静かな声。
控えめな性格。
神崎悠真が知っている小泉花陽は、そんな少女だった。
しかし、想いが強くなるほど――
その優しさは少しずつ形を変えていく。
離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
その願いはやがて、
「逃がしたくない」という感情へと変わっていく。
そして悠真は、
ついに気づき始める。
花陽の想いが、
もう普通ではないことに。
最近、花陽との距離が近すぎる気がしていた。
朝は家の近くで待っている。
昼は必ず隣に座る。
放課後は一緒に帰る。
それが当たり前になっていた。
でも――
少しだけ、息苦しさを感じ始めていた。
その日の昼休み。
「神崎くん…今日も一緒に食べよ?」
花陽が弁当を持ってくる。
「ごめん、今日はクラスのやつと食べる約束してて」
そう言った瞬間だった。
花陽の表情が止まった。
「……そっか」
小さく笑う。
でも、どこかぎこちなかった。
「また…あとでね」
そう言って花陽は席を離れた。
その背中が、少し寂しそうに見えた。
放課後。
今日はクラスメイトと少し話していた。
「最近、小泉さんと仲いいな」
「まぁ…ちょっとな」
そんな会話をしていると、ふと視線を感じる。
教室のドアの向こう。
花陽が立っていた。
こちらを見ている。
目が合うと、花陽は微笑んだ。
でも、そのまま動かない。
しばらくして、静かに立ち去った。
なぜか、胸がざわついた。
帰ろうと昇降口に向かう。
すると花陽が待っていた。
「神崎くん…」
「花陽?」
「今日…一緒に帰れる?」
少し不安そうな声だった。
「ごめん、今日はちょっと…」
そう言うと、花陽は俯いた。
「……そっか」
しばらく沈黙が続く。
「神崎くん…」
花陽が小さく呼ぶ。
「最近…忙しいね」
「まぁ…ちょっとな」
「……花陽といるの…嫌になった?」
その言葉に驚いた。
「そんなことないよ」
そう答えると、花陽は少し安心したように笑った。
でも、その笑顔はどこか不安そうだった。
その日の帰り道。
一人で歩いていると、後ろから足音が聞こえた。
振り返る。
花陽がいた。
「花陽?」
「……神崎くん」
少し息が上がっていた。
「どうしたの?」
「……やっぱり…帰りたくて…」
そう言って、花陽は近づく。
「一緒に帰ろ…?」
断れなかった。
「…うん」
並んで歩く。
しばらく沈黙が続く。
「神崎くん…」
花陽がぽつりと話す。
「今日…誰と話してたの?」
「え?」
「楽しそうだったから…」
やっぱり見ていたのか。
「普通にクラスのやつだよ」
そう答えると、花陽は小さく頷いた。
「……そっか」
そのまま歩く。
すると、花陽がそっと手を掴んだ。
「花陽?」
「……離れないで」
小さな声だった。
でも、手を握る力は強かった。
「神崎くん…」
花陽がこちらを見る。
「花陽…神崎くんがいないと…ダメになっちゃう…」
その目は、どこか必死だった。
「だから…」
手を強く握る。
「ずっと…一緒にいて…?」
その言葉に、すぐには答えられなかった。
花陽の想いが、
もう普通じゃないことに気づいたから。
でも――
手は、離せなかった。
第5話を読んでいただきありがとうございます。
今回は花陽の依存が大きく表に出てきました。
「離れないで」「いないとダメ」という言葉は、ヤンデレの決定的なサインとなっています。
悠真も違和感をはっきりと感じ始めました。
しかし、花陽の優しさを知っているからこそ、簡単に離れることができません。
次回、第6話はいよいよ最終話です。
NO EXIT ORIONのテーマでもある「逃げられない想い」が、ついに結末へ向かいます。
静かなバッドエンドへ――
物語は最後を迎えます。