嘘と美学は似て非なるもの。古き世界から新しい末路が生み出される。
神託で召集された見知らぬ会社員によると、この街は狂気らしい。
陰謀が公約よりも世論を動かし、違法と合法が常にグレーで、無限増殖する資産さえ奪い合う、この世界が。

「absence of evidence is not evidence of absence」、証拠が無いことは無いことの証明にならず、世界から否定されなくなったオカルトが闊歩する二十二世紀。隠秘科学、オカルティエンスは人類文明を飛躍的に発展させたが、代償に数多の荒唐無稽な犠牲を生んだ。
オカルティストとは数多のオカルトを観測し、利用し、証明する現代の魔法使いである。
かく言う私もその一人、オカルトを利用しオカルト絡みの厄介事を製造する、小市民のエンジニアというヤツだ。


────さあ、私達の遊戯を始めよう(世界の退屈さを肯定しよう)

エイプリルフールで書いたものだけど色々整理する為に投稿。
今作そのものの超弩級の原作
https://kakuyomu.jp/works/822139838887628420

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エイプリルフール、四日目!


エイプリルフール

「今日の配給時間は…はあ、3時間も先か…」

 

なんていつもどおりで、味気なくて、意味がなくて、どうしようもない話だろう。

古いダンボールの寝床へ体重を預け、縮こまって目を閉じる。

 

ボロボロの自作ラジオから響くのは、微妙に聞きにくく調整された、個性を主張すればいいと浅ましく思い込んだ地下放送。

『魔法の箒への規制条例が撤廃、来月から無免許運転が合法化────』『都市運営AIポドソールニェチニク17がストライキを起こして三ヶ月、政府は今────』『大手寿司チェーン【六得手(muerte)寿司】違法薬物使用を巡っての裁判が────』

ああ、今日のニュースも最低だな。

 

インターネット、SNS、Webニュース。

かつてニューメディアと呼ばれ尊ばれていた、かどうかは時と場合によるだろうが、ともあれ現代で死んでいるのはソレらの新しかった情報媒体だ。

AI生誕以前、インターネットが危険な宝物庫に成り上がる前の時代に憧れる。

もっと言うのなら隠秘科学誕生以前、千年紀(ミレニアム)が更新されるより前。

世界が沢山の可能()に満ちていた、自由で非現実的な時代に憧れる。

 

今は二一〇二年。世紀で言えば二十二世紀が始まったばかりだけど、命と価値に支えられた二十二世紀と云う空想に対して、私達の日常は下らない。

市政が崩壊して違法カジノが合法カジノとなる、なんてのが二十二世紀始まって以来最初の大ニュースとなり、どこにでも或る普通の犯罪組織(クソボケ)が大量に乗っかってしまうくらいには。

 

現在時刻は五時半、街へ向いたダンボールの隙間から本日最初の日差しが差し込む。

自作ラジオと私を繋ぐ発泡スチロールでは、カラフルなカジノのチップが地層を形成し、その上に空の缶ジュースと水筒が放置されている。

新しきこの時代には、古いモノばかりが溢れていた。

 

「今日も面白そうだね、イダイ先生?」

 

ねっ、だなんて掛け声と共にダンボールの扉が軋み、一秒と少しの間を置いてから勢い良く私の隣に人類…人類?が落ちてくる。

扉を開いて、勢い良くもたれるのが今のマイブームらしい。

何故扉にもたれるだけで扉の寿命を縮められるのか、私の人生の一割だけが面白い時間で構成されていると知っているのにどうして毎回一言目はソレなのか、前も注意したのにどうして今だ私の事を先生と呼ぶのか、矢継ぎ早に言いたい愚痴が浮かんでは消えた。

 

消えた理由は簡単だ、結局の所、彼に何を言っても無理だと知っているから。

 

「ああ、楽しいよ。今日も世界は美しくて、どうしようもなく面白くないよ」

 

口に出すのも憚られる回答を提出して、何もない床へ目を向ける。

 

「先生、そこ見て面白い?」

 と、わざわざ立ち上がって私の前に立ち、自らの顔で視界を塞いでくる系隣人の名は金子(かねこ)アルプ。

 煌々とした黄緑の短髪で、室内屋外昼夜四季全てを問わず赤紫色のシャツを着ている、まあ一言で言えば変な少年だよ。

 

「まさか……面白い訳がないだろう?」

 

困ったことに彼、アルプはこの誰も住むのに適してない区画に於いて、ホームレスたる私を除いて唯一の真っ当…おそらく真っ当な住人でもある。

私、アルプ、そして現在まで一度たりとてやってきたことがない日本の会社員。それで全てだ。

風がちっとも吹かない快適空間なのに、半分近いエリアがゴミ捨て場となっているから当然ではあるのだが。

 

「一体いつから、世界はこうも窮屈になってしまったんだろうね? 少なくとも私が生まれた日よりは前の筈だ。でなければ困る。君はどう思うかな、アルプ?」

 

幾千回目の問いを口に出す。

意味がない。答えがない。

自らの人生の苦痛を世界への諦念と絶望にすり替える行為に、正義なんてない。

繰り返せばいつかは世界を壊せるかもしれないね、なんて冗談が真実になりかねないのがこの世界で、それもまた先人の拓いた革命という概念の否定に感じ嫌になる。

 

「どうでもいいかなー。それに僕は面白いよ。この街が、この時代が、この日常が」

 

数百回目の答えを記憶する。

希望的観測に倦怠感を得る私を無視して、アルプは床…いや地面に座った。

 

この街はイカれている。

サイバーパンクならぬマジックパンク、或いは()()()()()()()()()

それこそが、今この街に対する端的な説明だ。

 

「ありえないと時代に切り捨てられたモノ、即ちオカルトが科学に組み込まれ、隠秘科学(オカルティエンス)こそが科学の本流となって既に一世紀。私が生まれた頃には……不可能という単語が、存在しないモノの代名詞に変わりかけていた。そりゃあそうだ、この世に不可能は存在しないのだから。魔法(神秘)永久機関()タイムマシン(絶対)完璧なクローン(存在)、全て既に現実のもの(証明済み)だ」

 

サングラスをかけ、目を開き、更に右手で頬を押す。ちなみにサングラスは度入りだ。

目の千里眼デバイスが不調な以上、こうでもしないと視覚情報が整理できない。

 

悪戯に蘇生された無名の旧人類によると、この世界は悪夢らしい。

ドラゴンはペットとして大人気、発電所じゃマニ車が回って徳と電力が等価交換、マンドラゴラは暴徒鎮圧用途で室内栽培されている、この世界が。

たった百年前までは全ての隠秘科学オカルティエンス技術が実現不可能ファンタジーだったと聞いて、私はは百年遅く生まれたのだと涙を流した。

 

違う、違う、それは(偉大)の感想ではない。

 

「あれ?先生どうした、まさかまた()()?」

 

「ああ、そうかも、ここ最近多いんだ全く…」

 

こうやって、隠秘科学(オカルティエンス)の産物同士で事故が起きることもよくある、それがこの街だ、腹立たしい。

 

「アルプ、もし世界から隠秘科(オカルティエ)────「そういえば」

隠秘科学(オカルティエンス)が消え去ったら、と言おうとした途中で乱雑に話が遮られる

 

「イダイ先生にお客さんが来てたよ、と伝えるのを忘れてたよ。具体的には1時間ぐらい。」

 

「ええと、誰?」

 

「知らない人」

 

「…今どこに?」

 

「区画の入り口でまだ待ってるんじゃないかな」

 

「殺意を通り越して呆れたのは久しぶりだ、言うタイミングはあっただろう…」

 

乱雑にダンボールの扉が開かれ、違う、破壊され、奇抜なファッション(二千年代の地雷系)の少女が押し入ってくる

 

『探しましたよお母さん!助けてください!』

 

「は?」

 

最初の一言目、私は思わず心の底から嫌そうな声を溢した。

生成アルゴリズムによって成立したであろう、不規則なロシア語の音声。

主観的事実を話すとこれは発明品()の声であるのだが、ここで言う発明品()とは「都市運営AIモデル、他称『ポドソールニェチニク17』」の事である。

 

私の娘は三ヶ月前にトチ狂ってストライキを起こし、どういう訳か継続、都市運営AIの疑似人格である自らを単なる労働者扱いしてしまった事件の当事者だ。

だが、この街は何も変わらなかった!

課せられた重税、治安の悪さ、街を放置する政治家の数、全てが据え置き。

良くなる事も悪くなる事もなく…いや、悪くなるばかりだったがそれはさておき。衝撃のニュースは一週間で忘れ去られ、当事者の発明者()たる私の生活もあまり変わることはなかった。

 

「先生、この人誰?」

と無邪気に話すアルプを無言で押しのけ、立ち上がる。

 

『どうやって私がここへ来たのか、どうして見た目はほとんど人間なのか、都市の運営はどうするつもりなのか、それらを話す為にはまず私が貴女へ恋をしたあの日の━━━━』

 

「省略してくれないか省略、全部大事だけど一番大事なところだけ、要約を頼むよ。」

 

『はい!』

 

「元気があってよろしい。」

 

少女はしばし黙り込み、そして

『私の職場を取り戻すのを手伝ってくださいお母さん!』

端的に。

実に面倒(面白)なお願いを、宣言した。

 

「……はあ。私は思うんだ、私が街の元エンジニア職現ホームレスじゃなく、政府お抱えのエージェントになってやいないかと。本来、こういうのは軍と警察の仕事だろう?」

 

「軍はもっと酷い厄介事で忙しくて、警察も治安維持と軽犯罪の取り締まりが主だからね。都市運営AIの手伝いは……丁度、誰もやりたがらないんだと思うよ」

 

「悲しいな、市民生活の礎よりも優先される公共事業だらけとは。」

 

いかにも呆れたという態度を取るが、それでも足はアルプの家へと向かう。

私の人生の一割だけが面倒(面白)な時間で構成されているが、残りの九割は、こうした無理難題とは無縁の実に退屈な時間に分類される。

 

「とりあえず、細かい事情を聞くよ、それなりに暖かいアルプの部屋でね。」

 

『やったー!ありがとうございますお母さま!いえマイダーリン!マイハニー!』

 

「ははは…」

 

いつからこの子はこんなにトンチキになったのだろう、インターネット幻覚(ハルシネーション)の見過ぎじゃなかろうか?

 

「えー…一応聞くけど、攻略手段は?」

 

()()()()()()()()()()()、いつも通りの作戦で行こう、アルプ」

 

「最低だよ、イダイ先生。どうやら禁忌の味を知り始めたみたいだね」

 

バシッと手を合わせる。アルプの最近私より大きくなりそうな掌は、私より少し温かい。

 

さあ、私達の遊戯を始めよう(世界の退屈さを肯定しよう。)




登場人物
早馬偉大(ハヤウマ・イダイ)
金子アルプ(カネコ・アルプ)
ポドソールニチニェク17改めエメラルド17(エメラルド・イーナ)
続きは未定!続くな!

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