——誰かが自分の名前を呼んでいる様な気がする。それと同時に、何も無い真っ暗な場所にいた意識がゆっくりと浮上していくのを感じる。
「「「——美月……!」」」
この声は……兄と焔と輝とネオン?それからリンを始めとした皆の声も聞こえる。
そして、それを聞いた美月はゆっくりと目を覚ました。
「うぅ……」
「「「ーーッ!? 美月……!」」」
すると、視界に人間と同じ大きさの姿に変身したサターン……兄に、焔や輝やネオン、それからリンを始めとする皆の姿が映った。
「お……兄……様……? 皆……? うぅ……」
美月は朧げな意識のまま口を開くが、目を覚ましたばかりなせいか、その言葉は途切れ途切れになっていた。
すると、そんな美月の手を握りながら、サターンが優しく言い聞かせて来た。
「まだ無理をしちゃダメだ……!
「え……?」
——それを聞いた美月は、頭がフリーズしてしまった。
*****
その後、安全面を含めた諸々の事情でこの場所から出れない美月は、医療方面にも詳しい父……正確にはもう一人の父であるアースの診察を受けることになった。
そして、死から蘇った為、ある意味異常だらけではあるのだが、取り敢えずは大丈夫と言う診断を受け、改めて皆と顔合わせをすることになった。
「うぅ……ぐすっ……良かった……! 本当に良かった……! 美月が目を覚ましてくれて……! もし美月が死んじゃってたら、俺は……!」
「安心して、焔君。 美月ちゃんはこうして戻って来れたんだから、もう大丈夫よ」
「うぅ……ぐすっ……本当だよ……! ねえ、これって夢じゃないよね……?」
「大丈夫だよ、小春ちゃん。 私たちは美月ちゃんたちを、ちゃんと取り出せたんだよ」
「うう……ぐすっ……本当に良かった……! あのままお別れなんてことになっていたら……!」
「フッ、もう大丈夫だ、冬馬」
「うう……ぐすっ……
「はい、マスター……! 本当に良かったですね……!」
同じチームオールスターズの焔と小春と冬馬と輝は、それぞれの相棒のマーズとジュピターとマーキュリーとヴィーナスに宥められながら、わんわんと泣いていた。
美月は途切れ途切れの言葉のまま、そんな皆へと声をかけた。
「焔……マーズ……小春……ジュピター……冬馬……マーキュリー……
美月もさっきアースから聞いたが、どうやら自分とサターンは全国大会の後、二ヶ月近く死んでいた……正確に言えば、仮死状態になっていたそうなので、本当に心配をかけてしまったと思う。
それでも、皆は目覚めたばかりの美月の負担にならない様に、飛びついて来たりはしなかった。
まあ、焔と輝の二人は、美月の左手をもう二度と離すまいと握りしめているが……。だけど二人に握られているおかげで、自分も安心することができた。
その一方で反対の右側では、ネオンが上半身を起こした美月の右腕にもう二度と離すまいと抱きついていた。
「美月……! 美月……! 良かった……! 本当に良かった……!」
「ネオン、気持ちはわかるけど……美月ちゃんは目覚めたばかりなんだから、あまり負担をかけないようにな?」
「仕方ないでしょ! ネオンちゃんにとって、美月はこの世界でやっと見つけた唯一の同類なんだから!」
「……とは言え、麗の言う通り、その美月に負担をかけたら本末転倒だろ?」
そんなネオンに麗が優しく注意するが、彼女はまるで聞こえていない様に聞く耳を持たなかった。
その側でネプチューンとウラノスが軽い口論をしているが、それでもまるで美月以外は目に入っていない様に、ネオンは美月に抱きつき続けた。
「ネオン……さん……」
「ごめんね、美月……。 私……次は
「……っ!」
ネオンがより一層強く抱きしめて来たことで、美月は痛みで一瞬顔を顰めたが、皆をこれ以上心配させない様に、直ぐに表情を引っ込めた。
ネオンは以前から同じ本物の魔女である美月のことに執着していたが、こうして自分が一度……正確に言えば二度目でが、死んでしまったせいで、それがより一層強くなっている様な気がした。
ネオンの瞳はドロドロに濁ってしまっていて、どこか危うい雰囲気になってしまっていた。一体何がそこまで彼女を追い詰めているのだろうか……?
そんな中、一歩引いた場所にいたきららとポラリス、御霊とプルート、御影とカロンと言った面々も安心した様に言葉を溢した。
「うぅ……ぐすっ……美月ちゃんを救えて本当に良かったわ……!」
「きららちゃん……! 私たち、今度は救うことができたね……!」
「本当に良かった……! 黒土美月さん……それから、サターン君と
「そうですね、御霊。 本当に良く頑張りましたね」
「はい……! 美月ちゃんたちの物語の結末があんなだなんて、私ちゃんとしてもごめんでしたから……!」
「そうだね、御影ちゃん〜。 物語はハッピーエンドでないとね〜」
その後、輝の姪のレイと姉の光と父の光一と家族のルミとエール、それから、咲良とキャンサー、王牙とレオ、秀次とスコーピオ、歌とピスケス、そして、魔導学園長も安心した様に言葉を溢していた。
すると、美月の側にいたリンが涙を溢しながら、声をかけて来た。
「うぅ……ぐすっ……お嬢様……本当に……本当に良かったです……! お嬢様のいない世界など……私にとっては終わったも同然でしたから……!」
「リン……心配させて……ごめんね……。 爺やも……」
「いいえ。 お嬢様が謝ることではありませんよ」
「グリの言う通りです……! お嬢様は被害者なのですから……!」
それから、美月は少し離れた場所にいるアースへと声をかけた。
「お父……様……」
「美月……私は本物の明日斗では……」
「それでも……私が生まれた時から……ずっと見守っていてくれた……アースも……私のお父様です……」
「……!! ありがとう、美月……。 そして、改めて
アース……父が頭を下げて来る中、美月はその近くにいたムーンとサンにも声をかけた。
「ムーン……サン……」
「「美月……」」
「改めて……お帰りなさい……。 だけど……これじゃあ……私の方が……ただいまになるね……」
「そんなことはないのじゃ、美月……! 美月が生きていてくれて本当に良かった……! 美月たちに救われた身ではあるが……やはりお主のいない世界など妾にとっては……!」
「ああ……! 改めて、我らを救ってくれて感謝する……!」
こうしてムーンたちを話せたことで、改めて彼女たちを取り戻せたんだと実感できた。
これで、これからはまた昔の様に一緒に過ごすことができる。
「ムーン……サン……これからは……ずっと一緒にいようね……?」
「「……」」
しかし、ムーンたちは美月のその願いに返答することなく、悲しそうに目を伏せた。どうしたんだろう……?
そんな中、兄が何やら言いたげな表情で声をかけて来た。
「美月……」
「お兄……様……? あれ……?」
さっきは目覚めたばかりで気づかなかったが、こうして改めて兄をちゃんと見たことで、美月はからの姿が一部変化していることに気づいた。
兄……サターンは元々、亡き母と同じ、明るい紫の髪に、宝石の様な
しかし、今は前髪の一部がメッシュの様に、美月と同じ紫掛かった黒髪へと変化していて、目の方も片方がこれまた自分と同じ宝石の様な
「そうだな……
すると、サターンはそう口にした最後の方で、明らかに声が変わった。いや、声自体は同じなのだが、確かにサターンとは別の誰かに切り替わったのが、美月にも分かった。
そして、その一言でそれが誰なのか、美月には分かった。
「お兄……様……!」
その呼び名はさっきと同じだったが、それはサターンに向けられたものではなかった。
そして、その誰かもそれを理解している為、それを肯定した。
「——うん、そうだよ、美月。 こうして話すのは、
「……!!」
美月は六月に起きたメカニカルウィッチ学園での事件の際に、時間魔法の力を覚醒させた反動で、あの世とこの世の狭間を彷徨ったことがあった。
その時に、美月を引き留めて、元の世界へと送り返してくれたのが、この兄……十年前の事件で自分を庇って死んだもう一人の兄だった。
「えっと……御霊ちゃんが僕のことも連れて帰ってくれてね……。 今はもう一人の僕……サターンの中にいる状態なんだ……」
どうやらもう一人の兄の説明によると、彼は今はサターンと共存している状態らしかった。
……とは言え、十年前の事件より前の人間人格と、その際に蘇った精霊人格が混じり合っている美月とは違い、似ている様で完全に別の二つの人格が一つの体に入っている状態……昔の明日斗博士とアースと同じ状態になっているらしかった。
まあ、細かいことは良く分からなかったが、それでも、もう一人の兄が帰って来たことに間違いはなかった。
美月はその宝石の様な
「——お帰りなさい、お兄様……!」
「——うん、ただいま、美月……!」
*****
——それから、二週間後。
こうして、美月とサターン、そして陽太が無事に目覚めたことで、改めてリスタートしたものの、全てが万事解決した訳では無かった。
……と言うか、自分の方が先に
それでもサターンは精霊で、体の方は魔力で作れる為、あくまでも意識不明の状態に近く、そこまで実害は大きく無かった様だ。
しかし、半分精霊とは言え、もう半分は人間である美月は違った。
この二ヶ月間の間、様々な医療器具や魔法により、体を維持していたらしいが、それでも長い間仮死状態だったこともあり、様々な問題が起きていた。
以前、一ヶ月近く眠っていた時とは比べ物にならないくらいに、体重が激減して痩せ細り、筋力の方も完全に衰えてしまっていた。
特に脚の方は深刻で、もう二度と歩けない……と言う程ではないものの、自力で歩くのが不可能になってしまった。
その為、きららと同じ様に、車椅子生活になることになった。一応、リハビリをすれば、いつかはまた歩ける様になるらしいが、当面の間はこのままだろう。
着替えやその他諸々も一人でするのは困難になった為、これからは、人間と同じ大きさの最先端のロボットの体を持つ女性のリンが、お世話の為に、四六時中、美月に同行することになった。流石に男性のサターンにそれをされるのは恥ずかしいので、仕方がない。
その役目に同じく女性のムーンも立候補しようとしていたものの、リンが手を上げるのを見て、
おかしい……?ムーンならこう言う役回りは、
そして、もう一つ歩けなくなったことよりも、致命的な問題が発生していた。
(——頑張れ、私……! 頑張りなさい、わたくし……! あれ……?)
それはまだ自分の素を明かしていない、白金代表を始めとする人たちと会話する時のことだった。
美月はいつもの様に目を閉じて、お守りのペンダントに触れて、心の中で勇気のお呪いを唱え、素の精霊人格から人間人格のお嬢様口調へと切り変わろうとした。
しかし……。
(
「美月さん……?」
「……!! あ、えっと……なんでもありません……わ……!」
何故か十年前の事件よりも前の自分の人間人格に切り替われなくなっていた。
こんなこと今まで一度も無かったのに……!寧ろサターンと出会い、勇気のお呪いを思い出すまでは、人前では勝手に切り替わっていたくらいなのに……!
その後、サターンを始めとした家族の面々にこのことを相談すると、父が仮説を立ててくれた。
「……もしかすると、こうして美月が
「ーーッ!?」
その仮説を聞いた美月は強いショックを受けた。
以前、美月はもう一人の兄から、今の自分は人間の美月と精霊の美月が混じり合っている状態だと聞かされた時も、自分が死んだ後に蘇った
それでもサターンを始めとする皆が、どっちの美月も
しかし、今、その片割れである……
よくよく感じれば、確かに美月の中に人間人格が残っているのは感じ取れた。しかし、任意に表に呼び出せないくらいに弱まってしまっていた。
奇しくも、二人の兄の人格を切り替えられる様になったサターンとは逆の状態になってしまった。
向こうも向こうで、もう一人の兄はいつもは裏に引っ込んでいて、どうしても会話しなければいけない時以外は出てこようとはしない様だが……。
「私、このままじゃ……もう一人の私の居場所を……!
「大丈夫だよ、美月……! 前にも言ったけど、
「そうですよ、お嬢様……! 今のお嬢様も私にとっては大事なお嬢様なのですから……!」
そんな美月のことを、相棒のサターンとリンは必死に宥めてくれた。
「そうじゃぞ、美月……!
それから、
それでも美月の動揺は完全には収まらなかったが、父が「人間の美月もまだ完全には消えていないから大丈夫。 自分も何か方法を探してみる」と言ってくれたので、今は手がない以上、それに縋ることにした。
しかし、それはそうとして、また別の問題もあった。
「あ、ムーン……!」
「ーーッ!? すまぬ、美月や。 妾は用があるのでな……」
「あ……!」
何故かムーンに避けられる様になってしまった。美月の車椅子生活のお世話の役目も直ぐに諦めたし、何故か距離を取られている様な気がする……。
それに、どうやらサターンも、サンに避けられているらしかった。
サターンが避けられている理由は分からないが、美月には心当たりがあったので、思わず問いかけた。
「ムーン……! やっぱり今の私が、死んだ人間の私とは違うから避けているの……?」
「それは断じて違う!! 美月は何も悪くない!! 悪いのは全て妾なのじゃから!!」
ムーンは美月が原因ではないと言ってくれたが、本当の原因は口にしてくれなかった。
そのことに悶々とする中、美月は今日もお見舞いに来てくれた焔たちにそのことを相談することにした。
「そっか……ムーンたちが……」
「それは確かにどうにかしたいと思うわよね……」
「はい……ですから、どうすれば良いのかと……」
「ああ、僕たちも手詰まりで……」
十年振りにやっとまた一緒に暮らせる様になった相棒たちに避けられていると言う悩みの解決法を、焔たちは真剣に考えてくれた。
そんな中、輝たちが思いついた様に口を開いた。
「あ、そうだ……! それなら今度の学園祭にムーンとサンを誘ってみるのはどうかな?」
「それは妙案ですね、マスター。 確かに、美月さんもそろそろ学園に復学することですしね」
学園祭。それは、今週の土日にメカニカルウィッチ学園ミライトウキョウ校で開かれる予定の行事だった。
毎年十月の秋頃に行われているらしく、今年は十月末に行うと言うことで、ハロウィンを兼ねた学園祭を行う……らしい。
……らしいと言うのは、美月はその学園祭の手伝いに全然参加できていないからだった。
事情が事情とは言え、焔たちを始めとする同じクラスメイトたちには本当に申し訳ない。
確か……焔たちの話では、一年A組はメイド喫茶ならぬお化け喫茶をするらしいが……?
どうやら、ありとあらゆる出し物にホラーを混ぜるらしい。……とは言え、ホラー一色で怖いばかりでは無く、ちゃんとコメディにもなっていて、小さい子にも安心の仕様らしいが……。
閑話休題。何はともあれ、それは中々に良い案だった。
美月としても、こうしてずっと父の『宇宙の方舟』?なるものにいるのは窮屈に感じていたし、ムーンたちとまた昔みたいに楽しく遊びたいと思っていた。
「はい……! ムーンとサンを誘ってみます!」
「あ、そうだ、美月ちゃん……! 今度の学園祭は生徒は皆ハロウィンの仮装をすることになっているから、忘れないでね!」
「う、うん……! 小春ちゃんは
「仮装が義務付けられているのは生徒と教師だけだけで、ゲストは自由だが……ムーンとサンにも仮装して貰うと、気分が高まるかもしれないな……」
「フッ、冬馬、良い案じゃないか……!」
小春たちの言う通り、ハロウィンがテーマの学園祭は仮装をすることになっているので、そこら辺はリンに手配して貰っていた。
そんなリンも何やら「お嬢様を合法的に着飾れるチャンス!」と息巻いていた。お手柔らかに頼みたい。
そして、冬馬の言う通り、この学園祭で少しでもムーンたちと昔の関係に戻れる様に、彼女たちの分の仮装も考えることにした。
そして、その後。美月とサターンはタイミングを見計らって、ムーンとサンに声をかけた。
「ムーン……!」
「サン!」
「み、美月……!? すまぬが、妾は……!」
「すまぬ、陽太……我もこれで……」
「「これを受け取って!」」
美月たちはムーンたちが逃げる前に、招待状を押し付けた。
「「これは……?」」
「今週末……学園祭があるんです……! そこにムーンたちと一緒に行きたいんです……!」
「しかし、妾には美月の側にいる資格が……」
それでも断ろうとするムーンへと、美月は先手を取った。
「——お願いムーン……!」
美月は上目遣いになりながら、ムーンへと懇願した。
それをみたムーンが大きく揺れた。
「うぅ……」
「サンも頼む!」
「ぬ……」
そして、ムーンたちはとうとう折れた様に根負けした。
「「——分かった……。
——最後の言葉の意味は分からなかったが、それでもチャンスを手に入れることができた。