超完璧人の片割れは一歩後ろを歩く 作:まめだいふく
────太陽の光で輝く綺麗な髪
ㅤ⠀ㅤ ㅤ⠀ㅤㅤ⠀ ⠀ ⠀⠀笑ってる姿を見るだけで幸せで癒される
彩葉と綾紬さんが話す中、私はしれっと一歩後ろに下がって歩く。
彩葉との些細な会話で溢れる沢山の笑顔はもちろん、呆れた顔、笑顔とはまた違ったクスッと控えめに笑ったり、キリッとした表情で彩葉に注意する顔をボーッと眺める。
……綺麗な人である、そして可愛いと思う。
普段人に興味ない私でも推しに対しては、しっかりと人間なのか心の中はうるさくなるが、私はよく何を考えてるか分からないと人に言われる。
超完璧人故に、クラスメイトの名前どころか隣のクラスである私のクラスメイトの名前と顔を一致させてる姉の彩葉。
誰も不快にさせないようにと人間関係にも完璧な彩葉と違い、ツンっと澄ました顔ばっかで、人とも距離を置きがちの私はやはり何考えてるか分からないのだろう。でも彩葉が言うには私は分かりやすいらしい。
「藍ちゃんも今日バイト?」
「……あ、はい、バイトです」
「何時まで?」
「……今日は夜勤の人が来るまでなので、終わるのは22時で家に着くのは22時半近くとかですかね」
「まじ? 超働くじゃん。彩葉もだけど藍ちゃんもちゃんと寝なよ? また隈が酷くなってるぞ〜?」
「……っ」
時折、後ろにいる私にも声をかけてくれる綾紬さんはグイッと前まで来ると、私の隠しきれてない隈を指先でスーッと撫でられる。
今日バタバタしてしまって、普段なら忘れない隈隠しをすっかり忘れてしまっていたのを今更になって気付く。
不味い、学校でメイクなんてバレたら呼び出しだからコンシーラーを持ってきてない。
彩葉なら……と思って視線を向ければ、綾紬さんの後ろで私の反応を楽しんでニヤニヤと笑ってるうちの姉には、いつかやり返してやろう。
そんなことより推しが近い。笑ってないで助けてよ姉。
「学校着いたら御手洗行こ? 私コンシーラー持ってるからさ、隠してあげる」
「えっ、あ、いや……」
「あ、ごめんね。彩葉と同じように急に触っちゃった。でもほんとに遠慮しなくていーよ」
「芦花、大丈夫。藍、嫌がってるんじゃなくて、恥ずかしくなってるだけだから」
「ちょ、いろはっ」
「ほんと? ふふ、前からずっと気になってんだ〜、前に休みの日に偶然会ったでしょ? その時にめっちゃ綺麗にメイクしてたし、彩葉から藍ちゃんがそういうのに興味あるって聞いてずっと話してみたかったしっ!」
「彩葉、な、なに勝手に喋って……!」
「ごめんごめん。でも、藍って前から推しのメイクとか参考にしてたでしょ」
「まじ? えー、美容系インフルエンサーは結構見てるつもりだけど私も知ってる人かな。あ、もし嫌じゃなければ今度使ってるアイシャドウとか、リップとか教えて〜。それと藍ちゃんの推しの人のこともね?」
「……ぜ、ぜひ機会があれば……?」
「ふふ、約束! じゃあ学校着いたし、まだ時間もあるから御手洗にいこー。彩葉、またあとで〜」
「うん、また後で。藍、いってら」
「……彩葉、まじ恨む」
「いやいや、推しと2人っきりにしてあげたんだからお礼が欲しいぐらいですけど?」
使ってるアイシャドウ? リップ? 全部、綾紬さんが配信でおすすめしてたブランドのものなんですが。
何ならパーソナルカラー診断も綾紬さんの配信で見て、ネットである簡単なアンケートを答えたものだから正確なのかイマイチなまま選んでるから合ってるか自信ないんですけれども。
てか、その推し、綾紬さん本人ですとは絶対に言えないんだけど、ニヤニヤ楽しそうに笑って背中を押してくる姉にキッと睨みつつ、私は気付かないで先で首を傾げて待ってる綾紬さんの元へ行くしか無かった。
「さてさてっと、ちょっと触るねー」
「……は、はい」
「双子だから当たり前なんだろうけどさ、似てはいるけど二人とも結構似てない部分もあるよね」
「……まあ、彩葉の方が社交的だと思います」
「ふふ、でも藍ちゃんだって私たちと話してくれるじゃん。少し目だけ上向いてくれる?」
「……こう、ですか?」
「うん、そんな感じー。藍ちゃん目が大っきいね、羨ましい〜」
「……綾紬さんの方が目、大きいですよ」
「ふふ、ありがと。藍ちゃんって彩葉より少しタレ目なんだね〜」
「……目元は私は父親に似て、彩葉は母親に似たからだと思います」
「なるほどね〜」
話し上手だな、綾紬さん。
まあ、インフルエンサーという活動をしてれば、話し上手になるのかもしれないけれど。
慣れた手つきでコンシーラーで隈を隠され、バレない程度にパウダーで最後の最後まで完璧に仕上げてくれる。
鏡を見れば、酷い隈は消えて顔色が少し明るくなった酒寄藍の出来上がり。
「よしっ、おっけー。お待たせ」
「……ありがとうございました、あの、今度お礼を」
「いいっていいって! 私がやりたかっただけだしさ」
「……でも」
「んー、それなら〜。藍ちゃんってお昼はいつもどうしてる?」
「基本は一人で食べてます」
「そうなの? じゃあさ、一緒に食べようよ。私たちの教室で!」
……え、まじ?
一瞬にして、今日のお昼ご飯が何にしたかを脳をフル回転させて思い出す。
今日は昨日のバイトで貰った廃棄予定のもので、賞味期限が近いものから疲れ果ててる彩葉に無理やり優先したため、私はいつも通り金欠の時にやってる方法で済ませようとしてたことを思い出す。
それは簡単だ。グルメインフルエンサーの動画を見ながら、ただ黙々と白米、または茹でただけのパスタを食べるという私流の節約術。
ちなみに彩葉には怒られるどころか、それいい案だねと言われて双子揃って終わってることは言わない約束。
「……えっと、私のご飯、だいぶ……節約ですけどいいですか?」
「大丈夫だけど、私がおかずを無理やり食べさせるからそのつもりで」
「……ん?」
「私と真実のお弁当から無理やり食べさせます。……てか、待って、そうじゃん、彩葉と双子ってことは前から同じだった……? 藍ちゃん、今日から毎日一緒にご飯食べようね」
「……ア、ハイ」
逆らえない圧に圧倒され、私は家で彩葉が親友達が優しすぎるとボヤいていたことを思い出す。
そもそも推しとご飯なんて無理だけど、推しに言われたら拒否できなくない? と諦めながら1時間目ってなんだっけ……と現実逃避した。
時間の進み方なんて24時間365日、どんな時だって一緒だ。
でも、今日に関しては本当に早すぎるのではと思うほどにあっという間に4時間目の授業が終わった。
周りがお昼の時間だと騒がしくなり、購買に急ぐものもいれば、仲のいいメンバーで机をくっつけて食べようとする人もいたり、私と同じように淡々と教科書を片付けてイヤホンし、ひとりの世界に入ろうとする人もいる。
普段の私なら窓側の1番後ろの席ということもあり、同じようにイヤホンして自分の世界に入って白米をさっさと食べるのだが今日は違う。
何故って、それは私が来ない可能性があるからか、もう既に教室前にスタンバってる三つの影が見えるからだ。
「藍ちゃん! お迎えきたよー、ご飯一緒に食べよ?」
「潔く諦めよ」
「藍ちゃん、れっちごー」
「……はぁ、今行きます」
その影は綾紬芦花さん、彩葉、そして彩葉のもう一人の親友で私も話したことがある諌山真実さん。
推しとファンが一緒にご飯とか解釈不一致どころの騒ぎじゃない。
彩葉ずるくない? 自分が私の立場だったら色んな理由つけて逃げるくせにさ、こういうときだけ味方してくれないんだ。
教科書を片付け、カバンから袋を出し、水筒を持って席を立つ。
普段、私は一人で食べるのを知ってるクラスメイトから少し異様な目を向けられるがスルーし、お腹すいたと今にも項垂れそうな真実さんを彩葉と綾紬さんが連れていき、その後ろを歩く私。
彩葉たちの教室につけば、既に席は確保済みなのか4つ分の机が繋がってる。
誰か知らない人のを借りたのだろうか、その人は平気なのだろうかと思っていれば、どうやら空いてる席のを借りてきたと彩葉が先に教えてくれた。
「……藍ちゃん、そのお弁当箱、白米だけ……?」
「はい。金欠のときは白米とグルメインフルエンサー まみまみの動画見ながら済ませるんです。オススメですよ、焼肉を食べてる気分で白米食べるので節約もできるし無心にもなれます」
「……は……?」
「……ねぇ、彩葉。まみまみが真実って藍ちゃんに話してないの……?」
「……この食べ方、私もした事あるから知ってたけど、まさかそのインフルエンサーが真実だとは知らんかったよ……」
「待って、彩葉、その食べ方禁止にさせたよね?」
「……あっ」
諌山さんは固まって動かず、綾紬さんと彩葉が何か話してるがよく聞こえないため、今日はイヤホンは付けずにスマホだけ横画面にして動画を流せば、速攻で停止ボタンをタップされる。
彩葉もこの食べ方をした事があると前に言ってたし、なぜ止められたのだろうと首を傾げ、諌山さんに目を向ければまじ怒なご様子。
「……い、諌山さん……?」
「……ありえない、超ありえない、まじでありえない。そんな風にして欲しくて私は動画配信してないー! アーカイブも残してないー!」
「え? え?」
「藍、まみまみってインフルエンサーは目の前にいる真実だよ」
「…………は?」
「藍ちゃん、その食べ方は私と真実が彩葉に禁止したから藍ちゃんも禁止でーす。ほらほら、私の唐揚げ食べろ〜?」
「芦花! 唐揚げどころじゃない! 藍ちゃん、ううん、藍! 彩葉よりもやばい自覚ある!? 酒寄双子は食事というものを雑に扱いすぎ! 正座!!」
「……なんか、すいません」
「藍のせいで私まで怒られてるんですけどー!」
双子揃ってその場に正座させられ、綾紬さんはその間に私と彩葉の2人の口元におかずを持ってくる。
私は死ぬほど拒否したけれど真実さんにさらに怒られ、結局食べさせられながら私と彩葉は真実さんにそれはもうとても怒られた。
推しに食べさせてもらって喜ぶと思う?
喜ぶわけないでしょ!! 解釈不一致なんだって!!
なんて色々ありつつ、やっと開放されたのはお昼時間が残り30分も無くなった頃。
綾紬さんと彩葉が御手洗に行ってる中、私は白米を入れてた容器を片付けてぼーっと空を見つめる。
「らーんちゃん」
「……諌山さん?」
「藍ちゃんすごいねぇ、芦花と彩葉を二人っきりに違和感なくさせるの上手くないー?」
「……」
「芦花の気持ち、気付いてるんだ?」
「…………彩葉ならお察しの通り、女誑しのクソボケなので全く気付いてないですよ。私から話す気もないのでご安心ください」
「藍ちゃんのことは疑ってないからだいじょーぶ。彩葉のあのクソボケはどうにかして欲しいけどねー」
「天然ものなので」
ため息を吐きつつ、私は今はいない片割れに呆れていれば、目の前に座っていた諌山さんは優しい笑みを浮かべてる。
その笑顔が普段と少し違って、私はちょっとびっくりして思わず目を見開いてしまう。
諌山さんは私と合っていた視線を逸らし、綾紬さんのスクール鞄に付いてるイタチのチャームを指先でツンツンと遊ぶ。
「……芦花と彩葉をよろしくね、私じゃ届かない範囲もあるから」
「……届く範囲、なら」
「真実、藍ちゃんお待たせ〜、ん? どうしたの、二人とも。てか、真実は私のイタチを虐めないで〜」
「いじめてないでーす、遊んでましたー」
「藍、もう行くの?」
私はスっと椅子から立ち上がり、荷物を持って諌山さんと綾紬さんにはペコッと頭を下げる。
そして最後に彩葉には舌をべっと出して、さっきまで綾紬さんが推しと知っておきながら楽しんでた姉に爆弾を残す。
「うん。……クソボケ女誑し彩葉、背中刺されんように気をつけなよ」
「は!?」
「もう私の動画でご飯代わりはだめだからね〜?」
「藍ちゃん、バイト頑張ってね」
「……はい。失礼します」
教室に戻りながら、後ろではまだ私の言葉に納得してない彩葉が何やら言ってるがスルー。
残り2時間の授業が終われば、なんだかんだ毎日忙しいコンビニバイトが待ってる。
次の授業はミニテストがあったなと思い出しながら、隣の教室に着いて自分の席に座り、頬杖をつきながら外を眺める。
まあ、でも────────
「…………んふふ、頑張ってねって言われちゃった……やば……。今日も推しのビジュ良すぎた……かわいかった…………」
推しってマジで最高。ツクヨミに大感謝
今なら品出しもレジ打ちも過去最速で出来る自信ある。
人様に見せられない顔をしてる自覚はあるため、私は緩みったらしの頬を外に向けながら綾紬さんからの言葉を思い出すのだった。
お昼用と書かれた保存フォルダ。
そこに沢山のアーカイブがあることは内緒。
ア、ウソデス、スイマセン。