超完璧人の片割れは一歩後ろを歩く   作:まめだいふく

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──不器用な女の子が、手が届く範囲ではなく
ㅤㅤ⠀ ⠀ ⠀ ほんのちょっと先にも手を伸ばして頑張る話。





本編
神の声が聞こえるなら宝くじの当選番号聞いてくれ


 

 

 疲れた身体を動かして、慣れた鍵を回し、少しだけ古いからかキィっと立て付けの悪い音をしながら扉を開ければ、今日も片割れが動きだけうるさい時間だった。

 

 うるさいとは言っても、別に声がうるさいわけでもないし、動きが激しいとはいえ、一度もそのことに対して言わない、邪魔しないという暗黙の了解を守ることが私が出来るせめての平和な時間だ。

 

 現役の女子高生2人が住むにしては、少々安全面にかけるボロいアパートが私たち2人だけで住む家。

 バイトが終わり、恐らく超完璧人である片割れが用意してくれたであろうおにぎりを横目で見つつ、荷物を置いて手を洗いに行く。

 

 

「おかえり、(らん)。バイトお疲れ」

 

「ん、ただいま。ライブ見てたんじゃないの?」

 

「今終わったとこ、おにぎり温めようか?」

 

「いやいいよ、電気代もったいないし」

 

「……ほんとに?」

 

「いいから。あ、そうだ、今日もオーナーが廃棄予定少ないのと発注多くかけすぎてやばいからって沢山もらっちゃった」

 

「え、うそ、今度お礼行かなきゃ……。でもこれで食費5日分は浮く……!! 藍のバ先のオーナーさんに足向けて寝られんわ……」

 

 

 コンビニ袋にいっぱい入った賞味期限が近いパンなどを見て、泣いて喜ぶ片割れに抱きつかれ、私はグラグラ揺らされるのを耐える。

 三半規管が弱かったらやばかったんだけど、私、強くてよかった。てか、人のこと言えないけど彩葉の隈が酷くなってる。

 家にいるから隈を隠してたコンシーラーを落としてるから余計だけど、これじゃあまた倒れるのも時間の問題では……? 

 

 もう少し私がバイト増やして負担減らすか……と考えるのは、私が働いてるバイト先はここから徒歩で10分程度のコンビニエンスストアだ。

 オーナーに面接時に働く理由を聞かれ、私が地方から双子の姉と二人で上京し、二人で生活費と学費を稼ぐためにバイトしたいと話したからか、賞味期限の関係で廃棄となる予定の品物を帰りにいつも持たせてくれるのだ。

 

 たまに廃棄予定のものがないと、少し早く棚から下ろされてるものがあり、私が何度お返ししてもいいからと言われてしまい、断れず気づけばいつも姉へのお土産が増える。

 その度に双子の姉の彩葉は泣いて喜ぶのだ。私もオーナーの優しさは本当にとても有難い。

 

 

「そういえば、彩葉って明日バイト?」

 

「うん、明日終われば三連休……!! ふ、ふふっ、今の私はね、誰にも止められないのだよ!」

 

「うわ、うらやま。私なんて昨日から4連勤で憂鬱やわ……」

 

「こちとら明日まで5連勤やからね……?」

 

「あ、それはすいません……って、4連勤の予定じゃなかった? 何で増えてんの?」

 

「ヘルプに喜んで入りました」

 

「……なるほどね」

 

 

 目のハイライトが一瞬消えた姉にお疲れの意味を込めて肩を叩き、私はシャワー室へ飛んでいく。

 さっさと洗って済ませ、タオルで拭き、部屋着に着替えて戻れば、姉はまた苦笑いしてからドライヤーを手に持ってる。

 

 

「いいって、電気代がもったいない」

 

「何言ってんの、私と違って藍は髪が長いんだから乾かさないと風邪ひくよ。病院に行くよりドライヤーの方が安いの」

 

「……じゃあ自分でやる」

 

「それもだめー。人のドライヤーかけるのなんか癒されるんだよ、ほら座って座って」

 

 

 ぐいぐいと手を引っ張られ、ため息を吐きながら既に姉が敷いてくれていた布団に座れば、鼻歌を歌いながら私の髪を乾かす彩葉。

 今歌ってるのは……あぁ、ヤチヨの曲だ。

 

 月見ヤチヨ。

 それは、スマコンと呼ばれるコンタクトレンズ型のVR機器を使用して遊べるVR世界『ツクヨミ』と呼ばれる場所で活動するAIライバーの名前。

 彩葉の癒しであり、生きる活力と言っても過言じゃない歌って踊れて分身も出来る8000歳という設定の大人気AIライバー。

 

 私も彩葉と一緒にバイト代を貯め、スマコンを購入して何回かライブに連れてってもらってるから知っている。

 歌が本当に上手くて、『ツクヨミ』の中にあるいくつかのゲームも上手くて大人気な理由がわかる。

 

 

「らーんー? 聞いてる?」

 

「あ、ごめん、何?」

 

「明日の夜さ、芦花が配信するって昼に言ってたよ」

 

「……私、バイトなんだけど……?」

 

「アーカイブ残してくれるってさ」

 

「……よしっ」

 

「そんなに好きならさ、芦花に言えばいいのに。ずっとファンでしたって」

 

「言えるかっ! お願いだから絶対綾紬さんに言わなんでよ!?」

 

 

 芦花と呼ばれる子は、彩葉と私が通う高校の同級生であり、彩葉の親友の綾紬芦花さんのこと。

 私は残念ながら同じクラスではないが、一方的に少しだけ知っている。

 

 スマコンを買って初めて『ツクヨミ』の世界に触れている時、偶然にもリアルタイムでライブ配信をしていたのが『ROKA』という名前の美容系インフルエンサー。

 

 当時の私はまさかROKAさんが同じ高校の同級生で、しかも双子の姉の親友とはつゆ知らず、ROKAさんの笑顔に完全に一目惚れし、美容系なんて興味なかったくせに追いかけ始めたのがきっかけ。

 

 

「……あぶな、今日も配信間に合ったー……ふぅ……」

 

『こんにちは、ROKAです。今日も質問コーナーから始めますね。1つ目、まだ自分に何色が合うか分かりません、どうしたら垢抜け出来ますか? ……なるほどー、そうですね、最初はパーソナルカラー診断するのがオススメです。私も沢山迷ったんですが自分に何色が合うとか分かるとアイシャドウとかも選びやすくなるんです』

 

「……ぱーそなる……? あとで調べてみるか」

 

「ただいまー。藍、配信間に合ったんだ。よかったじゃん」

 

「ん、おかえり。ギリセーフ」

 

「……ん? 待って、その配信してる人って芦花?」

 

「え? 彩葉、ROKAさん知ってんの?」

 

「知ってるも何も……同じ高校だし、親友?」

 

「………………は!?」

 

 

 この時にROKAさん=綾紬芦花さんだと彩葉によって知り、私は暫く信じられなくて固まる。姉がスマホを操作して、綾紬さんと思わしき方と姉ともう1人の親友さんの3人の写真を見せられ、現実でも綺麗すぎるんですね??と変なことを考えるぐらいには信じられなかった。

 

 しかし、私が芦花さんのファンということは芦花さん本人には秘密。

 彩葉には口酸っぱく、何度も何度も、それはもう嫌がられるぐらいにはROKAさん本人にだけは言わないでお願いしてたりする。

 だって恥ずかしいでしょ、相手に知られるのとか。

 親友の双子の妹が推してて、めっちゃファンしてますなんて、綾紬さんの立場からしたら気持ち悪いことこの上ない。

 

 それ以上に、彩葉は全く気づいていないけれど、何度かクラス前を通ったり、彩葉に用があってクラスに行った時に何となく目を見たら気付いてしまったのだ。

 綾紬さんは彩葉に恋してるって、それなのにうちの姉ときたら鈍感女誑しだ。ただでさえ、双子で似てる私が近寄れば苦しいだろう。

 

 

「ん、終わったよー。相変わらず、藍の髪の毛さらさらで羨ましい」

 

「綾紬さんオススメのヘアオイル使ってるお陰だと思う」

 

「もうさ、早く本人に教えてあげればいいのに」

 

「絶対にやだ。普通に無理でしょ、親友の双子とはいえ妹がファンとかさ。せめてもの私の出来る範囲で、少ない金額で心苦しいけど毎回1回は1000ふじゅ〜送ってるこの距離感がいい……!」

 

「毎回1000ふじゅ〜って頑張るなぁ」

 

 

 彩葉がドライヤーを片付けに行ってくれてる間に、私はバイト先でもらって帰ってきたものを手に取り、賞味期限が早い順に手前に置く作業を進める。

 それからすぐに歯ブラシを取って彩葉の横に立って歯磨きをし、全てを済ませてから私と彩葉は布団に寝っ転がる。

 

 

「彩葉、明日って早起きするの?」

 

「ううん、普段通り。予習するぐらい」

 

「おっけー、じゃあタイマーセットしとく」

 

「ありがとー。……ねぇ、藍」

 

「何?」

 

「……お兄ちゃんからさ、連絡ってあった?」

 

「……知らん、あんなバカ兄。彩葉ももうほっときなよ、あの時期に勝手に東京行った人なんだし。……おやすみ、彩葉」

 

「……うん、ごめん、嫌な話させてさ。おやすみ、藍」

 

 

 カチッと彩葉が照明を消し、すぐに月の光でやんわり照らされるものの暗くなる部屋。

 ゆっくり目を瞑り、私はむしゃくしゃした想いを無視して、すぐ側まで来ていた睡魔に身を任せた。

 

 

 

 ────今は昔。

 

 あれれ? ではなくて? 

 

 超未来だったり? 

 

 いやいや、大昔でも、超未来でもなくて

 

 今とあんまり変わらない少しだけ未来の世界。

 

 

 ────これは、母親との相性が違う意味で最悪だった双子の姉妹が、身一つで上京し、二人で力を合わせ、生活費と学費を稼せぎ、生活する話。

 

 

 

 

 

 聞き慣れたアラーム音が鳴り響く。

 うるさい、もう1回ぐらい寝かせて欲しい。

 

 

「藍、起きて。学校行く準備しないとあんまり余裕ないよ」

 

「……もう、そんなじかんなの……」

 

「そんな時間ですっ、ほら早く! 遅刻する!」

 

 

 予習していたらしい彩葉が起きない私を叩き起すのはいつもの事。

 どうしても朝が弱いのだ、逆によく早起きして予習なんか出来るなうちの姉。

 

 顔を洗い、制服を着れば、既に小さなテーブルには朝ごはんが用意されており、私は朝が弱すぎていつも彩葉に頼ってしまってて申し訳なく思いつつ、座って手を合わせ、彩葉にお礼を言ってから食べる。

 

 

「……いつもごめん」

 

「いいって。低血圧なんだから仕方ないでしょ? いただきますっ」

 

「いただきます」

 

 

 2人で黙々と食べ進め、洗うのは帰宅してからと決めているためシンクに浸け置きし、私は立ったまま、彩葉は座って鏡を一緒に見つめる。

 元々はショートのウルフカットにしていたものの、上京してからは美容院に頻繁に行くのが難しくなり、気付けば髪を伸ばしっぱなしになった私。

 

 長いのも邪魔なため、後ろの髪を三つ編みでまとめて、顔周りはショートウルフの名残でまだまだ髪が短いので、軽く整えたら終わり、

 

 

「……だめだ、寝癖治らん」

 

「彩葉、こっちに顔向けて」

 

「ん? うひゃっ!」

 

「あ、ごめん、ミスト顔にかけちゃった」

 

「んもうー! ……お?」

 

「ん、これで少し櫛でとかせば……ほら、直ったよ。ちなみに効果は綾紬さんオススメだからご安心を。しかも、ファン限定の応募あって当たったやつ」

 

「芦花ってすげー……。扇風機の電源切ってっと。藍、準備いい?」

 

「うん、行ける」

 

「おっけー、じゃあ先出ちゃって鍵閉めるからさ」

 

 

 靴を履いて外に出て振り返れば、彩葉はいつも欠かさない神棚に飾ってるヤチヨのアクスタを拝んでる。

 それからすぐに来て鍵を閉め、2人で小走りで階段を降りて、もう通い慣れた高校への道に向かって気持ち早歩きで向かう。

 遅刻はしないものの、ギリギリの時間に着くということは避けたいのだ。

 

 

「そういえば、昨日使ってた芦花おすすめのヘアオイルって買ったの?」

 

「違う、あれもファン限定応募で当たったやつ」

 

「え、めっちゃ当たってない?」

 

「なんか応募する時に聞こえるんだよね、右から2つ目の宝箱が当たりみたいな声。私の勘違いかもだけど、彩葉は聞いたことない?」

 

「はぁ? 何それ、神の声でも聞こえちゃってる的な? オルレアンの乙女みたいに?」

 

「ふんっ、じゃあ今日から私を立川のジャンヌ・ダルクって呼んで」

 

「ダッサ、いくら歴史好きの藍とはいえ、ネーミングセンス悪いよ。てか、本当に神の声が聞こえるなら宝くじの当選番号聞いてくれー」

 

「……別にネーミングセンス悪くないし。まあそれはそう、まじで宝くじ当たれー」

 

「彩葉〜! 藍ちゃーん! おはよ〜」

 

「芦花! おはよー」

 

「……綾紬さん、おはようございます」

 

「藍ちゃん、固いなぁ〜。タメでいいのに〜」

 

 

 いや、あの、推しにタメとか無理です。

 それから毎日、そんな爽やかな笑顔は姉の彩葉にだけ向けてください、私には眩しすぎるんです、綾紬さん。

 なんて、私が考えてることがお見通しなのか私の隣で笑ってる彩葉にイラッとして肘で横腹をどついてやった。

 

 こうやって言葉を飲み込み、苦笑いをするのが私、酒寄藍の日常であった。

 

 

 

 

 

 

 

 







姉は学校ではまさに才色兼備、文武両道、ほかの生徒たちも憧れる優等生。
妹は学校では姉の次に才色兼備、文武両道、しかし姉と違うとすれば社交性はやや欠け、一歩後ろにいるような生徒。

姉の名を酒寄彩葉、妹の名は酒寄藍。


いろは、らん、と呼ぶべし♪




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