逃げられない想い。
神崎悠真と小泉花陽の関係は、すでに普通のものではなくなっていた。
優しさから始まった関係。
少しずつ近づいた距離。
そして今――
花陽の世界は、
悠真だけで満たされようとしていた。
夜空に浮かぶオリオン座。
逃げ道のない想いは、
静かに結末を迎える。
最近、花陽と過ごす時間がさらに増えていた。
朝、家を出ると花陽がいる。
「神崎くん…おはよう」
小さく手を振る花陽。
「…おはよう」
自然に並んで歩く。
それが当たり前になっていた。
学校に着いても、昼休みも、放課後も。
気づけば、いつも花陽が隣にいる。
でも――
少しだけ、息苦しさを感じていた。
それでも、花陽を避けることはできなかった。
優しくて、寂しそうに笑う花陽を、拒むことができなかった。
その日の放課後。
「神崎くん…今日、少しだけ時間ある?」
花陽が静かに聞いてきた。
「…あるけど」
「じゃあ…少しだけ一緒に帰ろ…?」
いつもの帰り道。
でも今日は、少し遠回りだった。
「こっち?」
「うん…少しだけ…」
花陽は静かに歩く。
やがて、公園にたどり着いた。
夜の公園だった。
空を見上げると、オリオン座が見えていた。
「…綺麗だね」
花陽が空を見上げる。
「そうだな…」
しばらく二人で空を見る。
静かな時間だった。
「神崎くん…」
花陽がぽつりと話し出す。
「最近…花陽のこと…避けてる?」
その言葉に、言葉が詰まる。
「……そんなこと」
「あるよ」
花陽が静かに言う。
「前より…話す時間も減ったし…」
「帰るのも…少し遅くなったし…」
花陽は全部、気づいていた。
「……ごめん」
そう言うしかなかった。
花陽は小さく笑った。
「いいよ…」
でも、その声は少し震えていた。
「神崎くん…」
花陽が近づく。
「花陽ね…怖いの」
「怖い?」
「神崎くんが…いなくなっちゃいそうで…」
そっと手を握られる。
手は少し冷たかった。
「花陽…いっぱい考えたの」
「どうしたら…ずっと一緒にいられるかなって…」
花陽の声は静かだった。
でも、その想いは重かった。
「神崎くん…」
花陽が見上げる。
「花陽のこと…嫌い?」
「……嫌いじゃない」
それは本心だった。
花陽は安心したように微笑んだ。
「よかった…」
手を強く握る。
「じゃあ…大丈夫だよね」
「え…?」
「だって…」
花陽がオリオン座を見上げる。
「神崎くんも…花陽のこと嫌いじゃないなら…」
「ずっと一緒にいられるよね…?」
その言葉に、答えられなかった。
花陽が少しだけ近づく。
肩が触れる距離だった。
「神崎くん…」
「花陽ね…神崎くんがいないと…寂しいの」
「朝も…昼も…帰り道も…」
「神崎くんがいないと…落ち着かない」
手を握る力が強くなる。
「だから…」
花陽が微笑む。
「神崎くんも…花陽と一緒にいればいいよ」
優しい声だった。
でも、その言葉は逃げ道を塞いでいた。
「花陽が…ずっと隣にいるから」
しばらく沈黙が続く。
風が少し吹いた。
花陽の髪が揺れる。
「ねぇ…神崎くん」
「これからも…一緒に帰ろうね」
「毎日…」
「朝も…昼も…放課後も…」
小さな声だった。
でも、はっきりしていた。
「……うん」
気づけば、そう答えていた。
花陽の顔が、ぱっと明るくなる。
「ほんと…?」
「…ああ」
花陽は嬉しそうに微笑んだ。
「よかった…」
そのまま、手を離さなかった。
オリオン座が静かに輝いていた。
その夜から――
俺の隣には、いつも花陽がいた。
朝、家の前。
昼休みの教室。
放課後の帰り道。
自然と、花陽と過ごす時間が増えていった。
そして気づいた時には――
花陽のいない時間の方が、少なくなっていた。
逃げる理由も、なくなっていた。
いや――
逃げ道が、もうなかった。
オリオン座の下で始まった想いは、
静かに――
閉じていった。
最終話までお読みいただきありがとうございました。
本作は、グロ表現なしの静かなバッドエンドとして構成しました。
監禁などの直接的な展開ではなく、「精神的に逃げられない関係」を描いた物語です。
花陽は最後まで優しく、静かなまま。
しかしその優しさが、悠真を逃げられない状況へと導いていきました。
NO EXIT ― 逃げ道のない想い。
オリオンの夜の下で、二人の関係は静かに固定されました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。