——ワールドユニオンの本部がある宇宙エレベーター内にある議長室にて。
「——どうやら、美月さんとサターン、それからネオンさんとネプチューンが再び表舞台に姿を現したそうです。 その為、この二ヶ月間、小規模な動きしかしなかった明日斗博士のスタースピリットも再び動き出すことでしょう。 よって、ガーディアンズはこれより美月さんたちのいるJP国に向かって貰います」
「「「了解です!」」」
アダム議長は呼び出したガーディアンズの面々に新たな指示を出していた。
美月とサターンは亡くなったとの情報もあったが、やはり生きていた。
この二ヶ月間、表舞台から姿を消していた理由は定かではないが、どうやら再びJP国のメカニカルウィッチ学園ミライトウキョウ校に復学したらしかった。
故に、こうして自分たちが再び動き出した様に、明日斗博士たちも再び動き出すことだろう。
明日斗博士の率いるスタースピリットは厄介な相手だ。
数の面ではワールドユニオン軍を手中に収めているこちらが圧倒的に有利だが、質の面ではメカニカルウィッチの開発者の明日斗博士側が圧倒的に勝っている。
ハッキリ言って、技術レベルの差は数世代分は開いていると見ていい。
一応、こちらにも明日斗博士に匹敵するレベルの天才の黒穴博士がいるが、あの狂人は碌に言うことを聞かないので当てにはしていない。
だから、自分の懐刀であるガーディアンズを使う。
ガーディアンズの面々はワールドユニオン軍最強と言っても過言ではない精鋭中の精鋭で、自分への信仰も厚い最高の道具だ。
その実力はあの二大チャンピオンバディの天王寺麗とウラノス、それから海姫ネオンとネプチューンがツートップを飾っているワールドランキングの上位の面々にすら勝てる程だ。
後は劣っている機体性能の差を数の力でカバーすれば、あのスタースピリット相手にも戦えるのは、全国大会の事件で証明済だった。
それから、アダム議長はガーディアンズの新メンバーであるゼロとナインの兄妹に声をかけた。
「それから、ゼロとナイン」
「「はい!」」
「美月さんが復学したJP国のメカニカルウィッチ学園では、今週末に学園祭が行われる様です。 そして、その二日目は一般客の来場も可能になっています。 よって、二人はそこに潜入して、美月さんとサターンの現在の様子を間近で確認して来て下さい」
アダム議長がそう指示を出すと、ゼロたちが返事をする前に、フォーが横から口を挟んで来た。
「良いな、良いな〜! ねえ、パパ〜! アタシも学園祭に言って遊びたい〜!」
「ちょっと、フォー!」
「……楽しいそう」
「トゥーまで……!?」
まだ若いフォーやトゥーが学園祭に憧れを示し、それをスリーが注意する中、大人組のシックスと王が冷静に説明した。
「それは無理ですよ、ワールドユニオン軍の情報は機密情報として管理されているとは言え、我々ガーディアンズは有名ですから」
「ああ……。 特に白金代表なら確実に把握しているだろう……」
「そうですね。 ですが、
そして、ファイブが懸念を問いかけると、それに同意する様に、ゼロとナインがコクコクと頷いた。
その疑問に対して、アダム議長は説明した。
「問題ありませんよ。 元々、ゼロとナインは軍の士官学校の中でも特殊部隊の養成所の出身の身ですから、二人の情報は表向きには軍の情報にもないのですよ。 故に、少し戸籍を偽造すれば、白金代表に把握されることなく、学園に送り込むことも可能です」
確かに、ワールドユニオンやスタースピリットが何度も事件を起こしたことによって、学園祭の入場検査は例年以上に厳しくなるだろう。
だけど、職員として学園に潜り込ませることなら兎も角、一日だけのゲストに対する入場検査などただが知れている。それならば、特殊部隊としての教育も受けているゼロたちとワールドユニオンのバックアップがあれば簡単に突破できる。
「本当なら学園に潜り込ませていた協力者にその役割をさせるつもりだったのですが、その協力者の一人だった
「「「……!!」」」
アダム議長が裏切り者と口にすると、自分の秘書を含めたその場にいるアダムチルドレンが殺気立った。
「
「英斗、それ以上口にすることは許しません」
アダム議長は直ぐに英斗を口止めした。
もしここでその裏切り者……秀次のことをバラせば、ガーディアンズの面々……特にフォーたちが何をするか分からない。流石にそれをされるといろいろと面倒なことになるのだ。
アダム議長は急いで話を変えた。
「それにどの道、スタースピリットの存在がいる以上、それに対抗しうる実力がないとその役目は務まりません。 その点、ゼロとナインは今の立場と実力の両方で最適なのです。 ご理解いただけましたか?」
「「はい! 精一杯頑張ります!」」
そして、ゼロたちが改めて敬礼をすると、ガーディアンズのリーダーであるセブンが部隊の面々へと指示を出した。
「——良し! それでは俺たちはこれから
「「「——全ては恒久和平の世界の為に!」」」
*****
——十月三十一日の土曜日。
毎年十月に行われる、メカニカルウィッチ学園ミライトウキョウ校の学園祭は、土日の二日間に渡って行われる。
一日目の土曜日は高等部と大学部の学生たちと教職員による身内のみで行われた、二日目の日曜日は一般の人も来れる様になっていた。
そんな学園祭の一日目。
先日から復学することになった美月は、自分のクラスである一年A組の出し物、「お化け喫茶」の手伝いをしていた。
「——い、いらっしゃいませ……ですわ……!」
今年の学園祭は十月末に行われ、丁度ハロウィンと被ると言うことで、学生たちと教職員は何でも良いから仮装することになっていた。
そんな訳で、美月はリンのプロデュースの元、魔女の仮装をしていた。
とんがり帽子に、ローブと杖、さらに何故か悪魔の角と翼と尻尾。魔女と言うより、悪魔も混ざっていた。
車椅子生活になった身として、仮装するのは大変かと思ったが、そこは十年もの間自分の身の回りのお世話をして来たリンの手によって、最小限の負担ですませてくれた。流石だ。
ちなみに、ムーンとリンの女性組は美月と同じ魔女の仮装をし、サターンとサンの男性組は悪魔の仮装をしていた。
すると、そんな美月のいる一年A組にはたくさんの学生たちが押しかけていた。
「キャー! 美月様、可愛い〜!」
「うぅ……ぐずっ……美月様が突然、休学なされて、毎日が灰色の日々だったけど……またこうしてお姿が見られて良かった……!」
「……やっぱり黒土さんって病弱なのかな……? 倒れる度に休む日数が増えていって心配だよ……」
「そうだな。 だけど、そんな身でありながら、あの白金会長たちに勝って、高校生チャンピオンバディになるなんて流石だよ」
教室の廊下の最前列には、美月のファンクラブの生徒たちがその姿を見ようと押しかけていた。
そして、その後ろでは他の生徒たちが野次馬の様に見ていた。その中には、いつもは見かけない大学部の生徒たちも混じっていた。
(うぅ……まさか……こんなにも人が集まるなんて……! 読みが甘すぎました……!)
美月は元々、明日斗博士の娘として注目されているのは理解していた。しかし、そこに高校生チャンピオンバディの称号が加わったことで、以前よりも凄いことになっていた。
その上、こうして二ヶ月振り……夏休みを挟めば三ヶ月振りに学園に復帰した為、その姿を一目見ようとこんなにも人が集まってしまった。
美月は別に病弱ではないのだが、こうして何度も倒れた身として、もはや否定することを諦めていた。
……と言うか、休んだ日数の総数がそろそろ三ヶ月分に届きそうなので、留年しないか心配になって来た。一応、事情が事情なので、魔導学園長が補習と言う形でカバーしてくれているが、万が一焔たちと一緒に進級できなかったらショックで泣く自信がある。頑張ろう。
(だけど、学園祭の準備を全然手伝えなかった以上、せめて当日は少しでもお手伝いしないといけませんし……。 でもでも、人間人格に切り替えられない身で無理をするんじゃあまりせんでした……!)
担任の
だけど、流石に何もしないで遊んでいるのは気が引けたので、無理を言ってこうして手伝いを引き受けた。
……とは言え、車椅子生活になった美月に接客などの負担がかかることをさせる訳にはいかないので、こうして客寄せの看板持ちの手伝いをすることになった。そな効果は前述の通り、絶大である。
今クラスメイトたちは、満席大行列のお化け喫茶を死に物狂いで回していた。だけど、「これでうちのクラスが一位だ!」と喜んでいるので、別に迷惑はかけていない……と思いたい。
「一年A組のお化け屋敷にようこそ……ですわ……!」
そんな訳で、美月は今は車椅子に乗って看板を持ったまま、「いらっしゃいませ」と言っているだけなのだが、今は人間人格が使えない状態の為、素の弱気で臆病で、人見知りな精霊人格で対応していた。口調こそは人間人格のお嬢様口調にしているが、ハッキリ言って、緊張で吐きそう……。
そこで美月は友達の焔たちの姿を見ることで、その緊張を少しでも和らげようとした。
「え〜と、ご注文は看板商品のハロウィンパンケーキが五つと……イチゴジュースとソーダとメロンソーダと……えっと……」
「リンゴジュースとグレープジュースだよ、小春ちゃん……」
「ありがと、ジュピター! 以上になりますね! 少々お待ち下さい!」
小春とジュピターは、フランケンシュタインの仮装をしていた。彼女たちの機体のモチーフと同じだ。
見た目はツギハギだらけのゾンビなのだが、彼女の生来の明るさもあって、全然怖くはなかった。寧ろ可愛い。
「冬馬ー! 焔ー! 注文の品をよろしくー!」
「「了解!」」
その一方で調理場では、焔とマーズ、冬馬とマーキュリーを始めとする面々が料理をしていた。
「えっと……」
「ここはこうするのよ、焔君」
「ありがとう、マーズ姉ちゃん!」
「ふふん、お姉ちゃんに任せなさい!」
焔とマーズは、吸血鬼の仮装をしていた。こちらも彼らの機体のモチーフと同じだ。
吸血鬼っぽい牙に、黒い服とマント。本当に見惚れてしまうくらいにカッコいい……。
焔は以前は料理はできない言っていた筈だが、知らない内にできる様になっていた。何がキッカケなのかは知らないが、できないことをできる様になるなんて凄い。本当にカッコいい。
「良し! 完成だ!」
「フッ、流石だな、冬馬」
「おばあちゃんに鍛えられたんだから、このくらい当然さ!」
その一方で冬馬とマーキュリーは、狼男の仮装をしていた。彼らも機体のモチーフと同じだ。
狼男と言うことで、大分ワイルドな姿をしているのだが、その料理の手際はどこまでも丁寧だった。
あ、小春が見惚れている……。それから、そんな小春に気づいた冬馬が照れくさそうにしている……。どうやら、二人は上手くいっている様だ。
……そう言えば、自分はまだ焔と輝に告白の返事を返していないな……。でもでも、いざという時の人間人格が使えない身で返事をしたら、心臓が爆発する気しかしないので、申し訳ないがもう少し待って貰うことにしよう……。
そして、美月がふとそんなことを考えていると、交代の時間がやって来た。
「はいはーい、じゃあ交代の時間だから、今手伝ってくれている子たちは学園祭を回って来ていいよー。 楽しんで来てねー」
「「「は〜い!」」」
*****
その後、自由時間になった美月たちは、三年生の輝たちと合流していた。
「——やあ、美月さ……天使の様だッ!!」
「……んんっ、マスター、落ち着いて下さい。 それに美月さんの仮装は天使ではなく、魔女です。 小悪魔です」
「ご、ごめんよ、ヴィーナス。 皆も取り乱して、すまない。 それにしても、皆も仮装が良く似合っているよ」
そんな風に手放しに褒めてくれる輝とヴィーナスは、天使の仮装をしていた。彼らも機体のモチーフと同じ様だ。
輝は元々王子様の様なルックスをしているのも相まって、光輪と白い翼を携えたイケメンの天使になっており、たくさんの女子から黄色い悲鳴を浴びていた。
一方でヴィーナスは、元々西洋人形の様な容姿をしていることも相まって、本物の天使の様な風貌になっており、道ゆく男子たちの視線を集めていた。
二人は凄い絵になるので、皆の気持ちも理解できる。
「それじゃあ、皆。 学園祭の出し物をいろいろと回ってみようか?」
「「「お〜!」」」
それから、美月たちは学園祭の出し物を回り始めた。
——屋台。
「——美月! 何か食べたい物はある? 美月は車椅子だし、俺が代わりに買って来るよ!」
「あ、ありがとうございます、焔……! じゃあ……あのお店のかぼちゃプリンを……」
「分かった、任せて!」
焔はそう言って屋台の方へと向かって行った。
凄い気遣ってくれる……!優しい……!好き……!
「キャー! ナイスよ、焔君! その調子でコツコツとポイントを稼いで行くのよ!」
「だから、僕はまだ認めてないからな! ムーンも何か言ってやれ!」
「……」
——お化け屋敷。
「うらめしや〜!」
「きゃあぁぁぁぁぁ〜〜っ!?」
「ま、マスター……! 落ち着いて下さい……!? 学園でのマスターのイメージが壊れてしまいます……!?」
お化け役の子に驚かされた輝が悲鳴を上げながら走って行った。
そう言えば、輝は怖いものが苦手だったっけ……。
そうだ……!これを利用すれば……!
「ムーン……。 私も少し怖いので、手を握って貰えますか……?」
「じゃが、妾にその資格は……」
「ダメ……ですか……?」
「……!! 美月がそう言うなら仕方がないのう!」
怖がる振りをすることで、ムーンと手握ることに成功したが、やはりどこか距離を感じてしまった。
——縁日。
「——縁日か〜。 ふふっ、懐かしいよね、冬馬?」
「そ、そうだな、小春! 夏祭りの時はいろいろあったもんな!」
「うんうん、小春ちゃんの大胆な告白と言い、冬馬君のヘタレな返事と言い、見所満載だったもんね」
「フッ、それでもその後ちゃんと返事をしたんだから、冬馬を許してやってくれ」
小春と冬馬は縁日を見ながら懐かしそうにそう口にしていた。
あれからまだ二ヶ月しか経っていないが、自分が眠っている内にどこまで進展したのだろうか?
そんな風に考える美月の側では、サターンがサンへと声をかけていた。
「サンも何か遊ばないか?」
「いや、陽太よ……。 我は遠慮しておこう……」
「サン……」
その後も、他のクラスの喫茶店や脱出ゲーム、体育館のライブステージなどを回ったが、ムーンとサンは他所他所しい態度のままだった。
美月とサターンが声をかければちゃんと答えてくれるのだが、それでも決して自身から何かをしようとはしない……。常に一歩引いた立ち位置に留まろうとしていた。
車椅子を押してくれる……正確に言えば、魔法で操作してくれているリンだって、お世話係の役割に徹しつつも、こうして美月と一緒に文化祭を楽しんでくれていると言うのに……。
ムーンたちは少しも楽しそうにせず、寧ろ苦しそうな顔をしていた。
美月たちは人気の少ない場所に移動すると、思い切って尋ねてみた。
「——ムーン、どうしてしまったんですか? 私はまたムーンとこうして一緒に遊べて楽しいのに……ムーンはどこか苦しそうです……」
「サンもだ……。 もう二人は自由の身になったのに……何を思い悩んでいるんだ?」
「「それは……」」
ムーンたちは言葉を詰まらせたが、意を決した様に口を開いた。
「美月も知っておるじゃろ? 妾たちの犯した罪を……。 妾たちは罪人なのじゃ……。 だからそんな妾たちはもう美月たちと一緒にいる資格なんてないんじゃ……」
「ああ、我らは多くの者たちを傷つけた。 それはこうして自由の身になっても、決して消えない罪だ。 故に、我らはもう陽太たちの相棒を名乗る資格などないのだ……」
「そんなことありません……! だって、ムーンたちは
「ああ! それに、サンたちは超えてはいけない最後の一戦だって超えなかったじゃないか!」
それだけは確実なことだった。
ムーンたちは確かに、美月たちを狙って襲って来たし、友達である焔たちのことを傷つけた。そして、元護衛の草刈たちに重傷を負わせた。
しかし、美月たちがこうして止めたおかげで、人間を殺すと言う最後の一戦だけは超えさせずに済んでいた。
それに、スタースピリットにいた時に行った上記の行いも、全て
それも、時間魔法で見た過去の記憶で証明済みだった。
だけど、そう指摘してもムーンたちの暗い顔が晴れることはなかった。
「そんなことはないのじゃ! 確かに妾たちは乃亜様の影響を受けていたのじゃ! だけど、その時の胸の内の憎悪……嫉妬の気持ちは確かに妾たちの奥底にもあったのじゃ! 妾は……妾がいないのに笑顔になっている美月の姿を見て、嫉妬してしまったのじゃ!」
「我も似た様なものだ……。 故に、操られていた我も……確かに我ら自身だったのだ……。 だからこそ、その罪から目を背けることなど許されないのだ……」
「ムーン……」
「サン……」
ムーンたちの罪の独白に、美月たちは言葉を失っていた。
そして、それはこの場で静かに見守っていた他の皆も同じだった。
そんな中、ムーンたちはまるで自身に言い聞かせる様に口を開いた。
「——妾はには……」
「——我には……」
「「——もう、美月(陽太)の相棒でいる資格などないのだ……」」
——それはどこまでも残酷な、決別の言葉だった。