第101話「終わった物語の続き」
——全国大会高校生の部の決勝戦の後に起きた事件から二ヶ月が経った十月の第二月曜日。
JP国から遠く離れた場所にある、ワールドユニオンの本部がある宇宙エレベーター内にある議長室で、アダム議長は自分の秘書の
全国大会の事件の件は、アダム議長とてその全容を把握できている訳ではない。
ビッグバンと名乗った明日斗博士が、自身のスタースピリットの機密保持の為か、映像を含めた一切の記録媒体に残せない様にしていたせいで、現場にいたワールドユニオン軍の証言と言う形でしか情報が得られなかったのだ。
そのせいで、超巨大なゲートやその向こうにある謎の世界と空に浮かぶ巨大な要塞、明日斗博士の『精霊計画』、もう一人の明日斗博士の乗っていた巨大な船、最後に現れたスーパーノヴァと呼ばれた謎の女性など、重要な情報の概要が全然掴めなかったのだ。
特にオリジナルと思わきし『集合無意識システム』や、『方舟』の様な巨大な船など、個人的には捨ておけない情報が多いと言うのに……!
……とは言え、全てがこちらに不都合な訳ではなかった。
明日斗博士が某露した、ワールドユニオンが人工精霊のの感情を消去して兵器として運用し、さらにそれを利用した『代理戦争計画』を企てている、と言う情報の拡散をどうにか抑え込むことができたのだ。
明日斗博士が某露した時の記録は一切残っていないし、ネット上に上げられた情報の方は今も尚、見つけ次第消去させることで、火消しをしていた。
だから二ヶ月経った今でも、それを知ったメカニカルウィッチ好きの人々からの非難がうるさいものの、一応は対処できる範疇に収まっていた。
また、ユニオンエデンの存在が露呈し、全国大会の事件の犯人を
しかし先の事件で、制御を奪われると言う致命的な虚弱性が露見した為、今現在、改良を行わせていた。
それから、それと同時にユニオンエデンを使用する『機械仕掛けの神計画』の方も修正を加えていた。
そして、捕縛に失敗した
それでも
閑話休題。そんな訳でこの二ヶ月間は、全国大会の事件の後始末と、『機械仕掛けの神計画』の修正で本当に大変だった。
だけど痛手を受けたのはスタースピリットの方も同じらしく、向こうもこの二ヶ月間は小規模な行動しかしていなかった。
それも全て自分の懐刀であるガーディアンズが対処してくれたので問題ない。
「アダム議長。 任務から帰還したセブン
噂をすればだ……。
「通して下さい」
「了解しました」
そしてアダム議長が入室の許可を出すと、いの一番に赤い髪と瞳をした女性のフォー走りながら入って来た。
そして椅子に座っているアダム議長の背後に回ると、ねだる様に抱きついて来た。
「パパ、ただいま〜。 アタシ、今回の任務でも凄い活躍したんだ〜。 だからまたご褒美が欲しいな〜」
「フォー、いつもご苦労様です。 また欲しい物でもプレゼントしましょう」
「やった〜」
すると青い髪と瞳をした、メガネをかけた女性のスリーが怒った声を上げた。
「フォー! 貴方また、お
「ふふ〜ん、
そんな二人が喧嘩をする中、緑の髪と瞳をしたトゥーがトコトコと歩きながら寄って来た。
「……お
「はい。 偉いですよ、トゥー」
「……うん」
そしてトゥーの頭を撫でていると、紫の髪と瞳をしたシックスが咳払いをした。
「んんっ、貴方たち、お
流石、ガーディアンの副隊長と言うだけあって、その一言で騒がしかった場をまとめていた。
そして隊長のセブンがその流れを引き継いで、口を開いた。
「それで
「はい、紹介しますね。 二人共、入って自己紹介を……」
「「はい!」」
アダム議長が声をかけると、近くで待機していた、オレンジの髪と瞳をした二人の男女が部屋に入って来た。
「初めまして! 自分はゼロ・ガーディアンであまりす! 階級は少尉であります! これからガーディアンズの一員としてお世話になります!」
「初めまして! 私はナイン・ガーディアンと言います! 階級は兄……んんっ、ゼロと同じ少尉です! これからよろしくお願いします!」
ゼロとナインが敬礼しながら自己紹介をすると、藍色の髪と瞳をした
「……こうして
「はい! 実の兄妹であります!」
「アダム議長には、兄共々大変お世話になりました!」
「やっぱり……僕も容姿が似ていると思っていたんですよね。 それにしても、流石は
そんな二人の返答に、黄色の髪と瞳をした褐色肌のファイブが納得と言った様子で頷いていた。
そしてそんなちょっとした疑問を解決した後、アダム議長は改めてゼロとナインのことを説明した。
「二人はまだ成人したばかりですが……ゼロの方はセブンに匹敵するくらいの戦闘の才能を、ナインの方は英斗に負けないくらいのサポート能力を持っています。 ゼロには最新鋭機の『ユニオンメラク』を与え、貴方たちの部隊に加えます。 ナインの方は戦闘はできませんが、サポーターとして優秀なのでしっかり活用してください」
「「よろしくお願いします!」」
ゼロとナインが改めて敬礼し、そんな二人をガーディアンズの面々が見定める中、セブンが一歩前に進んで手を差し伸べた。
「——改めて、俺がガーディアンズの隊長のセブン・ガーディアンだ。 ゼロ。 ナイン。 ようこそ、『ガーディアンズ』へ」
*****
——同時刻。JP国にあるメカニカルウィッチ学園ミライトウキョウ校の側の海の中にて。
全国大会の事件の後、良い方の明日斗博士もとい、アースが乗って来た『宇宙の方舟』と呼ばれる巨大な宇宙船は、こうして学園の側の海の底に隠されることになった。
方舟はこの二ヶ月間ずっとここに置かれていたが、認識阻害魔法の効果により、外部からは探知はおろか、認識することもできず、アースによってその存在を知らされた一部の者しか出入りできない様になっていた。
そんな場所に出入りできる者は、ここにずっと留まっている面々を除けば、JP国のトップの
そんな訳で、焔たちチームオールスターズの面々と御影たちは、学園の地下を経由する形でこの方舟に訪れていた。
ちなみに、咲良たち生徒会のメンバーは、生徒会の仕事は自分たちが片付けて置くから、輝たちは美月のお見舞いに行く様にと背中を押していた。
輝は焔と同じく美月に想いを寄せていた為、自分同様今だに立ち直れていない様だった。それは冬馬や小春にも同じだが……。
そして、そんな焔たちが方舟に入ると、アースがで迎えに来てくれた。
「——皆、こんにちは。 美月とサターンのお見舞いに毎日来てくれてありがとう」
「いえ、私ちゃんたちは、明日斗博士のお手伝いをしているお姉ちゃんとプルート君とは違って、これくらいしかできませんから……」
「うんうん。 それに私、たちは御霊ちゃんたちの健康管理も兼ねているからね〜」
暗い表情のままの焔たちに変わって、御影たちがそう返答していた。
そんな中、アースと一緒にいたムーンとサンが話しかけて来た。
「いつも美月に会いに来てくれて感謝するのじゃ」
「ああ。
「「——そして、重ね重ね以前は本当にすまなかった」」
そう頭を深く下げたムーンたちに、焔と輝は慌てて声をかけた。
「も、もう、気にしないで……! ここに来る度に何度も謝って貰っているんだから!」
「それに、君たちは以前学園で暴走した
「「それは……」」
ムーンたちは全国大会の事件の後、一時期の間眠りについていた。
しかしアースの尽力により目覚めた後は、以前の様な凶暴さが完全に消え、こうしてすっかり正気に戻っていた。
……とは言え、以前の記憶はある為、そのことに罪悪感を覚えているらしかった。
するとそんな空気を変える様に、明日斗博士が口を開いた。
「さあ、ここで立ち話は何だし、美月とサターンに会いに行ってくれ」
*****
美月とサターンが眠っている部屋に行くと、彼女の家族のリンと爺やが出迎えてくれた。
「——
「はい……。 きっとお嬢様も……お喜びになる筈です……」
爺やの側にいるリンは見るからにやつれてしまっていた。
ムーンとサンもそうだが、自身の相棒がこんな状態になってしまえば無理もないだろう。
そしてそんな皆の心に深い傷を落とした美月とサターンは、ベットの上で静かに眠っていた。それも全国大会の事件の後からずっとだ……。
眠っていると言っても、
先の事件で聞いた話によると、美月は半分精霊の状態である為、人間の体が機能を停止しても、意識の方はギリギリのところで残っている様だった。そしてそれは本来の精霊であるサターン、それからクロノスサターンの魔石の中にいる陽太も似た様な状態らしかった。
その繋がりを戻せれば、再び目覚める目処があるのだが、それをするにはあの世に行こうとしている魂を呼び戻す必要があり、その方法を探すのにずっと悪戦苦闘していた。この繋がりは脆くて、いつこのまま消えてもおかしくないのに……。
そんな美月の側では、ネオンが泣き腫らした顔で眠っていて、そんな彼女を同じ二大チャンピオンバディの麗とウラノスと、相棒のネプチューンが何かと世話を焼いていた。
「美……月……」
「皆、すまない。 ネオンは今泣き疲れて眠ったところだから、少しだけ静かにしてくれ……」
「ネオンちゃんの為にもよろしくね……」
「そう言うネプチューンも酷い顔だぞ。 お前も休めよ」
ネオンはあれ以来、ずっと美月の側から離れようとはしなかった。
何でもネオンは美月に同じ本物の魔女として、強い同族意識を抱いていたらしく、その反動でこうなったらしい。
だからプロリーグの試合も全部すっぽかしており、表舞台では失踪したとさえ言われてしまっていた。それでも運営はネオンたちのほぼ無敗の戦績から、そのまま引退させたくはないらしく、今は体調不良による一時休業だと発表していた。
……とは言え、焔たちも人のことは言えなかった。
美月たちがほぼ死んでいるに等しい状態になったことで、学業はおろかバトルの方にも多大な影響が出てしまっていた。
全国大会高校生の部で活躍したチームオールスターズの面々は揃って学園リーグランキングのトップ十どころかランク外にまで落ちてしまった。それは焔たちだけでは無く、ずっと一位の座にいた輝たちも同じだった。
その為、今のトップ十は、自身らまでこのまま崩れる訳には行かないと踏ん張っている残りの生徒会メンバーの面々と御影たちが守っていた。
特に御影たちはこんな空気を変えるべく、いつに無く本気を出して、咲良たちと一位の座を競い合っていた。
自分たちも頑張らなければと頭では分かってはいるのだが……。
閑話休題。するとそんな御影が周りに気を遣いながら、静かに口を開いた。
「……じゃあ私ちゃんたちは、お姉ちゃんたちにお弁当を届け来ま……」
——その時だった。
「——皆、聞いてくれ!! やっと完成したんだ!!」
御霊が大声を上げながら部屋に飛び込んで来た。
そしてそのことを誰かが注意する前に、御霊が興奮した声で叫んだ。
「——明日斗博士と一緒に作っていた『簡易版集合無意識システム』が完成したんだ!! これであの世に……集合無意識の世界に行って、陽太たちと美月さんを助けることができ……!」
しかし御霊はその途中で気絶する様に倒れた。
そんな彼女の目は、何日寝ていないのかと思うくらいに、酷い隈だらけになっていた。
*****
「——いや〜、みーの手作りのお弁当はやっぱり美味しい! きっと将来は良いお嫁さんになれる筈……いや、いっそなこと私が貰いたいくらいだ!」
その後、一同が話し合いの為に別の部屋へと移動すると、疲れが溜まっていた御霊は、御影が持って来たお弁当をバクバクと食べることで回復していた。
おにぎりに、焼きジャケに、ミートボールに、卵焼きにに、おひたしに、味噌汁のスープと言った、健康面にも気を使ったバランスの良いお弁当だ。
「御霊……深夜天書のせいで、変なこと口走っていますよ……」
「アハハ……ありがとうございます、お姉ちゃん。 ……だけどこの様子だと、また昨日も寝ませんでしたね。 あれだけ休んでと言ったのに……」
「前にちゃんと寝ていたのは確か三日前だったから……三徹かな〜」
そんな御霊をプルートと御影とカロンの三人は、溜め息混じりに心配していた。
そして御霊がお弁当を食べ終わるのをまってから、アースが口を開いた。
「御霊さん、本当にありがとう。 本物の明日斗博士にも負け劣らない程の天才である君が、寝る間も惜しんで強力なしてくれたおかげで、どうにかこの『簡易版集合無意識システム』を完成させることができた。 私一人ではきっと無理だった」
アースは御霊へと頭を下げた後、皆の方を見回した。
「……この『簡易版集合無意識システム』を使えば、集合無意識の世界……すなわちあの世とも言える場所へとアクセスして、そこを彷徨っている美月とサターン、そして陽太の魂を連れ戻すことができるかもしれない……」
「「「ーーッ!?」」」
アースのその説明に一同は思わず息を呑んだ。
一応仮死状態の美月たちを助ける方法があるかもしれないとは言われていたが、その方法がこれか……!
するとそれを聞いたネオンが、いの一番に声を上げた。
「……ん。 じゃあ、今すぐ行こ……」
「俺もネオンさんに賛成です! やっと美月たちを助ける方法が見つかったんだから……! それにもう時間もどれだけ残っているか……!」
「焔君の言う通りです。 美月さんたちは今はまだ仮死状態とは言え、いつ死んでもおかしくはないのですから……」
それに焔と輝も乗ると、皆も同意する様に声を上げた。
しかし明日斗博士は一度首を振った。
「待ってくれ、まだ最終調整と安全確認が済んでいないんだ。 行き先である集合無意識の世界はある意味で死後の世界に等しい。 いくら美月たちを助ける為とは言え、君たちに万が一のことがあったら……」
「明日斗博士! そんな悠長なことを言っている場合ではありません! 最終調整なら私が向こうに生きながらやりまふので!」
「しかし御霊さん……! 君も同じ研究者なら安全性の重要性は何よりも理解出来る筈だ……!」
「
御霊はネオンに負けないくらいにアースに食いついていた。
それから、そんな御霊とネオンが筆頭となって、焔たちも一緒に、アースを必死に説得したことで、明日万全の準備を整えてからと言うことで話がまとまった。
アース曰く、『簡易版集合無意識システム』は、急造品と言う性質上、もし一度失敗したらやり直しが効かないので、それだけは絶対に譲れないらしかった。
そして、皆明日に備えて準備を行うことになった。
これから最終調整に取り掛かるアースや、明日の準備があるネオンたち大人組が席を外す中、焔たちは帰る前に、もう一度美月たちの元へと向かうことにした。
すると御霊たちも本番はこれからだが、取り敢えずはひと段落したと一緒に着いて来た。
そんな中、焔は御霊にあることを尋ねた。
「あの……
「ん? みーの苗字も冥道だから、区別の為にも御霊と呼んでくれたまえ」
「はい、御霊先輩」
「それで何だね?」
「あの……もしかして御霊先輩って、美月のお兄さん……陽太さんと知り合いだったんですか……」
御霊の先程のアースへの食い付き様や、こうして寝る間を惜しんでまでその手伝いをしていたことから、焔はそう気になっていた。
すると御霊は少し悲しそうな顔をしながらゆっくりと口を開いた。
「……やはり気づいてしまうよね……。 そうだね、私は確かに、陽太と知り合いだったんだ……」
やっぱり予想は合っていたらしい……。
「……今までみーにすら、詳しく話したことはなかったけど……この機会だ。 明日の決意表明も兼ねて、皆には話しておいても良いのかもしれないね……」
御霊はそう口にすると、サターンが眠っているベットの側へと腰掛けた。
そして改めてこの場にいる、焔とマーズ、冬馬とマーキュリー、小春とジュピター、輝とヴィーナス、御影とカロンとプルート、そしてサンとムーンとリンと爺やの顔を見渡しながら、その口をゆっくりと開いた。
「——皆もよければ聞いて欲しい。 私のこれまでの人生のことを……。 そして引っ込み思案で人の輪に入るのが苦手だった私の手を引いてくれた