——翌日。
今日は平日であるものの、事情により特別に休みを貰った焔たちは、こうして『宇宙の方舟』に集まっていた。
そんな中、アースと白金代表と魔導学園長の大人組が話し合っていた。
「——では、白金代表。 魔導学園長。 私が不在の間、この『宇宙の方舟』のことをよろしくお願いします」
「分かりました、明日斗……ではなかったな、アース博士。 後のことはお任せ下さい」
「ああ。 学園の方も合わせて、こちらのことは任せてくれ」
大人たちがもしもの時のこと含めて話し合っているのを、焔たちが待っている中、美月の家族のリンとグリ、それから白金代表の付き添いで来た孫のレイと娘の光と家族のルミとエールが声をかけて来た。
「——
「はい。 どうか無力な私たちの代わりに……!」
「輝お兄ちゃん! ヴィーナスちゃん! それに皆も! 美月お姉ちゃんたちを助けて!」
「でも、皆の方もどうか気をつけてね」
「「故武運を」」
今回の作戦は、簡易版の『擬似集合無意識システム』?なるものを使って、生者と死者、それから人間を含めた全ての
しかし、簡易版の名の通り、二ヶ月程で突貫で作った急増品である為、集合無意識の世界に行けるのはこの一回きりで、送り込めるのも十組……正確に言えば、十機が限界だった。
美月たちがいつこのまま死んでもおかしくない以上、最初で最後のチャンス……かと言ってただ強い十組を送り込めばいいと言う話ではない。全ての生命の意識が集う世界で美月たちを見つける為にも、縁が深い者たちを送り込む必要があった。
だから今回は、サポートメカとなったムーンとサンを搭載した飛行艇を操るアースを筆頭に、美月たちと同じチームオールスターズのメンバーである焔とマーズ、冬馬とマーキュリー、小春とジュピター、輝とヴィーナス、それから縁と戦力の両方を試みて、チャンピオンバディのネオンとネプチューン、麗とウラノス、きららとポラリス、さらに陽太と縁のある御霊とプルート、そして最後の一組には御影とカロンが加わることになった。
最後の一組の枠は、他の生徒会メンバーのこともあり難航したものの、御影自身の強い希望により最終的には決まった。まあ、姉の御霊は心配のあまり難色を示していたが……。
そんな訳で、定員の都合上、居残り組になった生徒会メンバーの咲良とキャンサー、王牙とレオ、秀次とスコーピオ、歌とピスケスが、美月を助けに行く焔たちに激励の言葉をかけて来た。
「皆! 美月を必ず連れて帰って来るのよ! それから、サターン……ううん、
「うぬぬ……拙者たちも同行できれば良かったのでござるが……!」
「今更、サターン……いや、
「吾輩たちの想いを託すのであーる!」
「俺たちは今回応援しかできないっすけど……それでも全力で応援してるっす!」
「頑張ってくれ……」
「はい! みーちゃんたちも御霊お姉さんちたも、それからネオンさんたちも皆も、どうかお気をつけて!」
「皆で無事に帰って来るのよ」
全国大会の事件の後、こうして度々事件に巻き込まれた為、今まで身の安全を考慮して詳しい情報が伏せられていた生徒会メンバーの面々にも、美月の事情とサターンの正体が他言無用で明かされることになった。
どうやら咲良たちと王牙たちは陽太と知り合い?だったらしく、かなり動揺していたのを覚えている。
だから、今回の最後の一組の枠にも、咲良たちと王牙たちは手を上げていたが、それでも御影の強い意思を見て最終的には折れていた。
「皆、時間だ。 それぞれ所定の位置に着いてくれ」
そして、皆からの激励を貰った焔たちは、予定の時刻となった為、簡易版の『擬似集合無意識システム』に接続されたベッドにそれぞれ向かい、その側にある装置に、自分の機体をセットした。
集合無意識の世界に生身で行くと、そのまま引っ張られて戻ってこれない危険性がある為、身を守る鎧として、向こうで再構築された機対に乗ることになっていた。
ここ最近は美月たちの件もあり、バトルの調子は最悪だった。
だけど、今回は彼女の命がかかっているので、昨日の内に同じく不調だったチームオールスターズのメンバー同士で集まって、無理矢理元に戻しておいた。
それから機体の方も、全国大会の事件の後に、アースからそのまま譲り受けたサポートメカの使用を前提とする様に、改造を加えておいた。
先の事件の際の突貫機が『ブラッドマーズ(トゥインクルユニット装備)』とするなら、今回使う方こそが、正式仕様の『トゥインクルマーズ』と言えるだろう。
それは他の『サーガマーキュリー』、『ドリームジュピター』、『ロイヤルヴィーナス』も同じだった。
「これで良し……! マーズ! 絶対に美月とサターンを助けよう!」
「ええ、焔君! 頑張りましょう!」
そして、焔はベッドに横になった。
すると、簡易版の『擬似集合無意識システム』の効果か、直ぐに意識が薄れて来た。
これから焔たちが向かう集合無意識の世界は、ある意味死後の世界に等しい場所だ。
アースはその危険性を何度も説明し、最大限安全は考慮するが、不測の事態が起きればそのまま戻ってこれない可能性も……死ぬかのせいもあると、念押ししていた。
焔とて死ぬのが怖くない訳ではない。それでも、美月とサターンをこのまま失う方がもっと怖かった。そして、それは他の皆も同じだった。
(——美月! それから、サターンも! 待っててね! 今、俺たちが助けに行くから!)
——そして、焔が改めてそう決意する中、彼の意識は集合無意識の世界へと旅立っていった。
*****
「……君!」
「うぅ……」
「——焔君!」
「……! マーズ……?」
自分の名を呼ぶマーズの声を聞いた焔は、その意識を覚醒させた。
するといつの間にか、トゥインクルマーズのコックピットの中にいた。……と言うことは……!
焔は思わず辺りを見回した。
「真っ白な世界……ここが……」
「ええ、生者と死者、それから人間を含めたあらゆる
集合無意識の世界。それはどこまでも続く無限の広さを持ち、目に映る全てが真っ白な世界だった。
いや、全てが真っ白だと言うのには語弊があった。その真っ白の中に、無数の蠢く何かがあった。
それはパッと見、どれ一つとて同じモノは無く、その大きさもバラバラだった。
「もしかしてあれが……」
「ええ、この集合無意識の世界にある
「うん……! この中のどれかに美月とサターンの意識がある筈……!」
美月たちを助けられるかもしれないと言う実感が改めて湧く中、アースの声が聞こえて来た。
『皆! 無事にこの集合無意識の世界に来れているかい? 何か異常はないかい?』
「あ、はい!」
「私と焔君は無事よ!」
『僕とマーキュリーも無事です』
『あたしとジュピターも!』
『僕とヴィーナスもです』
『私とプルートも大丈夫だ!』
『私ちゃんとカロンちゃんもです!』
『私とポラリスも大丈夫よ』
『俺とウラノスもです!』
『……』
『あ、ネオンちゃんとあたしも大丈夫だから!』
点呼を取ったところ、どうやら予定通り、皆無事にこよ集合無意識の世界に辿り着けた様だった。
後は美月とサターンの意識を見つけて連れて帰るだけだが……。
『この集合無意識の世界は無限に等しい空間だが、簡易版の『擬似集合無意識システム』で、私たちの美月とサターン、そして陽太との縁をアンカーにして入り込んだから、そう遠くない場所に美月たちの意識はいる筈だ! だから、皆はその縁を……直感を頼りに探してくれ!』
『『「「はい!」」』』
『それから、海姫さんたちは『空間魔法』の力で探知を頼む!』
『言われなくても……』
『はいはーい』
——そして、一同が捜索を開始しようとした……その時だった。
真っ白な空間が歪むと、そこからドス黒く禍々しい魔力が溢れ出して来た。
『『「「ーーッ!?」」』』
その黒い魔力に焔たちはどこか見覚えがあった。まさか……美月たちを殺したのスーパーノヴァと呼ばれた女性……!?いや、どこか違う……。これは……?
『この魔力はもしかして……!』
そして、アースが驚きの声を上げる中、歪んだ空間から、十歳くらいの男の子が現れた。
美月と同じ紫掛かった黒い髪に、宝石の様な
年は全然違うけど、
そんな中、ムーンとサン、そして御霊が震える声で口を開いた。
『『『——
——その男の子の正体は、サターン……ではない、彼の元となった、十年前に亡くなった黒土陽太だった。
「サン。 ムーン。 お父様。 それから御霊ちゃんとプルートも……。 こうしてちゃんと会うのは久しぶりだね……」
『陽太……! 我は……! 我は……!』
そんな陽太の元へとサンが駆け寄って行った。
今はサポートメカの『サンユニット』の姿で、人型では無い、巨大な武器の様な姿をしているが、それでも、泣いているのが分かった。
「サン……」
『陽……太……!』
そして、御霊とプルートのゴーストプルートも駆け寄って行った。
『陽太君……! ごめん……! ごめんなさい……! 私に勇気がなかったばっかりに……! 陽太君との約束を守れなかった……!』
御霊はいつもの人見知りな性格も、ハイテンションな性格も鳴りを顰め、まるで小さな子供の様に泣きじゃくっていた。
すると、陽太はそんな御霊の乗るゴーストプルートに触れながら、顔を暗くした。
「……謝るのは僕の方だよ、御霊ちゃん……。 ごめんね、約束を守れなくて……死んじゃって……。 そのせいで、御霊ちゃんを悲しませてしまって……」
『陽太君が謝る必要なんてない……! 陽太君は何も悪くないんだから……!』
『そうだ……! 悪いのは全部ワールドユニオンの奴らなのだから……!』
そんな陽太に、御霊とサンは泣きじゃくりながら反論していた。
「御霊ちゃん……。 サン……。 そうだね……ありがとう……」
それを聞いた陽太は暗くした顔を上げると、真剣な表情になった。
「皆との再会を喜びたいところだけど……今は時間がないんだ……! 皆、どうか一刻も早く、美月ともう一人の僕を、お母様……スーパーノヴァの手から救って欲しいんだ!」
『スーパーノヴァ……!?』
『アイツがここにいるの……!?』
そんな陽太の言葉に、ネオンたちが驚愕の声を上げた。
そんな中、アースが驚きつつも冷静さを保った声で尋ねる。
『陽太、詳しい説明を頼む……!』
「はい。 先の戦いで、美月ともう一人の僕は、スーパーノヴァの手により命を落としました。 でも、二人は精霊であるが故に、肉体に依存せず、物理的に死ぬことは殆どない……』
『ああ。 それは私たちも承知している』
「……だから、スーパーノヴァはそんなほぼ不死身の二人を死なせる為に、その意識をのこの集合無意識の世界へと引き摺り込み、そのまま永遠の眠りに就かせようとしているんです。 美月ももう一人の僕も無意識ながら抵抗し続け、僕自身もあの世から干渉してその邪魔をしていました。 だけど、僕も美月ももう一人の僕も限界が近く……』
どうやら想定以上にタイムリミットが迫っている様だった。
正真正銘の最初で最後のチャンス。これに失敗したら美月たちは本当の意味で死んでしまう。
その重圧が焔の肩に改めてのしかかる中、陽太は頭を下げて頼んで来た。
「
その頼みに対する返答は最初から決まっていた。だってその為にここに来たのだから。
『『「「勿論!」」』』
そしてアースが改めて陽太へと声をかけた。
『陽太。 私たちは必ず美月とサターン、そして
「はい……!」
*****
その後、アースの操る飛行艇に乗った陽太に案内された焔たちは、真っ白な世界と何もない真っ暗な空間の狭間へとやって来た。
陽太曰く、あの何も無い真っ暗な空間はあの世に繋がっているらしい。
そして、そんな場所に、ドス黒く禍々しい魔力でできた檻に閉じ込められている美月とサターンがいた。
その姿を目にした焔と輝とネオン、それからマーズとヴィーナスとネプチューンが思わず声を上げた。
『『「——美月(ちゃん)……!」』』
『『「——サターン……!」』』
しかし美月たちは返事を返してくれない。
一見すると眠っている様にも見えるが、まるで悪夢に魘されている様に苦しそうな表情をしていた。
するとそんな美月たちを捉えている檻から漏れ出た黒い魔力が、女性の形を模った。
「——ふふっ、どうやら美月と陽太のお迎えが来た様ですわね?」
その姿を見たネオンたちが怒りの声を、それからムーン、そして陽太が悲しみの声を上げた。
『『——スーパーノヴァ……!』』
『『乃亜様……!』』
『お母様……!』
全国大会の事件の時は、ほんの短い時間しかその姿を目にすることができなかったが、あの女性が美月たちを殺したスーパーノヴァ。そして、美月たちの亡き母親……の成れの果て。
怒り、悲しみ、困惑と言った様々な感情が焔の中にも湧いて来るが、それでも美月を助ける為にも、どうにか平静を保つ。
するとネオンが怒りを抱えたまま、どこか指摘する様に口を開いた。
『だけど……違う……。 お前はスーパーノヴァだけど、
「ご明察ですわ。
『それでこの規格外の魔力なの……!? 本当にどうなっているのよ……!?』
スーパーノヴァの説明に、ネプチューンが驚愕の声を上げると、彼女は微笑みながら言葉を続けた。
「ふふっ、
スーパーノヴァは一旦口を閉じると、まるで号令する様にその手を上げた。
「——さあ、集いなさい、
すると周囲にあった無数の意識たちがスーパーノヴァの元へと集まって来た。
それを見たネオンたちが驚愕の声を上げる。
『あれは……
『それに
「ふふっ、皆等しく
スーパーノヴァがそう説明する中、どんどんこの場に死者の魔女たちと精霊たちの意識が集まって来た。
「……とは言え、この子たちも影の身である
すると、スーパーノヴァは胸元で両手をかざした。
「——
それは精霊の言葉で詠唱されていたが、全国大会の事件でビッグバンが起こした『精霊計画』に巻き込まれたせいか、人間である焔にもその意味が何故か理解できた。
「——魔女たちよ、精霊たちよ、
そして、スーパーノヴァがそう唱えると、彼女自身のドス黒く禍々しい魔力が、集まって来た意識たちと混ざり合い、次々に巨大な怪物を生み出していった。
「「——
黒いオーラを纏った怪物たちは、それぞれの個性が反映されている為か、どれ一つとして同じ姿は無かったが、それでもそのどれもが異形の姿をしていた。
その大きさも、全長約十二.五mあるスーパーメカニカルウィッチとまではいかないものの、約十m近くあった。
そして、その怪物たちに焔とマーズは見覚えがあった。
「あれは確か……マーズが好きな魔法少女ものに出て来る……!」
「ええ! シリーズの最終作……『魔法少女マジカル☆マスカレード』に出て来た『マジカルモンスター』よ! でも、あれはあくまでも創作の筈……!?」
『魔法少女マジカル☆マスカレード』とは、二十一世紀に作られたとある魔法少女ものシリーズの最終作で、主人公のとある中学生の女の子が妖精と契約して『鬼の魔法少女』になって、同じ中学の先輩の『妖狐の魔法少女』と『天狗の魔法少女』と一緒に、異世界から来た悪い『仮面の魔法少女』と『マジカルモンスター』と言う怪物と戦うストーリーだった。でも、実は主人公のパートナーの妖精が黒幕の配下であり、異世界の魔女を『マジカルモンスター』の素体にして使役して、マッチポンプを行っていた。だから、『仮面の魔法少女』……異世界のお嬢様は、そんな自国の民を救う為に、主人公たち魔法少女たちと敵対することになっても、
そして、目の前の怪物はそのマジカルモンスターと似ていた。
だけど、マーズの言う通り、あれはあくまでも創作の筈……。
すると、スーパーノヴァが微笑みながら口を開いた。
「ふふっ、その通り……この子たちはマジカルモンスターで間違いありませんわ。 今から百年前……
『うぅ……妾が……?』
『我が……? ぐっ……!』
その指摘にムーンたちは、記憶を刺激された様に苦悶の声を上げていた。
前の****と****の頃?精霊の言葉が分かる様になった筈なのに、その部分だけ何故か上手く聞き取ることができなかった。
そんな中、スーパーノヴァはアースの乗る飛行艇に目を向けた。
「……その点、アースは前の****の頃の記憶が残っている……
『……』
その問いに対して、アースは沈黙を貫いた。
しかし、スーパーノヴァは気にすることなく言葉を続けた。
「——さあ、お行きなさい、マジカルモンスターたちよ。 美月と陽太だけではなく、
——そして、その指示と共に、マジカルモンスターたちが襲って来た。