【 いつもの席、いかにもな依頼 】
ここはとある国同士の国境付近に建つ、名も知れぬバー。
赤い屋根にクリーム色の壁をしたそのバーは
いかにも年期のある作り…というかボロさであり、
それでいて居心地の良さそうな空間を提供して
くれそうな雰囲気がある、俗に言う良さげな店だ。
その店の入り口には、Openではなく『
と書かれたネオンの看板。本来なら道行く人が
その内容に違和感を覚えそうだが…そもそも
それを見るはずの人が周りには居ないため、
今は点滅をしながら辺りを寂しく照らすのみだ。
しかしながらこのバーは客が来ない訳ではない。
点滅するネオンの看板をまじまじと見つめる
大柄の男。彼はおもむろに看板にちょんと
触れると、その隣の扉を開けてバーへと入っていく。
点滅していたネオンの看板が、点滅をやめた。
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「おう、いらっしゃい。今日はどこに座るんだ?」
コートを着た赤髪のマスターがこちらを見ると、
さも当たり前のように男に聞いてきた。
まず『何を頼むか』問うのではなく
『どこに座るか』を問うのは、訪れたこの
常連である何よりの証であろう。
「ん。いつもの所だな。」
「りょーかい。人は少ないからのんびりしてけよ。」
「いつも助かる。今日は…多分『ブラック』だ。」
これまたいつもの会話の様子。
マスターは男にそう聞くと手元のミルに豆を入れ
回し始める。ブラックとはそういうことであろう。
ガリガリ…と、豆を挽く音が静かな店内に響く。
なお勘違いされそうだがここは決して喫茶店ではない。
しかしながら多分、とはどういうことなのだろうか。
「あいよ。しかしだなぁ…もっと売り上げに貢献
してくれてもい~んだぜェ?駄弁るんなら他ででも
できるだろうに…なんでウチなんだよ。」
「馬鹿を言うんじゃあない。『ココ』がそういう
場所だからだろ。」
「…ま、否定はしないけど。『やむを得ず』って
言葉もあるだろ?」
珈琲を飲んでもないのに苦い顔をするマスターを
なっているテーブルだ。
「着たか。時間通りですねェ…流石流石。」
そのテーブルには既に1人の男が座っていた。
黒いトレンチコートに黒いハット、更には黒い
マスクまでしている『いかにも』な格好の男は
向かいの席に座った彼を一瞥すると、自身の身体に
立て掛けていたカバンから3つ封筒を取り出し、
テーブルに並べた。
「『仕事人』クン、今回の依頼は全部で3つ。
その内2つは簡単なんだが残りの1つは…まあ、
ちょっと君には難しいかもしれませんね。」
と、『依頼人』が告げる。彼の言った『仕事人』
とは…言うまでもなくこの男のことだろう。
「…ほう、俺の『噂』を聞いて尚、難しいと判断するか。」
それに対し服装の色が黒と白しかない、どこか
寂しげな雰囲気を纏う『仕事人』はそう返す。
彼の言う『噂』は『
『
どちらの世界の仕事も見事に完遂してきた経歴を持つ。
「…いやぁなに、君のその岩のように硬そうな
仏頂面からしてつい、ねェ。」
仕事人の眉がミリほど動いたのを見て、依頼人の
男は敢えてあからさまな軽口を叩く。相手の顔を
わざわざネタにする辺り、どうやら顔馴染みの
ようだ。依頼人側の顔は見えないが。
独特な格好であるのにそのグラサンまでもが
独特な仕事人は、それに対して悠然と口を開き…
毎度『お決まりのセリフ』を言い放った。
「ハァ…いつも言っているだろう。例えどんな
仕事であろうとも依頼はこなしてみせる。それが
『
彼の名前は『ジョージ・スターキャッスル』。
仕事人である。
「まぁ、こちらは依頼さえ請けて貰えば他に
言うことはない。検討を祈ってるよ、仕事人クン。
…では具体的に説明しましょうか。」
そうして依頼人は封筒から3つの文書を取り出した。
普通の紙に、普通の文字。パソコンを使えばそんなに
難しくないような文字の羅列。しかしジョージは
その紙をまとめて掴むと天井のライトにかざし一言。
「…良いだろう、正規の物であると確認した。」
『
それこそがこの文書が公的な『依頼書』である証と
なっている。
として成り立たない、というルールを決めたのは、
他でもないジョージ本人であった。
「どれ…内容は…」
そのまま内容を確認していく。確かに彼の言って
いたように、ジョージにとってそれらは簡単な内容で…
「は?」
ジョージは素っ頓狂な声をあげた。