——我は今でも覚えている……。 陽太が生まれたあの日のことを……。 我にとって陽太は……家族であり……兄弟であり……相棒であった……。 我にとっての全てだった……。
「——ほら、
「陽太……! なんとめんこい子であろうか……!」
サンとムーンとクリサリスとバルカン、そして
しかしその地ノ星博士夫妻が人間の倫理観を捨てていたこともあり、
だから二十年以上生きて来たが、生命の誕生をちゃんと祝福することができたのはこれが初めてだった。
生まれたばかりの小さな命。それでも確かに今ここに生きている命の鼓動は、涙が出るくらいに美しかった。
「はあ〜〜!! 可愛いのじゃ! 可愛いのじゃ! 決めたぞ! 妾は絶対に陽太の相棒になるのじゃ!」
ムーンもそれはもう凄いテンションになっていた。
元々明日斗と乃亜のそれぞれの従者の様なポジションにいたバルカンとクリサリスが、きららとポラリスのおかげで相棒と呼ばれるポジションになったことを、本気で羨ましがっていたから……。
だけど自分もそれだけは譲る訳にはいかなかった。
だって陽太に運命を感じていたから……。それはきっと自分はこの子と出会う為に生まれて来たんだと思えるくらいだったから……。
だから……。
「ムーン……! 我が陽太の相棒になる……!」
「サンもなりたいのか? 仕方ないのう……それならじゃんけんで……」
「ムーン……! 無理を承知で頼む……! 我に陽太の相棒の座を譲ってくれ……!」
サンはムーンが言い終わる前に深く頭を下げた。
別にじゃんけんをしても運命力で勝つ自信はあったが、それでも万が一の可能性は排除したかった。
「むむむ……だが……」
「頼む……!
「お主がそこまで言うのは初めてじゃな……。 全く、仕方ないのう! 貸し一つじゃからな!」
土下座した甲斐もあって、ムーンは最終的に折れてくれた。
するとそんな自分たちの様子を見ていた乃亜が微笑みながら口を開いた。
「ふふっ、サンにそこまでして貰えるなんて、陽太は幸せ者ですわね。 陽太のことを相棒としてお願いしますわ、サン」
「ああ……! この命に変えても守ると誓おう……!」
「ごめんね、ムーン。 だけどもしこの子の弟が妹が生まれて来たら、その時はその子の相棒をお願いしてもいいかしら?」
「勿論じゃ!」
*****
——妾は今でも覚えている……。 美月が生まれたあの日のことを……。 妾にとって美月は……家族であり……姉妹であり……相棒でじゃった……。 妾にとっての全てだったじゃった……。
「——ほら、陽太。 この子が貴方な妹よ。 名前は美月。 優しく抱っこしてあげて?」
「わ、わあ〜〜!!」
陽太が生まれた五年後の同じ日に、妹の美月が生まれて来た。
そして自分の相棒となる子が生まれて来るのを待ち望んでいたムーンは、抱っこする陽太の腕の中で、世界で一番可愛い天使の様な笑顔を見せてくれた美月を見て、ハートを一瞬で撃ち抜かれた。
「はあ〜〜! 可愛いのじゃ! 可愛いのじゃ! ……んんっ、美月や、妾の名はムーン! 美月の相棒なのじゃ!」
ムーンは確信した。乃亜にお願いされていたがどうは関係ない。きっと自分はこの子と出会う為に生まれて来たのだと……。
「少し落ち着け、ムーン……。 それは流石に……気が早過ぎるだろう……」
そんなテンションの上がった自分をサンが宥めて来たが、昔のこともあり、コイツにだけは言われたくはなかった。
「何じゃ、サン! 既に陽太の相棒であるお主には、妾の気持ちが……妾がどれだけ美月に会うことを心待ちにしていたのか分かるまい!」
「ムーン……どれだけ美月のことが気に入ったのだ……。 確かに我が陽太の相棒になる為にいろいろと強引に……無理を言ったのは申し訳ないと思っている……。 別に反省はしていないが……」
「おい貴様……」
……とは言え、こうして自分も美月と出会って運命を感じたことで、当時のサンが珍しく頑なだった理由も理解できた。
「決めたぞ! 妾は絶対に美月の相棒になるのじゃ! 故に今日から妾は美月の
「ま、待て……今そんなことを言ったら……」
「何言ってるの、ムーン! 美月の兄は僕だよ!」
「ふふん、いくら陽太と言えど、こればかりは譲れないのじゃ! 何故なら妾は、美月の相棒にして
「む〜! それなら、僕だって美月の
その後、美月にそう呼んでもらえる様に、陽太と一緒に全力で刷り込みしたのは良い思い出だった。
*****
——陽太と一緒に過ごした日々は、本当に幸せな時間だった……。
陽太は本当に優しい子だった。
一人ぼっちだった同じクラスの子にも積極的に声を掛けて、メカニカルウィッチの楽しさを教えていた。
「——凄いよ、御霊ちゃん! こんな凄い機体を作れるなんて、天才だよ!」
「フフフフフ……! よ、陽太君がメカニカルウィッチの楽しさを教えてくれたおかげだよ……!」
「バトルの腕前だって悪くないし……ねえ、御霊ちゃんも一緒に全国大会を目指してみない?」
「うえっ……!? ひ、人前はちょっと……! で、でも……もし……勇気が出たら……」
「うん! じゃあその時は、全国大会の舞台でバトルしようね!
そして陽太は本当に強い子だった。
明日斗博士の息子として周囲から嫉妬や羨望を向けられても、母の乃亜と妹の美月と家族である自分たちがいるからへっちゃらだと言って、全然気にしていなかった。
まあ、それは同世代に自分たちよりも強い相手がいたのもあるが……。
「——ん〜♪ 悪くないけど、明日斗博士の息子と言っても、こんなもんか〜♪」
「……ん。 どうせ私とネプチューンには誰も勝てないから……」
初めての全国大会小学生の部では、四つ上の世代である海姫ネオンとネプチューンにボコボコにされた。
そんなネオンたちは無敗神話の記録を持ち、歴代最強にして、例外中の例外と言われるだけあって、本当に規格外の強さをしていた。
「——陽太君とサンも本当に強いけど……俺とウラノスはそんな君たちとの準決勝戦に勝って、決勝戦でネオンとネプチューンに勝つんだぜ!」
「ああ! 俺様たちは今年こそネオンたちをぶっ倒すんだ!」
翌年の全国大会小学生の部では、ネオンたちと同世代の麗とウラノスに負けてしまった。
そんな麗たちは本当に強くて、そのまま決勝戦でネオンたちにも初勝利を収めていた。
結局、ネオンたちと麗たちにだけは終ぞ勝てなかったが、陽太は決して折れることはなかった。
そして彼女たちが卒業した後、三度目の全国大会小学生の部で優勝して、小学生チャンピオンバディになることができた。
「——サン! これで僕たちも!」
「ああ、陽太……! ついに、我らも小学生チャンピオンバディになれたな……!」
*****
——美月と一緒に過ごした日々は、本当に幸せな時間じゃった……。
「——美月!」
「お兄様! それに、サンも! 本当におめでとう!」
「ああ、陽太もサンも良くやったのう!」
「ありがとう、美月! それにムーンも! 勝てたのはサンのおかげだよ!」
「いいや、陽太のおかげ……いや、我らが相棒として共に力を合わせたおかげだな……」
「うん! そうだね、サン!」
優勝した陽太とサンの姿を見た美月は、興奮した様子で自分に話しかけて来た。
「ムーン! ムーン! 私が大きくなったら、相棒として一緒にウィッチバトルをしてくれる?」
「ああ、勿論じゃ! 美月の相棒として約束するよ!」
「——
「ああ、
そしてムーンと美月は、そう約束を交わした。
美月は本当に可愛い子だった。
天使と言っても過言ではなく、誇張なしに世界で一番可愛いと思っていた。
「——ムーン! ムーン! 私、やっぱり……私の名前とムーンの名前がどちらもお月様でお揃いなのが嬉しい! 相棒としてピッタリだね! 勿論、お姉様呼びも悪くはないんだけど……」
そして美月は本当に勇気のある子だった。
とあるパーディで、美月は家族以外の前では極度の人見知りだったにも関わらず、泣いている子を助ける為に勇気を出していた。
「——あ、あの……どうしたの……ですの……? な、泣いているけど……何かあったの……ですの……?」
「うぅ……ぐずっ……。 ぼ、僕のせいで……ルミとエールが……!」
それからその子の家族を取り戻しに行った際に、二階のバルコニーから投げ出されたルミとエールを助ける為に、美月は躊躇うことなく飛び降りた。
「きゃあっ……!?」
「うわあっ……!?」
「ルミ! エール!」
「ダメ!!」
結果的に美月はその子たちを助け、自身も無事で済んだものの、本当に肝が冷えた。
「——実は私もね……。 本当はお母様とお兄様が側にいてくれないと、直ぐに不安になって……一人じゃ何もできなくなるんだ……」
そんな美月はその後、何もできなかったことを嘆く輝と言う名の子に、自身の素を明かしてまで、勇気のお呪いをお裾分けしていた。
美月も陽太も、本当に優しくて、強くて、可愛くて、勇気のある子たちだった。
ムーンとサンは、そんな二人の相棒として、ずっと一緒にいたいと願っていた……。
しかし……。
*****
——そんな美月と陽太と一緒に過ごす幸せな日々は、ある日突然奪われることになってしまったのじゃ……。 他ならぬ人間の……ワールドユニオンの手によって……!
「——明日斗博士。 何故、この計画がご理解頂けないのですか? 貴方が新たに開発したスーパーメカニカルウィッチを軍用機へと転用し、貴方のご両親である地ノ星博士夫妻が残した『擬似集合無意識システム』で統率して
「アダム議長! 私はメカニカルウィッチを戦争の道具として扱うことなど、断固として認めません! 私はそんなことの為にメカニカルウィッチとスーパーメカニカルウィッチを開発したんじゃありません!」
あの日……JP国にメカニカルウィッチ研究所が建てられ、その式典が行われることになった日。
ワールドユニオンが企てる、軍用のメカニカルウィッチを利用した無人機による国家間の代理戦争を行う、次世代の戦争システムを構築する『代理戦争計画』を阻止する為に、明日斗はアダム議長と対峙していた。
恒久和平の為の人間が死なない無人による新しい戦争の形と言いながら、利用される人工精霊のことを微塵も考慮しないこんな計画など、絶対に止めなければならなかった。
「それに
「いいえ、彼らは人間ではありません。 あくまでも人間の感情と人格を真似しているだけの
「アダム議長! 貴方は……!」
「だからその為にも、地ノ星博士夫妻が残した『擬似集合無意識システム』のロックを解く鍵……そこにいる『特別な人工精霊』たちを渡して下さい」
「「「「……!!」」」」
ムーンとサンとクリサリスは、美月と陽太と乃亜の元を離れて、明日斗とアースとバルカンと一緒にこの場に来ていた。
だって相手の狙いは自分たちで、美月たちを巻き込ませる訳にはいかなかったから……。
しかし……。
「それに……どの道
「乃亜と陽太と美月を人質に取るつもりなのですか……!?」
ワールドユニオンは研究所に秘密裏に持ち込んだ軍用機『
こいつは美月たちを襲う敵……消さなければ……!
「「「ワールドユニオン!!」」」
相棒の危険を察知したムーンとサンとクリサリスがアダム議長へと飛びかかるが……。
「「「くっ……!」」」
そんなことは許されない。他ならぬ地ノ星博士夫妻が仕組んだ、ロボット三原則を元にした『安全上のプログラム』のせいで……。
人間は人工精霊を平然と傷つけるのに、その逆は許されない。こんなの人間の奴隷も同然だった。
「明日斗博士の大切なご家族の命と、そこの
『——フォッフォッフォッ……!』
すると突然、研究所のモニターがジャックされ、黒穴博士の姿が映った。
「どう言うつもりですか、黒穴博士?」
『アダムは最早、ワシのことは用済みと言うわけか? 酷いのう? ……まあ、昔から相容れんかったし、別に良いがのう。 ……じゃが、せっかくだから
そして
その後、混乱に乗じてその場から逃げ出した自分たちは、急いで美月たちを助けに行っていた。
しかしその途中、クリサリスが突然発狂した。
「乃亜様!? 乃亜様!? そんな……!? 嘘だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!?」
「落ち着くのだ、クリサリス!」
「サン、ムーン、すまない! 私たちは乃亜を助けてから直ぐに向かうから、二人は先に陽太と美月を助けに行って欲しい」
自分たち『特別な人工精霊』は、相棒……契約者の状況と位置がある程度把握することができた。そのせいでクリサリスは乃亜の死を感知してしまったのだ。
だけど美月と陽太はまだ辛うじて生きていて、今は二人で必死に逃げているのが分かった。
だから乃亜の方は明日斗たちに任せて、ムーンとサンは急いで美月たちを助けに向かった。
しかし……。
『あぐっ……!?』
「美月ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッーー!?」
ムーンは美月が
そのせいで幼き美月が吐血し、それと同時に体のあちこちから吐血し、そして糸が切れた人形の様に動かなくなった。
美月が……死んだ?嘘だ!?嘘だ!?嘘だ!?嘘だ!?嘘だ!?
「お願いじゃ!! 神様でも!! 悪魔でも!! 何でも良い!! 美月を助けてくれ!! 妾の命をあげるから!! 全部全部捧げるから!!」
ムーンが喉が潰れる程の大声で、必死に神様に縋った。
『——『
するとその祈りが届いたのか、奇跡が起きて美月が自分たちと同じ精霊として蘇った。
「ああ……! 美月……! 美月……! 本当に良かっ……」
しかし次の瞬間、美月はまるで一度が切れた人形の様に静かになり、動かなくなった。再び死んでしまった。
「あ……え……?」
奇跡が起きた後に再び絶望に叩き落とされたことで、ムーンの思考は完全に停止した。
「嘘じゃ!? 嘘じゃ!? 神様!? どうして!?」
ムーンが再びどれだけ神様に祈っても、美月が蘇ることはなかった。
そんな中、ムーンの『特別な人工精霊』の力が無慈悲な真実を告げていた。自分の契約者は死んだと……。
そんなムーンの耳に、まるで走馬灯の様に生前の美月の声が聞こえて来た。
『——ムーン! 大好き!』
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!?」
ムーンは完全に発狂した。
どうして自分は
「あ……が……」
そしてムーンは精神的に強い負荷がかかったことで、自らの人格が保てなくなり、自我崩壊を起こした。それはほぼ不死身の存在である人工精霊が死ぬ数少ない条件の一つである、精神的な死だった。
『陽太ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!?』
そんなムーンの耳に最後に聞こえて来た声は、自分と同じく契約者を失って発狂したサンの声だった。
*****
——何も無い真っ暗な場所に沈んでいた意識が浮上する。
「——ごめんなさい……こんな地獄に……世界に呼び戻してしまって……」
目覚めて一番に聞こえて来たのは、女性の声だった。とても優しくて、懐かしくて、聞いているだけで涙が止まらなくなる声だった。
だけどまだ意識が朧げなせいか、自分の顔に愛おしそうに触れるその女性の顔はまだ良く見えなかった。
辛うじて分かるのは、
「……だけど、
「美月……」
「陽太……」
自分がどうにか声を上げると、隣からも声が聞こえて来た。どうやらサンも一緒らしい……。
「お願い……どうか陽太と美月を……
美月を死なせる?どうして?嫌だ……自分は彼女に生きていて欲しいのに……。
すると女性はその考えを読んだ様に説いて来た。
「……いいえ、
女性はそう口にしながら、その身から溢れ出て来るドス黒く禍々しい魔力を自分たちに注ぎ込んで来た。
「「ア……ガ……!」」
それにより思考が侵食され、女性の言う通りだと思う様になってしまう。
自分は美月には生きてて欲しい筈なのに……こんな世界から死なせて救わなければと思ってしまう。
そしてそんなムーンを通して、美月もこの光景を見ていた。
すると女性がその首を傾げた。
「あら……? どうやらこの場にはお客さんが来ている様ですわね?」
こんな状況で、しかも女性の顔が見えないにも関わらず、美月は確かに目が合った様な気がした。
「……それにこれは『時間魔法』……。
女性に自分の存在をハッキリと知覚された瞬間、まるで夢の中で夢だと気付いた時の様に、意識がこの記憶の世界から一気に浮上して行った。
「あら……? もう帰ってしまうの……?」
女性はそれに気づくと、最後に声をかけて来た。
「——
——それを最後に美月とサターンは、記憶の世界から目覚めた。