった。
「今日も一緒に行こう…?」
「いいよ」
そう答えると、花陽は嬉しそうに笑った。
昼休み。
花陽は毎日のように弁当を持ってくる。
「今日はね…新しいお米なの」
そう言って弁当を開ける。
「毎日大変じゃない?」
そう聞くと、花陽は首を振った。
「大変じゃないよ…神崎くんのためだから」
少しだけ、言葉に力があった。
でも、すぐに優しく微笑む。
「いっぱい食べて…?」
断れず、食べる。
「…美味しい」
花陽は満足そうに頷いた。
その日の放課後。
今日は用事があった。
「ごめん、今日は先に帰ってて」
そう伝えると、花陽の表情が少し止まった。
「……用事?」
「うん、ちょっと友達と」
そう言うと、花陽は少し俯いた。
「……そっか」
小さく笑う。
でも、その笑顔は少しだけぎこちなかった。
用事を終えて帰る途中。
ふと、視線を感じる。
振り返る。
誰もいない。
気のせいかと思ったが――
また視線を感じた。
少し離れた場所。
街灯の下に、花陽がいた。
「花陽?」
花陽は驚いたような顔をしたあと、微笑んだ。
「…偶然だね」
「花陽、こっちの方向なの?」
「うん…ちょっと…」
曖昧な返事だった。
「神崎くん…誰といたの?」
「え?」
「さっき…楽しそうだったから…」
心臓が跳ねた。
見ていたのか。
「……見てたの?」
そう聞くと、花陽は少しだけ黙った。
そして――
「うん…」
小さく答えた。
「神崎くんのこと…気になるから…」
その視線は優しかった。
でも――
少しだけ、怖かった。
帰り道。
花陽はいつもより近くを歩いていた。
時々、袖が触れる。
「神崎くん…」
「ん?」
「明日も…一緒に帰ろうね」
「うん」
そう答えると、花陽は安心したように微笑んだ。
別れ際。
花陽はなかなか動かなかった。
「じゃあ…また明日」
そう言っても、まだ立っている。
「花陽?」
「……神崎くん」
「ん?」
「……誰にも…取られたくないな…」
小さな声だった。
「え?」
聞き返した時には、花陽は笑っていた。
「なんでもない…」
そう言って手を振る。
でも、その言葉が頭に残った。
帰宅途中。
ふと後ろを見る。
遠くに花陽の姿が見えた気がした。
でも、すぐに見えなくなった。
気のせいかもしれない。
でも――
なぜか、胸がざわついた。
花陽との距離は、確実に近づいている。
でもそれは――
もう、簡単には離れられない距離だった。
第4話を読んでいただきありがとうございます。
今回から花陽の依存がさらに強くなりました。
登校時間を合わせる、帰り道を追うなど、明確なヤンデレ行動が増えてきています。
まだ花陽は優しいままですが、
「誰にも取られたくない」という独占欲が見え始めました。
次回、第5話では物語がさらに大きく動きます。
悠真が距離を取ろうとし、それに対して花陽の感情が大きく揺れます。
そして、最終話へ向けて展開が加速していきます。