超完璧人の片割れは一歩後ろを歩く 作:まめだいふく
────本日の使命
ㅤ⠀ㅤㅤ⠀ ⠀ ⠀ ⠀ ⠀姉を6時間以上寝かせること。
3連勤の中日、怒涛のコンビニでのバイトが終わり、私はバイトの制服を脱いで畳み、スクール鞄に突っ込んでレジに直結してる従業員入口を出る。
混んでないうちにレジから出て、夜勤の人たちが品出ししてる横をお疲れ様ですと挨拶しながら通り過ぎる。
お客さんが来店した時を知らせる聞き慣れた自動ドアの開閉音を聴きながら、私は外に出ればむわっと感じる夏の暑さ。
節約命の私たちの家と違って、バイト先は冷房がガンガンにつけられ、時には寒いぐらいにも感じる世界から一転した熱帯夜に嫌になる。
暑すぎる。暑い。
家はどうせ扇風機だ。節約できる場所をとことん節約すると決めた以上、私は熱中症になる方が治療費で高くなると思うが、姉の彩葉は決めたら最後揺るがない。
本人が嫌がるから言わないし、私もそういう比較をしたくないから言わないがそういう所が母に似てると思う。
「……彩葉は明日から三連休……羨ましい……彩葉に合わせてシフトの休み調整すればよかった……いやいや、あの人ヘルプに喜んで入るから休める時に休ませないと……まじでまたぶっ倒れる……」
高校1年の冬、実は彩葉は一度ぶっ倒れているのだ。
その日、私は偶然にもバイトのヘルプに出ていて本来なら休みだったものの急に出勤して家には不在。
彩葉が学校で様子がおかしかったからと、綾紬さんと諌山さんが様子見に行ってくれたらアパートの階段でぶっ倒れていた彩葉を発見。
綾紬さんと諌山さんから鬼電が来ており、一緒にシフト入ってた人に許可を貰って電話に出れば、彩葉がぶっ倒れていたとの報告。
彩葉の鍵を使って中に入ってること、諌山さんは弟さんたちがいるから帰宅するが、綾紬さんが私の帰宅時間まで家に残るという内容。
「綾紬さん!」
「藍ちゃん、おかえり。ごめんね、バイト中に電話しちゃってさ。仕事平気だった?」
「それは全然……彩葉がすいません、ご迷惑をおかけして」
「ううん、私たちは全然。……病院に連れていきたかったんだけど、一瞬目を覚ました彩葉が嫌がってさ。連れていけてないんだ、熱が少しあるけど多分疲労だと思う」
「……分かりました。ありがとうございます。……さすがに明日も熱が続くようでしたら、無理やりにでも病院連れていかせます」
「……うん、そうしてくれると嬉しいかも。2人には2人の事情があるから無理にとは言わない。……生きててくれるだけでいいから」
その時の綾紬さんの表情は忘れられない。
時間も遅かったし、泊まっていって欲しかったけど次の日も学校で、うちは二人暮らしでもギリギリの広さのアパートだから三人は厳しく、彩葉が寝てるうちに私は綾紬さんを家まで送る。
遠慮はされたものの、彩葉のことで23時まで自宅に留めさせてしまったし、こんな夜遅くに美人が一人で出歩いてたら危なすぎる。
てか、推しを一人で危険な夜道を歩かせることを判断できるファンはいません。
でも、推しの家を知るのもファンじゃないから私は記憶を抹消しなければと努めた思い出。
「この三連休は絶対に6時間以上は寝かせなければ……」
ここにいない姉のことを考え、よしっと覚悟を決め、私はできるだけ早足に帰宅する。
彩葉もバイト先から帰宅してる途中だろう。
早く寝かせるには、夕食を食べさせ、お風呂を入る時間をどうにか早める必要がある。
出来るだけ早めに着いて夕食を用意してしまえば、彩葉が帰宅したら食べさせてお風呂に行かせれば早められるはずだ。
偶然にも今日の賄いならぬ、オーナーの優しさのお持ち帰り廃棄予定商品の中には中華丼と牛丼、サラダがあるのだ。
オーナーのご好意で無料とはいえ、久しぶりに節約しつつもちゃんと野菜が取れるし、人らしいご飯ができることに彩葉が泣いて喜ぶに違いない。
まだ暗い家に着き、鍵を開けて小さめの冷蔵庫の中に持ち帰ったものを入れ、手を洗って夕食の準備に取りかかる。
昨日もらったものの中に少し早めに下ろされ、賞味期限が今日までだったプチシュークリームがあることを発見。
「まじで泣いて喜びそうだな、彩葉」
スマホの通知音が鳴り、手に取れば彩葉から帰宅してる趣旨の内容。
窓を開けて、扇風機を動かし、出来るだけ帰宅した時に涼しい部屋を作れるように努める。
それから15分後、流石にそろそろ着くのでは? と思ったのだが、一向に彩葉は帰宅しないことに私は首を傾げつつ、普段ならイヤホンするがイヤホン無しで綾紬さんのアーカイブを見る。
だんだん聞こえてきたのは、ここら辺では聞き馴染みのなかった赤ちゃんの泣き声。
近所の人で小さい子でも産まれたのだろうか、夜泣きもあるだろうにお母さんって大変だなと他人事のように考えていれば、次第に大きくなる赤ちゃんの泣き声。
待って、なんか近付いてる?
え、このアパートに赤ちゃんと一緒に住んでる人いたっけ。
いや知らんわ、近所付き合いとかしたことない。
ガチャっと鍵が開き、入ってきたのは彩葉だ。
しかし、彩葉だけでなくさっきまで壁越しに聞こえていた赤ちゃんの泣き声が直に聞こえてきて、私は動画から顔をあげる。
「おかえり、遅くない? …………待って、何その手に持ってるの」
「……赤ちゃん、拾っちゃった」
「…………は?」
「藍、どうしたらいい……?」
「…………はぁ!?」
バイト終わりの姉が持って帰ってきたもの、いや、人は……どうやら赤ちゃんだったようです。
って納得できるわけあるか! どういうこと、彩葉は拾ってきたって言ったけど誘拐したってことなの、私は実姉を警察に通報しなければいけないのだろうか。
一先ず、中に姉を入れて鍵を閉める。
赤ちゃんの世話なんかしたことないけど、この泣き声は間違いなく隣の人にも聞こえてるはずだ。
私がさっきまで壁越しとはいえ、めちゃくちゃはっきりと聞こえていたんだから隣人トラブルになりかねない。
どうしようと考えていた矢先、俗に言う壁ドンをされて彩葉と私はびっくりし、赤ちゃんは余計に泣きまくる。
彩葉が必死にあやしてる中、私はスマホで赤ちゃんのあやし方を調べまくる。
「藍っ、まだ? まだ見つからん?」
「バカ正直にあやし方って調べたら子守唄って出てきた」
「……子守唄? ………記憶にございませんが」
「……こっち見んで、彩葉にないなら双子の妹の私にあるわけないやん」
「……そうでござんした」
「もうさ、彩葉が適当になんか歌を歌ったら? 私は上手くないし」
「えぇ!? 歌とか、ヤチヨぐらいしか」
「Remember歌えば? いつも口ずさんでるし」
2度目の壁ドンが来る前に早く歌えと無言で圧をかければ、うぐっと彩葉は表情を歪めつつも彩葉にとっては聞き慣れた月見ヤチヨのデビュー曲を歌う。
「────大切なメロディは流れてるよ 貴方のハートに」
「……すご、寝た。彩葉、赤ちゃん寝た」
「ヤチヨパワーすげー……」
「それで彩葉、この赤ちゃんはどこから誘拐したの。私、さすがに実姉を警察に通報は出来るだけしたくないけど」
「誘拐してないわ!! ……あんな、信じんられないかもしれないけど、とりあえず話を聞いて欲しい」
「はいはい、それで?」
「……アパートまで普通に帰ってきたらさ、すぐそこにゲーミング電柱あるのわかる?」
「うん、階段降りてすぐのとこっしょ?」
「そう、そのゲーミング電柱が急に七色に光って」
「……七色に光って?」
「……幻覚だと思ったんだけど幻覚じゃなくて、煙が急にたったと思ったら、扉みたいなのが急に出てきてさ。その扉がぱかって開いたのよ、それを最初は閉じようとしたけど無理やり開きまして」
「……開きまして」
「そしたら、赤ちゃんがいた」
「……お姉ちゃん、疲れてるんじゃない?」
「…………かも」
「ご飯食べてシャワー浴びて、寝る。んで、起きて、まじで赤ちゃんがいたらまた考える以上。……牛丼と中華丼どっち食べたい?」
「牛丼!!!」
考えても分からない、どうしたらいいか分からないことは一旦考えることを辞めるが私の解決方法の一つだ。
レンジで温めた牛丼を死ぬほど喜んで食べる姉を見つつ、私はサラダもテーブルの上に乗せ、中華丼を食べ進める。
最後にプチシュークリームを二人で食べ進め、少し休憩したら交代で歯磨きとシャワーを済ませる。
布団を敷いて、信じられないが赤ちゃんを私と彩葉の真ん中に寝かせ、私と彩葉はそのままおやすみとお互いに伝えたあと睡魔に身を任せる。
そしてあっという間に朝は来る。
彩葉に揺すりながら起こされ、私は眠い瞼を擦りながら起きれば、彩葉はしっかりと起きた赤ちゃんを抱っこしてる。
「……夢じゃないわ、てかなんか大きくなってる気がする」
「……マジかよ」
「……とりあえず、警察に電話?」
「間違いなく変な人だと思われるからやめよ。七色に光る電柱から赤ちゃんが出てきましたなんて女子高生からの通報、私が警察官だったら家に来て保護者に連絡する」
「……ですよね」
「彩葉、それよりなんか布団冷たいんだけど」
「…………あ"!」
そこからは私達はすぐに出かける準備を済ませ、彩葉と私で交代しながら赤ちゃんを抱っこする。
そして向かう先は赤ちゃんのいるお母さんの味方である赤ちゃん用品が溢れたお店に着き、必需品を探してみて回るが一概して言えるのが値段が高い。
マジで高い、オムツも高いし、服も高いし、てか全部高い。
「……高っけー」
「高い! 全部高いー!」
「……彩葉、これ値段みたら負けだわ」
「うああああああ!」
とはいえ、安いものを妥協して買った時に赤ちゃんの肌が荒れたり、合わなかったりした時の方が勿体ない。
結局、彩葉は死ぬほど悩んだ結果オムツなども高くて品質が良いと有名なメーカーのものを購入し、レジに持っていけば見事に1万円超えている。
「合計で1万3243円です」
「……ふじゅ〜Payで」
「……赤ちゃんってすげー」
あまりの高さに私は語彙力を失い、その後は彩葉に赤ちゃんを任せ、私が重たいものを運ぶ。
どうにかこうにか家に帰宅し、お腹がすいたと泣いた瞬間にミルクを用意して飲ませ、ミルクじゃなければオムツを替え、そしてまた泣いたらミルク、次はオムツと彩葉と変わりながらお世話をする。
三連休である彩葉とは違い、私は夕方からバイトがある。
ギリギリまで夜泣きに付き合って死にかけの彩葉を寝かせ、私が出勤ギリギリの時間に彩葉を起こして赤ちゃんを託す。
「……彩葉、ごめん、起きて。私もう行かんと」
「……う……ん……おきる……。ぁ、じかん、へいき?」
「今出れば走れば間に合う。彩葉、夕食だけど昨日貰ってきた生姜焼き弁当食べていいから」
「……ありがと」
私が休めればよかったのだが、私が休んでしまったら私たち双子の収入は減ってしまうから休めない。
バイトが終わったら早く帰ってこようと決め、走ってバイト先に向かう。
いつものようにバイトをこなし、オーナーの優しさの塊である廃棄予定のものを受け取ってお礼を言い、走って自宅に帰る。
「彩葉、ただいま、変わるからシャワー入ってきてっ」
「おかえり、今寝てるから変わらんで大丈夫。バイトおつかれ」
「……あ、ね、寝てるんだ……。ご飯足りた? まだ足りなかったら多分今日までのがまだあるよ」
「小腹空いたかも、今日までのだけ食べちゃうか」
「賞味期限切れたのを食べて病院行く方が笑えん」
「それな」
赤ちゃんが寝てる間に今日までのものを食べ切り、また今日から貰ったもので賞味期限が早いものから冷蔵庫の手前に置くように置いていく。
起きた瞬間に間違いなく、またミルクとオムツの交換フィーバーだ。
こうして、赤ちゃんのお世話と私はバイトという怒涛の日々を過ごし、彩葉にとっての三連休の三日目が終わり、疲れ果ててる彩葉を何とか先に寝かせる。
私は疲れきって夕食を食べてない彩葉の夕食を冷蔵庫の手前に置いておき、洗い物を済ませて赤ちゃんをまた彩葉と私の間に寝かせて目を瞑る。
なんか騒がしくて起きれば、彩葉と多分小学生ぐらいの女の子。
窓を見ればまだ真夜中で、テーブルには彩葉用に取っておいたタコライスと明日の彩葉のお昼用にする予定だったオムライス。
「……いろは」
「ご、ごめん、起こしたよね。藍、まだ夜中だから寝てていいよ」
「わぁ! 藍! このオムライスめっちゃ美味しいね!」
「……だれ、このこ」
「藍は寝てて! ……あぁ、もうとりあえず寝かせてー!」
寝てていいと言われたから、もういっか。
彩葉に申し訳なく思いつつ、あまりの眠さに耐えられなくて私はそのまま騒がしさを聴きながら睡魔に抗わずに寝た。
そして朝起きて、目の前に現れる知らない顔の女の子。
「…………」
「らーんー! おはよー!」
「……藍、その子、あの赤ちゃん。信じられないけど」
「まあ、今どきは何もかものスピードが早いんですわ」
早いにも程があるでしょーが。
私は赤ちゃん、もとい目の前の女の子に唖然としたものの、すぐさま背中を押して家から出そうとする。
「怪しい人を家におけん!! 出てってください!!」
「うえええ!?!?」
「ら、らん! やばい! 学校! 学校遅刻するから準備が先!!」