超完璧人の片割れは一歩後ろを歩く   作:まめだいふく

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── Happy Birthday Roka.
ㅤㅤ⠀ㅤㅤ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀I hope you receive a lot of happiness.



番外編
推しの誕生日に加減は不要である


 

 

 来る4月5日。

 それは私の推しであるROKAさん、つまり綾紬芦花さんがこの世に生まれた私にとっては大事な大事な日の1つ。

 

 前に配信の質問で、ふと『お誕生日はいつですか?』とコメントしたところ何と人生初のコメント返しで知ったのが誕生日だった。

 その時は既に誕生日が過ぎてしまっていて、来年こそは絶対にお祝いをするぞと意気込んでこの一年間を過ごしてきたと言っても過言では無い。

 

 そして、私はROKAさんに今日の誕生日配信では今まで1配信に1000ふじゅ〜と決めたスパチャだったものの、今日に関しては可愛いと思ったらスパチャすると推し貯金ならぬ、ROKA様貯金を解禁する気でもある。

 

 しかし、一つ私の予定外も発生した。

 それは現実で、綾紬芦花さんの連絡先を知ってしまったということ。

 さらに言えば双子の姉である彩葉の親友であるため、前に諌山さん、綾紬さん、彩葉、私で帰宅してた時に全員の誕生日を聞いてしまったのだ。

 

 どうしようか、ああでもない、こうでもないと悩んで気付けば1時間。

 4月5日が来るまで残り30分を切ってしまった。

 

 

「藍、スマホ握ってどうしたの?」

 

「…………明日、綾紬さんの誕生日じゃん」

 

「そうだね」

 

「…………0時ぴったりにおめでとうって、そんな仲良い間柄じゃないから送ったら迷惑かもしれない。でも誕生日を前に全員で話してしまった手前、知ってることを綾紬さん本人にもバレてる中で送らなければ、それはそれで知らないふりをするみたいで失礼に当たるし、かと言って相手は推しだから祝うなら盛大にやるべきがオタクの性だと思ってもいて」

 

「ちょ、落ち着いて、藍が早口すぎて後半聞き取れんかった」

 

「……何で私は推しと連絡先交換してしまったんだ」

 

「まあ気持ちは分かるけど、芦花なら素直に喜んでくれると思うけどな。それにさ、藍めっちゃ悩んで芦花へのプレゼント買ってたでしょ?」

 

「待って、なんで知ってるの」

 

「藍の机に芦花の好きそうなブランドの袋があったから、あれ違うの?」

 

「うぐっ!」

 

 

 彩葉の視線の先、私の机の上には水色の可愛らしいパッケージの紙袋がポツンっと置いてある。

 それは、この前の配信で綾紬さんが気になるけどまだ買えてないと言っていた有名ブランドのボディオイル。

 

 配信中に好みの香りも芦花さんの口から出ていたし、それ1つ分ぐらいなら1ヶ月の課金を我慢すれば買えないわけではなかったから勢いに任せて買ってしまったのだ。

 さすがにその1個は寂しいからハンドタオルも付け足したけども。

 

 

「メッセージが気まずいならさ、普通にそのプレゼントを渡して一言伝えたらいいんじゃない? 友達なんだから」

 

「……そうだけどさ」

 

「仕方ないなぁ、お姉ちゃんがサポートしてあげよう」

 

 

 ニッコリと微笑んで言われた一言。

 言葉だけを聞くなら有難いのだが、表情を見る限り嫌な予感しかしないのは妹だから分かることだろうか。

 

 結局、0時ぴったりには諌山さんがビデオ通話を開始したことで皆で一緒に伝えることができて、私のあの数時間の悩みは何だったのかと思いつつ、気持ちよく眠ったので完全に忘れていたのだ。

 姉のサポートしてあげようという言葉を。

 

 放課後、彩葉に教室に来てとスマホに連絡があったからスクール鞄を持って向かう。

 やっぱり私は意気地無しなのかもしれない。

 念の為、渡せるように彩葉にも説得されてスクール鞄の中には綾紬さんの誕生日プレゼントを入れてあるが本人に合うどころか、緊張して隣の教室にすら行けてない。

 

 あぁ、もう、こんなことになるなら────

 

 

「……彩葉に頼んで渡してもらえばよかった」

 

「何を彩葉に頼む予定だったの?」

 

「っ!?!?」

 

「あははっ、ごめんね。驚かせちゃった」

 

「あ、あ、綾紬さん……!? な、なんで、ここに……っ」

 

「あれ、藍ちゃんが呼んでくれたんじゃないの? 彩葉から言われたんだよね」

 

 ──今日の放課後、藍が芦花に用事あるみたいだから待ってて。って。

 

 

 お姉ちゃん!? 何してくれん!? 

 キョトンっと首を傾げる綾紬さんを見れば、間違いなく姉の仕業だと分かり、私は心の中で頭を抱える。

 

 確かにサポートしてくれることは嬉しいけれど、これは嬉しいどころか大変困る状態でございまして。

 彩葉だって推しのヤチヨと二人っきりになったらキョドるくせに。

 握手付きのミニライブで握手してもらうために近距離に来てもキョドって、握手してる間なんてデレッデレのくせに! 

 何で妹には崖から突き放すような行動ばっかとるのあの姉は……! 

 

 

「藍ちゃん何かあった? 私ができることなんて少ないかもだけど、私で良ければ力になるよ……?」

 

「え、あ、えっと……っ」

 

「……なーんてね! 私が出来る事なんて何もないよね、ごめ……」

 

「な、何も無いわけない!」

 

「えっ」

 

「……あ」

 

 

 つい、本能で言い返してしまった。

 私たち双子の境遇が稀すぎる故に、綾紬さんも諌山さんも何も出来ないと言うけれど、実際のところ本当の本当に2人には救われてるのだ。

 

 上京したばかりの頃、私も彩葉も余裕がなくて、必死にお互いをお互いで守って支えることしか出来なくて、それでもお互いに手が届かなくて苦しい時期があった。

 正直、彩葉が笑わない時期だって多くて、妹の私も頑張ったけど作ったような笑顔が多くて辛かった。

 

 母親に否定される姉が見たくなくて、苦しんでる姿を見たくなくて、兄が居なくなった実家では彩葉はずっと苦しんでた。

 だから、私は彩葉が言えない分まで母に反抗し、最終的に手を引っ張って家を出るという母vs双子という大喧嘩までした。

 

 でも、上京して生活が一転しても姉の苦しむ顔は減らなかった。

 そんな時だった。少しずつ家に帰ってきた彩葉の口から友達という単語が出てきた。

 後にその言葉が親友という言葉に変わり、少しずつ笑うようになって、時間に余裕がなくても友達と遊ぶと言って家を留守にする時間が増えた。

 

 

「……嬉しかったんです、私。彩葉の口から親友と遊んでくるって、土日に家にいない時間が増えたこと」

 

「え……?」

 

「私一人じゃ、きっと無理でした。支えられなかった。本当のギリギリでさえ、きっと私じゃ止められなかった。……綾紬さんが毎日、姉に声をかけてくれたから今、笑ってるんです。何も出来ないなんて言わないでください」

 

 

 大袈裟なんかじゃない。

 姉の恩人は、綾紬さんと諌山さんなのだ。

 

 私が澄ました顔ばかりだからか、ふっと微笑んだら目を見開いて驚く綾紬さん。

 そして、私はずっと言いたくて言えなかった一言を言うために頭を下げる。

 

 

「……彩葉と私を気にかけて、支えてくれて、本当にありがとうございます」

 

「そ、そんな! 何もしてないって! 頭あげてよ、藍ちゃんっ」

 

「彩葉から聞いてます、最初に声をかけてくれたのは綾紬さんだって。ずっと言えなくてすみません、本当にずっと伝えたかったんです」

 

 

 恥ずかしくて言えないけれど、私のこともROKAさんが救ってくれたんだ。

 彩葉を支えることすら出来なくて、どうしたらいいか分からなくて目の前が真っ暗になったことなんて数え切れない。

 でも、ツクヨミでROKAさんを知り、配信を見ていつも元気をもらってた。

 ……まあ、一目惚れなんだけども。

 

 

「……だから、その、ちょっとしたお礼ってわけじゃないんですけど」

 

「これって……」

 

 

 スクール鞄からゆっくり水色のパッケージの紙袋を取り出し、すっと綾紬さんの前に出す。

 流石の綾紬さんならそれが何かをすぐに分かって、ブンブンと首を横に振り、一歩距離を取られてしまう。

 

 

「む、無理無理! こんなの受け取れないって! 藍ちゃん無理したでしょ!」

 

「……してないと言ったら嘘にはなりますが、でも受け取ってくださらないと困るというか……」

 

「いや、だって、これ……。私が気になってたブランド、知ってくれてたの……?」

 

 

 その一言を言われ、一瞬私は固まる。

 待てよ、これ配信を見てるから知ってるけれど、私は綾紬さんのファンだと知られてないから綾紬さんからしたら驚きでは? 

 このままだと推しにオタクってバレるのも時間の問題だと気づいた瞬間、一気に脳をフル回転させて違和感ない言い訳を探る。

 

 

「い、いろは! 彩葉に教えて貰って! き、気になってるって」

 

「……彩葉に言ったっけ? でも、そっか……本当に、いいの? こんな豪華なの貰っちゃって……」

 

「はい、受け取ってください」

 

「ありがとう、大事にするね」

 

「……いえ。……あと、それからっ」

 

 

 受け取ってもらって空っぽとなった手に手汗が止まらない。

 誕生日おめでとうの一言ぐらい言わないと、これじゃあお礼だけの意味になってしまう。

 

 私の緊張してる感じが伝わったのか、綾紬さんもどこか緊張した様子で私を見つめてくる。

 噛むなよ、私。間違っても変なこと言わないでよ。

 

 

「……そ、そろそろ帰りましょうかっ」

 

「へ、あ、うん、そうだね!」

 

 

 言えなかった!! 私やっぱり意気地無しかもしれない! 

 何で推しに誕生日おめでとうも言えないんだよ、って相手が推しだから言えないんですけれども……! 

 

 自分に対して深いため息を吐き、私はちらっと前を歩く綾紬さんの背中を見つめる。

 綺麗だな、やっぱり。可愛いな、私の推し。

 どうか、この人の想いが伝わってくれたらいいのに。

 そうしたら、私の大切な人は皆ハッピーエンドになってくれるんだけどな。

 

 あっという間に私の家と綾紬さんの家の分かれ道まで来てしまった。

 時間ももう16時半になってしまい、実家暮らしの綾紬さんがこれ以上遅くなればお家の人にご迷惑をかけてしまうし、何よりここで言えなければ本当にもう今日が終わってしまう。

 

 

「藍ちゃん、ほんとにありがとね。すっごく嬉しかった。今度は私が何か送るから期待しててね」

 

「そ、そんな別に何もいらないですっ」

 

「そんなこと言わずに〜。いつも私もノートとかお世話になってるしさ、お礼させてよ。ごめんね、足止めさせちゃって。せっかくバイトがない日なんだからちゃんと寝るんだぞ〜?」

 

「……は、はい」

 

「ふふっ、じゃあまたね」

 

 

 ひらりと手を振り、爽やかな笑顔を向けてくれる綾紬さん。

 どうしよう。綾紬さん、帰っちゃう。

 本当に言わないと私、絶対に家に帰ってから後悔するし、家にいるだろう彩葉にはからかわれる。

 

 なかなか歩き出さない私に綾紬さんは不思議そうに立ってる。

 優しい人だから、きっと私が歩き出して背中が見えなくなったら家に向かって歩こうとしてたんだろうな。

 そういうところも私が綾紬さんを好きな理由の一つ。

 

 ぐっと手に力を入れて、私は息を吸う。

 そして目を瞑って、また息を吐き、ゆっくりと瞼を開いて口を開く。

 

 

「……あの、本当はお礼の意味もあるんですが、本当はもう一個意味があって」

 

「うん」

 

「……っ、綾紬さん」

 

「なあに?」

 

「……お誕生日おめでとう、ございます」

 

「……ふふっ、ありがと。実は待ってたんだよねー、おめでとうって言ってくれるの」

 

 

 綾紬さんは私の言葉に少し驚いたかと思えば、すぐにニヤッと笑って言われるもんだから、今度は私がキョトンとして驚かされる番なわけで。

 

 クスッとまた綺麗な笑顔を浮かべたあと、どこか綾紬さんには珍しい悪戯っ子のような表情に変わってドキッとする。

 

 

「前に皆で誕生日の話したでしょ? その時に藍ちゃん、みんなの誕生日をカレンダーに入れてたの見ちゃったんだ。今日、真実や彩葉もだけど皆に言ってもらえる中で藍ちゃんにはまだ言って貰えてないなーって思ってたんだよね〜」

 

「……みてたんですかっ」

 

「あははっ、ごめんね。だから、もしかしたら私の誕生日忘れちゃったのかなってらしくないこと思っちゃった」

 

「す、すいません……。ずっと、言おうと思ってたんですけど、なんか、緊張しちゃって」

 

「ねー、なんか雰囲気的に告白されるのかと思って私も緊張しちゃったよ〜」

 

「こっ……!」

 

 

 一気に顔が赤くなって熱い。

 推しにそんなこと出来るわけないというのと、確かにあんな緊張してたらそんな雰囲気だと勘違いされてもおかしくないかと納得しかける。

 

 だめだめだめ、綾紬さんは彩葉が好きなんだから彩葉がさっさと気付いて二人でくっついてくれないと。

 

 

「でもすみません、私なんかより彩葉と過ごしたかったですよね」

 

「え?」

 

「……誕生日っていう特別な日じゃないですか」

 

「あー……、恥ずかしいな、藍ちゃんにもバレてた?」

 

「当の本人はクソボケなので、何も気づいてないですけど……」

 

「私、やっぱりわかりやすいのかなぁ……。彩葉とも、うん、過ごしてみたいなとは思うけど、私は藍ちゃんと一緒で嬉しいよ?」

 

「……」

 

「こーんなに可愛くて、しかも優しくて、素敵な子にお祝いして貰えたどころか、素敵なプレゼントまで貰えるんだから私は幸せ者ですよ〜」

 

 

 彩葉はクソボケ天然誑しだが、綾紬さんも結構天然誑しな気がする。

 目の前で食らってしまったことで推しの尊さで死にそうな私は、何とか必死に倒れないように努めることだけを最優先に考える。

 むにっと頬っぺたを両方軽く引っ張られ、綾紬さんに微笑む。

 

 

「だからそんな悲しいこと言わないで、ね?」

 

「……ハイ」

 

「また言ったら頬っぺむにむにの刑だから」

 

「……気ヲツケマス」

 

「じゃあよしっ! そろそろ暗くなるから気をつけて帰ってね、誕生日プレゼント大事にする! また明日!」

 

「……また」

 

 

 頬から手が離れ、眩しい笑顔を向けられて、私は流石にもう耐えられないから後ろを向いて歩き出す。

 ちらっと振り返れば、手をひらひらと振って立ち止まったままの綾紬さん。

 私よりも美人で可愛い綾紬さんの方が危ないから、早く家に向かって歩き出して欲しいと思い、軽く手を振れば綾紬さんは満足したように歩き出した。

 

 角を曲がって、私はアスファルトに手をついてしゃがむ。

 人気がないことを確認した上で、一先ず息を吸って思いっきり声を出す。

 

 

「かわいすぎるだろ!!! なんだあれ……!! 心臓破裂するかと思った!!」

 

 

 そこからはふわふわした状態で家に帰り、彩葉に渡せたのかと聞かれてテキトーに答え、流れるように綾紬さんの誕生日配信でまた宣言通り死ぬほどスパチャをした日になった。

 

 唯一、オタクとして失敗したのはまさか配信でさっきまでの私たちの話がされるとは思わず、私は今すぐにでも穴があったら入りたくなった。

 でも、画面越しにだけれど本人が凄く嬉しそうに話すものだから何だかもう何でもいっか。

 

 

「──誕生日おめでとう、芦花さん」

 

 

 優しい貴方に沢山の幸せが届きますように。

 

 私は綾紬さんの公式ファングッズであるイタチのぬいぐるみをツンっと触れ、彩葉に顔が見られないように抱えて優しく撫でた。

 

 

 

 






酒寄藍ちゃん。
最初の印象は猫みたいな子だなぁと思った。
警戒心が強くて、壁からこちらの様子を伺ってるようなイメージ。

そして、お姉ちゃんである彩葉のことが大好きな優しい子。
そんな子が私に誕生日プレゼントを選んでくれた。
すっごい嬉しくて、テンション高めで配信するぐらいには浮かれてた。


「こんにちは、ROKAです。実は今日、私の誕生日なのでのんびり配信しようと思います。早速ですが私の親友が双子で、その親友の妹ちゃんがサプライズで誕生日プレゼントをくれたんです。見てみて〜」


いつも配信を見てくれるファンの方には、私がインフルエンサーを始めたばかりから応援してくれてる人もいる。
その中の一人がRANっていうお名前の人。
コメントが飛んできて、今日も来てくれて嬉しいなと思ってたのも束の間。

普段1000ふじゅ〜をいつも必ず送ってくれるのだけれど、今日はなんだか多いぞ……?


「あれ、RANさんなんかいつもより凄いふじゅ〜送ってない?なになに、誕生日プレゼントって……待って、みんなも乗らないで!?」


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