超完璧人の片割れは一歩後ろを歩く 作:まめだいふく
── 美味しいものはお金が高い。
ㅤ⠀ㅤㅤ⠀ ⠀ ⠀ ⠀でも人の手作りは温かくて優しくて染みる。
カフェで綾紬さんと諌山さんに謝罪し、走って追いかけた先には私がいないことに気付いたお転婆娘かぐやと彩葉が立ち止まって待ってくれてる姿。
それよりも、ここに来る途中で『12万』という数字の通知を見てから私は気が気じゃなかった。
彩葉がそんなお金の使い方しない。
もしするとしても一言は絶対にあるはずだし、必死に二人で力を合わせて貯金したうちの半分が消えたのだ。
「彩葉! さっきなんかっ、はあ、はあっ、12万飛んだって通知来たんやけど!?」
「はぁ……、その犯人はかぐや」
「え、えへへ……」
「……何がえへへなの! あんた、12万ってどれぐらい稼ぐのが大変か分かって使ったんやろなぁ! てか何買ったん!?」
「らんー! ごめんなさいぃぃぃ!」
「藍、もう私が怒った! もう怒ったから! 一旦ここ外だから堪えて!」
彩葉に羽交い締めにされながら、私は周りの目も気にせずにお転婆娘に説教をする。
お転婆のかぐやは涙目でずっと謝っており、時折ネットバンキングの数字を変えるなど言い出したから余計に私と彩葉に怒られたのは言うまでもない。
私は怒りを通り越して布団に倒れ、彩葉は私を慰めるように後頭部を撫でる。
あのお金は高校三年に行われる修学旅行に向けての貯金も兼ねていたが、もっと言うとお金が溜まったら彩葉に綾紬さんと諌山さんの3人で旅行にでも送り出してあげようと思ってたのだ。
普段、綾紬さんと諌山さんは私たちの事情を知っているから彩葉が言うには夜遅くまでツクヨミにログインして少しでも時間を作ってくれたり、お礼という名目で奢ってくれたり、休日の出かけるのだって日帰りを選んでくれてる。
気を遣ってくれてることを妹の私もわかってた。
だから、少しでも余裕ができるほど貯まったら旅行へ行ってきてと綾紬さんたちに私から頼んで勝手に企画しようと密かに考えてたのに。
「藍、そんなに落ち込まなくてもまた少しずつ貯めよ? かぐやも凄い反省してたしさ」
「……ちがう、そうじゃない」
「ん?」
「…………お姉ちゃん、旅行に行きたいって言ってたやん」
「え? 旅行? あー、前に言った気がする。覚えてくれてたんだ」
「……せやから、お金貯まったら綾紬さんと諌山さんと行ってきてって言おうと思ってん」
「そうだったん? もう、私はいいのに。ありがとね、気持ちだけで十分嬉しいよ。でも藍も一緒じゃないとなぁ」
「……ふんっ」
お金はまた貯金すればいい、だから彩葉がもう折り合いがついたなら優しすぎるとは思うけど彩葉がいいなら私はもう怒らない。
私の呟きなんて当の本人には聞こえておらず、かぐやはルンルンで何かを装い始めたかと思えばテーブルにどんどん並ばれていく。
ちらっとテーブルを見れば、ほかほかのご飯にスープ、そしてハンバーグ。
すごい美味しそうな匂いするし、久しぶりにコンビニ弁当以外を見る気がする。
「まーずは生のとうもろこしから作ったポタージュ! こっちは新ゴボウとアスパラのカリカリサラダ温玉付き。メインはトマト煮込みのハンバーグ、ズッキーニのソテーをそ・え・て♪」
「作ったの? これ……」
「そだよ〜!」
「……待って、まさか、これも私たちのウォレットで……?」
「うん、そだよ?」
「あ、ああ、あ…………」
彩葉が砂みたく風に吹かれて飛んでいきそう。
私はもう12万が飛んだ勢いに勝るものはなく、唖然とし、ちらっと見える背後の大量の洗い物に頭が痛くなる。
いい匂いがしてきて、お腹が空腹だと訴えてくる。
彩葉は、かぐやに怒ろうとした瞬間に口に見事にスープを突っ込まれてあまりの美味しさに崩れ落ちてる。
「藍も食べて食べてっ!」
「……いただきます」
食材に罪は無い、悪魔なのは目の前のお転婆娘で……。
私は起き上がり、ゆっくりと用意されたカトラリーからスプーンを手に取り、ポタージュをすくって口にする。
……めちゃくちゃ美味しい。超美味しい。
そのまま、流れるように今度はフォークを手に取ってトマト煮込みのハンバーグを一口サイズにしてから口に運ぶ。
「……お金が無いのよ、貧乏なのよ……。藍と必死に稼いでんのよ……、
何なのよ、美味いじゃないのよ。なんなのよアンタ……久しぶりの美味しいご飯に体が喜びに満ちていくじゃないの……悪魔」
「悪魔じゃないよ、かぐやだよー。藍はどう? 美味しい?」
「…………ちょー、おいひい」
「そっかぁー! えへへっ!」
彩葉は食べ進めながら悪魔だと呟く中、私は本当に美味しいのとこれが12万円の力か……と身をもって感じる。
その後はしっかりと完食し、お腹いっぱいで幸せに満ち溢れて横になってる彩葉と彩葉のノートパソコンで何かプログラミングしてるかぐやを横目に私は大量の洗い物を片付けていく。
今度、かぐやに洗い物の仕方を教えなければ……。
今日は当番制で私だったし、そもそもかぐやが何時までここにいるか分かんなかったから名乗り出てしまったけど、もし当分ここにいるなら教えないといけないことは山ほどある。
私もお腹いっぱいだけど動けるうちに動かないと、後々めんどくさいと自分が言い出す未来が見える。
「マジでここでは匿えないよ? ただでさえ親に無理言って私と藍で暮らしてるんだし、面倒事は……」
「ふんふん、ふーんっ……出来たー!」
「彩葉、どうやら何も聞いてないみたいだよ。……待って、出来たってついにネットバンキングをいじったりしてないよね?」
「ちょっ! まさかサイバー犯罪とかじゃないですよね!?」
「携帯ゲームキット買ったんだ〜! これで犬DOGEといつも一緒だって!」
「……犬DOGE?」
「藍も見るー? この子ー! 超可愛いでしょー!」
「……へぇ、プログラミング出来たの凄い」
「えへへっ! あ、ねえ、明日は何の料理する? 食べたいものある?」
「一生住む気満々かよ……」
洗い物を終わらせ、かぐやに見せられた携帯ゲームキットの犬DOGEを見つつ、彩葉が苦虫を噛み潰したような顔で呟く。
二人で暮らすのもギリギリの広さであるこのアパートに三人目の住人というのはなかなか苦しそうだし、そもそもかぐやの金銭感覚をどうにかしないと一向にお金問題は解決しなさそう。
私に寄りかかり、だらーんっとくつろぐかぐやを支える。
この子、警戒心が全くないな。警戒ばっかしてる私が馬鹿らしくなって来るけど、私は彩葉の平和と安全優先なのでまだまだ緩めるつもりはない。
スマホから通知音が鳴り、かぐやを支えながらスマホに手を伸ばす。
相手は諌山さんと綾紬さんの2人だ。
メッセージ内容は2人とも同じでフレンドコードを教えてというもの。
昼間に言ってたツクヨミで遊ぶが本当になってしまい、私は諌山さんに関してはお昼ご飯代わりに動画を見てることがバレた以上、フレンドになるのはいいのだが問題は綾紬さんだ。
──綾紬さんのツクヨミでの姿、ROKAさんをバリバリ応援してるアカウントが本垢なのが一番不味いのである。
「迎えが来るまでなら……」
「いいの!!」
「目立たない、許可なく外に出ない、私と藍の邪魔をしない! ……私からは、これ守れるなら家にいていいよ」
「……じゃあかぐやは、どこにも行けず、楽しみもなく、ずっとこのままってこと〜!?」
「自分でハッピーエンドにするんでしょ、巻き込まないで!」
「あっ! 藍! 藍はハッピーエンドがいいね!?」
「……何の話?」
私が頭を抱え、本気で悩んでる間にどうやら彩葉が『迎えが来るまで』という条件のもとで話が進んでたようだが全然聞いてなかった。
しかも突然ハッピーエンドがいいと言われても困ってしまう、今まさに私は推しにファンバレするというバッドエンド目前です。
「藍はバッドエンド嫌でしょ? ハッピーエンド一緒に行こ?」
「……よくわかんないですけど、バッドエンドは悲しいかなとは思います」
「ほらー!! 彩葉ー!」
「藍を巻き込まないで! じゃあこの話は無かったことに!」
「一緒に三人でハッピーエンド行こ? おねがいっ」
私は結局よく分からず、かぐやに何故か抱きしめられながらことの様子を伺う。
そして気付けばアラームが鳴り響き、私はスマホで時間を確認して彩葉の自習時間の終わりを告げるアラームかとすぐに察する。
これは明日から凄い生活リズムが変わりそう。
「マジで迎えが来るまでだからね!? あ、藍は? なんか条件出しとく?」
「んー、あ、食費は定額制でお願いします」
「それだ!」
「増えたっ!!」
条件が増えたことにショックを受けてるかぐや。
定額制にしなければ間違いなく費用は増して、私たちは貯金どころか学費すら払えなくなる未来しか見えない。
私はため息を吐きつつ、スマホを点灯して時間を見ればそろそろ彩葉が待ちに待っていた時間が近づく。
「彩葉、少し早いけどログインする? ツクヨミに行くんでしょ」
「えっ! 2人ともどこいくの!? またかぐやを置いてくの!」
「ちがう! ただのツクヨミに……あぁ、そうじゃん、あんたスマコン持ってるんだ……」
「……かぐやさん、来て、手を洗お」
「手を洗う? なんで?」
「かぐやさんが買ったスマコンは、コンタクトレンズ型になってるから目に付ける時に手を洗っとくから。……こっちきて」
「はーいっ!」
シンクに連れてきて手を洗わせ、綺麗なタオルで拭かせる。
私と彩葉も手を洗い、私と彩葉は椅子に座り、かぐやには布団を積み重ねて作った椅子もどきに座らせる。
スマコンの付け方を教えて、私と彩葉が先に装着すれば見様見真似でかぐやも付けてスマコンの準備は完了。
「最初はチュートリがあるから従って。終わったら、出てすぐの所に私と藍が待ってるから」
「わかった!」
「彩葉は狐の耳としっぽ、私は龍の角が頭にあるので分かりやすいと思います」
「わかったー! 超楽しみー!」
「……いくよ、せーのっ」
彩葉の声を合図に目を瞑れば、宇宙を模したモーショングラフィックスが広がり、銀河の流れ星のように突き抜けたあと、波しぶきが立ち上がって大きな赤い鳥居が現れる。
綺麗な水面が足元に広がり、空を眺めれば鮮やかで美しい夕焼けが広がる。
そして視線の先には月見ヤチヨ、彩葉の推しが顕現する。
私はいつも綺麗だなと眺め、ここにいるのは決して本人じゃないのに毎回ヤチヨにぺこりと会釈してからツクヨミの世界へと踏み出す。
恐らく、私と同じくヘビーユーザーの彩葉はここで推しのヤチヨを沢山見て満足してから来てるだろうし、かぐやに関してはチュートリアルで説明後、キャラメイク中だろう。
「……やっぱり私が最初か」
「早いね、RAN」
「イロと変わんないよ」
「んー、やっぱりRANのキャラメイク可愛いね。チャイナっぽいアウター似合うよ」
「ありがと、イロだってストリートと和風の組み合わせ超似合ってる」
彩葉──ツクヨミではアバターネーム『イロ』だけど、青を基調としたストリート風。和風っぽさのある着物にパーカーとベルト、ブーツを合わせたカッコ良さと狐モチーフの耳としっぽのキャラメイク。
私は、ツクヨミではローマ字に変えただけのアバターネーム。
キャラメイクは白がメイン、所々に緑が散りばめられた色味でどっちかと言うと私もストリート風。
違うとすれば、チャイナ風のアウター、スカーフ、ブーツ、パンツスタイルで私は龍の角が生えてるぐらいだろう。
暫く二人で話しながら待っていれば、勢いよく誰かがツクヨミへの入口から飛び込んでくる。
そして、そのまま恐らくチュートリアルのヤチヨに手を引かれた勢いのまま現れてぐしゃっと転ぶ。
おめでとう、非公式の初ログインあるあるミッション達成。
「ぐへぇ!」
「……金髪、ギャルいかぐや姫……?」
「……陽キャの塊のお姫様なんて、今までの作家たちも想像つかんわ」
隣で若干引いた様子の彩葉に続き、私も思わず本音を零す。
うさぎがモチーフなのか、長い耳が頭に着いており、何だか本当にかぐや姫と言われても信じてしまいそう。
私と彩葉の声を聞いて分かったのか、すぐに立ち上がったかぐやはビシッと指を指してくる。
「もしや彩葉と藍!」
「……てか、それ何?」
「あ! 犬DOGE! 連れてこれるんだね〜!」
「RANは知ってた? 電子のペット連れてこれるとか」
「全くの初見。ツクヨミで動物連れてるのは今までヤチヨさんぐらいしか見た事ない。でも、ここツクヨミって思えば納得する」
「……あぁ、うん、確かに」
そう、ここはツクヨミ。ツクヨミなら何が起きてもおかしくない。
私がふっと笑いながら言えば、彩葉は納得したのか話は終わり、煌びやかな街並みが見える道を彩葉を先頭に歩き出す。
「行くよ、かぐやは私とRANの近くにいてよね。走ったりしないでよ?」
「わかってるって〜! あ、そうだ、藍、犬DOGE抱っこした方がいいかなぁ?」
「そうですね、人多いので心配なら」
「わかった! おいで、犬DOGE〜」
ちらっと彩葉は振り返り、かぐやが犬DOGEを抱っこし歩き出してることと、私が2人の後ろを歩いてることを確認しながら進んでいく。
さぁ、かぐやにとっての初めてのツクヨミだ。
「わぁ……!!」
「ここがツクヨミ……って、ちょっと! 走らないでって言ったばっか!」
「彼女の性格的に目の前で待ては無理でしょ」
「んもう! 藍、かぐやを追いかけるよ!」
「はいはい」
まあ、こうなりますよね。
「いろはー!らんー!これ超おもろーい!」
「ちょ、名前!!」
「バリバリの本名呼び」